器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス

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第二部

第三話 お約束的な…船旅での魔獣の出現

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 船旅ってさ、必ずと言って良い程に魔獣の襲撃があるよね。
 魔物や魔獣の襲撃が無い方が珍しいんだよ。
 甲板に現れる蟹…は珍しくは無い。
 タコのクラーゴンやイカのクラーケンが現れるのも珍しい部類ではあるが、無いとは言い切れない。
 ツノの生えたクジラやサメ、アンコウというのもたまにある。
 そしてかなりレアな部類になると、リヴァイアサンというのもなくは無いのだが?
 つまり何が良いたいのかというと、それ等が全て襲って来たのだった。
 
 「この定期船は長い航海を耐えられる為に軍船の様な強固な造りをしていると言っても、これだけの数に攻め込まれると流石に無理だろう。」
 「悠長な事を言ってないで何とか対策をしてくれ!」
 「強化魔法はこの船に乗っている冒険者達には全員施したぞ。」
 「なら、戦いの指示をしてくれ!俺達は海の魔物には慣れていないんだ。」

 船首にはクラーケン、船尾にはクラーゴン、右側面からリヴァイアサン、甲板にはカニが群れを成して蠢いていた。
 アンコウや一角クジラやサメなどは船の上まで上がっては来ていないみたいだが?

 「テクト、指示を頼む!」
 「仕方ねぇなぁ、アーヴァインとガイアスとリールーは船首のクラーケンの相手を、ティルティアとマリーとミュンは船尾のクラーゴンの相手を、冒険者達は甲板の蟹を相手しろ。リヴァイアサンは俺が始末する。」
 「弱点とかは分かるか?」
 「それもかよ、クラーケンとクラーゴンは目の間が急所だ。蟹は人間で言うと股間の部分がふんどしと呼ばれる場所で上手くひっくり返してからソコを破壊しろ。」
 「簡単に言うが、奴等は足が多いんだぞ!」
 「スパイダー系と違って無数に目があっても、足を同時には動かせられないんだ。半数の足は攻撃に向けられるが、もう半数の足は海に浮かぶ為にバランスを取っている。全部の足で攻撃をする訳では無いから安心しろ!」

 タコもイカもそうなのだが、目に見える範囲でしか全部の足を使う事は無い。
 奴等に脳が幾つもあって、1本ずつの足に命令をすれば別方向にいる者達の攻撃も可能だが、脳は1つだけだし目は2つしかないので左右から同時に責められても対処が出来ないのだ。
 馬鹿の1つ覚えみたいに正面から束になって向かわない限りは、まずやられる事は無いだろう。

 「俺の相手はウミヘビか、船に巻き付いていない分まだ良いが…」

 リヴァイアサンは甲板にいる蟹や、船首船尾にいるクラーケンやクラーゴンが邪魔で思ったような動きが出来ないのだろう。
 普通リヴァイアサンは、船の側面から巻き付く様に絡み付いて船ごと海の中に沈ませるのが主なのだが、今回はそうはしない。
 代わりに甲板の上の方のマストに絡みつく様な形で機会を窺っているのだった。
 俺は闇ギルドの戦いの後に思ったよりも魔力が回復していなくて、髪の半分以上がまだ白いままなので複合統一魔法なんて強力な魔法はまだ使えない。
 なので、コストの良い魔法を使用する事にした。
 複合統一魔法程の威力は無いが、かなりの魔力を消費する威力の高いオリジナル魔法である。
 俺は両手を合わせて魔力を練り合わせた。

 「天青の氷結閃!」

 手の平で収束した氷のダガーをリヴァイアサンの頭に目掛けて放った。
 命中すると、そこから勢い良く頭全体に広がっていった。

 「サンダーブレード!」

 凍り付いた首もろとも雷魔法の刃でリヴァイアサンの首を斬り落とした。
 馬鹿みたいに様子を窺って動作が鈍いリヴァイアサンなんて、ただの格好の的だった。
 斬り飛ばされた頭は反対側の海に落ちて行き、胴体もそのまま海に沈んで行ったのだった。

 「よし!俺のノルマは終わったから、後はお前達だけで何とかしろ!」
 「いや、終わったのなら手伝ってくれよ!」
 「強化魔法のフル掛けをしてあるんだ、その状態なら勇者や英雄のお前等ならやられる事は無いだろう。苦戦はするかもしれんが…」
 「テクト君、リヴァイアサンなんてクラーケンやクラーゴンよりもよっぽど強敵なのに!」
 「いつも通りの戦法の様に船に巻き付いていたら苦戦したかもしれないが、マストの上に方でジッとしていたらやられる方が難しいさ。様子を窺っていて無防備になっていたからな。」
 「アーヴァイン君じゃないけど、こちらの応援は来てくれないの?」
 「疲れたから少し休む。危なくなったら助けに入ってあげるさ。」

 周囲を見渡しても度の奴等も苦戦している様には見えなかった。
 助けに入るのは別に構わないが、クジラもサメも上がって来ない所を見ると、リヴァイアサンを倒された事によりしり込みをしたのだろう。
 奴等が上がってくるようなら対処をするが、多分このまま逃げて行くだろう。
 それよりも俺は、魔物達の襲撃前に感じた違和感から調査する事にした。
 どう考えてもこの魔物達の襲撃は異常だ!
 何かに引き寄せられて向かって来たとしか思えないからだ。
 俺は階段を下りて妙な魔力反応がある場所の船底に赴いた。
 そこには思っていた通りに俺の身長と同等な大きさの黒い魔石が紫色の光を放っていたのを見付けた。

 「何でこんな物が…最初からこれが起動されていた訳ではなさそうだな。急な襲撃を考えると、沖に出てから発動したという感じだな。」

 港から出発している時点で魔石が起動していたのなら、今迄に何度も襲われてもおかしくはないがそれは無かった。
 そして勇者達がこの船に乗る事を知っているとしたら、奴等に襲わせて消すつもりで操作していたのだろう。
 この船には勇者が三人乗っているので、上手く始末出来れば魔王側の脅威も無くなると踏んだのだろうか?
 どう考えても魔王軍側の作戦か何かだろう。
 これが一般の人間がやったとは考えにくいからだ。
 まぁ、そんな事よりもまずは魔石を破壊する事を優先した。

 「光の槍!」

 空中に出現した100の槍で魔石を貫いた…と思ったら、魔石の放つ魔力によって光の槍が幾つかが弾かれた。
 闇の魔石というだけあって光属性を完全に防ぐ事は出来なかったみたいだが、どうやらかなり厄介な魔石というのは良く解った。
 間違いなく、魔王軍側の仕掛けた物だ。
 こんな強い禍々しい魔力を放つ代物が人間が発動出来るとは思えない。

 「この魔石の魔力反応が強過ぎて、これを仕掛けた物の魔力を感じないが…?まぁ、普通に考えて魔王軍側でも船と心中する気は無いだろうから脱出をしたのだろうとは思うが。」

 普通なら魔王軍側の刺客も結果を見る迄は上空か何処かで見ている…可能性は低いか。
 クラーケンにクラーゴン、リヴァイアサンまでもが襲撃していたら普通なら成功したと思うだろうからな。
 さてそれよりも、この魔石の処理が先だ。
 この魔石の処理が済めば、襲撃して来たクラーケンやクラーゴンも撤退するだろうが?
 俺は解呪魔法はあまり得意ではない。
 高位のプリーストや…ミュン辺りなら解呪も可能だとは思うが。

 「いない人を当てにしても仕方が無いか、やれる範囲でやってみるか!」

 あまり得意ではないが、光魔法のクルセイダーズという光の剣を出現させた。
 これは魔法ではあるが、光の属性を固めた武器の様な物だった。
 俺はそれで斬りまくっていると、少しずつ魔石の妙なオーラを削り取って行った。
 そしてトドメを刺す様に魔石に突き刺すと、魔石が砕けた…と思ったら、中から人の形をした石が現れた。
 とりあえずは魔石のオーラが無くなったというのはありがたかったが?

 「何だこれ…?これが本体か何かなのか?」

 鑑定魔法で調べてみると、その人の形をした石は【魔境転写】と表示されていた。
 【魔境転写】は伝説ではその者の姿を映した瞬間に問答無用で襲ってくるという曰くつきの魔道具の名前だった…気がする。
 確か師匠の資料で読んだ事があったが、まさか目の前にその代物があるとは思わなかった。
 まさか魔王軍側がこんな二段構えの作戦をしているとは思わなかった。
 そして人形が光った途端に、俺の姿に変化して…襲って来た。
 こんな狭い船底で戦うのは不利だと感じて、俺は甲板迄駆け上がると…俺の姿をした魔境転写も追って来たのだった。
 すると外では、まだクラーケンとクラーゴンがアーヴァイン達との戦闘を行っていた。
 一角クジラやサメはどうやら撤退していたみたいなのだ良かった。

 「確か魔境転写って、映した者と同じ強さ何だよな?…という事はまさか、複合統一魔法も…?」

 そんな事を考えていたら、やはり使って来た。
 見掛けは俺と同じ姿で、魔力も恐らくは同程度だろうか?
 後は魔力の保有量が少し気になるところだが?

 【魔境転写】…それは古の勇者や英雄が、魔王討伐の為に己自身を鍛える為に行った禁呪法である。
 果たして、俺は【魔境転写】の俺に勝てるのだろうか?
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