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第一話 薬草採取と冒険者登録
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僕の名前は、テッド・リターンズで年は11歳!
冒険者で一番低ランクのHランクだ!
今日も依頼の薬草採取でもうすぐ達成数が集まる。
僕が何でこんな仕事をしているかって?
それはね、両親が僕が9歳の頃に依頼で魔物に殺されてから、両親の保険で何とか生活できたのはたったの1年で、それ以降は収入が無いから…僕が冒険者になって仕事をして稼いで妹達を養っているからだ!
両親は冒険者時代に稼いだ金額で家を購入していたので、僕等はその家に住んでいる。
だけど、ローンがまだ終わっていなくて…月に稼いだ金額の内の半分は家賃で取られて、残りの金額でなんとか生活をしている。
「両親が生きていた頃は、肉料理も食べられたけど…ここ1年くらいは食べてないなぁ!」
妹達にひもじい思いをさせない為に、馴染みのパン屋さんからはパンの耳をただで貰える様に交渉した。
代わりに雑用をする事が条件だった。
近くの農家の人からは、売り物にならない野菜を貰える。
ただしそれにも、収穫を手伝わないと…というのが条件であった。
なので、食事には困らない…とも言い難い。
「パーティーに入れれば、もっと稼げるんだけどなぁ…?」
僕がパーティーに入れない理由…それは、その日に家に帰れなくなるからだった。
僕の家のある場所は、比較的治安の良い場所ではあるけど…全く安全という訳ではない。
なので、日を跨ぐ仕事は極力避けているのだった。
「よし、これで依頼達成!」
僕は街の近くの森の薬草が生えている場所を父さんの採取ノートから情報を得てこなしていたのだった。
そして5本目の薬草を手に入れて、僕は街に戻ろうと思って袋を結ぼうとすると、右手に切り傷があるのを発見した。
薬草があるから治せば良いんじゃないかって?
そんな必要はない!
僕は右手にヒールを掛けると、傷が塞がったのだ。
「ふぅ…怪我して帰ると、リットが変に心配するからな。」
僕は冒険者ギルドのある、マーメラの街に帰るのだった。
マーメラの街…それは僕の住む家がある街で、結構大きな街でもある。
冒険者ギルドがあり、商人ギルドも大手の商会もあったりする。
まぁ、商会に関しては…金のない僕等には無縁の世界だった。
僕は冒険者ギルドの扉を入ると、他の冒険者メンバーから声を掛けられるのだった。
「おぅ! 薬草小僧帰ったな!」
「よぉ、薬草小僧!」
「今日も薬草収穫できたか? 毎日飽きずに御苦労だな、薬草小僧!」
薬草小僧…それが僕のあだ名になっていた。
それもその筈、僕は冒険者ギルドに登録してから薬草採取しかやって来なかったのだ。
なので付いたあだ名が【薬草小僧】だった。
「今日も薬草稼いできました!」
「「「ハハハハハ! 薬草小僧のお陰で俺達はありがたいぜ。」」」
薬草採取の依頼は、主に薬屋からの発注である。
この薬草を薬屋が引き取ってからポーションに作って売る。
僕はほぼ毎日薬草を収めているので、ポーションが売り切れる事が無くストックが無くなる事もないのだった。
「ライラさん、薬草採取の依頼を達成しました!」
「御苦労様ねテッド君! うん、いつも通りに丁寧に採取しているわね!」
「薬草採取なら任せて下さい!」
「ふふ…では、報酬ね。 全部で銅貨10枚と…薬屋さんから追加報酬で銅貨5枚を追加だって。」
「ありがたい…! ピエールさんにお礼を言っておいて下さい!」
「必ず伝えますね! それでは、また明日もですか?」
「勿論です! 薬草採取の依頼が無くならない限りは、毎日僕の仕事です!」
「よっ! 薬草小僧!」「お前のお陰で助かっているぜ!」「いつもありがとよ!」
「ライラさん、また明日!」
「あ、待ってテッド君! これ…1年祝いで皆からよ。」
僕はライラさんから干し肉の入った袋を受け取った。
僕は皆に頭を下げて感謝の言葉を継げた。
「ありがとうございます、皆さん! 嬉しいです! 1年半ぶりに肉が食べられます‼」
その言葉を聞いた冒険者達は、憐れむ様な顔で僕を見ていた。
中には涙を流している者もいた。
「それにしても、テッド君が冒険者になってもう1年か…」
「そうなりますね。 早い様で長かった気もします…」
僕とライラは、冒険者ギルドに入った時の事を思い出していた。
・・・・・・・・・一年前・・・・・・・・・
あれは1年前…僕は10歳になったばかりだった。
両親の保険金が尽きかけた頃に、生活費から少しだけ持って冒険者登録をしに来たのだった。
僕には子供の頃から、母親譲りの魔法の才能があった。
火・水・風・癒の4つの属性の初級魔法が使えていた。
だけど母親は、この能力は人には決して教えてはならないと言われて、僕はそれを守って来たんだけど…
それ以外の能力は…ない!
チート能力という物があるとすれば、初期魔法が使える位。
前世の記憶…そんな物はない!
転生…それもない!
強大な魔力…いや、いたって平均的な魔力。
魔法の効果時間延長…何て物もない!
ところが、母親からの約束を冒険者登録の時に、それがバレてしまったのだった。
それが…こんな感じである。
「冒険者登録に来たのですか? きみ…が?」
「はい! 両親が死んで、生活費の為に働き口を色々当たったのですが、全部断られて…冒険者の道しか残ってないのでなろうと。」
「そうなのですね…君の名前は?」
「テッド・リターンズです!」
「リターンズ? リターンズ…君の両親の名前って、バットンさんとカノンさんでは?」
「はい、両親はこの街の冒険者ギルドで冒険者をしていました!」
すると、後ろの方で冒険者達がざわざわと騒めいている感じだった。
冒険者ギルドにいた冒険者達は、10歳のガキが来たのを面白がって聞き耳を立てていた。
そこで知った名前を聞いて騒いでいたのである。
「武器は…その短剣?」
「はい、父さんが使っていたダガーです!」
「では、これから簡単な質問をしますので答えて下さいね。 君が嘘を付くとは思えないんだけど、一応確認の為に魔道具を起動するわね。」
「はい、宜しくお願いします!」
「君の神殿でのスキルのお告げは何でしたか?」
「神殿のお布施が払えない位に貧しいので、神殿には行っていません!」
ライラは魔道具を確認すると、青く光ったままだった。
「では次の質問です。 君はここ最近で…やってはいけない悪い事をした事はありませんか?」
「ありません!」
すると、魔道具が赤く光りだしてブザーが鳴り始めた。
僕とライラは、赤く光ってブザーが鳴っている魔道具を見ていた。
そしてライラはこちらを向いてきた。
「何かあるのね?」
「はい。 近くの農家の人から野菜が貰えなくて…畑の近くに生えている雑草を葉野菜と偽って妹達に喰わせました…」
ライラは手で頭を押さえて溜息を吐いた。
悪事と呼ぶほどの物では無いからだった。
そんな事で反応する魔道具って…性能が良すぎるだろうと。
「では、気を取り直して次の質問です。 多分ないと思うけど、犯罪行為を行った事はありますか?」
「ありません!」
すると、魔道具は赤く光りだしてブザーが鳴り始めた。
ライラは魔道具を見てから僕を冷めた目で見て来た。
僕は観念して正直に答えた。
「妹達に食事を多く上げて、僕は足りなくて…つい出来心で、畑から大根を1本盗んで食べました。」
「それだけひもじい思いをしていたのね…」
「ただ、翌日ちゃんと謝罪しました。 ですが、心の中に盗んでしまったという罪悪感が残っていて…」
「それが反応したのね。 他にはないですよね?」
「ありません!」
ライラは魔道具を見ると、青く光っていた。
ライラは頷くと最後の質問をする事にした。
「では最後の質問です。 君には特別な力はありますか?」
「あ…ありません!」
すると、魔道具が赤く強い光を放ちながら、今までにない音のブザーが鳴り響いた。
ライラは頭を押さえながら僕を見て来た。
多分…魔法に関する事なんだろうけど、これは母さんとの約束で秘密にしていた事だった。
「ありますよね?」
「あ…ありません!」
「先程から、赤く光っているのですが…?」
「故障とかじゃないですか?」
「今迄の質疑応答で問題は無かったので、それはありません。」
「わかりました、正直に話します! 人より早く移動が出来ます!」
魔道具は赤く光ったままだった。
ライラはジロリと見つめて来た。
「口に入る物は、何でも食べれます!」
魔道具のブザーは鳴ったままだった。
「正直に答えてくれませんか?」
「はい、本当は魔法が使えます。」
すると魔道具はブザーが鳴りやんで青い光を放っていた。
「なんの魔法が使えますか?」
「火魔法が使えます。」
僕は観念して右の手の平から火球を出現させた。
ライラは驚いた顔で見ていた。
「使える魔法はこれだけですか?」
「はい、これだけです!」
すると、魔道具は赤い光を放ってからブザーが鳴り始めた。
「ちきしょう! この魔道具嫌いだ‼」
「火の他には何を?」
「水魔法が使えます。」
僕はそう言って、左の手の平から水球を出現させた。
ライラは更に驚いた顔を見せた。
「多数属性同時出現⁉ それだけですか?」
「はい、これ以上は…」
すると、魔道具はブザーが鳴りやまずに鳴っていた。
本当に、この魔道具…ぶっ壊してやろうか!…と思った。
僕は観念して、右手と左手の中間に風球を出現させた。
*この世界で魔法を使える者は少なくはない。
魔法職と呼ばれる職業には、魔法を使える者が存在する。
ただ…1種類か多くても2種類しか使えずに、3種類を使える者は少ないのだ。
僕は魔法を解除すると、ライラの質問が続いたのだった。
「これ以上…はさすがにありませんよね?」
「はい! ありません!」
すると、魔道具が更に赤く光りだしてブザーが冒険者ギルド内に鳴り響いた。
ライラは驚愕した表情で僕を見ていた。
それもその筈…城の宮廷魔術師ですら3種類が限度、4種類使える者はスクエアと呼ばれて、賢者と同等の力を秘めているという物だった。
「君は…スクエアだったの⁉ 何の魔法が使えるの⁉」
「回復魔法です…」
僕はダガーで左手の平を斬ってから、ヒールで治すところをライラに見せたのだった。
ライラは驚愕を通り過ぎして、呆気に取られていた。
「あー内緒にしていたのに全部ばれたぁ~‼」
「他にはもう無いわよね?」
「ないですよ!」
…ところが、魔道具は赤く光ったままでブザーが鳴っていた。
ライラは僕を見るが、僕は首を振って答えた。
だけど、魔道具は赤く光ったままブザーが鳴っている。
本当にもう無い筈なのに、何故か魔道具は反応していた。
「これ…故障しているんじゃないですか? 僕はもうこれ以上の魔法は無いですよ?」
「でも、さっきから君は嘘を付いてきたからね。 信じられなくて…」
「とはいってもなぁ? 本当に使える魔法と言えばこれ位なんだけどな?」
まさか僕に眠っていた力があるのかな?
そう思って、イメージをしながら…地・雷・氷・光・闇…と出現させようとしたが、何も起きなかった。
「やはり、これ以上は無いですね。 他の属性も試しては見たけど、出現しなかったし…」
「でも魔道具はまだ反応があります! 何かないですか?」
「とは言われても…? そうですねぇ、風呂を入れる時に火と水を合わせてお湯にしたり、火を強めに水を弱めにしてから合わせて水蒸気を作ったり…火と風を合わせて火力を上げたりとか…位ですよ?」
「君は、複合統一魔法も出来るの⁉」
「なんですか、複合何とかって…さっき言っていた属性同時なんちゃらというのも?」
「知らないで使っていたの⁉ これは普通の魔道士には出来ない事なのよ⁉」
「そうなんですか? 僕の家では日常的に使っていましたからね。 井戸を使うにもお金が掛かるし、ならば魔法で…って。」
「水魔法の水は、普通不味くて飲めない物なのよ‼」
「それは裕福な家庭の人だからじゃないですか? 僕の家では貧しいので、雨が降らない時は水魔法で代用していますし、妹達からも不満はありませんでしたよ?」
ライラは受付から飛び出して、隣接する酒場からジョッキを持って僕の前に出してきた。
「これに、水魔法の水を入れてみて…」
「はぁ…わかりました。」
僕は水魔法を使って、ジョッキの中に水魔法を入れた。
ライラは恐る恐るその水を飲むと、「美味しい」と口に出して言った。
その後すぐに頭を抱えて悩んでいた。
「それで…僕は冒険者になれるのでしょうか?」
「えぇ…勿論よ! 君の実力なら、パーティーに入って稼げると思うわ!」
「いえ、パーティーには入りません。 その日に家に帰れなくなるので…」
「でも、パーティのクエストをこなせば高い報酬を得られるわよ!」
「両親がいないので、妹たちの面倒を見なければならないので、その日に帰れないと妹達が心配で…」
「なんか勿体ない気がするけど、本人の主張に任せます。 では、こちらが君のギルドカードです。 ランクは最低のHランクからスタートです。」
「わかりました! これから宜しくお願いします!」
僕はこうして冒険者になったのだった。
・・・・・・・・・現在・・・・・・・・・
そんな出来事があってから、もう1年が過ぎていたんだとしみじみと感じた。
「結局…テッド君の魔法はあれから成長はあまりないみたいだしね。」
「魔物との戦いが無いからでしょう。 魔物を倒して経験値を稼ぐのを放棄していますからね。」
「今からでもパーティーに入って稼ぎたいとは思わない?」
「日帰りで帰れる保証があれば、参加しますよ!」
「さすがに日帰りは無理ね…」
僕は冒険者ギルドを出てから、いつも通りにパン屋に寄ってからパンの耳を貰って、農家の畑に行ってから収穫を手伝う代わりに売り物にならない野菜を貰ってから家に帰った。
帰ると妹に、パンの耳と野菜と冒険者ギルドで貰った干し肉の袋を渡した。
妹達は久々に見る肉に笑顔で喜んで、久々の肉を噛み締めながら味わった。
そしてその余韻に浸りながら眠りに就いたのだった。
翌日…
軽く朝食を済ませてから、家から出ようとした。
「じゃあ、行ってくるな!」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん!」
妹に見送られながら、僕は冒険者ギルドを目指した。
久々に肉を食べていた所為か、体が充実している感じがした。
「よーし! 今日も薬草採取がんばるぞ~~~‼」
ところが、今日は…
いつもと違い、冒険者ギルド内が騒然としていたのだった。
冒険者で一番低ランクのHランクだ!
今日も依頼の薬草採取でもうすぐ達成数が集まる。
僕が何でこんな仕事をしているかって?
それはね、両親が僕が9歳の頃に依頼で魔物に殺されてから、両親の保険で何とか生活できたのはたったの1年で、それ以降は収入が無いから…僕が冒険者になって仕事をして稼いで妹達を養っているからだ!
両親は冒険者時代に稼いだ金額で家を購入していたので、僕等はその家に住んでいる。
だけど、ローンがまだ終わっていなくて…月に稼いだ金額の内の半分は家賃で取られて、残りの金額でなんとか生活をしている。
「両親が生きていた頃は、肉料理も食べられたけど…ここ1年くらいは食べてないなぁ!」
妹達にひもじい思いをさせない為に、馴染みのパン屋さんからはパンの耳をただで貰える様に交渉した。
代わりに雑用をする事が条件だった。
近くの農家の人からは、売り物にならない野菜を貰える。
ただしそれにも、収穫を手伝わないと…というのが条件であった。
なので、食事には困らない…とも言い難い。
「パーティーに入れれば、もっと稼げるんだけどなぁ…?」
僕がパーティーに入れない理由…それは、その日に家に帰れなくなるからだった。
僕の家のある場所は、比較的治安の良い場所ではあるけど…全く安全という訳ではない。
なので、日を跨ぐ仕事は極力避けているのだった。
「よし、これで依頼達成!」
僕は街の近くの森の薬草が生えている場所を父さんの採取ノートから情報を得てこなしていたのだった。
そして5本目の薬草を手に入れて、僕は街に戻ろうと思って袋を結ぼうとすると、右手に切り傷があるのを発見した。
薬草があるから治せば良いんじゃないかって?
そんな必要はない!
僕は右手にヒールを掛けると、傷が塞がったのだ。
「ふぅ…怪我して帰ると、リットが変に心配するからな。」
僕は冒険者ギルドのある、マーメラの街に帰るのだった。
マーメラの街…それは僕の住む家がある街で、結構大きな街でもある。
冒険者ギルドがあり、商人ギルドも大手の商会もあったりする。
まぁ、商会に関しては…金のない僕等には無縁の世界だった。
僕は冒険者ギルドの扉を入ると、他の冒険者メンバーから声を掛けられるのだった。
「おぅ! 薬草小僧帰ったな!」
「よぉ、薬草小僧!」
「今日も薬草収穫できたか? 毎日飽きずに御苦労だな、薬草小僧!」
薬草小僧…それが僕のあだ名になっていた。
それもその筈、僕は冒険者ギルドに登録してから薬草採取しかやって来なかったのだ。
なので付いたあだ名が【薬草小僧】だった。
「今日も薬草稼いできました!」
「「「ハハハハハ! 薬草小僧のお陰で俺達はありがたいぜ。」」」
薬草採取の依頼は、主に薬屋からの発注である。
この薬草を薬屋が引き取ってからポーションに作って売る。
僕はほぼ毎日薬草を収めているので、ポーションが売り切れる事が無くストックが無くなる事もないのだった。
「ライラさん、薬草採取の依頼を達成しました!」
「御苦労様ねテッド君! うん、いつも通りに丁寧に採取しているわね!」
「薬草採取なら任せて下さい!」
「ふふ…では、報酬ね。 全部で銅貨10枚と…薬屋さんから追加報酬で銅貨5枚を追加だって。」
「ありがたい…! ピエールさんにお礼を言っておいて下さい!」
「必ず伝えますね! それでは、また明日もですか?」
「勿論です! 薬草採取の依頼が無くならない限りは、毎日僕の仕事です!」
「よっ! 薬草小僧!」「お前のお陰で助かっているぜ!」「いつもありがとよ!」
「ライラさん、また明日!」
「あ、待ってテッド君! これ…1年祝いで皆からよ。」
僕はライラさんから干し肉の入った袋を受け取った。
僕は皆に頭を下げて感謝の言葉を継げた。
「ありがとうございます、皆さん! 嬉しいです! 1年半ぶりに肉が食べられます‼」
その言葉を聞いた冒険者達は、憐れむ様な顔で僕を見ていた。
中には涙を流している者もいた。
「それにしても、テッド君が冒険者になってもう1年か…」
「そうなりますね。 早い様で長かった気もします…」
僕とライラは、冒険者ギルドに入った時の事を思い出していた。
・・・・・・・・・一年前・・・・・・・・・
あれは1年前…僕は10歳になったばかりだった。
両親の保険金が尽きかけた頃に、生活費から少しだけ持って冒険者登録をしに来たのだった。
僕には子供の頃から、母親譲りの魔法の才能があった。
火・水・風・癒の4つの属性の初級魔法が使えていた。
だけど母親は、この能力は人には決して教えてはならないと言われて、僕はそれを守って来たんだけど…
それ以外の能力は…ない!
チート能力という物があるとすれば、初期魔法が使える位。
前世の記憶…そんな物はない!
転生…それもない!
強大な魔力…いや、いたって平均的な魔力。
魔法の効果時間延長…何て物もない!
ところが、母親からの約束を冒険者登録の時に、それがバレてしまったのだった。
それが…こんな感じである。
「冒険者登録に来たのですか? きみ…が?」
「はい! 両親が死んで、生活費の為に働き口を色々当たったのですが、全部断られて…冒険者の道しか残ってないのでなろうと。」
「そうなのですね…君の名前は?」
「テッド・リターンズです!」
「リターンズ? リターンズ…君の両親の名前って、バットンさんとカノンさんでは?」
「はい、両親はこの街の冒険者ギルドで冒険者をしていました!」
すると、後ろの方で冒険者達がざわざわと騒めいている感じだった。
冒険者ギルドにいた冒険者達は、10歳のガキが来たのを面白がって聞き耳を立てていた。
そこで知った名前を聞いて騒いでいたのである。
「武器は…その短剣?」
「はい、父さんが使っていたダガーです!」
「では、これから簡単な質問をしますので答えて下さいね。 君が嘘を付くとは思えないんだけど、一応確認の為に魔道具を起動するわね。」
「はい、宜しくお願いします!」
「君の神殿でのスキルのお告げは何でしたか?」
「神殿のお布施が払えない位に貧しいので、神殿には行っていません!」
ライラは魔道具を確認すると、青く光ったままだった。
「では次の質問です。 君はここ最近で…やってはいけない悪い事をした事はありませんか?」
「ありません!」
すると、魔道具が赤く光りだしてブザーが鳴り始めた。
僕とライラは、赤く光ってブザーが鳴っている魔道具を見ていた。
そしてライラはこちらを向いてきた。
「何かあるのね?」
「はい。 近くの農家の人から野菜が貰えなくて…畑の近くに生えている雑草を葉野菜と偽って妹達に喰わせました…」
ライラは手で頭を押さえて溜息を吐いた。
悪事と呼ぶほどの物では無いからだった。
そんな事で反応する魔道具って…性能が良すぎるだろうと。
「では、気を取り直して次の質問です。 多分ないと思うけど、犯罪行為を行った事はありますか?」
「ありません!」
すると、魔道具は赤く光りだしてブザーが鳴り始めた。
ライラは魔道具を見てから僕を冷めた目で見て来た。
僕は観念して正直に答えた。
「妹達に食事を多く上げて、僕は足りなくて…つい出来心で、畑から大根を1本盗んで食べました。」
「それだけひもじい思いをしていたのね…」
「ただ、翌日ちゃんと謝罪しました。 ですが、心の中に盗んでしまったという罪悪感が残っていて…」
「それが反応したのね。 他にはないですよね?」
「ありません!」
ライラは魔道具を見ると、青く光っていた。
ライラは頷くと最後の質問をする事にした。
「では最後の質問です。 君には特別な力はありますか?」
「あ…ありません!」
すると、魔道具が赤く強い光を放ちながら、今までにない音のブザーが鳴り響いた。
ライラは頭を押さえながら僕を見て来た。
多分…魔法に関する事なんだろうけど、これは母さんとの約束で秘密にしていた事だった。
「ありますよね?」
「あ…ありません!」
「先程から、赤く光っているのですが…?」
「故障とかじゃないですか?」
「今迄の質疑応答で問題は無かったので、それはありません。」
「わかりました、正直に話します! 人より早く移動が出来ます!」
魔道具は赤く光ったままだった。
ライラはジロリと見つめて来た。
「口に入る物は、何でも食べれます!」
魔道具のブザーは鳴ったままだった。
「正直に答えてくれませんか?」
「はい、本当は魔法が使えます。」
すると魔道具はブザーが鳴りやんで青い光を放っていた。
「なんの魔法が使えますか?」
「火魔法が使えます。」
僕は観念して右の手の平から火球を出現させた。
ライラは驚いた顔で見ていた。
「使える魔法はこれだけですか?」
「はい、これだけです!」
すると、魔道具は赤い光を放ってからブザーが鳴り始めた。
「ちきしょう! この魔道具嫌いだ‼」
「火の他には何を?」
「水魔法が使えます。」
僕はそう言って、左の手の平から水球を出現させた。
ライラは更に驚いた顔を見せた。
「多数属性同時出現⁉ それだけですか?」
「はい、これ以上は…」
すると、魔道具はブザーが鳴りやまずに鳴っていた。
本当に、この魔道具…ぶっ壊してやろうか!…と思った。
僕は観念して、右手と左手の中間に風球を出現させた。
*この世界で魔法を使える者は少なくはない。
魔法職と呼ばれる職業には、魔法を使える者が存在する。
ただ…1種類か多くても2種類しか使えずに、3種類を使える者は少ないのだ。
僕は魔法を解除すると、ライラの質問が続いたのだった。
「これ以上…はさすがにありませんよね?」
「はい! ありません!」
すると、魔道具が更に赤く光りだしてブザーが冒険者ギルド内に鳴り響いた。
ライラは驚愕した表情で僕を見ていた。
それもその筈…城の宮廷魔術師ですら3種類が限度、4種類使える者はスクエアと呼ばれて、賢者と同等の力を秘めているという物だった。
「君は…スクエアだったの⁉ 何の魔法が使えるの⁉」
「回復魔法です…」
僕はダガーで左手の平を斬ってから、ヒールで治すところをライラに見せたのだった。
ライラは驚愕を通り過ぎして、呆気に取られていた。
「あー内緒にしていたのに全部ばれたぁ~‼」
「他にはもう無いわよね?」
「ないですよ!」
…ところが、魔道具は赤く光ったままでブザーが鳴っていた。
ライラは僕を見るが、僕は首を振って答えた。
だけど、魔道具は赤く光ったままブザーが鳴っている。
本当にもう無い筈なのに、何故か魔道具は反応していた。
「これ…故障しているんじゃないですか? 僕はもうこれ以上の魔法は無いですよ?」
「でも、さっきから君は嘘を付いてきたからね。 信じられなくて…」
「とはいってもなぁ? 本当に使える魔法と言えばこれ位なんだけどな?」
まさか僕に眠っていた力があるのかな?
そう思って、イメージをしながら…地・雷・氷・光・闇…と出現させようとしたが、何も起きなかった。
「やはり、これ以上は無いですね。 他の属性も試しては見たけど、出現しなかったし…」
「でも魔道具はまだ反応があります! 何かないですか?」
「とは言われても…? そうですねぇ、風呂を入れる時に火と水を合わせてお湯にしたり、火を強めに水を弱めにしてから合わせて水蒸気を作ったり…火と風を合わせて火力を上げたりとか…位ですよ?」
「君は、複合統一魔法も出来るの⁉」
「なんですか、複合何とかって…さっき言っていた属性同時なんちゃらというのも?」
「知らないで使っていたの⁉ これは普通の魔道士には出来ない事なのよ⁉」
「そうなんですか? 僕の家では日常的に使っていましたからね。 井戸を使うにもお金が掛かるし、ならば魔法で…って。」
「水魔法の水は、普通不味くて飲めない物なのよ‼」
「それは裕福な家庭の人だからじゃないですか? 僕の家では貧しいので、雨が降らない時は水魔法で代用していますし、妹達からも不満はありませんでしたよ?」
ライラは受付から飛び出して、隣接する酒場からジョッキを持って僕の前に出してきた。
「これに、水魔法の水を入れてみて…」
「はぁ…わかりました。」
僕は水魔法を使って、ジョッキの中に水魔法を入れた。
ライラは恐る恐るその水を飲むと、「美味しい」と口に出して言った。
その後すぐに頭を抱えて悩んでいた。
「それで…僕は冒険者になれるのでしょうか?」
「えぇ…勿論よ! 君の実力なら、パーティーに入って稼げると思うわ!」
「いえ、パーティーには入りません。 その日に家に帰れなくなるので…」
「でも、パーティのクエストをこなせば高い報酬を得られるわよ!」
「両親がいないので、妹たちの面倒を見なければならないので、その日に帰れないと妹達が心配で…」
「なんか勿体ない気がするけど、本人の主張に任せます。 では、こちらが君のギルドカードです。 ランクは最低のHランクからスタートです。」
「わかりました! これから宜しくお願いします!」
僕はこうして冒険者になったのだった。
・・・・・・・・・現在・・・・・・・・・
そんな出来事があってから、もう1年が過ぎていたんだとしみじみと感じた。
「結局…テッド君の魔法はあれから成長はあまりないみたいだしね。」
「魔物との戦いが無いからでしょう。 魔物を倒して経験値を稼ぐのを放棄していますからね。」
「今からでもパーティーに入って稼ぎたいとは思わない?」
「日帰りで帰れる保証があれば、参加しますよ!」
「さすがに日帰りは無理ね…」
僕は冒険者ギルドを出てから、いつも通りにパン屋に寄ってからパンの耳を貰って、農家の畑に行ってから収穫を手伝う代わりに売り物にならない野菜を貰ってから家に帰った。
帰ると妹に、パンの耳と野菜と冒険者ギルドで貰った干し肉の袋を渡した。
妹達は久々に見る肉に笑顔で喜んで、久々の肉を噛み締めながら味わった。
そしてその余韻に浸りながら眠りに就いたのだった。
翌日…
軽く朝食を済ませてから、家から出ようとした。
「じゃあ、行ってくるな!」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん!」
妹に見送られながら、僕は冒険者ギルドを目指した。
久々に肉を食べていた所為か、体が充実している感じがした。
「よーし! 今日も薬草採取がんばるぞ~~~‼」
ところが、今日は…
いつもと違い、冒険者ギルド内が騒然としていたのだった。
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これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
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夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
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曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
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ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
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フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
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400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
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一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
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【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める
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神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。
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