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第五話 勇者ダナステルの秘策

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 これが何度目の敗北だろうか?
 勇者を騙るダナステルと元仲間達が果敢にも挑み続けていた。
 だが、魔王ヴォルガゼノンは一切本気を出すこともなく…片手だけで魔法も使用をせずに相手をしてはあしらっていた。
 
 『どうした、勇者ダナステルよ!我を倒した事で全てが終わったと思って腑抜けてしまったのか?』

 ライゼル王国の第一王子のダナステル殿下は、魔法は一切使用出来ない。
 剣技の腕も王族としての立ち振る舞いとして嗜んだ程度なので、特質すべき点は一切見られない。
 国民達は欺けても、相応に活動を行なっている冒険者達にはその腕がとても魔王を倒せるような腕では無い事は見抜かれているレベルだった。
 そしてかつての仲間達も、半年間を自堕落な生活を送っていた所為か…かつての様な力を発揮出せずにいた。
 元々が大したことが無い奴等なので、この程度が限界だろう。
 何度も敗北する彼等を見て、冒険者達は不信感を募らせた。
 そして国民の中にも、不信感を持つ者が現れ始めていた。

 『つまらんな!かつて我を圧倒した力は何処へ行ったのだ?』

 ダナステルと元仲間達は、地面に臥したまま声を出せずに蹲っていた。
 それを見た四天王と魔将達は、指を刺して下品に嘲笑っていた。

 『今日もこの程度か…次こそは我を楽しませる様な戦いを期待しておるぞ!それと今日のペナルティーだ!』

 ダナステルと元仲間達は転移魔法で王宮に送られた。
 そしてその映像を見ていた国民達は悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
 勇者が挑んで来た日から敗北する毎に、国民の10人がその場で爆散して死んで行くのだった。
 それは魔王ヴォルガゼノンが討伐されない限り続いて行く…。
 国民達は、次は自分の番になるのでは無いかとただ逃げ惑うだけだった。
 そしてランダムで選出された10人が今日も爆散し、国民達はさらなる恐怖が襲い掛かっていた。
 流石にここまでされれば国民達も行動を起こさずは居れなくなり、国民達は王城に赴いていた。
 初日は期待を込めて声援を送っていた国民達だったが、現在では抗議の為に毎日の様に王城を訪れる者が後を絶たなかった。
 
 「おい、一体どうなっているんだ‼︎」
 「何故勇者は一度倒した魔王に何度も敗北をするんだ‼︎」
 「ダナステル様は本当に魔王を倒したのか⁉︎」

 …という事が毎日の様に叫ばれていた。
 だが、王城の扉は固く閉ざされており…開く事は一切無かった。
 
 『さて…奴等は明日も来ると思うか?』
 「まぁ、来る事は来るだろうな。毎日馬鹿みたいに突っ込むだけの無能達だが、あんな無能達でも国民の期待を背負っている訳だしな!」
 『しかし…本当につまらんな!もう少し歯応えがあっても良い物だろうが…』
 「なら、明日は趣向を変えて俺が奴等の手助けをしよう。閣下は全力で向かってやってくれ!」
 『貴様が戦いに加わるのか?』
 「いや、怪我して傷付いた者達を回復してやるだけさ。どんなに重症でも全回復をさせてな。何度やれば心が折れるのかが楽しみだ!」
 『本当に貴様は良い趣味をしているな!』

 初めは面白がっていた四天王や魔将達も、少し飽き始めている感じだった。
 戦いが無く傍観しているだけでは、彼等もつまらないのだろう。

 「四天王に魔将達よ、飽き始めているのは分かるがもう少し付き合ってくれ。今回の戦いの際に聖女のリスリアが何かを仕掛けている節が見えたので、次はお前達の出番が来るので暇は潰せると思うぞ。」
 「ほぉ?魔軍司令殿…それは我等が楽しめるモノなのか?」
 「聖女リスリアもだが、俺の所にも誰かが語り掛けている声が聞こえた。まぁ、俺は全部無視していたが…明日は応えても良いだろう。」

 俺に語り掛ける声と、聖女リスリアが仕掛け様としているモノは恐らくは同じ物だろう。
 リスリアは聖女を名乗ってはいたが、仲間を欺き蹴落とそうとした事により聖女の力を失い掛けていた。
 だが、ここ何度かの戦闘でリスリアにも聖女の力が蘇りつつあるように見えた。
 そして俺に語り掛けている声も恐らくは女神の使いの使徒達だろう。
 さすがの女神もこの状況はお気に召さないらしい。
 明日はどう行動を起こすのかねぇ?

 「さて、明日が楽しみだが1つだけ懸念がある。」
 『ほぉ?それは一体なんだ?』
 「奴等は城から無事にこの場所に来れるかどうかだよ。国民達も度重なる敗北を見せられあ挙句、奴等の所為で国民が死亡しているから怒り心頭の様だし、奴等がこの地に来る前に国民達に殺されないかが不安になっただけだ。」
 
 使い魔の映像で国民達の精神は限界まで高ぶっている姿を観ていた。
 既に国民達による暴動が起きてもおかしくない状態にまでなっている。
 しかし、ここまで敗北を味わっているというのに…ダナステル王子は未だに自分が本当の勇者ではないと発表をしていない。
 なら、いつまで国民達を欺けられるのか…付き合ってやるとしよう。

 翌日…ダナステルと元仲間達は再びこの地に現れた。
 城から出る際に騎士達に守られる様に結界の外まで誘導されていたので、大した被害を受けている様子は無かった。
 そして俺達の前に来ると、ダナステルと元仲間達は跪いて交渉を持ち掛けて来た。
 その背後で隠れる様にリスリアが何かを呟いていたが、そこは敢えて見て見ぬフリをした。

 「お前達は馬鹿か?」
 「な、なんだと⁉」
 「交渉というのはな、互いが対等の立場で成立する事を言うんだよ。一方的に敗北しかしていないお前等が交渉なんかできる立場だと思っているのか?」
 『ガイアグリーヴァよ、そう言ってやるな。勇者ダナステルよ、我に何を望む?』
 「感謝する!これ以上国民に被害を及ぼす様な事は辞めてくれないかと伝えに来たんだ。」
 『断る!その願いを叶えたければ、貴様等が勝利をすれば良いだけの事。何を言って来るかと思えば、その様な戯言をよくも吐いた物だな!』

 てっきりダナステルは、本物の勇者は自分じゃないと言うつもりだと思っていたが…?
 一度国民に発表した手前、後には引けないのだろう。
 駄目だな、この馬鹿王子はまだ勇者を騙る事を辞める気はなさそうだ。
 
 『何かと思えばくだらない!さて、昨日の続きをやるとしよう。』
 「ま、待ってくれ!今一度仲間と相談する時間を設けてくれないか?」

 ダナステルがこう発言するという事は、まだリスリアの準備が済んではいないのだろう。
 何を仕掛けて来るのかは大方の予想が出来るが…魔王ヴォルガゼノンは俺を見て来たので、俺は両手を広げながら頷いてみせた。
 ダナステルと元仲間達は何やら話し合っていた。
 30分が過ぎて…1時間近くになろうとしているが、まだ話は終わらずにいた。
 魔王ヴォルガゼノンは痺れを切らして『時間切れだ!』と叫んだが、ダナステルは時間を必死に伸ばそうとごねていた。

 『これ以上待つ気はない!何を企んでいるかは知らんが…』
 「大丈夫だ、こちらも準備が終わったからな‼」

 ダナステルの口調は、いつになく強気に出ていた。
 そしてリスリアが立ち上がってから地面に巨大な陣を出現させると、天から光が降り注いで…そこから女神と上位天使が四体と女神の使徒の使いであるバルキリーが八体降臨して来た。
 流石に腐っても聖女だな。
 女神を降臨させるとはな、恐れ入ったよ。
 ダナステルと元仲間達も勝ち誇った様な顔をして此方を見ていた。

 『勇者ガイアよ、度重なる私の語り掛けを無視しおって…』
 「俺はお前等と話す気なんて毛頭ないからな!だが、折角の降臨だ話位は聞いてやるからさっさと話せ!」
 『何たる不遜な態度だ!私は其方を世を魔から救う勇者に選んだというのに…』
 「一度はその使命を果たしたぞ?だが俺はかつての仲間達に裏切られて殺されそうになり、故郷に帰れば愛する者達がこの国の王国の手によって滅ぼされていた。なら、全てに絶望して魔王側に寝返っても文句はあるまい?」
 『人間が魔に寝返るという意味が解っているのか?』
 「知った事か!なら奴等の行った仕打ちを勇者なのだから許せとでも言いたいのか?悪いがそれが勇者の役目なら、俺は勇者なんてモノは必要ないし、勇者という称号が欲しいのならそいつにくれてやるだけだ。」

 所詮、神を名乗っていても根本的な自分勝手な発言は人間と大差がない。
 女神は俺の言い分が相当気に入らないのか、武器を構えて向かって来ようとしていた。

 「閣下…それに四天王達に魔将達よ!今迄の退屈な時間を晴らさせてやるぞ!」
 『なら、我は女神を相手するか!』
 「我等四天王は、上位天使共を相手するとしよう。」
 「我等魔将は、天使…いや、バルキリーの相手を仕ろう!」

 ダナステルと元仲間達は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
 ダナステルは知らんと思うが、元仲間達には…魔王の配下の魔族は戦闘力は異常に高いが協調性が無く纏まるという事は無いと教えていたな。
 それを感じて確信した笑みを浮かべているのか。
 だがな、そう上手く行くとは思うなよ…。
 
 そして女神側と魔王側の決戦が始まったのだった。
 勝利したのは女神側か?
 それとも魔王側なのだろうか?
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