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第一章

第十五話 決別…(シオンは、家には帰らない?)

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 ………3日後………

 ガーヴァ渓谷のツリーハウスの中で、シオンは資材を見て悩んでいた。

 「薬草などはこの付近で事は足りるんだけど、強化薬に使用する薬剤は…魔法ギルドに行かないと駄目か…」
 「どうしたシオン? 眉間にシワを寄せて?」
 「あ、ザッシュさん! 実は狩り用の強化薬の材料が切れているんです。 僕と一緒なら強化魔法で問題ないのですが、一緒に行動出来ない時にはポーションの他に強化薬を渡しているじゃないですか? それが作れなくなってしまって…」
 「シオンが作った薬は副作用が無いからな…極力は使用しないに越した事は無いのだが、無いと不便さは感じるな。」
 「3日…いえ、2日だけ街で揃えて来ても良いですか?」
 「誰か付けた方が良いか?」
 「希望としては、レグリーさんと言いたい所ですが…サポーターが2人も抜けてしまっては、こちらが不便になりますよね?」
  
 サポーターは、道具の整備や食事を作る係りを担っている。
 このチームでは、どちらも僕とレグリーさんがこなしているので…

 「レグリーを連れて行きたい理由は何だ?」
 「僕だけだと、店を回るのに2日位掛かるんですが、レグリーさんが居れば1日で買い物が終わるので…時間短縮になるんですよ。 他にも僕の気付かない材料も揃えたりしてくれますからね…」
 「レグリーは優秀なのか?」
 「素晴らしいサポーターですよ。 僕は彼女から学ぶ物も多いですから…」

 僕はレグリーを見ると、レグリーは顔を赤くして照れていた。
 ザッシュは腕を組んで考えていた。

 「1日くらいなら…だが、2人が居ないと食事は何とかなっても、グレンの通訳がなぁ…」
 「なので、僕1人で行ってきますよ。 なので、2日だけ抜けます。」
 「わかった、許可しよう! 行ってこい!」
 「ありがとうございます! 帰還魔法・ベイルードの街!」

 僕は帰還魔法を使用した。
 その場から姿を消すと、ザッシュはレグリーに聞いた。

 「シオンはレグリーから見て、どうだ?」
 「シオンさんは素晴らしい方です! サポーターの能力もそうですが、生産系の技術や技能がドワーフやエルフと同等かそれ以上の知識を持っています。 私は魔法には詳しくありませんが…あの魔法は脅威です! 敵に回ったらどれだけ恐ろしい存在になるか…」
 「それは俺も思った。 攻撃に関する事が一切出来ないから自分にはFランクが相応しいと本人は言っていたが、能力だけで言ったらSランクでもおかしくないぞ?」
 「そんなシオンさんが、何故…頑なにFランクに拘っているのか…?」
 
 ザッシュとレグリーは不思議そうに考えていた。
 街に着いたシオンは、街並みを見て溜息を吐いた。

 「戻ってきてしまった…さっさと買い物をして帰りたいが、現時点でチラホラと注目されているからなぁ?」

 僕は建物の物陰に隠れると、収納魔法からフード付きのマントを取り出して羽織った。
 あまり使用しないので、これで僕だと気付かれる事はない…と思う。
 僕は建物から出ると、注目される視線は無くなったので、市場に向かって行った。
 
 「食材や鉱物の類は店に入る訳じゃないから顔バレはしないだろうけど、魔法ギルドはそうはいないからな…物によってはギルドカードの提示があるし、穏便に済めばいいのだけど…」

 強化薬に使用される材料は、主に魔法ギルドで手に入る。
 それらの材料は、分量を間違えると死に至る禁止薬草の類なのだ。
 なので、ギルドカードの提示が必要なのだが…提示した瞬間に冒険者ギルドに連絡が入るのが厄介な所なのだ。
 自力で入手するにも、其処等に生えている訳では無く…主に魔法ギルドで管理されている為に一般では入手不可能な物なのだ。
 魔素の濃い様な場所にあったりはするのだろうけど…この大陸にはそのような場所が無い。
 僕はとりあえず、市場の露店を回って食材や鉱物などを購入して行った。
 店員の中には顔を覗き込もうとする者もいたが、それだけは阻止する事が出来た。
 
 「伝説の魔法で他人に成りすませるフェイクや、自分の見た目を変化できるメイクとか使えれば苦労は無いんだけど…」

 僕の魔法も万能ではない。
 僕の使える魔法は主に、書物で学んだ事の5割しか使用出来なかった。
 その内の3割は攻撃に関する魔法なので、どちらにしても使えないが…
 残り2割は、補助魔法の類なのだが僕は習得出来なかった。
 ただ…幾ら魔法で変身しても、ギルドカードを提示した時点で身元がバレるので意味は無いのだが…
 
 「それにしても、騎士達の動きが何だか慌ただしいな? 何かあったの…まさか、僕を探している…何て事は無いか。 僕はそこまで自惚れている訳じゃない。」

 ベイルードの街は、カルスゲール辺境伯が管理している街なので騎士が巡回しているのは良く見掛けるのだが、いつもと違って慌ただしく動いているのは確かだった。
 僕は魔法ギルドに入ると、騎士達は集合して確認をしていた。

 「先程、街の入り口にシオン・ノートがいるのを見掛けた住人がいるという話だったが、どうなった?」
 「建物の影に移動してからの足取りが掴めません!」
 「まだ近くにいる筈だ! 探せ‼」

 シオンの予感は当たっていた。
 騎士達はシオンを探しているのだった。
 
 ………魔法ギルド内………
 
 魔法ギルド内には、ガラスケースに様々な薬草や毒草など魔法草に、麻薬や劇物などの禁止薬物も陳列されていた。
 単純な事を言えば、ステータスを向上する魔法薬は…興奮剤や鎮静剤は麻薬を使用されている。
 量が多ければ毒にもなるが、少量なら薬にもなる。
 僕は錬金術で薬効だけを抽出して、依存性を無くす方法を発見したので副作用は…全く無いという訳ではないが、ある程度は抑えられているのだ…が…?
 別に禁止薬物で違法薬物という訳ではないので、本来ならギルドカードの提示はないのだが…低ランクの冒険者には必ずギルドカードの提示が必要なのだ。
 高ランクと違い、低ランクには信用も信頼もないので。
 僕は禁止薬物の幾つかを選んでから会計に持って行った。

 「すいません、これらを購入したいのですが…」
 「使用用途は何でしょうか?」
 「ステータス向上薬の作成の為に使用します。」
 「わかりました、ギルドカードの提示をお願いします。」

 僕はギルドカードを店員に渡した。
 すると、本人確認の為に顔を見せて欲しいと言われたので、フードを外して顔を見せた。

 「お顔の確認が出来ました。 冒険者シオン・ノート様…シオン・ノート⁉ 英雄シオン・ノート様ですか⁉ 少々お待ち下さい!」
 
 店員さんは奥の方に駆け込んで行った。
 僕は魔道具の上にあるギルドカードを回収して、奥の方を見ると…店員が誰かに話しているのを見た。
 店員が英雄が店に来た…という報告なら良いのだが、明らかに魔道具で連絡している様な感じだった。
 これ…絶対に通報されるパターンだな…
 禁止薬物の値段は解っているので、料金をカウンターに置いてから禁止薬物を収納して魔法ギルドを出ようとした。
 
 「シオン・ノート様! お待ち下さい‼」

 案の定、店員から声が掛かって来たので出口に向かって扉を開けると、そこには大勢の騎士達が待ち構えていた。
 やっぱり通報されていたのか…それにしては対処が早いな?

 「冒険者シオン・ノート…我らと共に来てもらおう!」
 「拒否権はありますよね?」
 「逆らわない事をお勧めするが…」
 
 さすがにこの騎士達の数では逃げられる可能性は低い…だが、騎士達の中には若干…腰が引けている者もいた。
 確か新聞には、災害級の魔獣を瀕死までに追い込んだ…とか書いてなかったっけ?
 ならば、多少のハッタリを嚙ましてみる事にした。
 ただ、これをやって逃げたりすると…今度は英雄から指名手配犯に変わりそうな気もするけど…?
 僕は魔力を全放出して言った。
 
 「僕をこのまま大人しく行かせて下さい! 貴方達を傷付けたくはないので…」
 「くっ…何だこの魔力量は…⁉ 英雄と呼ばれるのは伊達じゃないという事か⁉」
 「いやだ…まだ死にたくない‼」

 どうやらハッタリが効いたようだが…こちらには攻撃手段が無いんだよねぇ…
 さて、どうやってこの場から離れようか…?
 攻撃魔法は使えないけど、拘束魔法は使えるので騎士達全員を魔鎖で拘束した。
 そして全員横に倒すと、僕はその場を離れようとした。
 だが、逃げようとした方向にファリス兄さんと他の姉弟が立ちはだかっていた。
 兄妹達には僕に攻撃手段が無い事は知られている。

 「シオン…大人しく言う事を聞くんだ!」
 「断ったらどうなりますか?」
 「シオンに攻撃手段が無い事は知っている。 大人しく着いてきた方が身のためだと思うが?」
 「確かに攻撃手段はありませんが、デバフ魔法は使えますよ。」
 「なら…やってみろ!」
 
 さすがに兄妹達に魔法を放つのは気が引ける…
 僕は躊躇っていると、ファリスは右手を上げた。
 すると後方から魔鎖で僕の体を拘束された。
 後ろを見ると、魔法ギルドの職員が僕に拘束魔法を放っていた。
 僕は魔鎖の拘束を魔力で弾き返した。
 すると、魔法ギルドの職員は信じられないという表情をしていた。
 だがその瞬間を狙っていたのか、兄妹達が僕に気付かれない様に接近して拘束したのだった。
 
 「俺達はお前を傷付けたくはない…大人しくするんだ!」
 「わかったよ兄さん、僕の負けだ。」

 僕は兄妹達に大人しく捕まった。
 そして騎士達に拘束していた魔法を解いた。
 僕は兄妹達に連行されて歩いて行った。

 「それで、僕は何処に連れて行かれるのかな? 牢獄で処刑でもするの?」
 「黙って着いて来い!」

 僕の言葉に兄は悲しそうな表情で言った。
 そして歩いていると、そこはカルスゲール辺境伯の屋敷だった。
 僕は辺境伯の屋敷の中に入ると、とある1室に連れて行かれた。
 そこには、カルスゲール辺境伯とガスター将軍とカリバリオン伯爵が立っていた。

 「冒険者シオン・ノートを連れて参りました。」
 「シオン君、手荒な真似をして済まなかった…どうしても話がしたかったんだよ。」

 カルスゲール辺境伯は、僕に謝罪をしてくれた。
 背後を見ると、ガスター将軍は苦笑いをしていたが、カリバリオン伯爵は黙ったままだった。
 
 「謝罪は不要です、カルスゲール辺境伯…それで、話とはなんでしょうか?」
 「ほら、兄貴…」
 「久しいなシオン…」
 「これは…カリバリオン伯爵様、お久しぶりで御座います。」
 「父とは…呼んでくれぬのだな。」
 「僕はもうグラッド家とは関係ないので…」

 僕もカリバリオン伯爵は、そのまま沈黙が続いた。
 すると、ファリスが沈黙を打ち破って声を掛けて来た。

 「シオン、父様は考えを改めて下さってな、シオンをグラッド家に戻す事を約束して…」
 「お断りします。」
 
 ファリスは解っていた様だったのでそれ程驚きはしなかったが、カリバリオン伯爵は驚いた表情を見せた。
 今更戻っても良いだと?
 ふざけるのもいい加減にして欲しい…どうせ、英雄と呼ばれる様になって惜しくなって戻そうという魂胆なんだろうけど。
 
 「何故だ⁉ 家に戻れるのが嬉しくないのか⁉」
 「家に戻って何になるんですか? また蔑まされた目で見られながら家で過ごせと?」
 「お前は多大なる功績を得たのだ。 それはグラッドの名に恥じぬ…」
 「なんだ、英雄と呼ばれる様になって惜しくなっただけですか…それが無ければ家に戻って来いなんて言われる事は無かったでしょ?」
 
 カリバリオン伯爵は地面に座って頭を下げた。
 僕はその姿を見て、かつての父親だった男に失望した念を覚えた。
 だが、感情のままに物を言う程子供ではないので…

 「カリバリオン伯爵様の謝罪は受け取りました。 ですが、僕はグラッド家には戻るつもりはありません。」
 「親が子に頭を下げてもその態度なのか?」
 「言ったでしょう…僕はグラッド家とはもう関係ないと…」
 「何が不満だというのだ! 言ってくれ!」
 「ならば言わして貰いますが、カリバリオン伯爵様は僕がグラッド家から追い出されてから今迄どんな目に遭っていたか理解はしていますか?」
 「それは…報告書で理解はしている。」
 「それで? グラッド家に再び戻って良いから帰って来いと? それを聞いて僕が喜んで尻尾を振りながら家に帰るとでも思いましたか? これ以上、話が無いのであればこれにて失礼します!」

 これ以上、この元父親との話をしていると怒りしか湧いてこないので、僕はその場を後にしようとした。
 だが、元父親はそれだけでは納得していなかったみたいで、呼び止めて来た。

 「まだ何かあるんですか⁉」
 「お前の心は理解している…」
 「何も理解何て出来てないじゃないですか‼ 僕がグラッド家から追い出されてから、街で資金を貯める為に常にグラッド家に追い出された無能と呼ばれ続け、それでも必死になって冒険者ギルドで仕事をこなして行ってからやっとグラッド家のシオンではなく、冒険者シオンと呼ばれる様になって、チームに参加したらダンジョンで囮にされて殺されそうになる…その間、グラッド家は…いや、貴方は僕に何かしてくれましたか?」
 「・・・・・・・・・」
 「街にいる時に、兄妹達はこっそり支援をしてくれていました。 そのお陰で今の僕があるので兄妹には感謝してます。 だが、僕は貴方に対してはそんな感情は持ち合わせてはいない! 話が以上ならこれで失礼します!」

 僕は急いでその場を去って行った。
 その後、辺境伯の屋敷では…

 「兄貴…シオンの意思は固そうだ。 あれは、いくら言っても無理だぞ?」
 「シオン君には相当な怒りを感じたよ。 伯爵…どうするのおつもりですか?」
 「シオンがあそこまで感情を剥き出しにしていたら、俺の考えた策も無駄だな…」
 
 カリバリオン伯爵は、その場で立ち尽くしていた。
 
 「さてと、余計な時間を喰ってしまった…あと、必要な物は…?」

 シオンは買い物を続けていた。
 そして、他にも必要な物があったのだが、夕方になって店が閉まったので…その日は今迄の宿では無く別の宿に泊まって夜を明かした。
 朝になると買い物を再開したのだが…
 ザッシュの元に合流する前に、少しだけ厄介な事に巻き込まれるのであった。
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