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第一章

第六話 騎士団からの要請 (Fランクを指名? なんでまた…)

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 翌日、シオンはいつも通りに冒険者ギルドに来て、クエストボードを見ていた。
 昨日に結構な報酬を貰って懐具合が潤っているにもかかわらず、仕事は普通に行うのである。
 それはなぜか?
 グラットの街では、実家での後ろ盾を失っていたが兄妹が気に掛けてくれて色々支援してくれたのだが、この街では全くない。
 なので、稼げる時に稼ぎ…仕事は無い時は仕方なく他に出来る事をする…というのがシオンの心情なのだ。
 有名な童話のアリとキリギリスでいうならば、シオンはアリで絶対にキリギリスにはならないのである。
 なんだけど…?

 「あれ? 今日も仕事が無いよ??」
 
 Fランクの仕事は基本的にFランクしか受ける事は無い。
 そしてFランクは、それ以上のランクの仕事を受ける事は出来ない。
 指名依頼でもない限り、Fランクの仕事はFランクのみなのだ。
 逆に高ランク冒険者は…例えばBランクでいうと、Fランク~Bランクの仕事は自由に受ける事が出来るのである。
 その為に、高ランカーがFランクの仕事を奪っていくという事もあったりするのだが…報酬額を考えると高ランカーがFランクの仕事を受けるという事はあまりない…のだけど?
 
 「まいったな…ドブ清掃の仕事はおろか、薬草採取すらないなんて…」

 この2つの仕事は主にFランクの仕事で、ギルド内の仕事で不人気ナンバー1と2の仕事である。
 なので、シオン以外が受ける事はあまりない…筈なのだが?

 「あ、シオン君! ちょっと良いかしら?」
 「あ、ミザリアさん。 何でしょうか?」

 僕が仕事が無くて困っていた所に、ギルド職員の受付嬢のミザリアが声を掛けて来た。
 僕はカウンターに行くと…

 「実はね、シオン君に指名依頼が来ているんだけど?」
 「え? 僕に…ですか!?」

 この街に来てまだ日が浅い僕が、指名依頼を受けれる様な事はまずある筈がない。
 可能性があるとすれば、道具屋の親方か…辺境伯からはさすがにないか。
 
 「どんな指名依頼ですか?」
 「正確に言うと…この街のサポーター全員に声を掛けていたんだけど、6人中5人しか決まらなくてね、1人だけ欠員が出てしまって…相手側からシオン君を指名して来たの。」
 「大規模レイド…とかですか? でもそれなら僕は選ばれないか…」
 「半分正解ね…この街の方に遠征して来た騎士団が冒険者ギルドにサポーターの要請をしてきたの。」
 「騎士団…ですか?」

 他の大陸では知らないけど、この国の騎士団と冒険者は非常に仲が悪い。
 英雄クラスの冒険者とかなら騎士団は無理を言わないのだが、低ランク冒険者の場合は話が違ってくる。
 基本的に騎士達は、冒険者を下に見る傾向があり…冒険者も騎士と連携はあまり好まないのである。

 「なるほど、この街にサポーターって結構いますけど、ほとんどが騎士団と聞いて断った訳ですね。」
 「報酬は良いんだけどね…あまり乗り気じゃない人が多くて、皆断って行くのよ。」
 「あれ? そういえば…僕だけ相手側から指名して来たと言っていましたね?」
 「騎士団には、ランクに関係なくサポーターの情報を渡してあるのよ。 その騎士の隊長クラスがシオン君を見て指名して来たの。」
 「隊長クラスが…ですか?」

 兄妹全員騎士団には所属しているけど、隊長クラスを任される程の実力はない筈…
 身内では無いとするのならば…小間使いには丁度良いと思った人が僕を指名した可能性が高いな…
 僕は一気にやる気が削がれた。
 
 「ちなみに、報酬って幾らです?」
 「金貨5枚なんだけど、どうする?…って言っても指名依頼だから余程の理由が無いと断れないのだけど…」

 金貨5枚ねぇ?
 冒険者にとっては魅力的な報酬の筈なんだけど…仕事内容を天秤にすると、それでも割に合わないと考えるのかなぁ?
 それに指名依頼は、余程の理由が無いと断れないというし…でも、当面の生活費を考えると…う~ん?

 「断る理由が見付からないので受けます…ですが、僕は呪いの所為で攻撃が一切出来ないという事は、相手は御存知なんですか?」
 「それは問題ありません。 サポーターに願うのは、戦闘ではなく身の回りの世話らしいですから…相手側もそれを承諾してシオン君を指名しているので…」
 
 あ…これ、絶対に嫌な予感しかしない!
 騎士団の中には男色好みの者もいると、兄さんが話してくれた事があったっけ?
 僕の容姿って…筋肉はそれほど付いている様には見えないし、背もそれほど高くないしな…
 昨日の【疾風の戦乙女】のメンバー達の中で僕が一番背が低かったし…
 何より童顔でたまに女と間違われるからなぁ…こんな苦労を知っている人って他にいないよね?

 ………シオンのいる大陸とは別のバストゥーグレシア大陸では………

 「えっきしょい!」
 「リュカ兄ぃ…風邪?」
 「いや、解らない…何かクシャミが出た。」
 「噂されているんじゃないか?」
 「そうなのかな? それよりも、リッカ、ガイアン急ごう!」

 3人の冒険者は、目的地に向かって走って行った。

 ………シオンの元に戻る………
 
 「それで、何処に行けば良いんですか?」
 「ベイルードを出てから、平原に陣を取っている騎士団のテントがありますので、そちらにこの手紙を持参して向かって下さい。」

 僕はミザリアから手紙を受け取ると冒険者ギルドを出た。
 そういえば、何日間の遠征なのかを聞くのを忘れたけど…まぁ、食材云々なら向こうでも用意されていると思うし、収納魔法の中には1か月くらいなら十分な食料も入っているし大丈夫だろう。
 僕は街を出ると、平原に向かって行った。
 
 「…って、街から出てすぐの場所じゃん! あれ? 騎士団以外にカルスゲール辺境伯の紋章が…って、考えてみれば騎士団が来るなら辺境伯が絡んでいてもおかしくないか…」

 カルスゲール辺境伯のテントの前にサポーターの冒険者が集合していた。
 僕も急いで列に並ぶと、辺境伯が現れて説明をした。

 「今回の騎士団の遠征は、冒険者との連携を図る為でもある。 騎士達は冒険者を下に見る者もいるだろう…だが、そう言った垣根を払って事に当たって貰いたい! これから名前を呼ばれた者は、その番号のテントに向かってくれ! テルーヤは1番テントへ、バルシュトは2番テントへ…」
 
 なるほど、僕等からでは所属する騎士を選べないのか…
 どうか…横暴な騎士や男色好きな騎士の元には当たりません様に…切に願う!
 
 「最後、シオン! ん? シオン・ノート!」
 「あ、はい!」
 「シオンは6番テントだ!」

 カルスゲール辺境伯は、僕に向かってウィンクをした。
 僕はその意味が解らなかった。
 そして6番テントに行き、中に入ってから頭を下げて挨拶をした。

 「今回、ここに配属されました…シオン・ノートと申します! 宜しくお願いします!」
 「丁寧な挨拶嬉しく思う。 だが、先程辺境伯が言った通り、君達との垣根を払って事に接したいと思っているので、顔を上げて欲しい。」
 
 あれ?
 この声に聞き覚えが…?
 僕は頭を上げて騎士達を見ると、そこには…!?
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