上 下
15 / 87
聖女の修行の章

第十四話

しおりを挟む
 リアラは肉が食べられなかった事により肩を落としながら神殿に向かっていると…辺りから肉の焼ける良い匂いが漂っていた。

 この匂いは覚えのある匂いだった。

 まだ侯爵家にいた頃…畑を荒らしていたボアを領民が捕まえて、領主である侯爵家の庭で振る舞われた事があった。

 当時私がいた部屋は屋敷の3階の倉庫の様な部屋で庭からは少し離れていた。

 だけど窓が少し欠けていて、そこから肉の焼ける匂いが入って来たのだった。

 耳を澄ますと両親と姉、使用人達と領民達の声が聞こえていた。

 私をこんな場所に閉じ込めておいて、自分達はこの良い匂いの元を食べているのが非常に腹が立った。

 もしかしたら…なんて淡い期待もしたが、私に出て来た食事には肉が入っていなかった。

 この漂う匂いは、あの当時の記憶を呼び覚ます匂いそのものだった。

 私はその匂いの発生源を探して街の中を彷徨っていた。

 そしてその匂いの場所を特定して近付いて行くと…それはレストランではなく、食堂でもなくて串焼きの屋台だった。

 屋台なら肉も安く手に入るかも?

 そう思って屋台に近寄って行くと、私はある男にぶつかって「ちゃんと前を見ろ!」…と怒られた。

 ぶつかった男は非常に人相の悪い男だったが、今はそんな事を気にしている場合ではない!

 私は屋台に書かれている値段を見ると、そこには銅貨8枚と書かれていた。

 銅貨8枚なら…今持っている金額で十分お釣りが来る。

 私は腰にある財布の袋を…袋を…袋が無い⁉︎

 私はぶつかった拍子に財布を落としたのかと思って辺りを探したけど見つからなかった。

 やっと肉が食べれると思ったのに…と落ち込んでいる時にふと思い出した。

 あの非常に人相の悪い男…あの男が私の財布をスったのだと。

 神殿内では自分の持ち物がなくなるなんて事はまず無い。

 …というか、他の神官達ならともかく私にはそもそも貴重品といったものが無かった。

 だから盗まれるとかは一切思っていなくて油断をしていた。

 「なるほどね、街の外ではこういう目に遭うのか…高い授業料だったけど今後の役に立つと思えば…」

 そう自分に言い聞かせて無理やり納得するしか無かった。

 勿論、盗んだ奴を許す気なんて毛頭無い。

 だけど探した所で見つかるわけでも無いし…諦めるしか無かった。

 こうして私は肉を食べられるチャンスを失ってしまった。

 でも食堂以外で肉を食べられる可能性を見出せただけでも良しとする!

 次こそは…!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

処理中です...