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第四話 油断と決断
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「どうも、テトです! 僕は今…シルビア母さんにメーモと2人きりで寝室に押し込められて困り果ててます!」
…説明なしでは解りませんよね?
順を追って説明致します。
ギムのいる集落を出発した僕とメーモは、3時間掛けてシルビアのいる集落に辿り着きました。
そしてシルビアに、ギルとドワンゴからの品を渡すと、シルビアは箱を開けてから中の手紙を見て…一瞬だけ険しい顔になりました。
ですが…すぐにいつもの笑顔に変わり、僕とメーモを抱きしめるとそのまま寝室に押し込まれて扉の鍵を閉められました。
この扉は外鍵で、内側から開かない仕組みになっている様です。
そして…寝室の内装は、ピンク一色。
壁もピンク、ベッドもピンク、ランプも家具も何もかもがピンク…
マクラもピンクのハートマークが2つ…
「これ…絶対に父さんの差し金だな。」
「間違い無いわね…この集落での一件以来、何かにつけて父さん達が気を利かせてくるし…」
「全く…父さん達は何を考えているんだ?」
「せっかく用意してくれたんだし…寝る?」
「寝るって…事に及ぶって事?」
僕はメーモに尋ねると、メーモは頭に?を浮かべていた。
あ…これ、解ってないな。
「メーモは、どうやって子供が出来るか知ってる?」
「子供は天からの授かりもの…子供を望む時に神の御使いである使者が、夫婦に授けにやってくる…でしょ?」
僕はメーモの言葉を聞いて、何て純粋な心の持ち主なんだろうと思った。
メーモは王女様だから、ある一定の年齢になるまでの間はそう教えられたんだろう。
それともハーフリングは行為に及ばなくて、今話した様に子供を授かる…って事はさすがに無いか!
僕も経験がある訳ではない。
学校帰りにブリーダーが犬同士の交配をしている所を見せて貰ったのだ。
そしてそのおじさんが、「人間もこれをして子供が出来るんだよ。」と教えてくれたのだ。
なので、朧気だけど何となく知っているのだ。
「もしかして…私の言った事は違うの?」
さて、何て答えよう…?
素直に話しても良いけど、メーモがその気になったら…かなりまずい。
行為自体は別に構わないが、ギル達同様にシルビア達も絶対覗いているだろうからだ!
それに成人前の女性では、赤ちゃんが出来た時に体に掛かる負担がかなり大きいと聞いた事がある。
なので僕は…
「成人になってから教えてあげるよ。」
そう答えた。
だけどメーモは納得してなさそうな顔をした。
僕は周りに耳を澄ませた。
覗いているのなら声が聞こえる筈…?
そう思っていたけど、周りが何故か静かすぎた。
「メーモとこの状況なら、シルビア母さん達なら絶対に覗こうとする筈! だけど、やけに静かじゃないかな?」
「息を殺して聞き耳を立てている…という感じでもないわね? 確かに人の気配がしなさすぎる…」
部屋の中を見渡すが、この部屋には窓が無い。
そういえば、ここの部屋に来るまでに目隠しをされたんだっけ?
するとこの部屋は、部屋の奥だろうか?
扉をノックするが、分厚すぎる扉なのか…音が響かなかった。
「何だ…この扉は? 何で出来ている扉なんだろう?」
「これは…間に鉛の様な物が挟み込まれているわ。 内側の材質はウレタンかしら?」
「ウレタン…そして次に鉛となると、完全防音の部屋という事になるけど…行為の為だけにしては厳重だな?」
「まるで牢屋みたいな感じがする。」
僕は扉から出るのは諦めた。
他に出られないか色々探していると、敷物の退かすと取っ手のある扉があった。
「これは…床下収納?」
僕は取っ手を掴んで持ち上げると、そこは地下室の様になっていて…水や食料が大量に備蓄されていた。
用意周到…と言うべきか、少なくても牢屋という感じではないが、何か違和感があった。
「この部屋は一体⁉」
「牢屋というより…強固な作りの隠し部屋かもしれないわね。 私達を数日くらい留める為に作ったとしか…」
「となると、嫌な予感がするな。 数日たったら外から誰かが開ける…としても、開けれる人がいない場合はどうするんだろう?」
「それに隠し部屋という話が当たりだとすれば、この街の住人以外は扉の外側は何かでカモフラージュされている可能性があるわね?」
「普通の壁の様に見せている…とか?」
「もしくは、ドワーフの腕力では無いと退かす事が出来ない大きな本棚とか…?」
どちらにしても、ここから出られないと話にならない。
僕達はあらゆる場所を探したけど、他の場所から出られる様な場所が全く無かった。
「こうなったら最後の手段だ! メーモ…宝石とか持ってない? もしくは金属とか…」
「この部屋に入る時にシルビア母さんに全て没収されたの。 痛んで見えるから修理しておいてあげると言われて…」
「ここまで用意周到だと、僕対策か…」
「どういう事?」
「鉄球の時に言われたんだよ。 鉄は鉄鉱石という石から鉄を抽出した物だから元は石だと言われて、なら宝石や他の金属も元は何かの石なの?…って聞いたら、ギル父さんは頷いていたんだ。」
「だとすると、私からアクセサリーを外す様に言われた理由が納得だわ! そして、この部屋の家具なんだけど、一切金属が伝われてないの。」
駄目だ…完全に八方塞がりだ。
扉を破壊しようにも、石が無いんだ。
鉄球とは言わなくても、石さえあればここから脱出出来るというのに…
建物の壁と床は、分厚い木で補強されている為に剥がす事が出来なかった。
そして地下室も木の板で覆われていて、これも剥がす事は出来なかった。
僕はベッドに寝っ転がると、僕の横にメーモも横たわった。
「外側から開かない場合は、内側から開けられる何かの方法がある筈なんだ!」
「だけど、それらしき物は何も無いよ?」
ベッドに寝っ転がった状態で、僕はメーモと目が合う。
こんな事をしている場合じゃない!
僕は心にそう言い聞かせている筈なのに、メーモの目から目線を逸らす事が出来なかった。
そして僕はメーモの頭に手を敷いてから抱き寄せようとした時に、メーモは言った。
「恥ずかしいから、明かりを消して…」
僕は頭の上の方にあるランプに手を掛けて…明かりを消そうと、ランプの瓶を持ち上げて⁉
「メーモ…」
「なに?」
「硝子って、元は素材は何だっけ?」
「珪石っていう石だけど…あ!」
僕は脱出の糸口を見付けたのだった。
ランプの瓶…それは何十にも硝子がコーティングされていて分厚くなっていた。
これで、外に出られる!
僕はこのままでは使えないので、ある物に加工しようと奮闘するのだった。
・・・・・・・・・一方、ギル達は?・・・・・・・・・
「クソッ…さすがは剛壁の英雄と名高いだけはあるな!」
忍びの指揮官は、片腕を押さえて言った。
忍びが生き残ったのは、指揮官ともう1人…
ギム達5人は、地面に倒れていたのだった。
そして忍びも3名を失ったのだった。
「見通しが甘かったか…だが、奴等を屠る事は出来た。 後はハーフリングの王女の確保とテトという少年の抹殺だけだ!」
「ですが隊長…こ奴等の話が本当だとしたら、我らだけで勝てるのでしょうか?」
「テトという少年だけなら、ドワーフ共の話が作り話でなければ無理だろう…だが、ハーフリングの王女なら?」
「なるほど、人質ですね?」
「我らは忍び…作戦の完遂の為なら、利用出来る物は利用するのです!」
2人の忍びは、テトの向かった方向に向かって行った。
・・・・・・・・・・テトとメーモは?・・・・・・・・・
「これで…どうだ⁉」
僕の放ったシュートが扉を貫いた。
そして僕達が外に出ると、集落は炎に包まれていた。
地面に転がっている見慣れたドワーフ達、そしてみた事も無い黒い衣装を着た人間…
目の前を見ると、シルビアが果敢に黒い衣装の者と戦っていた。
だが、シルビアは所々から血を流していて押されていたのだった。
「シルビア母さん!」
「テト…あの部屋から出てしまったのね⁉」
僕は石を拾ってからシルビアの前にいる黒い衣装の者に光を纏った石を蹴り込んだ。
すると、黒い衣装の者は遠くに吹っ飛んだ。
僕はシルビアの元に向かおうとした時、メーモから目を離してしまった。
「テトーーーーーー!!!」
僕は振り返ると、メーモが黒い衣装の女に首元に剣の刃を当てられていた。
僕はすぐに向かおうとすると、背後から声がした。
「動くな! 動けば…この者の命は無い!」
「くっ…」
一瞬でシルビアの背後にもメーモと同じ様に黒い衣装の女が刃物を首に当てていた。
僕は2人を交互に見て動けなかった。
「どうする少年よ? 王女を助ければ、ドワーフは死ぬ! ドワーフを助ければ、王女は死ぬ…」
「卑怯だぞ! 2人を離せ‼」
「離せと言われて離すと思うか? さぁ、選べ! 悩んでいる暇はないぞ‼」
僕にとって2人はどちらも大事な家族だ!
どちらかなんて選ぶなんて出来ない。
すると、シルビアが僕に言った。
「私の事は気にしないで…メーモを助けなさい!」
「シルビア母さん…」
「貴様、余計な事を言うな!」
黒い衣装の女は、シルビアの腕に剣を刺した。
するとメーモが叫んだ。
「やめてぇーーーー!!! 私があなた達と共に参ります! なので、そちらの方は助けてあげて下さい!」
「さすがは王女殿下…民の扱いに長けておられる。」
「駄目だ、メーモ!」
「良いのよ…シルビア母さんが助かるのなら、私はどうなってもね。」
「駄目よ、メーモちゃん! この者達は…」
「良いのです、お母様…私はテト君に会わなければ、この世にはいなかった身です。 さぁ、私をどこへなりと連れて行きなさい! ですが、これ以上…集落の者達に手を出さないと誓いなさい! もしも手荒な真似をしたら、舌を噛んで死にます!」
「かしこまりました! では、王女様…向かいましょう!」
黒い衣装の指揮官らしき女は、自分の影から分身を出した。
その分身にメーモを抱き抱えると、そのまま影に溶け込んで行った。
忍びの使う影移動という魔法だった。
「後はお前達…撤収だ!」
指揮官は号令を出すと、忍びはシルビアの背後にいる者以外消えて行った。
指揮官は僕の顔を見て言った。
「後はそちらのドワーフだけですが…殺せ!」
「やめろーーーーー!!!」
僕はシルビアの元に駆け寄ろうとすると、黒い衣装の女は剣でシルビアの首を斬った。
シルビアの首から血が噴き出していた。
そして指揮官ともう1人は姿を消したのだった。
僕はすぐにシルビアの元に駆け寄ってから、服を脱いで止血をする様に首元の傷口に押し当てた。
だけど、頸動脈を斬られているのか…出血が収まる事は無かった。
「テト…私の息子、聞きなさい! 奴等はトランドオーケス城の忍びよ。 メーモは恐らくそこにいるわ!」
「喋らないで母さん! クソッ…何で血が止まらないんだよ!」
「テト…私はもう助からないわ! 貴方は父さんにこの事を報告して、協力を仰ぎなさい! 奴等は父さん達の集落を襲ったと言っていたけど、父さん達なら…き……っと……」
「母さん⁉ 母さん⁉ 返事をしてよ…かぁさーーーーん!!!」
シルビアは安らかな顔で目を閉じていた。
僕は近くにあったシーツをシルビアに掛けると、集落にいる生きている人を探した。
だけど…全員、殺されていたのだった。
「そういえば、父さん達の集落も襲われたって⁉ 父さん達なら大丈夫…」
僕は集落から出る前に、シルビアや他の者達に向かって言った。
「父さん達の所に行って来る、母さん達には悪いけど…後で戻って来るからね‼」
僕は集落を出て、ギム達の集落に向かって全速力で走った。
そしてモノの数十分で着くと、僕の見たギム達の集落は…
シルビアの集落の様に所々が焼け焦げていた。
「そんな…まさか…まさか……父さん達⁉」
僕は集落の中を移動すると、ガルダを発見した。
その横にはドワンゴとギルも横たわっていた。
「ガルダ父さん! ドワンゴ父さん! ギル父さん!」
そして少し離れた場所に、グレッドが壁にもたれ掛かっていた。
「グレッド父さん…駄目だ、皆死んで…る。」
僕に絶望感が襲って来た。
だけど、まだ絶望に浸る訳にはいかないと思い…辺りを見渡した。
ギムの姿がどこにも無かったからだ!
僕はギムを探して集落を走った。
すると家の扉が開いていて、そこにギムが壁に世垂れかかっていた。
耳を近付けると、浅かったっけどまだ呼吸をしていた。
「ギム父さん! ギム父さん、僕の声…聞こえる?」
「あ…あぁ、テト…か? これは…夢か?」
「夢じゃないよ、父さん! 手当てしないと…」
「ワシはもう駄目じゃ! 最期に…テトに…皆の父さん達からプレゼントがある。」
「最期なんて言わないでよ! 僕はまだ父さんと…一緒に…うぅぅ…」
ギムは壁に手を当てると、それを横にスライドさせた。
すると中には、様々な素材で出来たフルプレートとマントが飾ってあった。
「この鎧は…?」
「この鎧は…父さん達の……最高傑作だ! この世に唯一無二のテト専用の防具だ! ちなみに武器は…腰のウエストバックにある。 詳しい説明はバッグの中にある説明書を読め…」
「そんな事よりも、父さんの怪我を…」
「テト…ワシからの最期の願いだ! それを着て、ワシに見せておくれ…」
僕は服を脱いでから、鎧とマントを装備した。
そして靴は非常に軽く、更に硬い仕様になっていた。
まさに僕だけの武器であり、防具でもある物だった。
「父さん、着たよ! こんなに…いい物……を?」
ギムはもう…事切れていた。
僕に話しかけている段階でさえ、かなりの無理をしていたみたいだ。
僕はギム達の遺体を集落の中央に集めてから墓を作った。
そして…シルビアの集落に戻ってから、ギム達父親の髪の毛をそれぞれの奥さん達の胸元に置いて埋葬した。
「父さん、母さん…今は離れ離れだけど、いつか全てが解決したら…一緒のお墓に入れてあげるからね!」
そして僕はそれぞれの父さん達と母さん達の墓の前で…
「行ってきます! そして…メーモを取り返して帰ってくるからね!」
そう言って集落を後にした。
目指すは…トランドオーケス城‼︎
テトはトランドオーケス城に向かって歩き出したのだった。
…説明なしでは解りませんよね?
順を追って説明致します。
ギムのいる集落を出発した僕とメーモは、3時間掛けてシルビアのいる集落に辿り着きました。
そしてシルビアに、ギルとドワンゴからの品を渡すと、シルビアは箱を開けてから中の手紙を見て…一瞬だけ険しい顔になりました。
ですが…すぐにいつもの笑顔に変わり、僕とメーモを抱きしめるとそのまま寝室に押し込まれて扉の鍵を閉められました。
この扉は外鍵で、内側から開かない仕組みになっている様です。
そして…寝室の内装は、ピンク一色。
壁もピンク、ベッドもピンク、ランプも家具も何もかもがピンク…
マクラもピンクのハートマークが2つ…
「これ…絶対に父さんの差し金だな。」
「間違い無いわね…この集落での一件以来、何かにつけて父さん達が気を利かせてくるし…」
「全く…父さん達は何を考えているんだ?」
「せっかく用意してくれたんだし…寝る?」
「寝るって…事に及ぶって事?」
僕はメーモに尋ねると、メーモは頭に?を浮かべていた。
あ…これ、解ってないな。
「メーモは、どうやって子供が出来るか知ってる?」
「子供は天からの授かりもの…子供を望む時に神の御使いである使者が、夫婦に授けにやってくる…でしょ?」
僕はメーモの言葉を聞いて、何て純粋な心の持ち主なんだろうと思った。
メーモは王女様だから、ある一定の年齢になるまでの間はそう教えられたんだろう。
それともハーフリングは行為に及ばなくて、今話した様に子供を授かる…って事はさすがに無いか!
僕も経験がある訳ではない。
学校帰りにブリーダーが犬同士の交配をしている所を見せて貰ったのだ。
そしてそのおじさんが、「人間もこれをして子供が出来るんだよ。」と教えてくれたのだ。
なので、朧気だけど何となく知っているのだ。
「もしかして…私の言った事は違うの?」
さて、何て答えよう…?
素直に話しても良いけど、メーモがその気になったら…かなりまずい。
行為自体は別に構わないが、ギル達同様にシルビア達も絶対覗いているだろうからだ!
それに成人前の女性では、赤ちゃんが出来た時に体に掛かる負担がかなり大きいと聞いた事がある。
なので僕は…
「成人になってから教えてあげるよ。」
そう答えた。
だけどメーモは納得してなさそうな顔をした。
僕は周りに耳を澄ませた。
覗いているのなら声が聞こえる筈…?
そう思っていたけど、周りが何故か静かすぎた。
「メーモとこの状況なら、シルビア母さん達なら絶対に覗こうとする筈! だけど、やけに静かじゃないかな?」
「息を殺して聞き耳を立てている…という感じでもないわね? 確かに人の気配がしなさすぎる…」
部屋の中を見渡すが、この部屋には窓が無い。
そういえば、ここの部屋に来るまでに目隠しをされたんだっけ?
するとこの部屋は、部屋の奥だろうか?
扉をノックするが、分厚すぎる扉なのか…音が響かなかった。
「何だ…この扉は? 何で出来ている扉なんだろう?」
「これは…間に鉛の様な物が挟み込まれているわ。 内側の材質はウレタンかしら?」
「ウレタン…そして次に鉛となると、完全防音の部屋という事になるけど…行為の為だけにしては厳重だな?」
「まるで牢屋みたいな感じがする。」
僕は扉から出るのは諦めた。
他に出られないか色々探していると、敷物の退かすと取っ手のある扉があった。
「これは…床下収納?」
僕は取っ手を掴んで持ち上げると、そこは地下室の様になっていて…水や食料が大量に備蓄されていた。
用意周到…と言うべきか、少なくても牢屋という感じではないが、何か違和感があった。
「この部屋は一体⁉」
「牢屋というより…強固な作りの隠し部屋かもしれないわね。 私達を数日くらい留める為に作ったとしか…」
「となると、嫌な予感がするな。 数日たったら外から誰かが開ける…としても、開けれる人がいない場合はどうするんだろう?」
「それに隠し部屋という話が当たりだとすれば、この街の住人以外は扉の外側は何かでカモフラージュされている可能性があるわね?」
「普通の壁の様に見せている…とか?」
「もしくは、ドワーフの腕力では無いと退かす事が出来ない大きな本棚とか…?」
どちらにしても、ここから出られないと話にならない。
僕達はあらゆる場所を探したけど、他の場所から出られる様な場所が全く無かった。
「こうなったら最後の手段だ! メーモ…宝石とか持ってない? もしくは金属とか…」
「この部屋に入る時にシルビア母さんに全て没収されたの。 痛んで見えるから修理しておいてあげると言われて…」
「ここまで用意周到だと、僕対策か…」
「どういう事?」
「鉄球の時に言われたんだよ。 鉄は鉄鉱石という石から鉄を抽出した物だから元は石だと言われて、なら宝石や他の金属も元は何かの石なの?…って聞いたら、ギル父さんは頷いていたんだ。」
「だとすると、私からアクセサリーを外す様に言われた理由が納得だわ! そして、この部屋の家具なんだけど、一切金属が伝われてないの。」
駄目だ…完全に八方塞がりだ。
扉を破壊しようにも、石が無いんだ。
鉄球とは言わなくても、石さえあればここから脱出出来るというのに…
建物の壁と床は、分厚い木で補強されている為に剥がす事が出来なかった。
そして地下室も木の板で覆われていて、これも剥がす事は出来なかった。
僕はベッドに寝っ転がると、僕の横にメーモも横たわった。
「外側から開かない場合は、内側から開けられる何かの方法がある筈なんだ!」
「だけど、それらしき物は何も無いよ?」
ベッドに寝っ転がった状態で、僕はメーモと目が合う。
こんな事をしている場合じゃない!
僕は心にそう言い聞かせている筈なのに、メーモの目から目線を逸らす事が出来なかった。
そして僕はメーモの頭に手を敷いてから抱き寄せようとした時に、メーモは言った。
「恥ずかしいから、明かりを消して…」
僕は頭の上の方にあるランプに手を掛けて…明かりを消そうと、ランプの瓶を持ち上げて⁉
「メーモ…」
「なに?」
「硝子って、元は素材は何だっけ?」
「珪石っていう石だけど…あ!」
僕は脱出の糸口を見付けたのだった。
ランプの瓶…それは何十にも硝子がコーティングされていて分厚くなっていた。
これで、外に出られる!
僕はこのままでは使えないので、ある物に加工しようと奮闘するのだった。
・・・・・・・・・一方、ギル達は?・・・・・・・・・
「クソッ…さすがは剛壁の英雄と名高いだけはあるな!」
忍びの指揮官は、片腕を押さえて言った。
忍びが生き残ったのは、指揮官ともう1人…
ギム達5人は、地面に倒れていたのだった。
そして忍びも3名を失ったのだった。
「見通しが甘かったか…だが、奴等を屠る事は出来た。 後はハーフリングの王女の確保とテトという少年の抹殺だけだ!」
「ですが隊長…こ奴等の話が本当だとしたら、我らだけで勝てるのでしょうか?」
「テトという少年だけなら、ドワーフ共の話が作り話でなければ無理だろう…だが、ハーフリングの王女なら?」
「なるほど、人質ですね?」
「我らは忍び…作戦の完遂の為なら、利用出来る物は利用するのです!」
2人の忍びは、テトの向かった方向に向かって行った。
・・・・・・・・・・テトとメーモは?・・・・・・・・・
「これで…どうだ⁉」
僕の放ったシュートが扉を貫いた。
そして僕達が外に出ると、集落は炎に包まれていた。
地面に転がっている見慣れたドワーフ達、そしてみた事も無い黒い衣装を着た人間…
目の前を見ると、シルビアが果敢に黒い衣装の者と戦っていた。
だが、シルビアは所々から血を流していて押されていたのだった。
「シルビア母さん!」
「テト…あの部屋から出てしまったのね⁉」
僕は石を拾ってからシルビアの前にいる黒い衣装の者に光を纏った石を蹴り込んだ。
すると、黒い衣装の者は遠くに吹っ飛んだ。
僕はシルビアの元に向かおうとした時、メーモから目を離してしまった。
「テトーーーーーー!!!」
僕は振り返ると、メーモが黒い衣装の女に首元に剣の刃を当てられていた。
僕はすぐに向かおうとすると、背後から声がした。
「動くな! 動けば…この者の命は無い!」
「くっ…」
一瞬でシルビアの背後にもメーモと同じ様に黒い衣装の女が刃物を首に当てていた。
僕は2人を交互に見て動けなかった。
「どうする少年よ? 王女を助ければ、ドワーフは死ぬ! ドワーフを助ければ、王女は死ぬ…」
「卑怯だぞ! 2人を離せ‼」
「離せと言われて離すと思うか? さぁ、選べ! 悩んでいる暇はないぞ‼」
僕にとって2人はどちらも大事な家族だ!
どちらかなんて選ぶなんて出来ない。
すると、シルビアが僕に言った。
「私の事は気にしないで…メーモを助けなさい!」
「シルビア母さん…」
「貴様、余計な事を言うな!」
黒い衣装の女は、シルビアの腕に剣を刺した。
するとメーモが叫んだ。
「やめてぇーーーー!!! 私があなた達と共に参ります! なので、そちらの方は助けてあげて下さい!」
「さすがは王女殿下…民の扱いに長けておられる。」
「駄目だ、メーモ!」
「良いのよ…シルビア母さんが助かるのなら、私はどうなってもね。」
「駄目よ、メーモちゃん! この者達は…」
「良いのです、お母様…私はテト君に会わなければ、この世にはいなかった身です。 さぁ、私をどこへなりと連れて行きなさい! ですが、これ以上…集落の者達に手を出さないと誓いなさい! もしも手荒な真似をしたら、舌を噛んで死にます!」
「かしこまりました! では、王女様…向かいましょう!」
黒い衣装の指揮官らしき女は、自分の影から分身を出した。
その分身にメーモを抱き抱えると、そのまま影に溶け込んで行った。
忍びの使う影移動という魔法だった。
「後はお前達…撤収だ!」
指揮官は号令を出すと、忍びはシルビアの背後にいる者以外消えて行った。
指揮官は僕の顔を見て言った。
「後はそちらのドワーフだけですが…殺せ!」
「やめろーーーーー!!!」
僕はシルビアの元に駆け寄ろうとすると、黒い衣装の女は剣でシルビアの首を斬った。
シルビアの首から血が噴き出していた。
そして指揮官ともう1人は姿を消したのだった。
僕はすぐにシルビアの元に駆け寄ってから、服を脱いで止血をする様に首元の傷口に押し当てた。
だけど、頸動脈を斬られているのか…出血が収まる事は無かった。
「テト…私の息子、聞きなさい! 奴等はトランドオーケス城の忍びよ。 メーモは恐らくそこにいるわ!」
「喋らないで母さん! クソッ…何で血が止まらないんだよ!」
「テト…私はもう助からないわ! 貴方は父さんにこの事を報告して、協力を仰ぎなさい! 奴等は父さん達の集落を襲ったと言っていたけど、父さん達なら…き……っと……」
「母さん⁉ 母さん⁉ 返事をしてよ…かぁさーーーーん!!!」
シルビアは安らかな顔で目を閉じていた。
僕は近くにあったシーツをシルビアに掛けると、集落にいる生きている人を探した。
だけど…全員、殺されていたのだった。
「そういえば、父さん達の集落も襲われたって⁉ 父さん達なら大丈夫…」
僕は集落から出る前に、シルビアや他の者達に向かって言った。
「父さん達の所に行って来る、母さん達には悪いけど…後で戻って来るからね‼」
僕は集落を出て、ギム達の集落に向かって全速力で走った。
そしてモノの数十分で着くと、僕の見たギム達の集落は…
シルビアの集落の様に所々が焼け焦げていた。
「そんな…まさか…まさか……父さん達⁉」
僕は集落の中を移動すると、ガルダを発見した。
その横にはドワンゴとギルも横たわっていた。
「ガルダ父さん! ドワンゴ父さん! ギル父さん!」
そして少し離れた場所に、グレッドが壁にもたれ掛かっていた。
「グレッド父さん…駄目だ、皆死んで…る。」
僕に絶望感が襲って来た。
だけど、まだ絶望に浸る訳にはいかないと思い…辺りを見渡した。
ギムの姿がどこにも無かったからだ!
僕はギムを探して集落を走った。
すると家の扉が開いていて、そこにギムが壁に世垂れかかっていた。
耳を近付けると、浅かったっけどまだ呼吸をしていた。
「ギム父さん! ギム父さん、僕の声…聞こえる?」
「あ…あぁ、テト…か? これは…夢か?」
「夢じゃないよ、父さん! 手当てしないと…」
「ワシはもう駄目じゃ! 最期に…テトに…皆の父さん達からプレゼントがある。」
「最期なんて言わないでよ! 僕はまだ父さんと…一緒に…うぅぅ…」
ギムは壁に手を当てると、それを横にスライドさせた。
すると中には、様々な素材で出来たフルプレートとマントが飾ってあった。
「この鎧は…?」
「この鎧は…父さん達の……最高傑作だ! この世に唯一無二のテト専用の防具だ! ちなみに武器は…腰のウエストバックにある。 詳しい説明はバッグの中にある説明書を読め…」
「そんな事よりも、父さんの怪我を…」
「テト…ワシからの最期の願いだ! それを着て、ワシに見せておくれ…」
僕は服を脱いでから、鎧とマントを装備した。
そして靴は非常に軽く、更に硬い仕様になっていた。
まさに僕だけの武器であり、防具でもある物だった。
「父さん、着たよ! こんなに…いい物……を?」
ギムはもう…事切れていた。
僕に話しかけている段階でさえ、かなりの無理をしていたみたいだ。
僕はギム達の遺体を集落の中央に集めてから墓を作った。
そして…シルビアの集落に戻ってから、ギム達父親の髪の毛をそれぞれの奥さん達の胸元に置いて埋葬した。
「父さん、母さん…今は離れ離れだけど、いつか全てが解決したら…一緒のお墓に入れてあげるからね!」
そして僕はそれぞれの父さん達と母さん達の墓の前で…
「行ってきます! そして…メーモを取り返して帰ってくるからね!」
そう言って集落を後にした。
目指すは…トランドオーケス城‼︎
テトはトランドオーケス城に向かって歩き出したのだった。
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