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第一章

第十話 愚か者の末路(覚醒後のシオンは…)

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 ツインヘッドドラゴンを倒してから3日経過していた。
 …というのも、僕もあり得ない程の力を発動した為か、気絶する様に寝こんで3日ほど眠ったまま…だったらしい。
 そして目の前には、兄妹達が口から泡を吹いて倒れていた…のだった。

 「一体何が…? ん? これって…カラキネグサボンドダケ…もどきか?」

 木々の根元に生えるキノコ…だけど、稀によく似た毒キノコがある。
 見た目も色も非常に似ている為に、知識のある冒険者なら絶対に手を出さない物なのだが…?

 「これを食べたのね…まぁ、毒性はそれ程強くないから死にはしないけど…はぁ、クリアリフレッシュ!」

 状態異常の治癒魔法を発動すると、兄妹達は元に戻って立ち上がった。
 何故こんな事になったのかを聞くと、サポーター役の僕が寝てしまった為に、飢えを防ぐのにキノコを焼いて食べたそうだ…
 それならツインヘッドドラゴンの肉でも…と思ったが、ツリーハウスに戻る際に邪魔だったので収納魔法に納めていたのを忘れていた。
 なので、この付近で食べれる物を探していたらしいのだが、騎士達には討伐の経験はあっても、狩りの経験があまりないので獲物は捕れなかったという…何とも間抜けな話である。
 僕は収納魔法から食材を取り出してから調理を始めた。
 さすがにここまで飢えている状態なら、文句も出ないだろうと思って、作った物がその場で消えて行った。
 そして17品近く作った物を全てお腹に納めた兄妹達は、満足そうにお腹をさすっていた。

 「シオン! 本当に助かった!」
 「助かった…じゃなくてさ、少しは料理位…自分達でも作れる様になりなよ!」
 「ファラリスもマーファも、これに関してはなぁ…」
 「まぁ、これから覚えれば良いさ! それよりも、皆…3日間も寝ていてごめんね。」
 「それは仕方がないだろう…あんな力を見せ付けられたんだ。 反動が来てもおかしくはないが…それにしても、凄まじい力だったな。」
 「僕もあんな力があるなんて思わなかったよ。 まぁ、またやって見ろと言われても自分ではもうあの姿にはなれないと思うけどね…」
 「あれだけの力があって父様も母様も愚かな選択をしたもんだ…」
 「シオンが望むなら、私達が父様や母様を説得…いえ、シオンが望む望まないじゃないわね、父様に掛け合ってあげるわ!」
 「あ、それは良いよ…家に戻ったところで肩身狭い思いをするのは沢山だしね。 僕は地道に稼いでいくから…」

 兄妹達の申し出は嬉しいけど、僕はもう冒険者で稼いで行く事を決めた。
 だから、甘える訳にはいかないのだ。

 「遠征の各班の期日は明日の昼間までだよね?」
 「そうだな…今から馬車を飛ばせば間に合うかもしれないが…」
 「それなら、問題無いよ。 もう夕方だし、今日はここで1泊して明日戻ろう! だから、これから風呂の準備をするから、風呂に入って…それと脱いだ物は洗濯しておくし、破損した武具は修復しておくからね。」
 「シオンが望むなら…いや、これは言わないでおこう。 お前は自分の進むべき道を見付けた訳だしな…」

 話を終えると、僕は風呂の準備を始めた。
 そして風呂に入っている間に洗濯をしてから、武具の修理を鍛冶で打ち直したり修復をして行った。
 さすがにツインヘッドドラゴンのブレスで溶けてしまった盾の修復だけは無理だったが、それ以外は完璧に修復をした。
 僕はツリーハウスから降りて、馬に餌を上げていた。
 すると、ラーダとマーファが僕の元に来た。

 「シオン兄さん、今回は色々迷惑を掛けて済みません。」
 「シオン兄様が居なかったら、私達は…」
 「ラーダもマーファも、今回は良く頑張ったよ! 初陣であんな巨大なドラゴンが相手だったんだ、恐怖を感じるな…というのは無理な話さ。」
 「だけど…兄様があのドラゴンに致命傷を与えなければ、私達はいまこうして話している事も出来なかったから。」
 「兄さんは僕達の英雄だよ!」
 「英雄か…攻撃が一切出来ないけどね!」

 僕は2人を抱きしめた。
 そして2人の頭を撫でながら言った。

 「これで、ラーダとマーファは新米騎士では無く、ドラゴンに立ち向かった勇敢な騎士に生まれ変わった。 これからは、ファリス兄さんやファラリス姉さんを支えられる立派な騎士になるんだよ。」
 
 2人は無言で頷いていた。
 見た目は立派な騎士でも、2人は可愛い僕の弟と妹だった。
 ハウスを見上げると、ファリス兄さんとファラリス姉さんが僕達を見て涙ぐんでいた。
 僕は頷いてみせると、ファラリス姉さんは部屋に入って行った。

 「さぁ、マーファ…もう遅いから部屋に帰ってお休み。 それと、ファリス兄さんを呼んで来てくれるかい?」
 「わかりましたわ、おやすみなさい兄様。」
 
 マーファは梯子を上って部屋に行く時に僕の伝言をファリス兄さんに伝えてくれて、ファリス兄さんは降りて来た。
 
 「どうしたシオン?」
 「ファリス兄さんもラーダも今回の件で話がある。 聞いて貰えないかな?」
 
 僕は今回の遠征で、戦闘経験があまりない者があんな大物と戦うのはおかしいという話をした。
 そして話し合っていく内に、今回の遠征は仕組まれた物ではないかという点に気が付いた。

 「だとすると…考えられるとしたら、ワルダーか…?」
 「ワルダーかぁ…確かにこんな姑息な事を考えるとしたらアイツくらいしかいないな。」
 「どういう奴なの? そのワルダーっていうのは?」
 「元は侯爵家の三男で、家のコネと賄賂で隊長クラスにまでなったという愚者だ。」
 「そういえばアイツは、姉さんやマーファをえらく気に入っていて、今回の遠征も奴の元に姉さんとマーファが配属されるのを叔父上が無理矢理変更したんだ。」
 「そんな奴…さっさと騎士団から追い出せばいいんじゃないの?」
 「それがそうもいかないんだよ。 ワルダーは絶対防御の鎧と魔法無効化の盾を持っているからな。 それに俺達は上官には逆らえないし…」
 「騎士じゃなければ良いのかな?」

 僕は2人に笑みを浮かべた。
 2人の兄弟も悪い人相になって笑った。

 「証拠は僕の収納魔法に入っている。 それを突き付けてやれば、そのワルダーという男はどういう反応をするかな?」
 「それは面白い事になりそうだが…奴の防具はどうする?」
 「そうだよ、兄さんが如何に魔法に優れていても…」
 「大丈夫! 僕は攻撃魔法は全く使えないけど、回復魔法や補助魔法の他に、結界や守護を破壊出来るマジックキャンセラーとガーディアンブレイクという魔法があるから…」
 
 2人の兄弟は、頭を手で押さえて溜息を吐いた。
 
 「本当にシオンは、王国の魔導士よりよっぽど優秀じゃないか!」
 「治癒術士や聖女よりもだよ…あの人達の回復魔法でも欠損した足や腕を復元で出来る様な回復魔法なんて出来ないというのに…」
 「さて、ではそろそろ寝て…明日に備えますか!」
 「いや、それよりも…どうやって帰るんだ?」
 「そうだよ兄さん! ここまで来るまでに2日掛かったのに…」
 「それは明日の楽しみに! じゃあ、寝よう!」

 ………翌日………

 僕等は朝食を済ましてから外に出た。
 皆は鎧をまとっていたんだが…?

 「何だ? えらく動きやすいぞ! それにこの剣も握りやすい…」
 「私の鎧も凄く軽い! シオン、これは?」
 「皆の鎧は打ち直している時に少し手を加えた。 剣は手にあう様に柄の部分を調節し、鎧には付与魔法を施しておいた…んだけど?」

 4人の兄妹達は呆れていた。
 あれ? 僕はまた何かやったかな?

 「付与魔法は王国にだって1人いるかどうかという者なのに…」
 「もう…何も驚かないわ!」
 「説明するのが面倒なのでありがたいよ。 じゃあ、いくよ~! 帰還魔法・ベイルードの街!」
 
 僕等と馬車は、ベイルードの街の入り口に移動した。
 僕は今回は、酔う事は無かったのだが…兄妹達は、魔法で酔っていた。
 リフレッシュを兄妹達に掛けてあげると、気分が元に戻って立ち上がった。
 そして皆は辺りを見渡して言った。

 「伝説の転移魔法を経験出来るとはな…!」
 「私は驚くのにはもう疲れたわ…」
 「兄さん…もう王国一の魔導士と言っても過言じゃないよ…」
 「兄様…凄い。」
 「さて、そんな事より…さっさとテントに戻ろう!」
 
 僕達は馬車に乗り込んでテントに向かった。
 すると、到着した時にはすでに報告会が始まっていた。
 そして僕等は列に整列しようとすると、ワルダーが大声で叫んできた。

 『何故…貴様らが生きている⁉』
 「なるほど…僕等は死んだ者扱いされていた訳か…」
 「お前達…生きていたんだな?」

 ワルダーを押しのけて、ガスター将軍が走って来た。
 そして僕達兄妹を腕を広げて抱きしめて来た。
 熱い抱擁が終わると、ガスター将軍は振り返ってワルダーに向かって叫んでいた。

 「ワルダー! これはどういう事だ? 彼らは死んだという話だったのではなかったのか?」
 「それは…そのだな…」
 「いやいや、危なかったですよ…まさか指定された先であの様な化け物と戦闘になった訳ですから…」
 「生きて帰って来れたという事は、敵を前にして逃げて来た訳だな⁉」
 「いえいえ、ちゃんと僕達兄妹で倒しましたよ。」
 「なら、その証拠を見せろ‼」
 
 僕は収納魔法から、ツインヘッドドラゴンの死体を出した。
 ガスター将軍はツインヘッドドラゴンを見て驚いた顔をしていた。

 「これはツインヘッドドラゴンか…? それにしては、色が黒いな…」
 「これは進化後のツインヘッドドラゴンだからですよ。 こんな奴がいる事自体、驚きでしたが…まさか進化するとは思いませんでした。」
 「ワルダーーーーー貴様、あの場所にコイツがいる事を知っていたな⁉」
 「お…俺は何も知らん! おい、お前達! 奴等を捕らえろ‼」

 ワルダーは酷く焦った所為か、正常な判断が出来なくなっていた。
 たかが騎士隊長風情が、将軍をどうにか出来る程の権力が無いからだ。
 それにワルダーは、日頃からパワハラが激しいので、騎士の中には命令を聞こうとする者は誰もいなかった。

 「ワルダーーー!!! 貴様は覚悟が出来ているんだろうな⁉」
 「叔父上…奴を懲らしめるのは僕に任せて下さい!」
 「だが、シオンは攻撃が一切出来ないだろう?」

 その言葉を聞いてワルダーはニヤリと笑った。
 僕は「大丈夫ですよ!」というと、ワルダーの元に近付いた。

 「ふっふっふ…貴様が先程使った収納魔法を見て、魔法の使い手だと判断した。 だがな、俺様には魔法を無効化する盾が…」
 「ふーん、そうなんだ?」

 僕とワルダーの会話を見ていたガスター将軍は、ファリスに加勢しなくても良いか聞いてきた。

 「シオンなら大丈夫ですよ。 そこで死んでいるツインヘッドドラゴンのトドメを刺したのは自分達ですが、瀕死の重傷にまで追い込んだのはシオンですから。」
 「叔父上も黙って見ていて下さい。 寧ろ心配するのは、ワルダーの方ですから…」

 後ろで会話していた兄弟の会話をシオンは聞こえていた。
 そして笑みを浮かべると、ワルダーは怒ったような口調で叫んできた。

 「貴様がどんな魔法を使うか知らんが、この盾はな…如何なる魔法も無効にする盾なのだ!」
 「どんな魔法も…ねぇ? マジック・キャンセル・デストラクション!」
 
 僕が放った魔法がワルダーの盾に直撃すると、ワルダーの盾は粉々に砕け散った。
 ワルダーは信じられないという表情をした。

 「ば…ばかな! 如何なる魔法をも無効化する盾がぁぁぁぁぁ!!!」
 「紛い物に決まっているでしょ? そんな国宝級の盾を何故貴方みたいな人が所持を許されるんだよ?」
 「だが、今迄はどんな魔道士の攻撃をも無効化してきたと…」 
 「それは単純に戦って来た魔道士の魔力が弱いからじゃないの?」
 「だが、俺様にはこの鎧とこの魔剣が…」
 「ガーディアンブレイク! ウェポンブレイク!」

 僕は続けさまに2つの魔法を放つと、魔剣を破壊し、鎧も粉々に砕け散った。
 武具を失ったワルダーは醜い体系を晒していた。
 そしてこの場から去ろうとしていたので、ライトニングバインドで拘束+感電させたら倒れて動けずにいた。
 僕はワルダーに近付くと、ワルダーは泣きながら謝罪をしてきた。

 「済まなかった! だから許してくれ!」
 「謝罪ってそれだけ? そんな事で死にそうになった兄妹達を許せと? 貴方には城に帰るまでの間、とっても素敵な牢獄に閉じ込めておいてあげるよ! 闇魔法・奈落!」
 「ぐわぁあぁぁぁぁああぁあっぁぁぁぁ!!!」
 
 ワルダーは黒い球体に吸い込まれて行った。
 それを拾い上げてから、ガスター将軍に渡した。

 「ワルダーがこの中に吸い込まれて行ったが、これは一体⁉」
 「これは闇魔法の奈落といってね、光もないし音もないし匂いもないという虚無の空間で、ここの1日はこの中だと1年になるの。 更に自殺を図っても闇の力で生き返るから死ぬ事も出来ないという…地獄の様な場所さ。」
 「何ともえげつない魔法だが…奴には似合いの場所だろう。 それにしても、シオンは魔法が使えたのだな?」
 「家から追い出される前に魔法が使えたら…いや、攻撃が出来ないからどっちにしても状況は変わらなかったか…」
 
 僕はそういうと、皆から離れた場所に立った。
 その後、辺境伯とガスター将軍による報告会が行われ、グラッドの騎士達が一番の討伐の優秀賞を得た。
 僕は兄妹達が喜んで騎士達に囲まれている姿を見ながら小さな拍手を送った後に、家族に別れを言わずにその場を去った。
 
 その翌日…
 僕はいつも通りに冒険者ギルドに顔を出すと、いきなりギルドマスターに呼ばれる事になったのだ。
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