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第一章

第九話 覚醒無双 (攻撃は出来ませんが…)

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 ツインヘッドドラゴンは、突然首を胴体の方へ後退させた。
 それを追おうとする兄妹達だったが、僕は止めた。
 明らかに様子が今迄と違うと思ったからだ。
 そして更に言えば、得体の知れない何かを感じたという事もあるからだ。

 「こちらが決して優勢だった…という訳ではないのに、何故?」
 「シオン、何故止めた? このまま追い打ちを掛ければ勝利していたかもしれないというのに…」

 兄妹達は不満そうな顔をしていたが、僕の感が危険だと発していたからであった。
 ツインヘッドドラゴンの黄金色の体が光りだすと、鱗から全身が黒く変色して行った。
 明らかに今迄と違う…僕は鑑定をした。
 するとツインヘッドドラゴンは、進化をしようとしていた。
 
 「進化…だと⁉」
 「進化って何だ⁉」
 「皆! 逃げよう…今の僕達では絶対に勝てない‼」
  
 これは…ヤバい!
 今迄だって優勢だった訳じゃない相手が進化で更に強くなっている!
 僕は皆に向かって叫んだ。
 だが、皆はツインヘッドドラゴンの方を向いて武具を構えたまま動かなかった。

 「俺達は騎士だ‼ 騎士は逃げる事を許されない‼」
 「変な意地を張らないでよ! どう見たって勝てる相手じゃないだろ⁉」
 「シオン…お前は騎士ではない民間人だ。 お前だけでも逃げろ! そして他の騎士達に伝えてくれ。」
 「ファリス兄さんは、僕の性格を解った上で言っているの? そんな事を言われて僕が逃げれる訳がないじゃないか‼」
 
 僕達は激しい言い合いをしていると、ツインヘッドドラゴン進化を終了してこちらに向かって首を伸ばしていた。
 そして口を開いた。

 「ファリス兄さん⁉」
 「ちっ…話す時間すらもう無いのか…シオン! 早く逃げろ‼ お前が逃げれる時間くらいは稼いでやる‼」
 
 ファリスは武器を構えてツインヘッドドラゴンに向かって行った。
 剣で斬り掛かったのだが、進化前とは違い…進化後の鱗には歯が通らなかった。
 そしてファリスは、ツインヘッドドラゴンからのブレスを直に浴びた。
 盾で身を守る様にしたが、盾はバターの様に溶けてファリス自身も大火傷を負った。
 僕のバフ魔法が幾らかやわらげた筈なのに、それでもこんな状態だった。

 「シオン! 早く逃げなさい‼」
 
 ファラリスが剣を構えてツインヘッドドラゴンに向かって走りだすと、ラーダとマーファもファラリスに続いて向かって行った。
 
 「皆、駄目だーーーーー!!! 戻れ!!!」
 
 もう一方の首から青く光り輝くブレスを放つと、3人は全身を氷に包まれた。
 そしてツインヘッドドラゴンが、頭で氷った3人に向かって攻撃しようとしてきた。
 僕はこのままだと兄妹達は粉々に砕かれると感じて、急いで防御魔法を展開した。
 だが、防御魔法は大した効果が無く…全身を粉々にされる事は無かったが、兄妹達の手足が砕けていた。
 僕は魔法で兄妹達を引き寄せると、守護結界を展開してブレス攻撃を防いでいた。
 だが、2つの首が同時にブレスを放つと、防いでいた筈の守護結界も所々にヒビが入っていた。
 僕はもう一方で兄妹達に回復魔法を施していた。
 だが、一向に怪我が治る気配が無い。
 鑑定をしてみると、呪詛の効果で回復魔法を弾いていたのだった。
 
 「守護結界を維持しながら、回復魔法と呪い解除の魔法なんて…」

 守護結界が端から少しずつ崩れていくと、僕は回復魔法を一度止めて守護結界を張り直した。
 だが、ツインヘッドドラゴンもブレスの威力を高めて来た。
 張り直した守護結界がすぐに崩壊し始めて来た。
 僕は風魔法をツインヘッドドラゴンに向かって放ったが、攻撃魔法はやはり使えなかった。

 「なんで僕は攻撃が出来ないんだ‼ このままじゃ…みんなが…みんなが…⁉」
 「シオ…ン、まだ…逃げていな…かったのか?」
 「ファリス兄さん、動いちゃだめだよ‼」
 
 ファリスは立ち上がると、僕の体を強く押して突き飛ばした。
 すると、片腕を失ったファラリスも立ち上がって僕を見た。
 ラーダもマーファに支えられながら立ち上がって僕に微笑みかけた。
 そして4人は僕を守る様に盾になり、ブレス攻撃を受けて…
 黒く炭の様な姿になり果てた。
 僕は駆け寄ると、微かにまだ息があるのを感じた。
 
 「なんで…僕なんかの為に…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 僕の体は、全身に眩い光が放出されて…体から魔力が吹き荒れていた。
 左手を出してツインヘッドドラゴンの2つの首からのブレスを魔法で防ぐと、右手で兄妹達を回復魔法を展開した。
 兄妹達の呪詛は解除されて、怪我や欠損した腕や足を復元した。

 「俺達は…? シオン!? その姿は一体!?」
 「気が付いた? コイツは僕が抑えてチャンスを作るから…トドメをお願いね!」

 4人は顔を見合わせてから頷くと、剣を手に取った。
 そして…ツインヘッドドラゴンは更に威力を上げたブレスを放って来た。
 僕は奴等のブレスを盾の様な防御魔法で受け流していたが、その防御魔法を解除して奴等のブレスを溜め込む様な2つの球体を出現させた。
 奴等のブレスはその球体に吸い込まれて行き、徐々に拡大していった。
 そしてブレスが止むと、巨大になった炎と氷の塊になっていた。
 2つの球体を1つにすると、光り輝く球体に変化したので、それをツインヘッドドラゴンの片方の首に放った。

 「ほら、返すよ!」

 左右の右側の頭に光り輝く球体が接触すると…瞬時に光に包まれてから、右側の頭と首が焦げて動かなくなっていた。
 左側の頭は焦り出し、僕に向かって無駄にブレスを吐きまくっていた。
 僕はブレスを球体に押し込めると、ツインヘッドドラゴンに向かって言った。

 「どう? 追い詰めていた相手に追い詰められる気分は?」
 
 ツインヘッドドラゴンは、体の向きを変えて逃げようとしていた。
 僕は攻撃魔法を放とうとしたが…この姿でも攻撃魔法は出来なかった。

 「逃す訳ないでしょ? 何処に行こうとするのさ…グラビィティ!」

 僕は重力魔法のグラビティを空に発現させた。
 ツインヘッドドラゴンは、空にある巨大な黒い球体に引き寄せられていった。
 そして僕自身も浮遊魔法で上昇すると、ツインヘッドドラゴンごと上空に上昇して行き…雲の上にまで出た。

 「僕には攻撃手段は無いから、代わりにこんな方法をとってみたんだけど…君はこの高さから落ちても無事に済むのかな?」
 「グ………グワヲォォォ?」

 僕の重力魔法のグラビティは、本来はこういう使い方をする為では無い。
 河原にある砂利の中から砂鉄を集める際に使う魔法である。
 対象を特定出来るので、ツインヘッドドラゴンを持ち上げる程の重力魔法が発動されているのに周りに被害が無いのはそういう理由だった。
 僕は指を鳴らすと、黒い球体は破裂して…ツインヘッドドラゴンは地面に真っ逆さまに叫び声を上げながら落ちて行った。
 そして地面に激突すると、巨大な砂煙が巻き起こった。

 「あ…下にいる皆は大丈夫かな?」

 僕はゆっくり地面に向かって降りて行くと、砂煙によって咳き込んでいる兄妹達だった。
 そしてツインヘッドドラゴンは、地面に激突したダメージで痙攣していた。

 「今だ! トドメをお願い! かの者達に竜を斬り裂く刃を与えよ、ドラゴンセイバー!」

 シオンが兄妹達の剣に放った魔法は、刀身が白い閃光を放っていた。
 そして兄妹達は、頭に攻撃をしようとしていた。

 「違う! 頭じゃなくて胴体の急所を狙って‼︎」

 生物の急所は頭なのは確かだが…二首のドラゴンの場合は、どちらかが死んだとしても片方は生きていた。
 なので大元にトドメを刺す様に誘導をした。
 兄妹達は胴体に辿り着くと、ラーダとマーファが剣で鱗を斬り裂いた。
 そしてファラリスがツインヘッドドラゴンの心臓に剣を突き刺すと、痙攣していた筈の左側の頭が急に目を覚まして起き上がり、ファラリスに向かって行った。
 ファリスは左側の首を側面から近付いて切断した。
 ツインヘッドドラゴンを倒したのであった。
 兄妹達は急激なレベルアップで動けずにいた。
 僕にはレベルというものが無い。
 なので、ステータスの数値が上がって行くだけだった。

 「これじゃあ、皆は今日は動けないだろうね?」

 僕はツリーハウスに戻って、もう1泊の準備をしようとした。
 その時、僕の光っていた体の光が消えて、僕は激しい眩暈と脱力感に襲われて立てなくなり…気を失う様に眠ってしまった。

 そして僕は、3日間眠ったままだった。
 目を覚ました僕を待っていたものは…?
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