器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス

文字の大きさ
上 下
2 / 38
第一部

第一話 お約束的な…パーティー追放

しおりを挟む
 「テクト・バークライド!お前を我が勇者パーティーから追放する‼」
 「そうか、わかった。」

 俺は手持ちの荷物を持って部屋を後にしようとした。
 だが、この勇者パーティーの序列三位の勇者であるクルーシスは俺を呼び止めた。

 「やけにあっさりしているが、食い下がったりはしないのか?」
 「追放なんだろ?今まで世話になった、じゃあな!」

 一般の者達だと、自分の追放理由を聞いて食い下がろうとするだろうが、俺にはそんな物はないし意思も無い。
 これが初めてだったら俺もそうしたかもしれないが、勇者パーティーから追い出されるのは初めてではないので、食い下がろうとする意志は無かった。
 どうせこの場に留まった所で、俺の悪口を言いまくって追放する理由を突き付ける為に色々言って来るのは容易に予測できた。
 それは過去から学んだ事なので、もはや慣れた物だった。

 「ようやく自分の立場が分かったみたいだな!」
 「はいはい、好きに物を言ってろ!追放されたのだから、これ以上話を聞く必要はないだろ?」
 「何だその態度は⁉貴様…自分の立場が分かっているのか‼」
 「大した役に立たない寄生虫の癖に、態度が大きいのよ!」

 この口の悪い女は、黒魔道士のミーリアだった。
 戦闘以外で何かにつけて文句を言って来る。
 
 「貴様は戦闘でも大した事はしていないし、貴様なんか居ても居なくても大して変わらないんだよ‼」
 「ふわぁ~あふぅ…で?まだ何か用か?」
 
 勇者クルーシスは、俺を睨め付けながら物を言いたそうにしていたが、別に聞く気も無いし聞いてやる事も無い。
 俺は扉を開けてから奴等のホームから出て行った。
 ま…奴等が言おうとしている事は何となく分かる。
 俺のパーティーでの役割は、魔物に対して弱体魔法を放って弱らせたり、仲間に補助魔法を放って優位に戦いを行わせる物だったのだが、いつの間にか奴等は…弱体魔法で弱っている魔物達を倒せるのは自分達の実力と勘違いをし、怪我を負っても大した事が無いのは自分達の強さだと勘違いし始めた事からだった。
 なので近々こうなる事は目に見えていた。
 それは過去の勇者パーティーでも同じ経験をしていたので、容易に感じ取る事が出来た。
 では、その過去の勇者パーティーはどうなったのかというと?
 序列二位まで上がった勇者パーティーは、俺を追放した後に思う様に戦えなくなっていき…現在ではランク十七位まで落ちて行った。
 次に所属した勇者パーティーも同じ過ちをしてから、序列三位まで上がったが現在では勇者の認定を外されてランク外になって落ちぶれた。
 また別な勇者パーティーも序列四位まで上がれたが、俺を追放した後に現在十九位という最下位近くまで下がったという。

 「出会った頃はやる気に満ちていて謙虚な性格の持ち主だったが、序列が上がるとどうして横暴な性格に豹変するのかねぇ?」

 まぁ、今回の勇者のクルーシスも戦力状況の為とSランク昇格の為に俺を切って新たなメンバーを加入させるという目的らしいが、恐らくすぐに脱落をして順位を下げるだろう。
 現在の序列一位と序列二位は、中々の厳格な性格の持ち主の為に序列を落とす様な事は無いだろうな。
 まぁ、年齢的な物や自分の実力に見合わない相手に挑む様な真似をしない限りは、順位が下がるという事は無いだろう。
 
 「それにしても、もう少しまともな勇者はいない者かねぇ?」

 人間は権力を手に入れると豹変する場合が結構ある。
 序列の上位三位以内の勇者には、国からの活動資金や施設の無料開放などの様々な特典が与えられる。
 その優遇はかなりの物で、一度手に入れて味わうと手放したくなるという物なのだが…?
 順位を維持するのがかなり難しい為に、余程の精神力が無いと持続はかなり難しい。
 なので現在序列一位の勇者や、序列二位の勇者は盤石だろう。
 序列三位のクルーシスは、あの性格からして半月もしない内に順位を落とすだろうが、その原因が何なのかがいつになって発覚するだろうか?
 まぁ、追放された身だから奴等がどうなろうとは知った事が無い。
 俺は冒険者ギルドに顔を出してから、現在の勇者順位表を見た。

 「今の勇者ランキングの順位はこうなっているのか。ネグルドの奴等は現在十九位だけど、ポイントが危ないなぁ…これだとすぐにランク外になるぞ!」

 勇者ネグルドは、俺がニ度目に所属した勇者パーティーである。
 ネグルドも俺の弱体魔法を自分の強さと勘違いをしてから、俺を追放する時に罵詈雑言を突き付けて辞めさせたくせに、順位が下がってから俺の需要が分かると…ギルド内で泣いて土下座をしてまで戻って来てくれと言った奴だった。
 その時は現在十七位の勇者ベルギスのパーティーに所属していたので無理だったのだが、仮にソロでもあそこまで文句を言った奴等の所に戻るのはあり得ないだろう。

 「さてと、他に勇者パーティーは誰かいないかな?」

 勇者パーティー以外でも、パーティー申請をしている冒険者は多々ある。
 だが、一般の冒険者パーティーに入ろうとする者は冒険者初心者とか、討伐依頼や採取依頼を達成したり、パーティーに不慣れな者達が仕方なく所属する為に入るのであって、熟練冒険者は勇者パーティーに加入したがるのだ。
 勇者認定された者には加護が与えられる。
 その加護は主に、獲得経験値増量とかステータス向上の効果がある為に人気が高い。
 それは序列最下位の勇者でも持っている加護なので、勇者パーティーに参加したがる者が後を絶たないのだった。

 「とりあえず、今は目ぼしい勇者パーティーもいないし、更新されてからまた探せば良いか!」

 俺は冒険者ギルドを後にした。
 今すぐクエストを請けなくてはならない程、金に不自由している訳ではない。
 適当に外で活動しながら魔物の素材を集めて売ったり、生産系のジョブを成長するというのもありかも知れないと思ったのだった。

 そして俺が離れた勇者クルーシスのパーティーはというと?
 他の冒険者から衝撃の事実を突き付けられる事になる。
 それは、本人達が全く予想もしてない事だったが…?
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...