上 下
13 / 36
第一章

第十二話 理想のチーム?(シオンは何やら勘違いをし始めたようです。)

しおりを挟む
 ザッシュのチームに参加してから半日後…このチーム名は【漆黒の残響】という。
 リーダーのザッシュさんを始め、この大陸では珍しい獣人で狼獣人のグレンさん、猫獣人のミーヤさん、そしてサポーターなのかな? ドワーフのレグリーさんだ。
 髭が生えているので男性かと思ったら、割と可愛らしい声なので女性だという事が解った。
 女性でも髭が生えるというドワーフとは実に面白い物だった。
 そして聖女候補のアントワネットさん。
 鑑定で見る限りでは、それほど高い聖力を持っている様には見えないけど…?
 そしてこの聖女候補は結構我が儘だった。
 確か聖女候補って厳しい修行により選抜される物だと聞いた事があるけど、選抜した人は目でも曇っていたのかと思った。

 「こちらから不浄の反応があるわ!」
 「シオン、こっちの方角には何がある?」
 「そちらの方角には、ガーヴァ渓谷がありますね。 つい先日、そこの渓谷にツインヘッドドラゴンが現れて討伐されたのですが、不浄が関係しているのであれば突然変異もあり得ない話ではないですね。」
 「ツインヘッドドラゴンを倒した? 冒険者か?」
 「いえ、この国の騎士団です。」
 「この国の騎士は優秀なんだな…ドラゴン種を倒せるほどの精鋭とは…」

 僕も戦いには参加したのだが、そこは伏せておいた。
 素性が知られるのはあまり良い思いをしないからだ。

 「どれくらいで着く?」
 「馬車で1日半ですが、現在は馬車が騎士団が占領しているので歩くしかないですが…」
 「私は歩いて行くなんていやよ!」
 「またか…お前の巡礼の旅なのに、何故我が儘ばかりを言うんだ!」
 「私はね、お嬢様なのよ! 足を使って歩くなんて…冗談じゃないわ!」
 
 お嬢様がどうして聖女候補なんかに?
 というか、本当に良く選抜されたな…

 「お嬢様? アントワネットさんは貴族だったんですか?」
 「そうよ、私はこの国の伯爵家の令嬢なの!」
 「この国の…? 家名はなんですか?」
 「貴方みたいな平民風情に話す必要はないわ!」
 「はぁ…僕も元貴族ですよ。 グラッド伯爵家です。」
 「騎士家グラッド…名門の伯爵家がどうして冒険者なんかに?」
 「別に良いでしょう、そんな事は…それで、アントワネットさんの家名は?」
 「私はマリーゴールド伯爵家よ!」

 マリーゴールド伯爵家…聞いた事あるな?
 あ…マリーゴールドってあれか⁉

 「おい、シオン…こいつの実家を知っているのか?」
 「えぇ、没落貴族のマリーゴールド家ですね…有名な話ですよ。」
 「え? 誰の家が没落ですって⁉」
 「だからアントワネットさんの実家です。 えーっと、確か…数年前だったかな? 浪費家の夫人と娘の所為で伯爵家の存続が危ぶまれた領主が領民に重税を課して民を苦しめていたら、反発が起きてから王家によって伯爵家は取り潰されて伯爵家の者達はいずこかに姿を消した…と。」
 「じゃあ、今のコイツの立場は…平民か?」
 「そうなりますね。 ですので、元が付くお嬢様ですよ。」
 「そんな話は嘘よ! 私の家は…」
 「なら、アントワネットさんを連れて領地にでも行ってみますか? 命の保証は出来ませんけど…」
 
 重税を課した領主の娘なんか連れて行ったら、どうなるかは目に見えている。
 領主一家は姿を消したと言ってはいるけど、恐らく殺されているだろう。
 
 「何だ! 平民風情がお嬢様気取りで宿に泊まりたいとか、馬車を使いたいとか抜かしていやがったのか! お前の実家にお前が使った分の金を請求しようと思っていたのに、宛が外れちまったよ。」
 「うわ、酷い…一体今迄幾ら使わされたんですか?」
 「金貨4枚は使ったな…金を捨てた気分だよ…」
 「金貨4枚なら何とか回収出来るかもしれませんよ?」
 「そうなのか?」
 「えぇ、現領主が元マリーゴールド伯爵家に懸賞金を出していますからね。 領主と夫人は金貨10枚で娘達は金貨5枚とか…」
 
 アントワネットは地面にしゃがみ込んだまま虚ろな表情を浮かべている。
 ザッシュは、アントワネットの髪を掴んで顔を持ち上げて言った。

 「おい、平民風情の元お嬢様! お前に2つの選択肢を与えてやるよ…1つは、お前が聖女になる為の旅を完遂する為に協力するが俺様のいう事は絶対服従というのと、もう1つは、お前の元領地に行ってから現領主にお前を引き渡して懸賞金を貰うか…だ。どうする?」
 「え…と…やめ…」
 「ハッキリ喋れよ! 聞こえねぇだろ‼」
 
 アントワネットは涙を流してつぶやいていた。
 そして周りを見渡したが、アントワネットを庇おうとする者はいなかった。
 普段の行いの所為でチームからの評価は最悪だったからだ。
 僕の性格なら本来なら止めていたかもしれない。
 彼女がマリーゴールド家の人間でなければだが…僕の友人もマリーゴールド家の領地に住んでいたが、重税に耐え切れなくなって命を落としているから止める気さえ起きないのだ。
 
 「どうするんだよ! 早く言え‼」
 「これからはザッシュ様の言葉には逆らいません! だから引き渡すのだけはやめて下さい‼」
 「初めからそういえば良いんだよ‼ 全く、手間掛けさせやがって!」
 「そうか…聖女巡礼の完遂報酬ですね。 確かかなりの金額が貰えるんでしたっけ?」
 「それに名声も上がるからな。 ただ…」
 「そうですね…確か聖女巡礼の旅は、7つの各大陸の1か所の浄化が目的ですが、デストローク大陸の太古の島が含まれているんですよね?」
 「今の俺様達でもあの島だけは無理だ。 レベルを上げる必要もあるが、何よりこの聖女見習いが今のままだと、ほとんど役に立たん。」
 「まぁ、そういう事でしたら…ガーヴァ渓谷は打って付けだと思いますよ。 ツインヘッドドラゴンはもういませんが、以前索敵魔法を使用した際には、大型の魔物の反応が幾つかありましたから…」
 「シオンは魔法が使えるのか?」
 「はい、武器攻撃と攻撃魔法は呪いの所為で出来ませんが、補助魔法や回復魔法にサポーターとしての補助は出来ますので…」
 
 これで僕が戦わされる事は無いだろう。
 それ以外にも、このチームには戦闘に慣れている人が多いしね。

 「なら早速だが、ガーヴァ渓谷まで行ける…転移魔法はあるか?」
 「街に戻る帰還魔法は使えますが、転移魔法は出来ません。 なので、移動補助魔法を使用しますので1日掛からずに着きますよ。」
 「そういう事だ、元お嬢様…着いて来れなかった場合は、お前を領主に引き渡すから、引き渡されたくなかったら死ぬ気で付いて来い!」
 「はい…」
 「では、移動拘束魔法アクセラレーション、軽量化魔法フライトレーション、回復補助魔法リジェネート! これで大丈夫です!」
 「なるほど、これは良い魔法だ! 行くぞ!」

 僕が先頭に立ってチームを誘導しながら走って行った。
 そして昨日のツリーハウスがあった場所に着くと、魔法を解除した。
 
 「これは…家か?」
 「はい、キャンプの代わりです。 ここを拠点として活動しましょう。」
 「なぁ、シオン…お前はこの場所に来るのは初めてではないな?」
 「えぇ、昨日も来ましたから…騎士のサポーターとしてですが…」
 「この家もお前が作った物か?」
 「はい、攻撃が出来ない分、こういう事は可能なんですよ。」
 「お前を入れたのは正解だったみたいだな…報酬はここでの浄化が完遂してから冒険者ギルドで支払う…それで良いか?」
 「はい、それまでの間…しっかりとサポート致します!」
 
 少し怖い所もあるが、ザッシュさんは良いリーダーだな。
 僕が心から入りたいと思うチームは、もしかしたらここかも知れない!
 さてと、アピールタイムの時間だよ!
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...