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第三章

第九話 ブレイドの故郷・グリネシール

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 僕達はチザンを出発した後に馬車で二週間くらい移動して、ようやくブレイドの故郷であるグリネシールに到着した…が!
 此処までに来る途中に厄介な奴に絡まれるのだった。

 「何なんだ、さっきの奴は⁉︎」
 「自分達の攻撃が一切通じなかったぞ‼︎」
 「魔法もあまり効果を成さなかったわ!」
 「私の光属性の魔法は効果があったみたいだけど。」

 そう…グリネシールに着く前に、巨大な斧を持った黒騎士が立ち塞がったのだ。
 僕とブレイドは抗戦し、ダーネリアとルーナリアが魔法で援護をしていたのだが?
 全く効果が見られずに、僕達が戦いで疲労して片膝を付くと黒騎士は何処かに消えて行ったのだった。

 「見逃してくれたという事なのかな?」
 「クラスチェンジの表裏をクリアした自分達ですら歯が立たないとは‼︎」
 「まさか、アレが魔王軍とかじゃ無いだろうな?」
 「全く言葉を話さなかったし、隙も見えなかったよね?」

 クラスチェンジの裏をクリアした僕達は、少し調子に乗っていた。
 だけど、その過剰な部分を見事にへし折られたのだった。

 「街の方から声が聞こえて来た…という事は、助けに入る為に人が向かって来ていたと考えるべきだろうか?」
 「さすがの黒騎士も数には勝てないと悟ったのかな?」
 「いや、自分達でもあんな感じだと数で攻めても大した効果は得られなかった筈?」
 「なら、気まぐれでかな?」

 あの黒騎士が何者かは解らないが、とりあえず応援に来てくれた冒険者達に感謝した。
 そして僕達は、その冒険者と一緒にグリネシールの街に着いたのだった。 
 グリネシールの街は…今迄チザンで暮らしていた所為か、静かな街? 地味な街? そんな感じの街だった。
 ただ、旅人や行商人が港に行くまでに立ち寄る休憩所的な役割をしている街なので、それなりに発展はしていたが…?
 チザンから来なければ、中々栄えた街とも言えなくは無かったと思う。

 「ここがブレイド様の故郷ですか?」
 「あぁ…帰って来たな。二度と帰らないと決めていたのに…」
 「そういえば、ブレイドの本名って何ていうんだ?俺はブレイドと勝手に名付けしたが、本名があるんだろ?」
 「グリネシールだ!」
 「それは家名だろう…名前は?」
 「……言わなきゃ駄目か?」
 
 なんだろう?
 ブレイドは頑なに名前を言うのを拒否している気がする。
 聞かれたら恥ずかしい名前なのだろうか?

 「本名を知った所で、僕がブレイド以外の名前を呼ぶ気は無いよ。これで慣れてしまったんだしな!」
 「そ…そうか!なら、屋敷には近付かずに適当な宿を取ってさっさとこの街から出よう!」
 「そんなに家族には会いたくないのか?」
 「家族に会うのは別に構わない…というよりも、向こうが俺の事を家族だと思っているとは思えないが。それに何より名前を知られるのが恥ずかしいだけだ!」
 
 そう言えば、チザンでラージバルもブレイドの事はグリネシールの三男坊と言っていたし…結局本名は分からず仕舞いだったが、ここまで頑なに隠そうとすると逆に気になるな!
 すると、こちらに近付いてい来る屋敷に使える執事の様な男がいた。

 「もしや、ルナフレア坊ちゃまですか?」
 「げ…ディエゴ!」
 
 その執事は、ブレイドをルナフレアと呼んでいた。
 っていうか、フレアって…女性に多い名前じゃないか?
 
 「る…ルナフレアって、ブレイドの本名なのか? プッ…クスクス…」
 「こうなるのが解っていたからバレたくなかったのに‼」
 「ギャーッハッハッハッハッハーーー!」
 
 僕はブレイドの本名を聞いて大爆笑をした。
 するとブレイドは剣を抜いて僕に斬り掛かって来た。

 「テイトォォォ!」
 「わ…悪い! それにしても、ルナフレアって…ブフッ!」
 
 なるほど、ブレイドの前はスウォードとか名前を付けていたのは本名を隠す為だったのか。
 確かに女に多い名前を名乗りたくはないよな?
 僕は笑いを堪えながらブレイドの剣を受けていたが、途中で力が抜けていた。
 ブレイドは段々マジになっていて、本気で相手をしないとヤバくなっていた。

 「お辞めください、ルナフレア坊ちゃん!」
 「そうよ、お辞めになって…ルナフレアちゃん!」
 「テイト、マジでその名前で呼ぶな‼」
 
 僕とブレイドは、ブレイドの怒りが収まるまでの間中、相手をしていた。
 そしてしばらくして、ブレイドの熱が冷めて来た頃にディエゴと呼ばれた執事が割って入った。

 「ルナフレア坊ちゃん、旦那様に坊ちゃんと仲間の方々を屋敷にお迎えする様に仰せつかったのですが…」
 「殆ど勘当同然に追い出しておいて…今更親父が何の用があるんだ‼︎」
 「私には何も…」

 勘当同然…という事だと、ブレイドの奴は絶対に行きたがらないだろう。
 まぁ、僕のパーティーでの活動が新聞で広まわったわけなのだから、ブレイドの親父さんが見ていても不思議は無いか。

 「え~っと…ディエゴさんでしたっけ? 何故僕たちがこの街に来る事を知っていたんですか?」
 「それは…数日前にラージバル様より、旦那様に連絡が来たのです。 グリネシールの三男坊に会った、彼等は港に向かっているから立ち寄るかも知れないと。」
 「ラージバル様も余計な事を…」

 なるほど、それで僕達を張っていたというわけか。
 僕は別に…ブレイドの親父さんに会うのは構わない。
 だけど、ブレイド自身が親父さんに会う事を望んでいなさそうだからぁ?

 「どうするブレイド、お前の判断に任せるぞ!」
 「テイト?」
 「どうした?」
 「てっきり、またからかってくるのか思っていたから拍子抜けしてしまってな。」
 「本名で呼んで欲しいのなら呼んでも良いが…お前が怒り狂って話が進まないからな。」
 「助かる。」

 貴族の事は良くは分からないけど、このまま屋敷に行って…ブレイドの親父さんに会うと、その先の想像が何と無く付く。
 恐らくだけど、見合いの話とか出るんだろうな?
 ブレイドの親父さんがどういう人かは知らんが、ブレイドが見合いの話が出た時に…既にルーナリアという伴侶を誓った者がいる…なんて紹介しても、祝福してくれれば問題は無いだろうけど。
 ダーネリアもルーナリアもこの世界ではあまり好まれない体系をしているから、そこを突いてくる可能性があるんだよなぁ?
 その時に…ブレイドがキレないと良いのだが…?

 「ブレイドが親父さんに会いたく無いというのなら、宿に泊まって翌朝早くに出発しよう。」
 「いえ…ルナフレア坊ちゃんがこの街に来た時は、宿側が宿泊を拒んで屋敷の者達に連絡が行くようになっております。」
 「いや、それはどうかと思うが…」
 「俺は親父には会いたくは無いから、今すぐにこの街を出て行きたいと思っている…が、先程の戦闘の所為で宿には泊まりたいって言っていた…」
 「その辺は気にしなくても良いぞ。 別に宿がある街はここだけじゃ無いんだし…」

 僕はブレイドにそう言うと、ブレイドは首を横に振った。

 「いや、この街を出れば…次は港に着くまで街は無いんだ。」
 「気を遣ってくれるのはありがたいんだが、別に無理しなくても良いぞ。」
 「そうですよ、馬車の中だって快適なのですから!」
 「でも…馬車の中に比べたら、宿屋のベッドの方が…」

 確かに馬車の中もかなり快適に造り替えてはいる。
 それでも、宿のベッドにはまだ勝てない。
 すると、ブレイドは覚悟を決めた様な顔をして言った。

 「分かった、親父に会いに行ってやるが…テイト達まで一緒でなくても良いだろ?」
 「いえ、お仲間の方々もご一緒に…という話ですので。」
 「済まないテイト…」
 「あぁ、気にするな。」

 僕達はディエゴさんに連れられて、グリネシール家の屋敷に向かった。
 まぁ、不安がないと言えば嘘になるけど。
 何とか穏便に事が済むと良いんだけどねぇ…?
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