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第一部
第五話 お約束的な…勇者誕生!
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転移魔法で水の都オフィーリアに着いた俺達は、早速マリアネートの誕生日プレゼントを購入する為に街をぶらついていた。
マリアネートにプレゼントをするとは言っても、特に何かを決めていたという事はなかった。
街に来て店を回り、本人が気に入った物を購入してそれがプレゼントになる…そんな感じで店のショーウィンドウを見ていたのだった。
「マリアネート、プレゼントだが…何が欲しい?」
「んーっと…?」
こう言ってはなんだが、俺が妹とは言え…女性に対するプレゼントのセンスはほぼ無いに等しい。
女性なんだから綺麗な服やドレスとか、煌びやかなアクセサリーとかで十分だろ?
そんな感じでの基準でしか考えないので、それが実際に本人が欲しいものかどうかというのはまた別だ。
マリアネートの部屋の中を思い出すと…?
ぬいぐるみや自作で手作りした小物などが多いから、欲しがるとしたら布とか糸とかだろうと考えていた。
ところが、マリアネートが欲しいと言い出したのは、俺の考えていたものとはまるで見当はずれな物を要求して来たのだった。
「お兄ちゃん、私は剣が欲しいです。」
「は?剣⁉︎」
妹が誕生日プレゼントで欲しがっていた物は剣だという。
俺の想像は全く当たらなかった。
てっきり…布材や糸などの裁縫道具だとばかり思っていたからだ。
しかし…何故に剣なんだ?
俺はマリアネートに尋ねてみた。
「マリアネート、何故に剣なんかが欲しいんだ?自警団に入隊でもする気か?」
「お兄ちゃんが冒険に出ている間、クライヴが作ってくれた木刀で素振りをしているの。そして少し前から練習で稽古を付けてもらっていたんだけど…クライヴに勝利して、シーリアさんには勝てなかったけど、かなり追い詰めることが出来たの!」
「今の話は本当か?」
クライヴは目を伏せながら頷き、シーリアも無言で頷いた。
子供の頃からの付き合いだから、この二人が嘘を言うとは思えないが…正直言って信じられない話だった。
まさか、マリアネートに剣の才能があるなんてちっとも知らなかった。
試しにマリアネートに鑑定魔法を使って確かめてみたら、剣術は確かに成長すればSランクになる腕前だが、ジョブの欄は未だに空白のままだった。
剣術でSランクと表示されるという事は、少なくとも剣士や騎士になる才能でも秘めているのだろうか?
俺の剣術もSランクだが、それはレアスキルで底上げされているので、本来の赤魔道士の剣術はBランクなのだ。
「なぁ、シーリア…マリアネートに手加減でもしていたのか?」
「初めの頃はな、だが鍛錬をこなして熟練度を上げて行くと…手加減している余裕がなくなってきて、最後には本気で相手をしていた。」
「マジか?マリアネートがなぁ…」
これはマリアネートの意志を尊重して剣を買ってやるか。
ただ、一口に剣といっても種類がある。
マリアネートの身体の大きさや筋力の感じだと、グレートソードのような大剣は恐らく無理だろう。
だとすると、体格に合ったレイピアの様な細身の剣だろうか?
「マリアネートはどんな剣が欲しいんだ?レイピアの様な細身の剣か?」
「私は…自分で選ばせてくれないかな?」
「分かったよ、どうせシーリアもクライヴの欲しい物も同じ店だからな。武器屋に向かうとしよう。」
俺達は武器屋に着いた。
この武器屋の鍛治職人のマイスターはドワーフだが、現在では弟子のダークエルフが職人となって武器を作製している。
ドワーフが店を経営していた時は、戦斧や両手剣などが多かったが…
ダークエルフが店を経営する様になってからは、小剣や細剣、槍や弓などが増えていった。
その為に現在では以前とは違って男性冒険者しか入らなかった武器屋だったが、最近では女性冒険者も御用達にしているという人気の武器屋になっているのだった。
「色んな武器があるね!」
「好きな武器を選ぶと良い…ちなみに、小剣や細剣はこっちの棚だぞ…」
俺が言う前に、マリアネートはブロードソードの棚に行って剣を手に取っていた。
流石にブロードソードは体格に合わずに重いのではないかと思っていたが、普通に振り回しているところを見る限り、特に問題が無さそうに思えた。
「マリアネート、それが良いのか?」
「少し軽いかなぁ?」
俺の使っている剣も材質は鉄ではないが、ブロードソードタイプだ。
レアスキルのお陰で重さは大して感じないが、レアスキルがなければ恐らくは軽いとは思わないだろう。
マリアネートは店員にブロードソードより重さのある剣がないかを聞いていた。
すると店員が差し出したのは、大剣のツヴァイハンダーだったのだが…流石に重かったのか、マリアネートはツヴァイハンダーよりも軽く、ブロードソードより重い武器が無いかを聞いていた。
すると店員は、カウンターの壁に飾っていたバスタードソードを取り外してからマリアネートに渡した。
バスタードソードを手に取ったマリアネートは、重さや手に馴染んだのか…振り回してからうんうんと頷いていた。
マリアネート…言っておくが、バスタードソードはブロードソードよりも扱い難く使い辛い武器なのだが?
別に劣等感を感じている訳ではないが…俺は妹に敗北感を感じたのだった。
「マリアネート、それが良いのか?」
「うん、この剣が使い易いね。重さも丁度良いし!」
俺はマリアネートからバスタードソードを渡して貰った。
重さや刀身の幅は、俺の使っているブロードソードと違いはないが、剣の全長がブロードソードより若干長く使い辛そうな感じがした。
とりあえずはマリアネートのバスタードソードを購入しようと思っていたら、シーリアがハルバートを持って来て、クライヴはダガーを持って来た…のだが?
「クライヴ、ダガーは両刃よりも片刃の方が良いぞ。」
「そういう物なのですか?」
「あぁ、両刃のダガーは扱いにもよるが、日が浅いと折れ易いからな…選ぶなら片刃の方がいいのと、2本買ってやるから選んで来い。」
「あ、はい。」
そしてクライヴは自分の手に馴染んだダガーを二本持って来たので、マリアネートのバスタードソードとシーリアのハルバートと共に会計をした。
ドワーフがマイスターの工房だけあって、結構良い値段を取られた。
「さてと…買い物はこれで終わりだが、他に何処か寄りたい場所はあるか?」
「防具に関しては、両親が使っていたものがあるし…」
「久々の街だから、色々お店を見て回りたいけどね。」
「なら適当に食材を購入したら、レストランにでも行ってから食事でもするか。」
「「ゴチになります!」」
「お前等は、俺にたかる気か?」
まぁ、この程度の出費なら別に良いだろう。
俺達は食材を売っている屋台を巡ってから、レストランでこの街の名物の魚料理を楽しんだ。
そしてマリアネートがもう1つ寄りたいところがあると言って、俺達は神殿に赴いたのだった。
「マリアネート、神殿なんかに来て何を祈るんだ?」
「お兄ちゃんが新たに勇者パーティーに参加した際の無病息災を祈る為にね。」
「お前は本当によく出来た妹だよ!」
俺達は神殿の中に入っていった。
すると、多くの神殿関係者がマリアネートの元に集まって来た。
俺はマリアネートを庇う様に前に出ると、神殿関係者のお偉いさんが俺の前に来て言った。
「もしや…?その子から何か特別な力を感じます。」
新手の詐欺でも働こうとしているのかとも思ったが、ここは神殿内なのでその可能性は無いか。
だとすると、マリアネートから感じる特別な力とは一体⁉︎
神殿のお偉いさんは、神像から杖を取り出してマリアネートに翳した。
するとマリアネートの体から白い光が溢れ出して、周囲に光を放っていた。
「この子…いえ、この方には勇者の素質が備わっております。」
「マリアネートが勇者だと⁉︎」
俺は勇者パーティーに所属をしていたが、勇者がどの様に選出されるかまでは知らなかった。
特に大して興味もないし、それなりに稼げれば良いという考えで所属していたので、勇者がどうやって選出されるのかが分からなかったがマリアネートが選ばれたので、こうやって選出される事を今知ったのだった。
「私が勇者だって!」
「まさか、勇者が選ばれる方法がこういう方法だったとはな!」
「お兄ちゃん、辞退は出来るの?」
「無理だ。一度勇者に選出されたら、序列ランク外にでもならない限り辞退する事は出来ない。」
「私はこれからどうなっちゃうの?」
「まずは王都に行ってから国王陛下に謁見して、勇者になった報告をする。次に冒険者ギルドに行ってからパーティーメンバーを揃えてパーティー登録をする。すると、勇者ランキングの序列に加わる事になって、クエスト達成毎に順位が上がる様になる。」
「辞退したい場合は?」
「先ほど話した通りに、ランクから除外されれば勇者の資格を失って元の生活に戻れる。クエストを立て続けに失敗をすれば、序列が下がってランク外になる。」
「なら、クエストを請けて失敗すれば良いのね?」
「あぁ、違約金さえ払えればな…一般冒険者と違い、違約金の金額が馬鹿高い!」
「払えなければどうなるの?」
「犯罪者と同じ扱いを受けて、どれだけ借金があるかによって過酷な労働を強いられる。金額が多ければ鉱山送りということもある。」
勇者達が序列の順位を争うのには、そういった事情がある。
序列十五位以下の場合は、新たな勇者が選出されるとその勇者は序列十五位からスタートし、十五位以下の順位の者達は、一つ格下げになる。
どんなに頑張って最下位の二十位をキープしていても、新たな勇者が選出されると最下位の二十位はランク外に落とされるというシビアなシステムなのだ。
「なら、勇者になって活躍するしか無いのね?」
「もしくは命を落として除外されるかだな。その場合、失敗した違約金の支払いは家族が七割でパーティーメンバー達が三割を支払う事になる。」
「勇者って、なんてシビアな世界なの…」
「それでどうするマリアネート、お前が勇者になるのなら俺はパーティーメンバーとして参加してやるが?」
「そのパーティーに空きがあるのなら、私も参加しても良いかな?」
「姉ちゃんがやるなら僕もパーティーメンバーに立候補するよ。」
「お兄ちゃん、シーリアさん、クライヴ…」
「それに妹と幼馴染のパーティーだったら、序列の順位が上がっても追い出す様な真似はしないだろうしな!」
「追い出す訳がないだろう!テクティノスの実力は、私たちが一番よくわかっているからね。」
「そうだぜ兄ちゃん、僕達は兄ちゃんを追い出した勇者達とは違う!」
「マリアネートはどうする?」
「私は…お兄ちゃん達と一緒にパーティーを組みたい!見ず知らずの人と一緒のパーティーは嫌だから…」
まさか妹が勇者に選ばれるとは思わなかった。
だが、これで離れ離れの生活よりも一緒に行動出来るから良しとしよう。
安心しろマリアネート、俺はお前を危険な目に遭わせるような真似はしない!
「ところでお兄ちゃん、私以外に女の勇者って他にもいるの?」
「珍しいがいない訳ではないぞ、序列二位と序列七位の勇者は女だからな。」
「なら安心だね。」
「そうだな、序列争いじゃなければ色々と教えてくれるかもな。」
マリアネートは神殿のお偉いさんから、勇者認定証を受け取った。
次に王都に行ってから、国王陛下に謁見する訳だが…そんなに急がなくても良いだろう。
村に帰ってからの準備も必要だし、今後について四人で色々話し合わないと行けないしな。
ただ、この後に王都に行った際に…お約束的な厄介事が待ち受けているのだった。
何が起きるのかは、皆さんなら予想が出来ますよね?
マリアネートにプレゼントをするとは言っても、特に何かを決めていたという事はなかった。
街に来て店を回り、本人が気に入った物を購入してそれがプレゼントになる…そんな感じで店のショーウィンドウを見ていたのだった。
「マリアネート、プレゼントだが…何が欲しい?」
「んーっと…?」
こう言ってはなんだが、俺が妹とは言え…女性に対するプレゼントのセンスはほぼ無いに等しい。
女性なんだから綺麗な服やドレスとか、煌びやかなアクセサリーとかで十分だろ?
そんな感じでの基準でしか考えないので、それが実際に本人が欲しいものかどうかというのはまた別だ。
マリアネートの部屋の中を思い出すと…?
ぬいぐるみや自作で手作りした小物などが多いから、欲しがるとしたら布とか糸とかだろうと考えていた。
ところが、マリアネートが欲しいと言い出したのは、俺の考えていたものとはまるで見当はずれな物を要求して来たのだった。
「お兄ちゃん、私は剣が欲しいです。」
「は?剣⁉︎」
妹が誕生日プレゼントで欲しがっていた物は剣だという。
俺の想像は全く当たらなかった。
てっきり…布材や糸などの裁縫道具だとばかり思っていたからだ。
しかし…何故に剣なんだ?
俺はマリアネートに尋ねてみた。
「マリアネート、何故に剣なんかが欲しいんだ?自警団に入隊でもする気か?」
「お兄ちゃんが冒険に出ている間、クライヴが作ってくれた木刀で素振りをしているの。そして少し前から練習で稽古を付けてもらっていたんだけど…クライヴに勝利して、シーリアさんには勝てなかったけど、かなり追い詰めることが出来たの!」
「今の話は本当か?」
クライヴは目を伏せながら頷き、シーリアも無言で頷いた。
子供の頃からの付き合いだから、この二人が嘘を言うとは思えないが…正直言って信じられない話だった。
まさか、マリアネートに剣の才能があるなんてちっとも知らなかった。
試しにマリアネートに鑑定魔法を使って確かめてみたら、剣術は確かに成長すればSランクになる腕前だが、ジョブの欄は未だに空白のままだった。
剣術でSランクと表示されるという事は、少なくとも剣士や騎士になる才能でも秘めているのだろうか?
俺の剣術もSランクだが、それはレアスキルで底上げされているので、本来の赤魔道士の剣術はBランクなのだ。
「なぁ、シーリア…マリアネートに手加減でもしていたのか?」
「初めの頃はな、だが鍛錬をこなして熟練度を上げて行くと…手加減している余裕がなくなってきて、最後には本気で相手をしていた。」
「マジか?マリアネートがなぁ…」
これはマリアネートの意志を尊重して剣を買ってやるか。
ただ、一口に剣といっても種類がある。
マリアネートの身体の大きさや筋力の感じだと、グレートソードのような大剣は恐らく無理だろう。
だとすると、体格に合ったレイピアの様な細身の剣だろうか?
「マリアネートはどんな剣が欲しいんだ?レイピアの様な細身の剣か?」
「私は…自分で選ばせてくれないかな?」
「分かったよ、どうせシーリアもクライヴの欲しい物も同じ店だからな。武器屋に向かうとしよう。」
俺達は武器屋に着いた。
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ドワーフが店を経営していた時は、戦斧や両手剣などが多かったが…
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その為に現在では以前とは違って男性冒険者しか入らなかった武器屋だったが、最近では女性冒険者も御用達にしているという人気の武器屋になっているのだった。
「色んな武器があるね!」
「好きな武器を選ぶと良い…ちなみに、小剣や細剣はこっちの棚だぞ…」
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「マリアネート、それが良いのか?」
「少し軽いかなぁ?」
俺の使っている剣も材質は鉄ではないが、ブロードソードタイプだ。
レアスキルのお陰で重さは大して感じないが、レアスキルがなければ恐らくは軽いとは思わないだろう。
マリアネートは店員にブロードソードより重さのある剣がないかを聞いていた。
すると店員が差し出したのは、大剣のツヴァイハンダーだったのだが…流石に重かったのか、マリアネートはツヴァイハンダーよりも軽く、ブロードソードより重い武器が無いかを聞いていた。
すると店員は、カウンターの壁に飾っていたバスタードソードを取り外してからマリアネートに渡した。
バスタードソードを手に取ったマリアネートは、重さや手に馴染んだのか…振り回してからうんうんと頷いていた。
マリアネート…言っておくが、バスタードソードはブロードソードよりも扱い難く使い辛い武器なのだが?
別に劣等感を感じている訳ではないが…俺は妹に敗北感を感じたのだった。
「マリアネート、それが良いのか?」
「うん、この剣が使い易いね。重さも丁度良いし!」
俺はマリアネートからバスタードソードを渡して貰った。
重さや刀身の幅は、俺の使っているブロードソードと違いはないが、剣の全長がブロードソードより若干長く使い辛そうな感じがした。
とりあえずはマリアネートのバスタードソードを購入しようと思っていたら、シーリアがハルバートを持って来て、クライヴはダガーを持って来た…のだが?
「クライヴ、ダガーは両刃よりも片刃の方が良いぞ。」
「そういう物なのですか?」
「あぁ、両刃のダガーは扱いにもよるが、日が浅いと折れ易いからな…選ぶなら片刃の方がいいのと、2本買ってやるから選んで来い。」
「あ、はい。」
そしてクライヴは自分の手に馴染んだダガーを二本持って来たので、マリアネートのバスタードソードとシーリアのハルバートと共に会計をした。
ドワーフがマイスターの工房だけあって、結構良い値段を取られた。
「さてと…買い物はこれで終わりだが、他に何処か寄りたい場所はあるか?」
「防具に関しては、両親が使っていたものがあるし…」
「久々の街だから、色々お店を見て回りたいけどね。」
「なら適当に食材を購入したら、レストランにでも行ってから食事でもするか。」
「「ゴチになります!」」
「お前等は、俺にたかる気か?」
まぁ、この程度の出費なら別に良いだろう。
俺達は食材を売っている屋台を巡ってから、レストランでこの街の名物の魚料理を楽しんだ。
そしてマリアネートがもう1つ寄りたいところがあると言って、俺達は神殿に赴いたのだった。
「マリアネート、神殿なんかに来て何を祈るんだ?」
「お兄ちゃんが新たに勇者パーティーに参加した際の無病息災を祈る為にね。」
「お前は本当によく出来た妹だよ!」
俺達は神殿の中に入っていった。
すると、多くの神殿関係者がマリアネートの元に集まって来た。
俺はマリアネートを庇う様に前に出ると、神殿関係者のお偉いさんが俺の前に来て言った。
「もしや…?その子から何か特別な力を感じます。」
新手の詐欺でも働こうとしているのかとも思ったが、ここは神殿内なのでその可能性は無いか。
だとすると、マリアネートから感じる特別な力とは一体⁉︎
神殿のお偉いさんは、神像から杖を取り出してマリアネートに翳した。
するとマリアネートの体から白い光が溢れ出して、周囲に光を放っていた。
「この子…いえ、この方には勇者の素質が備わっております。」
「マリアネートが勇者だと⁉︎」
俺は勇者パーティーに所属をしていたが、勇者がどの様に選出されるかまでは知らなかった。
特に大して興味もないし、それなりに稼げれば良いという考えで所属していたので、勇者がどうやって選出されるのかが分からなかったがマリアネートが選ばれたので、こうやって選出される事を今知ったのだった。
「私が勇者だって!」
「まさか、勇者が選ばれる方法がこういう方法だったとはな!」
「お兄ちゃん、辞退は出来るの?」
「無理だ。一度勇者に選出されたら、序列ランク外にでもならない限り辞退する事は出来ない。」
「私はこれからどうなっちゃうの?」
「まずは王都に行ってから国王陛下に謁見して、勇者になった報告をする。次に冒険者ギルドに行ってからパーティーメンバーを揃えてパーティー登録をする。すると、勇者ランキングの序列に加わる事になって、クエスト達成毎に順位が上がる様になる。」
「辞退したい場合は?」
「先ほど話した通りに、ランクから除外されれば勇者の資格を失って元の生活に戻れる。クエストを立て続けに失敗をすれば、序列が下がってランク外になる。」
「なら、クエストを請けて失敗すれば良いのね?」
「あぁ、違約金さえ払えればな…一般冒険者と違い、違約金の金額が馬鹿高い!」
「払えなければどうなるの?」
「犯罪者と同じ扱いを受けて、どれだけ借金があるかによって過酷な労働を強いられる。金額が多ければ鉱山送りということもある。」
勇者達が序列の順位を争うのには、そういった事情がある。
序列十五位以下の場合は、新たな勇者が選出されるとその勇者は序列十五位からスタートし、十五位以下の順位の者達は、一つ格下げになる。
どんなに頑張って最下位の二十位をキープしていても、新たな勇者が選出されると最下位の二十位はランク外に落とされるというシビアなシステムなのだ。
「なら、勇者になって活躍するしか無いのね?」
「もしくは命を落として除外されるかだな。その場合、失敗した違約金の支払いは家族が七割でパーティーメンバー達が三割を支払う事になる。」
「勇者って、なんてシビアな世界なの…」
「それでどうするマリアネート、お前が勇者になるのなら俺はパーティーメンバーとして参加してやるが?」
「そのパーティーに空きがあるのなら、私も参加しても良いかな?」
「姉ちゃんがやるなら僕もパーティーメンバーに立候補するよ。」
「お兄ちゃん、シーリアさん、クライヴ…」
「それに妹と幼馴染のパーティーだったら、序列の順位が上がっても追い出す様な真似はしないだろうしな!」
「追い出す訳がないだろう!テクティノスの実力は、私たちが一番よくわかっているからね。」
「そうだぜ兄ちゃん、僕達は兄ちゃんを追い出した勇者達とは違う!」
「マリアネートはどうする?」
「私は…お兄ちゃん達と一緒にパーティーを組みたい!見ず知らずの人と一緒のパーティーは嫌だから…」
まさか妹が勇者に選ばれるとは思わなかった。
だが、これで離れ離れの生活よりも一緒に行動出来るから良しとしよう。
安心しろマリアネート、俺はお前を危険な目に遭わせるような真似はしない!
「ところでお兄ちゃん、私以外に女の勇者って他にもいるの?」
「珍しいがいない訳ではないぞ、序列二位と序列七位の勇者は女だからな。」
「なら安心だね。」
「そうだな、序列争いじゃなければ色々と教えてくれるかもな。」
マリアネートは神殿のお偉いさんから、勇者認定証を受け取った。
次に王都に行ってから、国王陛下に謁見する訳だが…そんなに急がなくても良いだろう。
村に帰ってからの準備も必要だし、今後について四人で色々話し合わないと行けないしな。
ただ、この後に王都に行った際に…お約束的な厄介事が待ち受けているのだった。
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