僕は最強の魔法使いかって?いえ、実はこれしか出来ないんです!〜無自覚チートの異世界冒険物語〜

アノマロカリス

文字の大きさ
上 下
65 / 84
第三章 新大陸に向けて…

第九話 ガーヴァメンデの職人街…と、残りの勇者

しおりを挟む
 陽がとっぷり暮れた頃に、クライヴとリラの父であるチャールズ・アリエスは屋敷に戻ってきた。
 何やら憑き物が取れたようにチャールズは穏やかな笑みを浮かべていた。

 リラはふたりが何を話したのか少し気になったものの、男同士の会話を尋ねるなど不躾だろうと思い尋ねることはなかった。



 晩餐後。
 リラとクライヴはチャールズの執務室に案内された。
 要件はもちろん、チャールズが婚約証書に署名するためであった。

 チャールズは執務机の正面のソファに座るようにふたりを促した。

「リラ、クライヴ様と一緒にいて幸せかい。」

 チャールズは、真剣に真っ直ぐな瞳でリラに尋ねた。
 おそらくこれはリラへの最後の確認なのだろう。

 この婚約証書にチャールズがサインすれば、後戻りはできず、クライヴとの婚約そして結婚はより約束されたものになる。

「はい、お父様。クライヴ様といて、とても幸せです。」

 リラは緊張しながらも、真っ直ぐ瞳でチャールズにそう答えた。
 リラに迷いはなかった。

 誰かといて、これほどまでに心が動かされることなど初めてだった。
 おそらくこれからもクライヴ以外の人間にこれほど心を動かされることはないだろう。
 リラは素直にそう思えたのだった。

「そうか。リラ、幸せになってくれ。忙しいとは思うが、我が家にも領地にもいつでも遊びにきて構わないからな。」

 チャールズは立ち上がり、執務机に向かうとササッと机に置かれた羽ペンで二枚の婚約証書に自身の名前を記し、横に家紋の捺印を行うと一枚をクライヴに手渡した。

「クライヴ様、大変お待たせいたしました。こちらでよろしいでしょうか。」

「ありがとうございます。義父上《ちちうえ》。」

 『義父上』その言葉を受けチャールズは照れくさそうに優しく微笑んだ。

「こちらこそ、義息子《むすこ》になってくださってありがとうございます。」



 翌朝。
 ふたりは街の外れの墓地を訪れた。
 これからの門出を母に報告ためだった。

「クライヴ様、わざわざこちらにお越しいただきましてありがとうございます。」

 リラは墓跡を花を供えながら、クライヴに礼を言った。

「いや、いずれ訪れたいとは思っていた。」

 クライヴのその言葉にリラは目頭が熱くなった。

「俺も手を合わせていいだろうか。」

「はい。もちろんです。」

 リラは、手を合わせ終わるとクライヴにその場を譲った。
 暫くクライヴは目を瞑り手を合わせていた。



 クライヴが祈り終わると、ふたりはそのまま馬車に乗りアクイラ国皇城へと出発した。

 アクイラ国までは橋を渡ればすぐであるが、皇城までは馬車で三日であった。
 リラは、これから待ち構える出来事に不安を抱えながら移り行く景色を眺めていた。

 皇城についたら、まず最初はアクイラ国皇と皇后への挨拶だろう。
 それから婚約式の打ち合わせ、結婚までのスケジュールの相談などやることは山積みである。

 リラの希望としては、領地でやり残した仕事や学園の卒業式もあるため、挨拶が終わったら一度領地に帰りたいと思っていた。

(色々、クライヴ様と相談しなくては…。)

「リラ、改めて礼を言わせてくれ。」

 物思いに耽るリラにクライヴはリラの左手を取り、薬指をなぞりながら話しかけた。

「婚約に了承、いや、妻になってくれる決断をしてくれてありがとう。」

 そう言うとクライヴはその手に口付けをした。

「リラの家族はいいな。ルーカスは面白いし、チャールズはとても優しく、心温かい家族だよ。今まで出逢ったどんな貴族よりも素晴らしい家族に思えた。」

 クライヴはもの寂しげな表情を浮かべた。

「リラに、あらかじめ謝っておきたいことがある。」

 リラは、いつになく頼りないクライヴの表情にドキリッとした。



 一体、今からどんな言葉が紡がれるのだろうか。

(まさか、未だにアクイラ国皇に了承を得ていないのかしら…。)

 元々身分違いの結婚である、結婚証書は発行されているものの未だにアクイラ国皇や皇后の了承を得ていない可能性は十分にあった。
 そうなると、もしかしたら本国に別の婚約者が待っているのかもしれない。

 リラは身震いし、不安に怯えた表情を浮かべた。

 クライヴは、そんなリラの表情を見ると、少しだけ口元を緩めると優しく肩を抱き寄せた。

「結婚については問題ないと思っているのだが、不安なのは俺の家族のことだ。」

「え?」

 リラは意味がわからないといったように小首を傾げた。

「以前にも話した通り、俺は家族と決して良好な関係ではない。母と弟は俺以上に癖のある人間だ。そのことでリラを悩ませるかもしれない。そのことがリラに申し訳なくて。」

 リラは自分が想像したよりも他愛ない内容に拍子抜けしたのか、きょとんっとした表情を浮かべ、吹き出したように笑い出した。

「ふふふっ。ごめんなさい。そんなことを心配されているとは思わなくて。」

 クライヴはリラの反応に驚いた表情を浮かべた。

「大丈夫ですわ。私は、元々片田舎の伯爵家の娘ですわ。皇族に入ることが相応しくないことは重々承知です。鼻から好かれると思っておりません。」

 そうリラは最初から自身がクライヴの家族にすんなり受け入れられるとは思っていなかった。

 リラが一番よくわかっていたのだった。
 この婚約そして結婚が素直に受け入れられるものでないことを…。

 クライヴが直々に選んだとはいえ、リラはアベリア国に対して全く権力のない片田舎の伯爵家の娘である。

 そんな娘を何処の皇族も手放しで喜んで迎えるなど、到底考えられなかった。
 どちらかといえば願い下げという方がしっくりくる。

「けれど、私、クライヴ様と一緒に生きると決めましたの。だから、なんとか相応しくなれるように教養を身につけていこうとは思ってますわ。それをこれからはきちんと伝えていこうと思っておりますの。うふふ。」

 リラは肩をすくめて照れながらもニッコリ笑ってそう言うのだった。

 クライヴはやはり何か腑に落ちない表情を浮かべながらも、リラを強く抱き寄せた。

 クライヴの中では、不安が拭いきれないのだろう。

 リラはクライヴの過去を垣間聞いただけでも、想像を絶していた。
 きっとクライヴはリラが想像に及ばないほどの不便があったに違いなかった。

(これから妻になる私がこの人を支えていかなくては…。)

 リラはそう思いながら、優しくクライヴの腕に頬擦りした。

「さあ!そうと決まればやはり勉強ですわ!」

 リラは気合を入れ直した。
 兎にも角にもクライヴを支えるためにもクライヴの不安を払拭するためにも、自分には教養が必要である、リラはそう思い、目の前の席に置かれたアクイラ国の歴史が書かれた書籍を手に取った。

 そんな真面目なリラにクライヴは退屈そうな表情を一瞬浮かべたかと思うと、ニヤリと意地悪く笑った。

「そうそう、今日からの宿は一緒の部屋を手配するように頼んでおいたから。」

「え!え?え!?」

 リラはあまりの発言に驚き慌てて振り返り、持っていた書籍を落としそうになった。

「どういうことですか!?」

「もう夫婦になったも同然だと思ってね。夫婦は一緒の部屋だろう。」

「え?(いやいや、まだ夫婦どころか婚約もしていませんわ。)」

「嫌だった?」

 クライヴは眉尻をワザとらしく下げて寂しそうにそう言った。

「嫌ではありませんわ。(そんな表情をされては断れないじゃない!!)」

 リラはぶんぶんっと大きく首を横に振った。

「それなら良かった。」

(良かったのだろうか…。)

 異性と寝室を共にするなど、もちろん経験のないリラは顔を真っ紅にしながら目を回していた。

「あ。そうそう。せっかくなら、それ、俺が教えるよ。」

 クライヴは、疲弊したリラを後ろから抱き寄せたまま歴史書のページを捲った。

(このまま勉強など頭に入りませんわ…。)
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...