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第一部
第二十七話 結婚願望?
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「最近、冒険者ギルドに来るとこの部屋に結構通される機会が多いな…」
ギルドマスターともなると、雑務やら何やらで普通会える機会はそう多くない。
だが俺は来る度にギルドマスターに毎回会っている気がする。
呼ばれた理由は、恐らくは昨日の事についてだろうが?
まぁ、話せば分かるか。
「冒険者テクトです。」
「どうぞ、お入りなって下さい。」
俺はギルドマスターの部屋に入ると、いつも通りに良い匂いのする花の香りが出迎えてくれた。
そして、可愛らしい栗鼠族のギルドマスターが出迎えてくれた。
「テクト君、昨日はお疲れ様でした。」
「ギルマスも配慮を有り難う御座います。」
冒険者ギルド側からは対処が出来ない…と言っていたのに、アーヴァインがやティルティア、ガイアスの参加の許可を認めてくれた。
これだけでもギルドマスターには感謝するしかない。
「その事ですが、アーヴァイン君とティルティア君とガイアス君が直談判に来ましてね…仲間を見捨てる様な真似をするなら勇者をやめると言い出しまして。」
「アイツ等はまた無茶な事を…俺なんかの為に。」
「流石に序列一位と序列二位の勇者を辞めるなんて言い出されたら、此方も王国にとっても非常に不味い状況になりますからね。更には冒険者で一番の名を馳せているガイアス君にまでそう言われたら…」
魔王を倒せる勇者に一番近い存在と、数々の魔物を討伐してきた冒険者の英雄に辞められたら、冒険者ギルドはガタガタになるだろうからな。
そうなったら冒険者ギルド側からは仕方なく許可を出さざる追えなくなるだろう。
ギルドマスターが僕の頭を見て言った。
「私の苦労を分かってくれて嬉しいけど…それよりもテクト君の髪が白いままね?」
「複合統一魔法の影響ですよ、今迄は二種の複合統一魔法しか使っていませんでしたが、昨日はかなり無理して三種の複合統一魔法を使用しましたからね。」
「本当に君は規格外よね?」
「なので、反動で髪が白くなるのは仕方が無いんですよ。まぁ、しばらくすれば治りますから。」
とはいえ、身体が怠いのも事実だ。
下手すると寿命がかなり減ったかもしれないしな。
まぁ、数年程度で死ぬ事はないとは思うから別に良いし、助けてに来てくれなかったら多分死んでいたし。
「本当にテクト君には申し訳ない事をしてしまいました。」
「別に良いですよ、こうして生きて帰ってこれたわけですし…」
「それでね、私からのご褒美でテクト君には一つだけ願いを叶えて上げようと思うんだけど。」
「一つだけですか?」
「複数の願いだと贔屓になってしまいますからね。」
ギルマスの願いを叶えると言っても、ギルマスにできる事は高が知れている。
仮に…マリーを序列一位に上げろと願っても?
「それは流石に無理です。序列は貢献度によるものですからね。」
「ですよね~?」
どの辺までの願いなら叶えてくれるんだ?
昨日に飲み食いされて失った金貨を返してくれるというのは?
「それで良いのですか?」
「いえ、金は稼ごうと思えば稼げますのでそれで願いを無くすのは遠慮します。」
ギルマスを裸にして生クリームを掛け捲って全身をベロベロと舐め回す…とか、尻尾をもふもふして顔をうずめたりするという願いは?
ギルマスは顔を真っ赤にして身を庇う様にして守る仕草をしていた。
「君は変態なの?」
「いえ、どの程度までなら許されるのかと思っての想像です。」
「結婚相手には別にしても構いませんが…」
「なら、結婚して下さい。」
「年の差が幾つ離れていると思っているのよ?」
「俺は別に気にしませんが?」
「私が気にするんです!」
意外と多そうで少ないな、ギルマスの叶えられる願いって…?
「それに君は私の事をどう思っているのよ?」
「俺はギルマスの事は好きですよ。可愛らしくて、揶揄うと面白い反応をしますから…たまに本気で怒りますが。」
「それは君が怒らせる様な発言をするからでしょう!」
「まぁ、調子に乗っていたのは認めますが…」
見た目が見た目なだけに、年上という気がしないんだよな。
年齢を聞かなければ、普通に少し年下くらいにしか思えないし。
「そうですね、正確に言うと私の年齢は十六歳で止まっています。」
「それは、呪いか何かですか?」
「私の一族に伝わる呪いです。私の母も十六歳で時が止まっていました。結婚して妊娠すると時が動き出してそこから寿命を終えるまでは普通に歳を取って行きます。」
「という事は、ギルマスの両親はもうこの世にはいないのですか?」
「エルフの父は生きていますが、母は二世紀前に…」
「エルフって子供が出来にくい種族ですよね?という事は、ギルマスの母親は何世紀生きて来られた人なんですか?」
「母は五世紀生きていました。」
「五世紀って…前魔王の時代ですか。」
…という事は、ギルマスがいつか結婚出来たとして、そうすると時が動き出して結婚相手と寿命を全う出来るとしたら、ギルマスの呪いは子供に受け継がれるとか?
「はい、そうなりますね。私の呪いは子供が出来ると、その子に受け継がれます。」
「それは子供が一人だった場合ですか?複数の場合はどうなります?」
「分かりません、私も母も一人っ子でしたので…」
「なら試してみますか?ギルマスと結婚して子供を沢山作るんですよ。」
「君は軽く決めていますが、結婚というのを軽く考えてませんか?」
「俺がそんなに薄情な男に見えますか?まぁ、ギルマスより胸の大きい子がいたら目移りする可能性はありますが…」
「浮気をしたら死ぬより酷い目に合わせますよ!」
「僕はラブラブな両親を見ていますからね、浮気なんて絶対に有りませんよ。」
…とはいえ、これは簡単には決められない難問だろう。
仮に結婚したら、ギルマスの今の地位は誰に引き渡されるとか、色々と問題が多そうだからな。
「いえ、ギルマスの辞職は割と簡単に事が運びます。国王陛下からも子供の顔を見たいと申しておられましたから。まぁ、先先々代の国王から言われ続けて来られましたが…」
「その話をするという事は、結婚が願いという事は叶えて貰えるのですか?」
「私にだって結婚願望がないわけではないのです。知り合いは皆結婚をして子供を授かりましたし、寿命を迎えたのを見送って来ましたからね。」
長く生きていると色々苦労があるんだな。
その苦しみを分かち合えれれば、俺にも多少の苦労は分かるかな?
「君は本気で言っているみたいね?」
「冗談でこんな事は言えませんよ。」
「なら…」
「あ、でも仮に結婚するとして…幾つかの条件は許可してほしいんです。」
「まさか、浮気を許してくれとかいうんじゃないでしょうね?」
「俺がそんな軽薄な男に見えますか?」
「先程、胸の大きい子に目移りするとか言っていましたからね。」
「確かに言ったけど…そうではなくて、俺は結婚しても冒険者家業は辞めるつもりはありませんという事です。」
「それは別に構いませんよ。結婚相手が無職なのは、私だって困りますからね。」
「それと、俺はマリーを序列一位にさせますが?」
「簡単には行かないでしょうけど、それは構わないと思っています。」
ただそうなると、ギルマスにもパーティー参加してもらうという話になるけど可能なのかな?
「それも可能ですよ。結婚相手が旅先で死ぬ様な事は私だって避けたいですし…」
「でも、ギルマスのランクってSランクではないですよね?」
「私はSSSランクです。現在では私以外に後四人がそのランクを持っています。」
「という事は、皆長命な方達なのだろうな。」
「そうですね、ハイエルフやエルダーといった長命種族の者達です。」
そういえば、俺以外からも結婚の申し込みは無かったのかな?
ギルマスだったら引き手は数多だと思うが?
「有りましたよ、私を好きになるというより権力を求める者が多かったですね。結婚しても愛人は許せとか言ってきた者もいて丁重にお断りましたが…」
ギルマスの性格だと、丁重に…というのは暴力沙汰にしたんだろうな。
そういう相手には容赦がなさそうだし…。
ギルマスを見ると笑顔を浮かべてはいるが、目は笑ってないな。
「安心して下さい、俺は浮気はしませんので!」
「そうして頂けると…結婚してから途端に未亡人にはなりたく有りませんからね。」
あ………これは浮気をしたら殺るという合図だ。
流石に自分より強い相手に喧嘩をふっかける程、俺は命知らずでは無い。
魔法の腕ではまず敵わないからな。
「それで質問を返す様ですが、ギルマスは俺の事はどう思っているのですか?」
「そうですねぇ?初めて会った時は……」
「初めて会った時か…」
「生意気な態度は取ってくるし、人を小馬鹿にしたり、喧嘩を売っていると感じた時もありました。」
「まぁ、最初はそうでしたね…深く反省しております。」
「ですが、仲間を思いやる姿勢やめげずに困難に立ち向かう姿、そして多くの人々の心を動かす人柄を見て、気になり始めてきた事は確かですね。」
その言葉に俺は照れ臭くなっていた。
ギルマスなのだから全ての冒険者を広い目で見ているので、俺にだけ特別に言っているわけではないんだろうけど。
「他にも、君が馬鹿をやらかして言い合いするのも楽しかったですよ。私をギルマスと思って接してくる子達は萎縮して本心が伝えられなかったり、緊張しすぎて上手く話が出来ない子が多かったですからね。」
「普通はそうなるでしょうね。俺はギルマスが師匠と似た気配がしたので、割と話しやすかったですが…」
「そうなのですか?確かに君は萎縮した様子はありませんでしたね。それにしても私はローゼッティーに似ているのかな?あの子の若い頃は確かに似ていたかも知れませんでしたが…」
「俺が会った時は、墓の中で朽ち果てていくミイラの様な姿をしていましたね。最初はアンデットなのかと思いましたが…」
「随分失礼な事を言いますね!あの子も延命魔法を使用して、少しでも私と同じ時を生きようとしてくれていましたからね。ただそれも虚しく、最期を看取りましたが…」
なるほど、だから衰弱していても骨にはなっていなかったのか。
…という事は、ギルマスが保護魔法でも掛けておいたからかな?
「君宛の手紙を残す為と弟子に自分の最期の姿を焼き付ける為に…とお願いされたので。」
「まぁ、ある意味…目に焼き付きましたね。今でも悪夢として夢に見ますが…」
「自分の師を何だと思っているの!」
「いえ、アレはかなりインパクト大でしたよ。生前とあまり変わらぬ姿が更に輪をかけて悍ましい姿になっていましたから。」
今思い出すと…まぁ、結構グロいな。
包帯を取り外した状態のミイラ?
水分の無くなったゾンビ?
何とも形容し難い姿だったのは間違いない。
「君は本当に師に対して容赦ありませんね?」
「俺と師匠の間には遠慮がありませんでしたからね。まぁそのお陰でよく魔法でぶっ飛ばされましたが。」
よく考えると、俺は良く生きていたな?
まぁ、あの師匠のデタラメな修業の所為で魔境の森でも生き抜くことが出来たからな。
今となっては感謝しかないが、あの当時は本気で殺したかった。
「あ、それよりギルマス…結婚の話は本当に了承してくれるのですか?」
「まぁ、それは構いませんが…たった一つの願いが私との結婚って。」
「では、普通にプロポーズしたら結婚してくれたのですか?」
「それは…って、それよりも気になったんだけど、君はどうしてそんなに結婚を急ぐの?」
「かつての仲間達が皆相手が居るからです。アーヴァインとティルティア、ガイアスとリールーの様に…」
「あの子達は付き合っていたの⁉︎」
「俺は奴等とは勇者や英雄と呼ばれる前からの付き合いですからね。まぁ、その頃から人目を忍んでコソコソしていたみたいだけど。」
奴等は俺に気を遣っていたのかは分からんが、冒険者時代は街に着いて解散と言いながらも二人っきりで街を散策していたからな。
あの当時は、妹を養う為に恋愛にうつつを抜かしている場合では無かったからなぁ。
それに家族が居れば、もしも俺が死ぬ様なことになっても妹が一人で寂しい思いをしなくても済むから…という考えはしない方がいいか。
「その話を聞く限りでは、君の両親はもうこの世にはいないのね?」
「あぁ、俺が十二歳の頃に村で起きたスタンピードで村の大半の俺の世代は、皆両親は居ません。」
「そういう事だったのね…それなら気持ちはわかります。」
「なら、結婚は?」
「構いませんよ、末永くお願いします。ですが、自分が死ぬという様な発言は冗談でもしないで下さいね。」
「ギルマスが…ミュンが俺の人生に共に歩んでくれるのなら、俺は死んだりはしない。」
「絶対ですよ?」
ミュンはそっと目を閉じた。
この動作は分かるが…ちょっと此処では。
「何で…してくれないの?」
「したくない訳じゃないよ、寧ろしたいんだけど…この部屋に何人居るの?」
「あ………」
五人までは確認できたが、まだ他にも居るだろう。
その中で行為に及ぶほど、俺の心は鉄で出来ている訳じゃない。
それにミュンも忘れているかもしれないが、先程からこのやり取りは全部聞かれているだろう。
気付いているのかな?
「あ、顔が赤いという事は気付いてなかったのか。」
「教えてよ、もう!」
そう言ってミュンはムクれていた。
俺はそんなミュンの頭を撫でるくらいしか今は出来なかった。
さて…勢いで結婚という事になったが、ミュンは式を望んでいるのかな?
出来れば静かに…と言いたい所だけど、無理だろうなぁ?
ギルドマスターともなると、雑務やら何やらで普通会える機会はそう多くない。
だが俺は来る度にギルドマスターに毎回会っている気がする。
呼ばれた理由は、恐らくは昨日の事についてだろうが?
まぁ、話せば分かるか。
「冒険者テクトです。」
「どうぞ、お入りなって下さい。」
俺はギルドマスターの部屋に入ると、いつも通りに良い匂いのする花の香りが出迎えてくれた。
そして、可愛らしい栗鼠族のギルドマスターが出迎えてくれた。
「テクト君、昨日はお疲れ様でした。」
「ギルマスも配慮を有り難う御座います。」
冒険者ギルド側からは対処が出来ない…と言っていたのに、アーヴァインがやティルティア、ガイアスの参加の許可を認めてくれた。
これだけでもギルドマスターには感謝するしかない。
「その事ですが、アーヴァイン君とティルティア君とガイアス君が直談判に来ましてね…仲間を見捨てる様な真似をするなら勇者をやめると言い出しまして。」
「アイツ等はまた無茶な事を…俺なんかの為に。」
「流石に序列一位と序列二位の勇者を辞めるなんて言い出されたら、此方も王国にとっても非常に不味い状況になりますからね。更には冒険者で一番の名を馳せているガイアス君にまでそう言われたら…」
魔王を倒せる勇者に一番近い存在と、数々の魔物を討伐してきた冒険者の英雄に辞められたら、冒険者ギルドはガタガタになるだろうからな。
そうなったら冒険者ギルド側からは仕方なく許可を出さざる追えなくなるだろう。
ギルドマスターが僕の頭を見て言った。
「私の苦労を分かってくれて嬉しいけど…それよりもテクト君の髪が白いままね?」
「複合統一魔法の影響ですよ、今迄は二種の複合統一魔法しか使っていませんでしたが、昨日はかなり無理して三種の複合統一魔法を使用しましたからね。」
「本当に君は規格外よね?」
「なので、反動で髪が白くなるのは仕方が無いんですよ。まぁ、しばらくすれば治りますから。」
とはいえ、身体が怠いのも事実だ。
下手すると寿命がかなり減ったかもしれないしな。
まぁ、数年程度で死ぬ事はないとは思うから別に良いし、助けてに来てくれなかったら多分死んでいたし。
「本当にテクト君には申し訳ない事をしてしまいました。」
「別に良いですよ、こうして生きて帰ってこれたわけですし…」
「それでね、私からのご褒美でテクト君には一つだけ願いを叶えて上げようと思うんだけど。」
「一つだけですか?」
「複数の願いだと贔屓になってしまいますからね。」
ギルマスの願いを叶えると言っても、ギルマスにできる事は高が知れている。
仮に…マリーを序列一位に上げろと願っても?
「それは流石に無理です。序列は貢献度によるものですからね。」
「ですよね~?」
どの辺までの願いなら叶えてくれるんだ?
昨日に飲み食いされて失った金貨を返してくれるというのは?
「それで良いのですか?」
「いえ、金は稼ごうと思えば稼げますのでそれで願いを無くすのは遠慮します。」
ギルマスを裸にして生クリームを掛け捲って全身をベロベロと舐め回す…とか、尻尾をもふもふして顔をうずめたりするという願いは?
ギルマスは顔を真っ赤にして身を庇う様にして守る仕草をしていた。
「君は変態なの?」
「いえ、どの程度までなら許されるのかと思っての想像です。」
「結婚相手には別にしても構いませんが…」
「なら、結婚して下さい。」
「年の差が幾つ離れていると思っているのよ?」
「俺は別に気にしませんが?」
「私が気にするんです!」
意外と多そうで少ないな、ギルマスの叶えられる願いって…?
「それに君は私の事をどう思っているのよ?」
「俺はギルマスの事は好きですよ。可愛らしくて、揶揄うと面白い反応をしますから…たまに本気で怒りますが。」
「それは君が怒らせる様な発言をするからでしょう!」
「まぁ、調子に乗っていたのは認めますが…」
見た目が見た目なだけに、年上という気がしないんだよな。
年齢を聞かなければ、普通に少し年下くらいにしか思えないし。
「そうですね、正確に言うと私の年齢は十六歳で止まっています。」
「それは、呪いか何かですか?」
「私の一族に伝わる呪いです。私の母も十六歳で時が止まっていました。結婚して妊娠すると時が動き出してそこから寿命を終えるまでは普通に歳を取って行きます。」
「という事は、ギルマスの両親はもうこの世にはいないのですか?」
「エルフの父は生きていますが、母は二世紀前に…」
「エルフって子供が出来にくい種族ですよね?という事は、ギルマスの母親は何世紀生きて来られた人なんですか?」
「母は五世紀生きていました。」
「五世紀って…前魔王の時代ですか。」
…という事は、ギルマスがいつか結婚出来たとして、そうすると時が動き出して結婚相手と寿命を全う出来るとしたら、ギルマスの呪いは子供に受け継がれるとか?
「はい、そうなりますね。私の呪いは子供が出来ると、その子に受け継がれます。」
「それは子供が一人だった場合ですか?複数の場合はどうなります?」
「分かりません、私も母も一人っ子でしたので…」
「なら試してみますか?ギルマスと結婚して子供を沢山作るんですよ。」
「君は軽く決めていますが、結婚というのを軽く考えてませんか?」
「俺がそんなに薄情な男に見えますか?まぁ、ギルマスより胸の大きい子がいたら目移りする可能性はありますが…」
「浮気をしたら死ぬより酷い目に合わせますよ!」
「僕はラブラブな両親を見ていますからね、浮気なんて絶対に有りませんよ。」
…とはいえ、これは簡単には決められない難問だろう。
仮に結婚したら、ギルマスの今の地位は誰に引き渡されるとか、色々と問題が多そうだからな。
「いえ、ギルマスの辞職は割と簡単に事が運びます。国王陛下からも子供の顔を見たいと申しておられましたから。まぁ、先先々代の国王から言われ続けて来られましたが…」
「その話をするという事は、結婚が願いという事は叶えて貰えるのですか?」
「私にだって結婚願望がないわけではないのです。知り合いは皆結婚をして子供を授かりましたし、寿命を迎えたのを見送って来ましたからね。」
長く生きていると色々苦労があるんだな。
その苦しみを分かち合えれれば、俺にも多少の苦労は分かるかな?
「君は本気で言っているみたいね?」
「冗談でこんな事は言えませんよ。」
「なら…」
「あ、でも仮に結婚するとして…幾つかの条件は許可してほしいんです。」
「まさか、浮気を許してくれとかいうんじゃないでしょうね?」
「俺がそんな軽薄な男に見えますか?」
「先程、胸の大きい子に目移りするとか言っていましたからね。」
「確かに言ったけど…そうではなくて、俺は結婚しても冒険者家業は辞めるつもりはありませんという事です。」
「それは別に構いませんよ。結婚相手が無職なのは、私だって困りますからね。」
「それと、俺はマリーを序列一位にさせますが?」
「簡単には行かないでしょうけど、それは構わないと思っています。」
ただそうなると、ギルマスにもパーティー参加してもらうという話になるけど可能なのかな?
「それも可能ですよ。結婚相手が旅先で死ぬ様な事は私だって避けたいですし…」
「でも、ギルマスのランクってSランクではないですよね?」
「私はSSSランクです。現在では私以外に後四人がそのランクを持っています。」
「という事は、皆長命な方達なのだろうな。」
「そうですね、ハイエルフやエルダーといった長命種族の者達です。」
そういえば、俺以外からも結婚の申し込みは無かったのかな?
ギルマスだったら引き手は数多だと思うが?
「有りましたよ、私を好きになるというより権力を求める者が多かったですね。結婚しても愛人は許せとか言ってきた者もいて丁重にお断りましたが…」
ギルマスの性格だと、丁重に…というのは暴力沙汰にしたんだろうな。
そういう相手には容赦がなさそうだし…。
ギルマスを見ると笑顔を浮かべてはいるが、目は笑ってないな。
「安心して下さい、俺は浮気はしませんので!」
「そうして頂けると…結婚してから途端に未亡人にはなりたく有りませんからね。」
あ………これは浮気をしたら殺るという合図だ。
流石に自分より強い相手に喧嘩をふっかける程、俺は命知らずでは無い。
魔法の腕ではまず敵わないからな。
「それで質問を返す様ですが、ギルマスは俺の事はどう思っているのですか?」
「そうですねぇ?初めて会った時は……」
「初めて会った時か…」
「生意気な態度は取ってくるし、人を小馬鹿にしたり、喧嘩を売っていると感じた時もありました。」
「まぁ、最初はそうでしたね…深く反省しております。」
「ですが、仲間を思いやる姿勢やめげずに困難に立ち向かう姿、そして多くの人々の心を動かす人柄を見て、気になり始めてきた事は確かですね。」
その言葉に俺は照れ臭くなっていた。
ギルマスなのだから全ての冒険者を広い目で見ているので、俺にだけ特別に言っているわけではないんだろうけど。
「他にも、君が馬鹿をやらかして言い合いするのも楽しかったですよ。私をギルマスと思って接してくる子達は萎縮して本心が伝えられなかったり、緊張しすぎて上手く話が出来ない子が多かったですからね。」
「普通はそうなるでしょうね。俺はギルマスが師匠と似た気配がしたので、割と話しやすかったですが…」
「そうなのですか?確かに君は萎縮した様子はありませんでしたね。それにしても私はローゼッティーに似ているのかな?あの子の若い頃は確かに似ていたかも知れませんでしたが…」
「俺が会った時は、墓の中で朽ち果てていくミイラの様な姿をしていましたね。最初はアンデットなのかと思いましたが…」
「随分失礼な事を言いますね!あの子も延命魔法を使用して、少しでも私と同じ時を生きようとしてくれていましたからね。ただそれも虚しく、最期を看取りましたが…」
なるほど、だから衰弱していても骨にはなっていなかったのか。
…という事は、ギルマスが保護魔法でも掛けておいたからかな?
「君宛の手紙を残す為と弟子に自分の最期の姿を焼き付ける為に…とお願いされたので。」
「まぁ、ある意味…目に焼き付きましたね。今でも悪夢として夢に見ますが…」
「自分の師を何だと思っているの!」
「いえ、アレはかなりインパクト大でしたよ。生前とあまり変わらぬ姿が更に輪をかけて悍ましい姿になっていましたから。」
今思い出すと…まぁ、結構グロいな。
包帯を取り外した状態のミイラ?
水分の無くなったゾンビ?
何とも形容し難い姿だったのは間違いない。
「君は本当に師に対して容赦ありませんね?」
「俺と師匠の間には遠慮がありませんでしたからね。まぁそのお陰でよく魔法でぶっ飛ばされましたが。」
よく考えると、俺は良く生きていたな?
まぁ、あの師匠のデタラメな修業の所為で魔境の森でも生き抜くことが出来たからな。
今となっては感謝しかないが、あの当時は本気で殺したかった。
「あ、それよりギルマス…結婚の話は本当に了承してくれるのですか?」
「まぁ、それは構いませんが…たった一つの願いが私との結婚って。」
「では、普通にプロポーズしたら結婚してくれたのですか?」
「それは…って、それよりも気になったんだけど、君はどうしてそんなに結婚を急ぐの?」
「かつての仲間達が皆相手が居るからです。アーヴァインとティルティア、ガイアスとリールーの様に…」
「あの子達は付き合っていたの⁉︎」
「俺は奴等とは勇者や英雄と呼ばれる前からの付き合いですからね。まぁ、その頃から人目を忍んでコソコソしていたみたいだけど。」
奴等は俺に気を遣っていたのかは分からんが、冒険者時代は街に着いて解散と言いながらも二人っきりで街を散策していたからな。
あの当時は、妹を養う為に恋愛にうつつを抜かしている場合では無かったからなぁ。
それに家族が居れば、もしも俺が死ぬ様なことになっても妹が一人で寂しい思いをしなくても済むから…という考えはしない方がいいか。
「その話を聞く限りでは、君の両親はもうこの世にはいないのね?」
「あぁ、俺が十二歳の頃に村で起きたスタンピードで村の大半の俺の世代は、皆両親は居ません。」
「そういう事だったのね…それなら気持ちはわかります。」
「なら、結婚は?」
「構いませんよ、末永くお願いします。ですが、自分が死ぬという様な発言は冗談でもしないで下さいね。」
「ギルマスが…ミュンが俺の人生に共に歩んでくれるのなら、俺は死んだりはしない。」
「絶対ですよ?」
ミュンはそっと目を閉じた。
この動作は分かるが…ちょっと此処では。
「何で…してくれないの?」
「したくない訳じゃないよ、寧ろしたいんだけど…この部屋に何人居るの?」
「あ………」
五人までは確認できたが、まだ他にも居るだろう。
その中で行為に及ぶほど、俺の心は鉄で出来ている訳じゃない。
それにミュンも忘れているかもしれないが、先程からこのやり取りは全部聞かれているだろう。
気付いているのかな?
「あ、顔が赤いという事は気付いてなかったのか。」
「教えてよ、もう!」
そう言ってミュンはムクれていた。
俺はそんなミュンの頭を撫でるくらいしか今は出来なかった。
さて…勢いで結婚という事になったが、ミュンは式を望んでいるのかな?
出来れば静かに…と言いたい所だけど、無理だろうなぁ?
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