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第一部
第二十九話 お約束的な…更なる厄介毎
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マイネア村に辿り着いた俺とミュンは、まずは妹に説明する為に家に戻った。
すると、扉を開けたらマリアネートが俺に飛び込んで来た。
「お兄ちゃん、遅いよ!」
「お…遅い?」
「お兄ちゃんがちょっと行ってくると言って何日が過ぎたと思っているの?何かあったんじゃないかと心配したんだから‼︎」
「あ…そういえばすぐに帰ると言って帰って来なかったな?」
そういえば、俺は何日留守にしていたんだっけ?
ギザリスや闇ギルドの連中との戦いの所為で結構な時間を喰ったんだっけか?
あの時は必死だったんで、時間の感覚に気付かなかった。
俺はマリアネートを下ろすと、頭を撫ででなだめた。
するとマリアネートは、俺の背後にいる存在に気付いた。
「あれ?お兄ちゃん、お客さん?」
「あぁ、マリアネートに紹介するよ。彼女の名前はミュンといって、俺の奥さんでお前の姉になる人だ!」
「へ⁉︎奥さん⁉︎あ…お兄ちゃんと彼女さんに夫婦の証のチョーカーが…」
「初めまして、ミューティアン・アーヴェンヴァルガーになるのかな?」
「俺達は夫婦で家族になるのだから、ミュンにも家名が与えられるからな!」
マリアネートは、急な事で思考が追い付かずに混乱して呆けていた。
そして眉間にシワを寄せてから、手を額に当てて考え込んでいた。
「ごめんお兄ちゃん、何から突っ込んだ方が良いのか…」
「マリアネートは家族が出来る…いや、姉が出来ることは嫌か?」
「嫌ではないけど、急にいろんな事が起こり過ぎていて…頭が追い付かなくて。」
まぁ、マリアネートがそうなるのは無理もない。
すぐに帰ると言って家を出てから数日が経って、家に帰って来たと思ったら奥さんを連れて来たとなれば…
誰だって混乱はするだろう。
俺は家を出てから今迄の経緯を話した。
全てを話し終えると、マリアネートは更に頭を悩ましていた。
そして…マリアネートは考えを放棄した。
「うん…うん………何が起きたのかは理解したわ。それにしても、お姉ちゃんが出来るのはすっごく嬉しい!しかも、栗鼠族のお姉ちゃんなんて…」
「テクト君が私の種族を知っていたのも驚きだけど、マリーちゃんも私の種族を知っているなんて意外ね?」
「あぁ、その事なら…この村にも栗鼠族は居るからな。このマイネア村は、ヒューム族が半数でもう半数は獣人族が居る村だからな。」
シーリアとクライヴは紅虎族とヒュームのハーフで、ゴードンは巨人族とヒューム族のハーフだ。
ちなみに俺とマリアネートはヒューム族だ。
初めの頃の獣人は、本当に獣に近い姿をしていたが、長い歴史の中でヒューム族と混じる事により…獣人族といってもヒューム族に近い姿になっていった。
とはいえ、能力的な物は姿変わらずに受け継がれている様なのだが…。
「じゃあ、私は家から出て行った方が良いんだよね?」
「何でそうなる?」
「だって、ミュンお姉ちゃんはこの家で暮らすんだよね?だとすると、新婚生活の邪魔になるだろうし…」
「安心しろ、お前が成人を迎えて…更に独り立ち出来るようになるまでは一緒に住むし、それにお前の旅にもミュンは着いてくる。」
「ミュンお姉ちゃんは戦えるの?」
「ミュンのジョブは賢者で、元は俺と同じ赤魔道士だった。赤魔道士を極めると、賢者という上級ジョブにクラスチェンジ出来るらしくてな、賢者になると弱体や強化魔法以外に攻撃魔法や回復魔法まで使える様になる。」
「じゃあ、お兄ちゃんよりも優秀なの?」
「痛いとこ突くな…でもまぁ、確かに俺よりは優秀だな。」
マリアネートはミュンを見て、尊敬の眼差しを向けていた。
するとミュンが手を挙げて言った。
「確かに私は、テクト君が使える魔法はほぼ使えますよ。でも多重強化魔法や多重弱体魔法や複合統一魔法は出来ません。あれは普通の赤魔道士でもかなり難しいと思います。」
「じゃあ、お兄ちゃんは異常なんだ?」
「そうですね、異常な迄の規格外です。」
「どっちも俺を化け物みたいな言い方をするな!」
俺も師匠に鍛えられなければ、ただの一般的な赤魔道士に過ぎなかった。
あの修業をやり終えたお陰で…今の俺があるのだ。
まぁ、そんな話はどうでも良い。
「これでマリアネートにミュンを紹介で来たところで、次はゴードンの所に行くか!」
「あ、ゴードンさんにも説明しなくちゃね。恐らくそこにクライヴもいると思うけど…」
マリアネートの歯切れの悪い言葉が気になった。
だが、全員に紹介しなければならないので、とりあえずはゴードンの家に向かった。
ミュンはマリアネートの隣で話しながら着いて来たのだが、何やら真剣な話をしている感じだった。
「ゴードン、いるか~?」
俺は扉をノックすると、中からゴードンの声が聞こえてきて、扉を開けたのはクライヴだった。
「あれ兄ちゃん!」
「おぉ、テクト…やっと帰って来たんだべか?」
「あぁ、長々と待たせて済まなかった。」
ゴードンとクライヴには、村から旅立ってからの話をざっとした。
そして俺はミュンを隣に連れて来ると、嫁として紹介した。
「おぉ、テクトは結婚したんだべか?それはまんず…めでてぇだ!」
「驚かせようと思ったんだが、ゴードンはあまり驚いてないんだな?」
「いんやぁ、十分驚いたべ!だが、テクトだってそういう年齢だべ?」
「そして新たなパーティーの仲間でもある。」
「それは賑やかになるだよ!」
俺はゴードンと話している時に、クライヴに背中を突かれた。
「話の途中に割り込んですいませんが、兄ちゃんは姉ちゃんには会ったか?」
「いや、これから自警団に行ってからシーリアに紹介しようと思っているんだが?」
その言葉を聞いて、クライヴは青い顔をした。
クライヴは、マリアネートを見てから頷いてみせた。
そして、噂をすれば影というのか…偶然にもシーリアがゴードンの家にやって来た。
「お、テクト!帰っていたんだな!それと、その栗鼠族の子は…この村の者ではないな?」
マリアネートとクライヴは青い顔をして震えていた。
俺は何事かと思っていたが、その前にシーリアにはちゃんと紹介した方が良いと思ってミュンを紹介した。
「この子の名前はミュンと言って俺の嫁だ。俺達は結婚したんだよ。」
「兄ちゃん⁉」
「お兄ちゃん⁉」
「な…なんだと!」
シーリアはそう言うと、持っていた槍と紐で縛っていた野菜を落とした。
そしてシーリアは、その場から逃げて行った。
「シーリアはどうしたんだべ?せっかくめでたい事なのに。」
「さぁ?一体どうしたんだろうな?」
俺とゴードンはそう言いながらマリアネートとクライヴを見ると、二人は頭を押さえていた。
ミュンも事情が分かったみたいで、困った顔をしていた。
「兄ちゃん、姉ちゃんを追い掛けて!」
「そうだな、ミュンはこれから同じパーティーとして旅をする訳だし、その事についても話さないと!」
「いや、待って!僕が姉ちゃん連れて来るから、兄ちゃんはそこで待っていて‼」
クライヴはそう言うと、シーリアが走って行った方向に向かって行った。
「シーリアはどうしたんだべ?」
「さぁ?急に走り出してどうしたんだろうな?」
その背後でマリアネートとミュンは呟くように「ニブい…」と言っていた。
マリアネートは知っていたみたいで、ミュンも心の声を聞いて理解していた。
俺とゴードンだけが訳が分からずにいたのだった。
俺はシーリアに何があったのかを聞こうとしたが、クライヴがシーリアを連れて来るまで待っていてと言われた。
そして三十分後…クライヴはシーリアを連れて来た。
クライヴは荒い息をしていて、シーリアはさっきまで泣いていた様な感じで目が赤かった。
長い沈黙の後にシーリアが口を開いた。
「私…いや、アタイは…テクトはマリアネートの事があって結婚をしないと思っていた。」
「シーリア、何気に失礼な事を言っているよな?」
「お兄ちゃんは黙って!」
「兄ちゃんは黙って!」
俺は二人に言われて口を閉じた。
するとシーリアは更に続けた。
「だから、マリアネートの事がある程度上手く行ってから、アタイがテクトに結婚の申し込みをしようと思っていたんだ。」
「は?」
「お兄ちゃん気付かなかったの?シーリアさんはお兄ちゃんの事が好きだったんだよ‼」
へ?そうだったの⁉
全くそんな素振りを見せた事が無いから、全く気付かなかった。
すると、クライヴからも俺からシーリアに思っている事を言う様に言われた。
「えっと俺は、シーリアの事を…」
俺の言葉にシーリアは目を閉じた。
他の者達も息を飲んで聞いていた。
「シーリアの事を…全く恋愛対象には見ていなかった。」
「「「「「はぁ?」」」」」
俺の言葉に五人はそんな反応をした。
「子供の頃からシーリアは、男勝りで言葉遣いが乱暴で…成長しても子供の頃のままでさらに拍車が掛かった様な感じで、これといって女性らしい凹凸も無いし、色気なんかあったもんじゃない。だから、俺はシーリアの事は仲の良い友達くらいにしか思っていなくて、湿原の時にシーリアに倒れ込んだ時に触った胸で、シーリアも女だったんだな…と確認したくらいだ!」
俺の言葉に、シーリア以外の四人は頭を押さえて溜息を吐いていた。
「だから俺は…シーリアの事は全くこれっぽっちも恋愛対象とは見れなくてな。お前と結婚する未来なんてありえないと思ったんだよ!」
「な…な…な…!」
そして俺は、シーリアに思いを砕くどころか粉砕する様な空気の読めない一言を言い放ってしまった。
「悪いが俺は結婚したので諦めてくれ!だがシーリアにはまだ望みがあるぞ!ここにいるゴードンという優良物件だ!優しくて包容力があり、お前よりも飯が上手く、マメで気を使えるという申し分ない男がな!」
その後…俺は何が起きたのかが良く解らなかった。
俺が目覚めたのはその日の夜だった。
全身ボッコボコで、目を覚ました時に激しい痛みが襲って来たのだった。
何が起きたのかと聞いたが、誰も口を閉ざして教えてくれなかった。
そして最悪な事に、俺達のパーティーからシーリアが離脱した。
他の者達は残ってくれたが、ほんの数日の間は皆が俺に対する反応が少し冷めていた。
マリアネートの勇者としてのクエストの期日が近付いて来たので、シーリア抜きの俺達は王都に向かって転移をした。
シーリアというアタッカーがいないパーティーで、俺達はクエストに望む事になった。
この時までは問題ないと思っていたが、後にシーリアが抜けた穴が広くて深いという事を後になって気付かされるのだった。
すると、扉を開けたらマリアネートが俺に飛び込んで来た。
「お兄ちゃん、遅いよ!」
「お…遅い?」
「お兄ちゃんがちょっと行ってくると言って何日が過ぎたと思っているの?何かあったんじゃないかと心配したんだから‼︎」
「あ…そういえばすぐに帰ると言って帰って来なかったな?」
そういえば、俺は何日留守にしていたんだっけ?
ギザリスや闇ギルドの連中との戦いの所為で結構な時間を喰ったんだっけか?
あの時は必死だったんで、時間の感覚に気付かなかった。
俺はマリアネートを下ろすと、頭を撫ででなだめた。
するとマリアネートは、俺の背後にいる存在に気付いた。
「あれ?お兄ちゃん、お客さん?」
「あぁ、マリアネートに紹介するよ。彼女の名前はミュンといって、俺の奥さんでお前の姉になる人だ!」
「へ⁉︎奥さん⁉︎あ…お兄ちゃんと彼女さんに夫婦の証のチョーカーが…」
「初めまして、ミューティアン・アーヴェンヴァルガーになるのかな?」
「俺達は夫婦で家族になるのだから、ミュンにも家名が与えられるからな!」
マリアネートは、急な事で思考が追い付かずに混乱して呆けていた。
そして眉間にシワを寄せてから、手を額に当てて考え込んでいた。
「ごめんお兄ちゃん、何から突っ込んだ方が良いのか…」
「マリアネートは家族が出来る…いや、姉が出来ることは嫌か?」
「嫌ではないけど、急にいろんな事が起こり過ぎていて…頭が追い付かなくて。」
まぁ、マリアネートがそうなるのは無理もない。
すぐに帰ると言って家を出てから数日が経って、家に帰って来たと思ったら奥さんを連れて来たとなれば…
誰だって混乱はするだろう。
俺は家を出てから今迄の経緯を話した。
全てを話し終えると、マリアネートは更に頭を悩ましていた。
そして…マリアネートは考えを放棄した。
「うん…うん………何が起きたのかは理解したわ。それにしても、お姉ちゃんが出来るのはすっごく嬉しい!しかも、栗鼠族のお姉ちゃんなんて…」
「テクト君が私の種族を知っていたのも驚きだけど、マリーちゃんも私の種族を知っているなんて意外ね?」
「あぁ、その事なら…この村にも栗鼠族は居るからな。このマイネア村は、ヒューム族が半数でもう半数は獣人族が居る村だからな。」
シーリアとクライヴは紅虎族とヒュームのハーフで、ゴードンは巨人族とヒューム族のハーフだ。
ちなみに俺とマリアネートはヒューム族だ。
初めの頃の獣人は、本当に獣に近い姿をしていたが、長い歴史の中でヒューム族と混じる事により…獣人族といってもヒューム族に近い姿になっていった。
とはいえ、能力的な物は姿変わらずに受け継がれている様なのだが…。
「じゃあ、私は家から出て行った方が良いんだよね?」
「何でそうなる?」
「だって、ミュンお姉ちゃんはこの家で暮らすんだよね?だとすると、新婚生活の邪魔になるだろうし…」
「安心しろ、お前が成人を迎えて…更に独り立ち出来るようになるまでは一緒に住むし、それにお前の旅にもミュンは着いてくる。」
「ミュンお姉ちゃんは戦えるの?」
「ミュンのジョブは賢者で、元は俺と同じ赤魔道士だった。赤魔道士を極めると、賢者という上級ジョブにクラスチェンジ出来るらしくてな、賢者になると弱体や強化魔法以外に攻撃魔法や回復魔法まで使える様になる。」
「じゃあ、お兄ちゃんよりも優秀なの?」
「痛いとこ突くな…でもまぁ、確かに俺よりは優秀だな。」
マリアネートはミュンを見て、尊敬の眼差しを向けていた。
するとミュンが手を挙げて言った。
「確かに私は、テクト君が使える魔法はほぼ使えますよ。でも多重強化魔法や多重弱体魔法や複合統一魔法は出来ません。あれは普通の赤魔道士でもかなり難しいと思います。」
「じゃあ、お兄ちゃんは異常なんだ?」
「そうですね、異常な迄の規格外です。」
「どっちも俺を化け物みたいな言い方をするな!」
俺も師匠に鍛えられなければ、ただの一般的な赤魔道士に過ぎなかった。
あの修業をやり終えたお陰で…今の俺があるのだ。
まぁ、そんな話はどうでも良い。
「これでマリアネートにミュンを紹介で来たところで、次はゴードンの所に行くか!」
「あ、ゴードンさんにも説明しなくちゃね。恐らくそこにクライヴもいると思うけど…」
マリアネートの歯切れの悪い言葉が気になった。
だが、全員に紹介しなければならないので、とりあえずはゴードンの家に向かった。
ミュンはマリアネートの隣で話しながら着いて来たのだが、何やら真剣な話をしている感じだった。
「ゴードン、いるか~?」
俺は扉をノックすると、中からゴードンの声が聞こえてきて、扉を開けたのはクライヴだった。
「あれ兄ちゃん!」
「おぉ、テクト…やっと帰って来たんだべか?」
「あぁ、長々と待たせて済まなかった。」
ゴードンとクライヴには、村から旅立ってからの話をざっとした。
そして俺はミュンを隣に連れて来ると、嫁として紹介した。
「おぉ、テクトは結婚したんだべか?それはまんず…めでてぇだ!」
「驚かせようと思ったんだが、ゴードンはあまり驚いてないんだな?」
「いんやぁ、十分驚いたべ!だが、テクトだってそういう年齢だべ?」
「そして新たなパーティーの仲間でもある。」
「それは賑やかになるだよ!」
俺はゴードンと話している時に、クライヴに背中を突かれた。
「話の途中に割り込んですいませんが、兄ちゃんは姉ちゃんには会ったか?」
「いや、これから自警団に行ってからシーリアに紹介しようと思っているんだが?」
その言葉を聞いて、クライヴは青い顔をした。
クライヴは、マリアネートを見てから頷いてみせた。
そして、噂をすれば影というのか…偶然にもシーリアがゴードンの家にやって来た。
「お、テクト!帰っていたんだな!それと、その栗鼠族の子は…この村の者ではないな?」
マリアネートとクライヴは青い顔をして震えていた。
俺は何事かと思っていたが、その前にシーリアにはちゃんと紹介した方が良いと思ってミュンを紹介した。
「この子の名前はミュンと言って俺の嫁だ。俺達は結婚したんだよ。」
「兄ちゃん⁉」
「お兄ちゃん⁉」
「な…なんだと!」
シーリアはそう言うと、持っていた槍と紐で縛っていた野菜を落とした。
そしてシーリアは、その場から逃げて行った。
「シーリアはどうしたんだべ?せっかくめでたい事なのに。」
「さぁ?一体どうしたんだろうな?」
俺とゴードンはそう言いながらマリアネートとクライヴを見ると、二人は頭を押さえていた。
ミュンも事情が分かったみたいで、困った顔をしていた。
「兄ちゃん、姉ちゃんを追い掛けて!」
「そうだな、ミュンはこれから同じパーティーとして旅をする訳だし、その事についても話さないと!」
「いや、待って!僕が姉ちゃん連れて来るから、兄ちゃんはそこで待っていて‼」
クライヴはそう言うと、シーリアが走って行った方向に向かって行った。
「シーリアはどうしたんだべ?」
「さぁ?急に走り出してどうしたんだろうな?」
その背後でマリアネートとミュンは呟くように「ニブい…」と言っていた。
マリアネートは知っていたみたいで、ミュンも心の声を聞いて理解していた。
俺とゴードンだけが訳が分からずにいたのだった。
俺はシーリアに何があったのかを聞こうとしたが、クライヴがシーリアを連れて来るまで待っていてと言われた。
そして三十分後…クライヴはシーリアを連れて来た。
クライヴは荒い息をしていて、シーリアはさっきまで泣いていた様な感じで目が赤かった。
長い沈黙の後にシーリアが口を開いた。
「私…いや、アタイは…テクトはマリアネートの事があって結婚をしないと思っていた。」
「シーリア、何気に失礼な事を言っているよな?」
「お兄ちゃんは黙って!」
「兄ちゃんは黙って!」
俺は二人に言われて口を閉じた。
するとシーリアは更に続けた。
「だから、マリアネートの事がある程度上手く行ってから、アタイがテクトに結婚の申し込みをしようと思っていたんだ。」
「は?」
「お兄ちゃん気付かなかったの?シーリアさんはお兄ちゃんの事が好きだったんだよ‼」
へ?そうだったの⁉
全くそんな素振りを見せた事が無いから、全く気付かなかった。
すると、クライヴからも俺からシーリアに思っている事を言う様に言われた。
「えっと俺は、シーリアの事を…」
俺の言葉にシーリアは目を閉じた。
他の者達も息を飲んで聞いていた。
「シーリアの事を…全く恋愛対象には見ていなかった。」
「「「「「はぁ?」」」」」
俺の言葉に五人はそんな反応をした。
「子供の頃からシーリアは、男勝りで言葉遣いが乱暴で…成長しても子供の頃のままでさらに拍車が掛かった様な感じで、これといって女性らしい凹凸も無いし、色気なんかあったもんじゃない。だから、俺はシーリアの事は仲の良い友達くらいにしか思っていなくて、湿原の時にシーリアに倒れ込んだ時に触った胸で、シーリアも女だったんだな…と確認したくらいだ!」
俺の言葉に、シーリア以外の四人は頭を押さえて溜息を吐いていた。
「だから俺は…シーリアの事は全くこれっぽっちも恋愛対象とは見れなくてな。お前と結婚する未来なんてありえないと思ったんだよ!」
「な…な…な…!」
そして俺は、シーリアに思いを砕くどころか粉砕する様な空気の読めない一言を言い放ってしまった。
「悪いが俺は結婚したので諦めてくれ!だがシーリアにはまだ望みがあるぞ!ここにいるゴードンという優良物件だ!優しくて包容力があり、お前よりも飯が上手く、マメで気を使えるという申し分ない男がな!」
その後…俺は何が起きたのかが良く解らなかった。
俺が目覚めたのはその日の夜だった。
全身ボッコボコで、目を覚ました時に激しい痛みが襲って来たのだった。
何が起きたのかと聞いたが、誰も口を閉ざして教えてくれなかった。
そして最悪な事に、俺達のパーティーからシーリアが離脱した。
他の者達は残ってくれたが、ほんの数日の間は皆が俺に対する反応が少し冷めていた。
マリアネートの勇者としてのクエストの期日が近付いて来たので、シーリア抜きの俺達は王都に向かって転移をした。
シーリアというアタッカーがいないパーティーで、俺達はクエストに望む事になった。
この時までは問題ないと思っていたが、後にシーリアが抜けた穴が広くて深いという事を後になって気付かされるのだった。
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