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第二章

第二十話 さて、どの辺で許してやろうかな?

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 「さてさてさ~てと、次はどうしてやろうかねぇ?」

 伯爵令嬢の件で一度は本当に解散を考えた。
 最初に出会ったあの時にブレイドを拒否していたら、多分ブレイドはあの場で餓死して死んでいただろう。
 ダーネリアとルーナリアも、あの時に声に気付かなければ他の魔物に喰われていたかもしれないというのに。
 調子に乗ったのは別に良い、ただし1度ならね。
 だが、2度目にやられた時には本当に腹が立った。
 だからもう少し絶望を与える位、別に良いよな?
 僕は馬車の小窓から3人が村に到着して、この馬車を見付けて向かって来たので、僕は偽装魔法で商人に変身してから馬車から降りて馬を撫でていた。

 「すまないが君は誰だ?」
 「藪から棒になんですか?僕は旅の商人ですが。」
 「いや、この馬車の馬を撫でていたので…」
 「だって、この馬車は僕の馬車ですから。」
 「いや、この馬車は俺達の馬車だったんだが。」
 「今は僕の馬車ですよ!昨日英雄様が、1人旅にこんな大きい馬車は必要ないと言われて、僕が貰ったのです。いやぁ、運が良かったですよ!大事な商売道具の馬車が魔物の襲撃に遭って壊されて途方に暮れていた所に英雄様が使っていた馬車を譲り受ける何て!」
 「な…なんだと⁉」
 「英雄様は仰ってましたよ、仲間に軽んじた扱いをされて大変御立腹だったと。かつての仲間達は、英雄様が声を掛けていなければ既にこの世にはいない筈だったのに、仲間達はその事を忘れて馬鹿にした表情で酷い扱いをされたとね。」
 
 村人の青年の話を聞いて、ブレイド達は落ち込んでいた。
 そこでブレイド達は思い出していた。
 よしよし、自分の立場を思い出したようだな。

 「英雄様はこの馬車を手放す時にこう仰っていました。かつて勇者パーティーに追い出され、そして新たに仲間を得たがその者達からもないがしろにされて、この馬車はその仲間達と一緒に過ごした馬車だったけど、もう仲間はいないから持っていても仕方が無いし、この馬車に乗っていると仲間達だった者達の事を思い出すからと。」
 「英雄様とはテイトの事だよな?」
 「はい、そうですが?」
 「今何処にいるか分かるか?」
 「英雄様は、これからの旅に必要な食材を手に入れる為に、先程雑貨屋に行くと仰ってましたから、多分探せば見つかるかもしれませんが…ですが、仮に貴方達がその仲間だとして、英雄様に会って何を話されるのですか?」
 「そ…それは、あの時の事を謝罪して誤解だったという事を。」
 「ブレイド様、それよりもテイト様を探しに行きましょう!」
 「この村にいるのなら、テイト君に会えるかもしれませんし!」

 ブレイド達は村の広場の方に走って行った。
 僕はブレイド達を見送りながらこう言った。

 「残念ながら、僕はこの村の雑貨屋には行って無いんだよね。会えると良いよね、英雄様に!」

 ブレイド達の性格では、雑貨屋で見つからなければ村中を探し回るだろう。
 さて、次に戻って来たらどんな悪戯を仕掛けてやろうかな?
 あ、そうだ!
 3人は金がない筈だから、こんな悪戯を仕掛けると効果的かもしれないな。
 僕は空間魔法からオーガストリザードの肉の塊を剣に刺してから、焚火に掛けてじっくりと焼き始めた。
 更にもう1つの焚火に鍋を置いてから、ハルーラ村でミレイ達に作って貰った、ハルーラ食材の野菜煮込みシチューを温め始めた。
 
 「さてと、早く戻って来ないかな?」

 戻って来たら、3人の前で美味そうに食べてやろう。
 3人は金も食料も持っていないだろうから、食べたくて仕方がない筈だ!
 それに最後に食べた物といえば、あのクッソ不味い柿だろうしな。
 僕のストレージの中には、まだ食べるには熟さない野菜や果物が入っていた。
 何故そんな物を入れているかというと、それは神託で与えられたあまり使い道がないスキルの1つが絡んでいるからだった。
 低レベル時代は、地面に植えた種が芽を出すだけの【植物成長】というスキルだったが、レベル上がった状態に確認すると、種を植えてから植物成長のスキルを使うと、芽を出すどころか大木にまで成長するスキルに変わっていた。
 それ以外にも、まだ青い果実に植物成長をすると完熟するという特性もあったからだった。
 なので、お店でも格安で売れ残りそうな未熟な野菜や果物を格安で手に入れて、ストレージに収納してあるのである。

 「あ、戻って来たな!」

 僕がそう言うと同時に、ブレイド達は戻って来た。
 僕はオーガストリザードの肉の表面を炙った所をナイフで削ぎ落としてから、パンに挟んで食べると…美食家が好むという意味が解る位に美味しい物だった。
 薄切れの肉の筈なのに、溢れ出る肉汁と弾力のある噛み応えがある肉、それをハルーラ食材の野菜煮込みシチューの中に入れてから食べると、味は更に絶品な物に仕上がっていた。
 
 「さっすが、オーガストリザードは美味いな!それに、ハルーラ食材の野菜煮込みシチューも絶品だ!」
 「オーガストリザード?ハルーラ食材の野菜煮込みシチューだって⁉それらをどうしたんだ⁉」
 「英雄様から馬車を貰う際に戴いたんですよ。仲間達と一緒に食べようとしていたらしいのですが、その仲間がいなければこんなに持っていても意味が無いからといってね。馬車の中には他にも、ワイバーンの肉やマウンテンキャンサーなんかも入っていましたし、当分の間は金を使わなくても済みそうです。」
 「ぐっ…!」
 「ところで英雄様には会えましたか…って、聞くまでもないですね。」
 「あぁ、どこを探しても見付からなかった。」
 「…という事は入れ違いでしたか、先程英雄様は次の目的地のテオドール温泉村に旅立つと言っておられましたからね。僕も同じ目的地なので護衛の為に一緒に行きませんか?と尋ねたのですが、その馬車を見ると仲間達の事を思い出すと言って旅立たれて行きました。」
 
 3人は膝から崩れて地面に手を付いた。
 そして体は正直なのか…この料理の匂いを嗅いだ所為か、腹が鳴っていた。
 僕は気にせずに、オーガストリザードの肉を削ぎ落としてから口に入れて、ハルーラ食材の野菜煮込みシチューを飲んだ。
 
 「す…すまないが、少し分けて貰う事は出来ないか?」
 「では、銅貨10枚でスープを。銀貨2枚でオーガストリザードを分けましょう。」

 僕は3人が金のない事を知っている上で、敢えてそう言ってみた。
 さて、どうするのかな?

 「実は、俺達は金が無くてな。」
 「そうですか、それは残念ですね。」
 「何か…代わりになる物で取引をしないか?」
 「では何がありますか?」

 ブレイドは道具袋の中身を取り出して見せた。
 そこには…特にこれといって値打ち物はなかった。
 僕はブレイドに、薬草や毒消し草やポーションなどは必要が無くてもストックしておけと伝えておいたはずだが?
 魔物の討伐証明部位も無いし…この村に来るまでに魔物とかには出遭っている筈なのに、それらしき物は見当たらなかった。
 まさか、倒すだけ倒して入手していないのか?

 「何もなさそうですね?女子の2人は何かありますか?」
 「私達は…」

 ダーネリアとルーナリアも道具袋から全部取り出した。
 だが、入っていた物といえば…化粧道具と紙やタオル類、下着だけで討伐証明部位の類は入っておらず、更には薬草や毒消し草、ポーションなども一切入っていなかった。
 まさか…この村に来るまでに薬草や毒消し草を食べながら来たのか?
 あんなクソ不味い物をそのままで?
 まぁ、それだけ必死だったという事だけは分かったが。
 
 「女性達も何もなさそうですね。」
 「では…」

 腹を満たすのに武器を手放すとか言ったらぶっ飛ばそう。
 武器さえあれば、どうにかなるのだから。

 「私達の今履いている下着でどうでしょうか?」
 「ブーーーッ!」

 まさか…そう来るとは思わなかった。
 僕はあまりの驚きに、口の中に入っているスープを吹き出した。
 確かに男なら女の子の履いている下着を欲しがる者もいるだろうが、僕にはそっちの趣味は無い。
 そんな物を貰っても嬉しくは無いし、大体そんな物を貰って何に使えるというんだ?
 それにしても、僕はヒントを与えている筈なのに…何故それに気付かないかなぁ?

 「そんなもんはいらん!」
 「なら、他にはどんなものが?」
 
 ブレイドは両手剣を取り出して握りしめていた。
 まさか、武器を手放すとか言わないよな?
 仕方ないから与えていたヒントを伝えてやるか。

 「僕はこれからテオドール温泉村に資材を運ぶ仕事があるんですが、テオドール温泉村まで護衛をするという事で食料を分けてあげますが如何でしょうか?」
 「あぁ、テイトがそこに向かっているのなら、俺達の目的地も同じだ。」
 「なら、護衛の件は引き受けてくれますか?それなら食材はお分けし、旅の道中での食事や報酬の金額も用意致しましょう。」
 「そんな事で報酬が貰えるなら引き受けよう!」
 
 ダーネリアとルーナリアも頷いてみせた。
 僕は肉を切り分けてから、スープを皿によそって与えた。
 3人は久々にまともな物を食べた所為か、無我夢中で腹に入れていた。
 そして食べ終わってから食休みが終わった後に、出発の準備を始めた。

 「ところで、依頼主の貴方の事は何て呼べば良いんだ?」
 「僕の名前は…トイテと申します。トスネーハ村の商人のトイテです。」
 
 我ながら咄嗟に付けた名前とはいえ、随分安直な名前を付けたな。
 すぐにバレるかと思っていたが、3人は気付く様子が無くて自己紹介をしてきた。
 意外にこの3人は馬鹿なのだろうか?

 「では、出発しますね。護衛の方を宜しくお願いします!」
 「お願いがあるのですが、ダーネリアとルーナリアの2人は馬車に乗せては貰えませんか?」
 「は?何を仰っているのか良く解りませんが、何を言っておられるのですか?」
 「2人は疲労が溜まっていて、俺は大丈夫なのですが今迄の旅で少し無理がたたっていて…」
 「どこの世界に護衛する冒険者が依頼者の馬車に乗るだなんて…そんな話は聞いた事がありませんよ?」

 今迄の旅では、馬車に結界を張っていた為にその方法が許されていたが、別な馬車の護衛ではそうはいかない。
 3人には認識の甘さが残っている様だった。

 「馬の前にブレイドさん、両側面にダーネリアさんとルーナリアさんでお願いします。」
 「ルーナリアが中に入れば、馬車に結界を張れますので…」
 「必要ありません!馬車の中には結界石という術式を施した魔道具が設置しておりますので、ですがそれでも後方から襲われたらひとたまりもありませんからね。その為の護衛ですけど…僕は何か間違った事を言っていますか?」
 「いえ、申し訳ありませんでした!その陣形で参りたいと思います。」

 誰が中に乗せるかっつーの!
 それに中に乗せたら復讐にならねぇだろ!
 ヒントを振っているのにそれに気付いているのなら、馬車の中という事も考えたけど、そのヒントに気付かなかったから馬車に乗せる必要はない!
 さてと、あとは何処で仕掛けてやろうかな?
 
 ブレイドとダーネリアとルーナリアの3人は、いつ僕の事に気付くだろうか?
 タイムリミットは、テオドール温泉村に着くまでとしようか!

 僕のやっている事は、まだ甘いかな?
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