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第一章

第二話 知名度の上げ方 (攻撃が出来ない冒険者なんてお荷物でしかありません。)

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 このベイルードの街で僕が最初にする事は、名前を売る事から始める。
 とは言っても、別に喧嘩を吹っかけて悪名を広めようという話ではない。
 地道にクエストとは別に、住人が困っている事に協力して知名度を上げるのだ。
 僕に出来る事を考えるとそれしか無いからである。
 
 別にFランクに拘っているわけではない。
 ランクが上がるなら上げたいとは思っている。
 ランクが上がれば、今以上に稼げるクエストが受けれるし、何より知名度が上がる!
 だけど、ランクが上がると厄介な事がある。
 それは戦力として期待されるかも知れないのだ…
 僕はまだ家にいた頃に兄妹達と剣の稽古はした事があるのだが、寸止めなら武器は弾かれないのだが…体に当てようとすると、手から弾かれてしまうのだ。
 なので、僕は武器を一切持たない事にしている。
 
 「さて、この森で採れる薬草は…?」

 この辺境の街・ベイルードでは、薬草採取はほとんど人気が無い。
 …というのは、Fランクの冒険者は恐らく僕くらいしか居ないからだ。
 この街の出身者で冒険者登録はしても、ここで仕事を探すのは困難だからである。
 この街の周りは、中ランクから高ランクの魔物が多い。
 この街の低ランクの仕事は主に、薬草採取か雑用しかない。
 ランクを上げて活躍する!…という考えの低ランクの冒険者は、依頼の少ないこの街を離れて、依頼の多い都会に出た方がまだ仕事があるからだ。
 なので戦えない僕にとっては、この街は理想の環境なのである。
 何故なら…この街でFランクの僕をチームやパーティに誘おうとする者がいないからだ。

 「サーチ…薬草!」

 僕は探索魔法で薬草を探した。
 人気がないだけあって、薬草はかなり多く存在していた。
 まぁ、中ランク冒険者や高ランク冒険者は、薬草で傷を癒すという事をする人はあまりいない。
 商業ギルドでポーションを購入する人が多いからだ。
 なので、冒険に必要な資材は他の街から多く仕入れて販売されている。

 「この薬草は…前にいた街より品質が高いな。 これでポーションを作れば、中級ポーションを作れそうなものだけど?」

 薬草はすぐに生えて来る。
 ただし、1度刈り取ってから品質や効果が高くなるのはそれなりの日数が掛かる。
 都会の方では、初心者のクエストで生えたばかりの薬草をすぐに刈り取る為に、品質や効果が高くなるまで待つ事ないので…ポーションの効果もそれ程高くないのだ。
 
 *わかりやすくいうと、キュウリで例えます。 スーパーで売られているのは早めに刈り取られたものです。 家庭菜園などで、すぐに刈り取らずに長い時間を掛けると丸々太り、水分を多く含んで甘みが増します…が、そこまで待つ人は少ないのでしょう。
 
 僕は身近にある薬草を片っ端から刈り取った。
 サーチで検索するとかなりの量があるけど、全てを刈り取ってもそこまでの需要が無くなるからだ。
 少量なら高く売れても、量が多ければ単価が下がるからである。
 何事も程々が1番良いのです。

 「ん? 人の反応と…魔物の反応か? 囲まれているのか?」

 冒険者なら自分で対処出来るだろう。
 ただ、生命反応が小さくなっているところを見ると危険なのだろうけど…

 「戦えない僕が首を突っ込むのもどうかとは思うけど、発見してしまったし…このまま見捨てるのも気が引けるしなぁ…」

 僕は反応がある場所まで急いで向かった。
 すると、馬車が横倒しになっていて、周りには兵士が数人倒れていた。
 オウルベアが馬車の中から、ドレスを着た少女を引き摺り出そうとしていた。
 少女は気を失っているみたいで、頭から血を流していた。

 「拘束魔法・アースバインド! 麻痺魔法・パラライズ!」

 オウルベアを大地の鎖で拘束した後に麻痺の魔法で動きを止めた。
 オウルベアは麻痺で動けない筈なのに、必死にアースバインドの拘束を解こうともがいている。

 「しぶといな…雷魔法・スタンショック!」

 オウルベアに電撃の魔法を喰らわせると、その効果で動かなくなった。
 スタンショックは殺傷力は無いけど、意識を断ち切るという気絶効果のある魔法だった。
 僕はその隙に、兵士三人とドレスを着た少女にヒールを掛けた。
 だが、兵士三人はもう事切れていた。
 少女は無事だったので、横に寝かせて休ませている間…
 兵士に手を合わせて祈りを捧げてから、布に包んで収納魔法に入れた。
  
 「少女の怪我は大した事ないけど、意識が目覚めないな…」

 僕は馬車から少女の荷物らしき物を取り出して、収納魔法に入れた。
 そして馬車を見ると、この地方の辺境伯の家の紋章があった。
 
 「これは、カルスゲール辺境伯の紋章か…という事は、この少女は辺境伯の令嬢か?」

 少女が目覚めないので、僕は少女をおぶって街に向かった。
 そして街に辿り着くと、入り口にいた騎士に事情を説明してから辺境伯の屋敷に案内された。
 屋敷に入った所で、少女をメイド達に渡してから馬車の荷物を収納魔法から出して置いた。
 役目を終えた僕は、そのまま去ろうとしたが…執事に呼び止められてから領主の部屋に案内された。
 
 「君が我が娘のアデリシアを救ってくれた冒険者か! 礼を言おう!」
 「お久しぶりです、カルスゲール辺境伯…私は…」
 「うん? 君は…グラッド伯爵の御子息だったか?」
 「今はグラッド家から追放されている身なので、グラッドの名を名乗れませんので…シオン・ノートと名乗っております。」
 「君程の人物を追放など…お父上は何を考えられているのだ!」
 「僕は戦いの術を持ちませんので、不要として疎まれていましたのでしょう。」
 「だが、君は我が娘を救ってくれた恩がある。 可能な限り、望む物を与えよう!」
 「では、この屋敷にいる騎士団の方に御目通りをお願いします。」
 
 僕は執事の案内で、騎士団の詰め所に案内された。
 
 「私がこの騎士団の団長を務めるルガインだ! この度はお嬢様を窮地から救助してくれた事を感謝する! それで、私に用とは?」
 「お嬢様を守る為にオウルベアに立ち向かった、勇敢な方達を運んで参りました。」

 僕はそう言って、収納魔法から兵士の亡骸を地面に取り出した。

 「本来なら兵士が命を落としても、国に連れ帰ってやれる術が無く、燃やすか埋葬するしか無いのだが…シオン殿のお陰で家族の元に帰してあげられる…」
 「あのまま置いていくには気の毒に思い、何としても連れて帰りたかったのです。」
 「そう言ってくれるとありがたい! 亡くなった兵士達も報われるという物だ。」

 ルガインは右手を挙げると、騎士達が整列した。
 そして頭を下げて言った。

 『おかえり、同志達よ!』

 僕はルガインに挨拶してから、その場を去った。
 そして屋敷の執事に挨拶をしてから屋敷を出て街に帰った。
 冒険者ギルドで依頼完了の薬草を必要量渡すと、報酬を受け取ってから宿に帰った。
 クエストでは無いが、ポーションを作って売る為に錬金術で製作したのだった。

 カルスゲール辺境伯とアデリシアという少女は、今後の展開で大きく関わってくる事を今のシオンには知る由も無かった。
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