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第一部

第十二話 お約束的な…後日談(お笑いの回です)

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 あの戦いから数日が経過した。
 俺は壁も天井も白い部屋のベッドで目が覚めた。
 そこは、冒険者ギルドが管轄する病院の中だった。
 何故それを知っているかというと、この病院に以前何度か世話になった事があったからだ。
 俺は身体を起こしてから、周りを見た。
 俺のいた部屋は個室で、壁には鏡が掛けられていたので自分を見た。
 すると…髪はまだ白いままで、本来の赤毛からは遠い色をしていた。

 「えーっと、あの時は…複合統一魔法を限界以上に使用してから、魔力枯渇でぶっ倒れたんだっけか?」

 複合統一魔法…これは失われた古代魔法という話だった。
 そう呼ばれるのは、この時代にこの魔法を使いこなせる者は居なかったからだ。
 そうでなくても、二つの属性を一つに合わせる事は危険極まりなく、禁忌とされていたからなのだった。
 俺はエクストラスキルの魔法創造で作れる魔法を探す為に、古代の文献を漁って記憶していた。
 鑑定魔法も転移魔法も収納魔法も、魔法創造で作りだした魔法だが…元は古代魔法の文献から得た知識で会得した物だった。
 複合統一魔法も取得出来るかと思ってやってみたが、これは魔法創造では作りだす事が出来なかった。

 「おかしいなぁ、以前複合統一魔法が出来た時は、髪が白くなったが寝て起きた頃には元の色に戻っていた筈なのに?」

 前回の時と今回の時は、使用した魔法量が違うので…こうなったのは仕方が無いか。
 それよりも、あの後の事を聞きたいのだが…服はあるな。
 俺は着替えてから冒険者ギルドに向かった。
 そして冒険者ギルドに入った途端、俺の顔を見るなり歓声が沸き起こったのだった。
 俺は全く意味が解らずに、適当に酒場のカウンターに行って大食用の冒険者丼という料理を注文した。
 この料理は体の大きい冒険者用で…挑戦者が後を絶た無いという話らしく、未だに完食者0の料理だった。
 俺は席に着くと、辺りを見渡したが俺の仲間はギルド内には居なかった。

 「追加のクエストでも受けているのか?」

 俺は勇者ランキングが張り出されている用紙を見た。
 するとマリーのランクが現在序列五位まで上昇していた。
 新人の勇者にしては、異例の早さだった。
 …ということは、次はそのランクに見合ったクエストを請けに行ったのか?
 序列五位のクエストは確か、討伐系だった気がするが…四人だけで平気なのか?
 まぁ、頼りになる仲間も居るし平気だろう。
 俺は配膳された料理を食べ始めた…が、気が付くといつの間にか食べ終わっていて、まだ満たされた感じが無かった。
 なので、料理を二人前注文した。

 「テクトさん、本当に大丈夫なんですか?」
 「魔力の影響かな?全然喰った気がしなかったなぁ。」

 そして配膳されてから食べ始めるが、またいつの間にか食べ終わっていた。
 三人前を食べているのに、全く満たされなかった。
 俺は周りを見渡したが誰も居なかった。
 もしかしたら、誰かが俺の気付かぬ内に摘んでいるのではないかと思ったが、そんな奴は見当たらなかった。
 またカウンターに行って、今度は五人前を追加した。
 料理人は目を丸くしていた。
 ゴードンの体格でさえ、この料理の完食は無理だったという話なのに…俺はペロリと平らげた上にお替り迄要求している。
 腹を見たが特に膨れている様子も無く、体に素早く吸収されている様な感じだった。
 そして配膳されてからまた食べるが、食べ終わっても食べた感が全く無い。
 既に十人前は平らげている筈なのに、満腹感が全く無かった。
 俺はまたカウンターに行って更に五人前を注文しようとした時に、鏡を見ると…?
 白い髪の根元が徐々に赤くなっている感じだった。
 
 「なるほど、腹が満たされないのはこれが理由か!」

 元の髪色に戻るまでに、相当数のカロリーが必要になると見た。
 …という事なので、今度は一気に十人前を注文した。
 料理人は完食者0のこのメニューに絶対的な自信を持っていたが、俺によってそれが砕かれて涙目になりながらも料理を作り始めた。
 普段の俺はこんなには喰えん。
 この丼のせいぜい八分の一くらいが関の山だろう。
 冒険者丼は…小麦粉を使った極太の麺料理である。
 その上にトロトロの巨大な肉の塊が無数に載っているという物だ。
 例えるなら、豚角煮うどん…という感じだろうか?
 そして料理が配膳されると、また物の数分で食べ終わった。
 そんな感じで繰り返していき…気が付くと俺の据わっているテーブルの上には、大きな冒険者丼の器が31個積み上げられていた。
 そして料理人も真っ白に燃え尽きていて、幻覚を見ている様な感じで蝶が綺麗と言っていた。
 俺はどうやら、料理人の心を完全に砕いた…いや、木っ端微塵に粉砕してしまったのだろう。
 俺は料金を支払うと、ギルドの受付に呼ばれたので向かう事にした。

 「何か用ですか?」
 「テクト様、ギルドマスターがお呼びです。」
 「ギルマス?ギルマスが俺みたいな一介の冒険者に…ですか?」
 
 受付嬢は俺に向かって溜息を吐くと、俺はギルマスの部屋に案内された。
 部屋に入ると、無造作に積まれた書類に汚らしい部屋、更には体育倉庫の様な汗臭くてカビ臭い部屋を予想していたが…?
 机の上に積まれた書類は無く、書類は全てファイリングされて棚に収められており…部屋も清潔で匂いも花のような香りが漂っていた。
 
 「貴方がテクト君だね?」
 
 俺は振り返るが姿が見えなかった。
 目線を下げるとそこには、可愛らしい栗鼠族の女の子が立っていた。
 何故こんな場所にこんな女の子が⁉
 それに…ちっさ!

 「いま…私を見てちっさぃって思いませんでした?」
 「あ、はい。」
 「正直な子ですね、最近の若い子にしては…」

 俺は椅子を勧められて座った。
 俺よりも…いや、妹よりも幼い子に若い子と言われた。
 すると、女の子は顔を膨らませて可愛くムクれながら怒って言った。

 「失礼な事をまた考えていますね?私はこう見えても、三世紀生きているんですよ!」
 「年齢を世紀でいう人に初めて会いました。」

 本当にこの子は何なんだろう?
 まさか、この子がギルマスなのか⁉

 「多分テクト君が思っている事が予想出来るので、私が王都の冒険者ギルドのギルドマスターのミュンです。」
 「やっぱりギルマスだったのか!」

 見た目は…どう見ても幼女にしか見えん。
 まぁ、三世紀を生きていると言っていたし…年齢を誤魔化す必要は無いだろうな。
 すると、見た目がこんなでも中身はお婆ちゃんか?

 「テクト君、また失礼な事を考えてますね?」
 「あ、申し訳ありません!」
 「まぁ、いいですよ~初めて会った人達は皆、同じ反応しますしね。」
 「それで、ギルマスが俺に何の用が?」
 「テクト君が倒れて気絶した後の事を話そうと思ってね。」
 「そう…ですね、俺もあの後の事は気になりますので…」

 まぁ、その辺は色々気になっているな。
 マリーが勇者ランキングで十五位から五位にランクアップしている事や、今は何の依頼で仲間達がいないとか?

 「まず、今回の件に関してですが…」

 ギルマスは立ち上がって頭を下げて謝って来た。

 「今回出した依頼の【フォーリア大湿原で生態系を乱す魔物を討伐して捕縛せよ!】を新人勇者に依頼した事を心より謝罪致します。」
 「いや、まぁ…達成出来た訳だし。」
 「あの依頼は本来なら、序列五位以上の依頼レベルの内容だったのですが…環境大臣のステファニーちゃんから冒険者ギルドに手回しをして強引に手続きをさせた物だったの。私が確認する前に受理されたものだったから、止める事が出来なくてね。」
 「ステファニーちゃんって…あのクソババァがそんな可愛らしい呼び方されるとは。」
 「私からしたら、あの年齢はただの小娘よ?」
 
 そうだった…ギルマスの幼女の姿を見ていると、あっちのクソババァの方が年上に見えるからな。
 目の前にいるのは、見た目は幼女だが実際は300年生きている妖魔なんだよなぁ…。

 「君はまた失礼な事を思ってないかな?」
 「いえ、ギルマスはとっても可愛らしい女性だと思っております。」
 「そうですか、その言葉に免じて許しましょう。それと環境大臣のステファニーちゃんですが、私の方からお灸を据えておきましたので、今後は過度なちょっかいを出して来る事はありませんので御安心下さい。」
 
 お灸を据えた…ねぇ?
 自分の若さを保つ為に生気でも吸い取ったのかな?
 あのクソババァも良い年齢なんだから、それ以上の生気を吸い取る様な真似をすると死ぬぞ?

 「君は本当に失礼な事を考えていないかい?」
 「ギルマスの大きな尻尾がフワフワで触ってみたくて見ていました。」
 「気持ちは分かりますが駄目ですよ。この尻尾は、番いとなる物だけにしか触らせません!」

 …という事は、三世紀生きていてもまだ独身なのか?
 そんな人を嫁に貰う相手が現れるのかねぇ?

 「本当に君は失礼な事を考えているね?」
 「さっきから心が読めるんですか?」
 「そんな訳がないでしょう!心は読めませんが、表情で何を考えているか位は分かりますよ。」
 
 話が進まないからとりあえず控えるか。
 
 「そうして頂けると幸いです。」
 「本当に…って、もう良いか。それで、話はそれで終わりですか?」
 「いえ、あのハームプラントの亜種は、鑑定魔法で調べると実は変異種という事が解りました。」
 「ギルマスも鑑定魔法が使えるのですか?」
 「伊達に長く生きていませんからね。」

 ギルマスが言うと説得力があるな…見た目は幼女なのに。
 鑑定魔法には、その物が蓄えた知識量によって詳細なデータが表示される。
 俺が鑑定魔法をした時は、ハームプラントの亜種としか表示されなかったが、まさか変異種だとは思わなかった。
 だからあんなに桁違いな特殊攻撃をしてきたのか。

 「桁違いな攻撃と言えば、テクト君の複合統一魔法も相当な物ですよ。」
 「本当に心が読めるんじゃないんですか?」
 「いえいえ、読めませんてばぁ~。複合統一魔法に関しては、私でも使えないものなのです。それを20年も生きていない子に使われたのが驚いてしまって…」
 「あ!ギルド職員と一緒にいた、あのちっ子いのがギルマスで一部始終見ていたのか!」
 「君は本当に失礼な物の言い方をしますね?」
 「すいません、心が正直なので…」
 「なんかサラッとディスりましたよね?」

 俺が複合統一魔法が使えるのは、あまり広めて欲しくないんだよなぁ。
 簡単に出来るものでもないし、何よりそれが分かると魔導士系のジョブがこぞって聞きに来るからな。

 「安心しなさい、あの場に居た者達に緘口令を敷きましたので、複合統一魔法に関しては伏せておくように伝えました。ですが、勇者ティルティアのパーティーの黒魔道士の子からは内緒にする代わりにやり方を聞いてくるかもしれませんが…」
 「まぁ、あの場で見ていたから隠すのは無理でしょうね。皆の前でなければ、教える位なら別に構いませんよ…出来るとは思えませんが?」
 
 話はこれで終わりかな?
 出来れば仲間達の動向が気になってはいるんだが…。

 「そうですね、テクト君のお仲間について話をしましょう。」
 「本当に心が読めます?」
 「読めませんってば~。えっとですね、序列五位のクエストに関しては、ギルド側から魔道士系の職員を派遣してクエストは無事に終了致しました。今現在お仲間さんがいないのは、各自自分達のスキルアップをする為に先輩勇者のパーティーに参加して戦い方を学んでいるんですよ。」
 「ゴードンとシーリアはそれなりに戦えていますが、マリーとクライヴは実戦はまだ拙いですからね。」
 「勇者マリーさんに関しては、勇者魔法を使用する事が出来る様になりました。」
 「勇者魔法というと、天の術法ですか?」

 勇者魔法は幾つかの種類がある。
 勇者には天の術法という、勇者特有の勇者魔法が存在していて…聖属性や光属性をメインに使用する事が出来るという話だ。
 ちなみにクルーシスは、魔法を面倒臭がって覚える気が無かったから全く使えなかった。
 だがそれでも、肉弾戦ならともかく…魔法による火力は欲しいよな?
 誰か信頼出来る者はいないかな?

 「申し訳ありません。私の方でも魔道士系のジョブを持つ方は現在居られないのです。」
 「本当に心が読めるんじゃないんですか?」
 「読めませんてばぁ~」

 さっきからちょくちょくそう言って誤魔化しているな。
 なら試してみるか…?
 ここはギルマスの部屋で、機密性は折り紙付きだ。
 そしてこの部屋には俺とギルマスしかいない。
 ギルマスには拘束魔法を施してから馬乗りになって、服を脱がしてから色々な箇所を舐めて味見を…。
 そんな事を考えていると、ギルマスは顔を真っ赤にして身を庇う様な仕草をしながら…

 「テクト君、君は何を考えているの⁉私の事をそんな目で見ていたのね!」
 「やっぱり俺の考えていることが分かるんじゃないか!」

 俺は先程から数回に分けて鑑定魔法を使用したが、ギルマスのステータスは見えなかった。
 鑑定魔法も相手がそれ以上の能力の持ち主だと弾かれてしまうらしい。
 なので、こういった卑猥な考えをしてみたのだが…?
 恐らく相手の考えが分かるのは、ギルマスの固定スキル以外に別のスキルがあるからだろう。
 俺の様にレアスキルがあるのか?
 それともユニークスキルか、もしくはエクストラスキルなのか?

 「テクト君、貴方って一体…幾つスキル持っているんですか!私のは固定スキル以外にテクニカルスキルというスキルがあるだけです!」
 「テクニカルスキルか…そういえば気絶した時に新たなスキルを取得したという声が聞こえたが?」
 「スキルは天性的な物で、後から入手出来る訳じゃありません!テクト君は一体どうなっているんですか⁉」
 
 そんな事、俺が聞きたいくらいだ!
 成長するにつれてなのか、レベルが上がるにつれてなのか…その都度にスキルを覚えて行くのだから、何がきっかけでスキルが覚えられるのかが良く解らん。

 「本当にテクト君は規格外という事が良く解りました。」
 「なんですか、人を化け物みたいに…300年も生きているギルマスに言われたくありませんよ。」
 「本当に貴方は良い度胸していますね?」
 
 最後に俺は、以前魔法創造で作りだした魔法をギルマスに使ってみた。
 見た目は幼女でも、服の下がどうなっていたのかが気になったからだった。
 服の下は皴だらけの体かと思いきや、見た目と同じ様なスベスベな艶のある肌だった。
 それ以外にも、小振りだが形は良く、先端は綺麗なピンク色…なんて考えていたら、ギルマスから重力魔法のグラビティを喰らって床に押し付けられた。

 「貴方…透視魔法も使えるのね⁉」
 「そうだった、考えが読まれるんだったんだよな。」
 「それも貴方の魔法なの⁉」
 「あぁ、もう辞めますので魔法解除をお願いします!」

 俺はグラビティを解除して貰うと、立ち上がって頭を下げた。
 とりあえず、色々詳細は聞けたしこれで良いだろう。

 「本当に色々規格外よね…貴方は!」
 「まぁ、そうなりますかね?」
 「今日はもう良いわ、話は以上ですので退出して下さい。」
 「では、失礼致します。」

 俺は頭を下げてから扉の前に立つと、ドアノブを掴んでから最後に悪戯を仕掛けてみた。
 ギルマスって見た目が幼女なだけに…下の毛も生えていないんだな。
 そう思った瞬間に扉が氷漬けになって扉が開かなくなってしまった。
 
 「貴方っていう子は…」
 「では失礼します!」
 「扉がその状態で逃がすと思っているの‼」
 「俺にはこういう魔法もあるので逃げます!」

 俺は転移魔法でギルドの外に避難した。
 さすがのギルマスも俺の魔法を全て把握出来ている訳ではないらしく、そこまでの把握は出来ていなかった。
 まぁ、ギルド内で皆が見ている前でお叱りはされないだろうが、今後は自重しよう。
 そして皆が帰って来て合流すると、俺は転移魔法でマイラル村に飛んだのだった。
 しばらくはクエストも無いし、村でゆっくりしよう。
 ただ、魔道士系が欲しいが…宛はあるかな?
 
 これもお約束なのか…魔道士系のジョブを持つ者が俺の近くで見付かるのだった。
 ただ、勧誘するのに凄く厄介な出来事に巻き込まれるのだった…が、その話をするのはもう少し先になる。
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