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第一部

第十一話 これもある意味…お約束的なのか?後編

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 その夜…キャンプ地で集合して各自の報告を聞いた。
 するとクライヴとシーリアからは何も得られなかったが、マリーとゴードンから目撃したという話を得た。

 「各自散開という話だったが?」
 「私の近くにゴードンさんがいてね、ゴードンさんに確認して貰ったの。」
 「実の…いやもう本体と言った方が良いだな。本体の大きさは、オラ以上どころか大型の魔物並みにデカかっただ!」

 マリーが目撃した時は、湿原から別な場所に移る際に本体が陸から上がって移動をしようとしている所を偶然近くにいたゴードンに確認して貰ったという話だった。
 だが、その本体が移動する際に地面に顔出した時に近くにいた大型や中型の魔物に蔓を絡ませてからトドメを刺して、その養分を吸い取っていたという話だった。
 さらには、本体近くの蔓にも大量の魚や中型の水棲魔物の死骸が絡み付いていたという話だった。
 その為に、湿原を歩いていた時でも水棲生物が襲って来なかったのは、そういう理由があったのだった。

 「狙うのは植物だけじゃないのか?」
 「あの様子だと、近くにいるものは全て養分という感じみたいだな!」
 「となると、下手に近付くと…蔓に絡まれて捕まる可能性が高いな。」

 俺達の中に投擲武器を使っている者はいない。
 俺も攻撃魔法は使えるが、黒魔道士に比べると火力はそれ程高くはない。
 植物系の魔物の弱点は、火と氷と…?
 仮に火が弱点だったとしても、湿原の濃度の高い湿度だと火の勢いは期待出来そうもない。
 かと言って、氷魔法でも周囲を凍らせられる程の威力も無い。
 他に使える属性を考えると…?
 雷魔法も有効ではあるのだが…植物型の魔物の場合、雷によって急成長する植物魔物もいる。
 ハームプラントが雷属性に弱ければ問題ないが、雷属性で成長するタイプだったりすると…正直言って弱体魔法以外に攻撃手段が無い。
 あ…いや、無くも無いが…あの魔法は成功率より失敗率の方が高いからなぁ。

 「どうしたテクト、何を唸っている?」
 「俺は唸っていたか?いや、遠距離攻撃できる者が俺とギリでクライヴくらいしか居なくてな。他に大した遠距離攻撃ができない事にパーティーの弱点が明るみになった気がしてな。」
 「遠距離がどの程度に遠くかにもよるが、中距離程度ならオラが石を投げるど!」
 「石って………?」
 「ゴードン師匠は凄いんですよ!石で魔熊を頭を撃ち抜いたんですから‼︎」
 「はぁ…⁉︎」

 まぁ確かに…ゴードンの怪力なら可能かも知れんが?
 討伐ランクAの魔熊を石だけで倒すって…世の中の冒険者が知ったら、どれだけのショックを受けるだろうか。

 「じゃあゴードンには、俺の収納魔法に入っている投擲用の石礫を渡しておく。接近戦に持ち込める様になるまでは、石を投げて動きを止めてくれ。」
 「了解したど!」
 
 ゴードンの怪力なら、強化魔法は必要ない様な気もするが…まぁ、戦闘を有利に進める為に掛けておくか。
 シーリアは確か弓が使え…無かったな。
 あらぬ方向に飛んでいく為に、絶対に弓は使うなと自警団の団長に言われたと言っていたっけ?
 まぁ、敵もただ黙っている訳では無いから、対応の為にシーリアとマリーには対策をしていて貰おう。
 後は魔法攻撃なのだが、こんな事ならもう少し攻撃魔法を使用しておけばよかったな。
 俺は翌日の決戦に向けて、作戦内容を皆に話した。

 「まず全員に強化魔法を施してから、ゴードンは砲撃役として石礫を渡す。その隙に俺は奴に弱体魔法のオンパレードを掛け捲る。次にゴードンが石を投げ付ける訳だが、向こうも当然反撃をしてくるのでクライヴとシーリアとマリーは迎撃をしろ。俺は魔法攻撃を仕掛けてみるが…」
 「接近して仕留める訳ではないのか?」
 「ゴードンが言っていただろ、本体に近い蔓程…神経が通っていると。迂闊に接近すると、蔓に捕らえられて養分を吸われる事になるぞ!」
 「なら、どうするんだ?」
 「ある一定の魔法を打ち込んでから、有効属性が判明したら奥の手を使う。それによってチャンスは得られるとは思うが…こればかりは出たとこ勝負になる。」
 「お兄ちゃんにしては随分弱気だね?」
 「俺は、支援魔法は得意だが…攻撃魔法に関してはなぁ?奥の手も成功率が三割程度だし。」
 「何をする気なんだ、テクト?」
 「黒魔道士でも出来るかどうか解らない強力な魔法…とだけ言っておく。言っておくが、あまり期待はするなよ!」

 俺の奥の手の魔法は、相当なリスクを負う魔法になる。
 俺自身も数度しか試した事が無いし、ほとんどが失敗していてまともに成功したのが三回位しか無いからな。
 その後俺達は、明日に備えて寝る事にした。
 このクエストが終わったら、本格的に魔道士系の加入者でも募るかねぇ?

 そして九日目…
 俺達はマリーとゴードンが目撃したポイントに移動した。
 目の前には、ハームプラントの亜種の本体が蔓を無数に広げて魔物や植物の養分を吸い取っていた。

 「ゴードン、生態系を荒らす魔物って…本当にコレなんだよな?」
 「んだ、間違えねぇだよ!」

 昨日にマリーとゴードンから話を聞いていて何となく想像をしてみたが、実物は考えているよりかなりデカかった。
 本体の周辺には、複数の大型や中型の魔物の干乾びた死体が転がっていた。
 その量から見ると、相当数の魔物を自分の養分にして葬って来たのだろう。
 俺は魔法陣を展開してから強化魔法のオンパレードを全員に掛けた。

 「高速移動魔法アクセラレーション、軽量化魔法フライトレーション、攻撃力増加魔法シャープネス、防御力増加魔法プロテシア、全運動機能上昇魔法ステータスオール、命中率増加魔法スナイパーアイ、回復補助魔法リジェネート、魔法力回復補助魔法リフレート!」
 「凄い…自分の体じゃないみたい!」
 「これなら何でも出来そうだ!」
 「ゴードン、投擲を開始しろ!筋力低下魔法パワーロス、防御力低下魔法ディフェンスロス、命中率低下魔法ブラインドロス!」

 弱体魔法と強化魔法は得意とはいえ、こうも連続で放つのは正直相当キツイ。
 だが、今の段階ではこれで充分だろう。
 敵の様子を見ながら、臨機応変で対応するとしよう。
 最後に自分には魔法力増強魔法のマインドアップを施した。
 この魔法だけは、他の者達には無縁な魔法だからだ。
 俺はオートリフレートの効果でMPは徐々に回復して行くので、完全回復するまでに仲間達の戦いを見ていた。
 すると…?

 「ゴードンの投擲に砲台とか勝手に言ったが、あの威力では本当に大砲をぶっ放している様な威力だな!」

 ゴードンは敢えて本体を狙わずに、本体の頭から生えている蔓を目掛けて投擲をしていた。
 蔓は本体に直結している状態では自由に操れるが、切り離された蔓に関しては操作が出来ないからだ。
 幾らスナイパーアイで命中率を強化しているとは言っても、必ず狙った場所に当たる訳ではない。
 向こうもジッとはしていないだろうから、必ず当たる訳ではないのは分かってはいるのだが…?
 ゴードンの投げた石が本体に当たったと同時に削り取る様に抉れていたのだった。
 
 「ゴードンの奴…直に本体を狙ったら倒せるんじゃないか?」

 強化魔法をプラスしたゴードンの腕力で投げられた石は、ありえない程の威力を出していた。
 それこそ本体に命中すれば、倒せるのではないかと思えるくらいに…。 
 そして相手側もただ黙って攻撃を受けている訳ではなかった。
 当然蔓で反撃しているのだが、ゴードン目掛けて襲って来た蔓は三人によって全て斬られていたのだった。
 
 「何か…俺必要なくね?」

 …そう思っていたが、ハームプラントの本体は別な場所に蔓を伸ばすと、その近くにいた中型の魔物を仕留めてから養分を吸い出していた。
 すると、先程ゴードンの攻撃により抉られた部分が復元したのだった。
 
 「さすがにそうは上手くは行かないか…それでゴードンが頭の上の蔓を執拗に狙っていたのか。」

 俺は全属性魔法を出現させた。
 赤魔道士と黒魔道士の違いは、赤魔道士は攻撃魔法+支援魔法+弱体魔法以外に回復魔法も使えるので、ほぼ全属性が使用出来るのに対し、黒魔道士は光属性や聖属性の魔法は一切使えない。
 なので、片っ端から一つずつ属性魔法を放って行き…反応を確かめるのだった。

 まず、初級火炎魔法のファイアボールを放った。
 ハームプラントに直撃して全体に炎に包まれたが、やはり湿度の高さの所為で火はすぐに消えた。
 だが、植物だけあって炎属性にはやはり弱いらしく、一瞬だが動きを止めていた。
 次に土属性のストーンブラストを放とうとしたが、ゴードンが似た様な攻撃をしていたので土魔法はやめにした。
 そして水魔法も、湿原の中で移動していた位だから効果が無いと思って水属性もやめた。
 闇属性も…ハームプラントは闇属性の植物モンスターなので効果が無いと思い辞める事にした。

 「となると、有効なのは風と光と聖と氷と雷か…」

 俺は無数の風の刃である風魔法のウィンドスラッシャーを放った。
 本体には大して効果が無いが、蔓の数本をぶった切る事が出来た。
 次に光属性のディレイという光線系の魔法を放った。
 闇属性の反属性だが、光属性の攻撃は大して効果が見られなかった。
 聖属性の魔法も放ったが、赤魔道士の聖属性魔法は弱体魔法しかないので、やはり大して効果が無かった。
 
 「残っているのは氷と雷か…」

 俺はとりあえず、雷魔法のライトニングを本体に落とした。
 これも一瞬だが…ハームプラントの本体は動きを止めた。
 だがすぐに動き出す所を見ると、思った程のダメージは無いと見た。
 最後に氷属性のブリザードを放ってみた。
 本体は所々が凍って行き、動きを止める事が出来た。
 ゴードンはその隙に凍った場所に石をぶつけて砕く事に成功した…が、頭の蔓がかなり減ったとはいえ、そのうちの一本を伸ばして近くの魔物に絡みつくと、また養分を吸い取って行った。
 そして砕いた場所が修復されて行ったのだった。

 「こう見ると、有効なのは炎と氷か…となると、奥の手はこの二種類か。」

 散々魔法攻撃をしている割には、蔓は俺の方には来なかった。
 マリーとクライヴとシーリアが俺とゴードンを守る様に迎撃していたからだった。
 とはいえ、強化魔法で強化されているとはいえ…四人共疲れが見え始めている。
 苦手だがそうも言っていられない状況だし、覚悟を決めるか!

 「魔力開放!」

 俺の体から凄まじい勢いで魔力が吹き荒れた。
 これをすると恐らくは、ヘイト敵対心がこちらに向くだろう。
 俺は皆に心の中でもう少し踏ん張ってくれるように言った。

 「右手に炎属性…左手に氷属性…」
 「お兄ちゃん!」
 「テクト!」
 「ん?」

 ハームプラントの本体も危険を感じたのか、蔓の攻撃が俺の方に向いて襲って来たのだった。
 まだこんなに数があったのかと思う位の本数だった。
 三人は対応に当たり、ゴードンも石を捨てて装備を整えてから応戦したが、数が数なので相当苦戦をしいられていた。
 そして仲間が取りこぼした蔓が俺目掛けて飛んで来ると…俺に直撃する際に攻撃が反れたのだった。
 本体を見ると、無数の槍が突き刺さっていた。

 「勇者マリーパーティーに助太刀に入る!」
 「冒険者ギルドからの依頼でな、新人勇者マリーのクエストの終わりが遅いので確認する為に探していたんだ!」
 「助かる!勇者ティルティア、この戦いが終わったら好きなだけ奢ってやる!」
 「その言葉に偽りはないな!」
 
 序列二位の勇者ティルティアのパーティーが応援に来てくれた。
 背後には、少し離れた場所でギルドの職員も待機していた。

 「テクト、何をするのかは知らんが…遠慮なくぶっ放せ‼」
 「あぁ、感謝する!」

 俺は更に魔力開放をして、体から溢れた魔力は空高く上がって行った。
 俺は二つの属性を一つに合わせた。

 「氷炎複合統一魔法…ブレイズエクゼキショーナー‼」
 「複合統一魔法ですって⁉」
 「馬鹿な!失われた古代魔法だぞ‼」

 二つの属性が合わさった魔法は、光り輝く巨大な弓矢となっていた。
 そしてその複合統一魔法をハームプラントの本体に目掛けて放った。
 だが…?
 ハームプラントの本体が真ん中から横に裂けると…まるで口が開いた様な状態になり、そこからブレスを吐いて空中で激突した。

 「本当に…なんてふざけた植物なんだよ⁉」 
 
 クソッ…こっちの魔力は無尽蔵という訳にはいかないのに、向こうは何だか余裕が見えるな!
 まさか、まだ何かを捕食しているのか⁉
 
 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「クカカカカカカカカカカ!!!」

 空中で激突した魔法とブレスは、ブレスの方が勢いが増して俺の方が劣勢になっていた。

 「お兄ちゃん!」
 「テクト!髪が白く…」
 
 あぁ、そうなるだろうな!
 この魔法は長引くほどに俺の魔力を奪い続け、それを越えると今度は生命力が脅かされるからな!
 すると四人は行動に移した。
 湿原の中を進んで行き、本体の方に近寄ると…頭の上の蔓を片っ端から斬り落としていた。
 すると、ブレスの勢いが徐々に衰え始めて行った。
 さすがにハームプラントも、大技を出しながら蔓の操作は出来なかった。
 そして俺は持ち直すと、まだ本体近くにいる仲間達に向かって行った。

 「これから最後の力をぶつけるから、お前達は散れ‼」

 俺の合図で皆はハームプラントの本体から距離を取った。
 そして俺は最後の力を振り絞って…残りの魔力を全て魔法に込めて放った。
 
 「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 すると、俺の魔法がハームプラントの本体のブレスを弾き返して行ってから、本体に直撃すると…本体の体に大きな穴を開けたのだった。

 「今だ!トドメを刺せ‼」

 仲間達と勇者ティルティアのパーティー達は、武器を構えてからハームプラントの本体に突き刺したのだった。
 そしてその中から巨大なコアの魔石を取り出すと、ハームプラントの本体はそのまま萎んで行ったのだった。
 それを見届けた後、俺は意識を失った。
 
 その後の事は、数日後に目が覚めてから詳細を聞くのだった。
 それまでに何が起こったのかは、後日話す事にしよう。
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