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第二章 冒険者としての活動

第八話 神獣達が管理する大陸・中編

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 「あ、別に勝つ必要は無いのか!」

 僕が先程までに、勝つとか云々の話は…動きを止めれるかどうかと言う話だった。
 だって、目の前で大木を薙ぎ払う程の暴れっぷりで、言った所で止まってくれるという事もないだろうし、アレの動きを止める方法があるのなら、是非教えて欲しい位だ‼︎
 
 「呪いがどの場所に取り憑いているかが問題ですね。体内に入られていたら、打つ手はありませんよ。」
 「流石の神獣様でも、体内に侵入を許すとは思えない。予想だが、場所を特定するのなら…頭の後ろでは無いかと思うのだ。」

 頭の後ろと言われてもなぁ…?
 このフェンリルの高さは、タワマンの屋上…位の高さがあるから、タワマンクラスの屋上から飛び降りでもしない限り、届きそうも無い。
 …とはいえ、それに近い建物も無いわけだし…?
 自分から地面に寝っ転がってでも無い限り、届きそうも無………ん?

 「フェヴロンさん、この神獣様にお子様はいらっしゃいますか?」
 「はい、おります。神獣様が呪いにより自我を失う前に我々に預けられて、今は聖なる結界の中で……」
 「では、連れて来ては貰えませんか?その子を前にして、訴えかけてみるんです。」
 「なるほど!それは我等にも思い付きませんでした。でしたら、すぐに連れて参ります‼︎」

 まぁ、訴えかけると言うのは合っているんだけど…?
 これを実際に目の前にして、フェヴロンは怒り出さないかが心配だな。
 そうこう言っている内に、フェヴロンはギルド職員と共に台車の様な物で、子供を運んで来た。
 フェンリルの子供の大きさは、僕と大差が無い…より、少し大きい程度だった。

 「この方が、神獣様のお子様になります。」
 「分かりました、全ての事が終わるまでは…一切手も口も出さないで下さいね。」
 「それは一体…どういう意味ですか?」

 僕は近くにあった、楽器のラッパの様な形の魔導具をこちらに向けた。
 このラッパは、どうやら拡声器の様な物で…これだけ大きな神獣様達に呼び掛ける道具なのだろう。
 僕はその口の部分から、神獣フェンリルに話し掛ける為に息を吸った。

 『おい…チンケな呪いによって精神を支配されて暴走している、そこの駄犬!こっちを向いて、言う通りに動け‼︎僕の前で横向きになって、頭の後ろをコチラに向けろ‼︎』

 僕はそう話し掛けると、フェンリルは暴走しながらも、目線はコチラに向いていた。
 どうやら…呪いは意識を完全に支配出来ている訳ではないらしい。
 ただ、目線以外は動けないのだろう。

 「よし!意識はあるみたいだな?後はどれだけの意思を持って、呪いに逆らえるかだが…?」

 僕はそんな事を言っていると、フェヴロンが僕の元に来て、胸ぐらを掴んで持ち上げた。
 
 「御主…何だ、先程の神獣様に対するあの口の聞き方は‼︎」
 「手や口を出すな…と伝えておいた筈だけど?」
 「御主の無礼な物言いに……」
 「あのさぁ、神獣様を助けたいの?助けたくないの?」
 「無論、助けたいに決まっておろう!」
 「なら、口を出さないで貰えないかなぁ?こうしている間にも、神獣様を助けられる可能性が減るんだから…」

 フェヴロンは僕を地面に下ろすと、僕の手の合図で後方に下げさした。
 正直言って…これからやろうとしている事は、さっきの暴言の比ではない。
 下手すると…フェヴロンが襲い掛かって来るかも知れないのだ。
 この方法は、出来れば僕もやりたくは無いのだが?
 子供の声で言う事を聞いてくれれば、良いのだがなぁ?
 僕は拡声器の魔導具を、神獣様の子供の口に向けた。

 『クゥ~ンクゥゥ~~~ン…』

 何を話しているのかは分からないが、フェンリルは明らかにコチラに視線を向けているのは分かる。
 だが、せっかくの子供の声でも、フェンリルは凝視をするだけで、身体の意思は取り戻せない様子だった。

 「おいたわしや…御子息様。」
 
 フェヴロンはそう言うと、他の職員達も涙を流していた。
 子供の言っている言葉が、獣人族には伝わるらしいな。
 僕には、何を話しているのかが全く分からないが?
 しかし、子供の声でも目線だけで、身体は動かせられないか…?
 この方法は、出来ればやりたくは無いんだけどなぁ…
 僕はストレージから長剣を取り出して鞘を抜き、子供の首元に剣先を向けた。
 その行動を見てフェヴロンは、憤慨して僕の方に飛び込もうとして来た…ので、ヒールチェーンバインドで拘束したら、地面の上でジタバタと動いているだけになった。
 
 「だから、アンタに変な動きをされると、助けられるものが助けられなくなるんだって…頼むから、そこでジッとしていてくれ。全く…」

 これから僕が行うのは、ある意味で最低な行為だった。
 僕は心を鬼に、顔を悪魔に変貌させてから挑んだ。

 『おい、この駄犬!僕の言う通りに早く行動をしろ‼︎さもないと、貴様の息子が悲惨な状況に陥る事になるぞ‼︎』

 …と、フェンリルに話しかけては見るが、相も変わらず…視線だけをコチラに向けて、動けずにいた。
 出来れば、ここまでしたくはないから、さっさと動いて欲しかったんだが…仕方ないな!
 僕は拡声器の魔導具を子供の口元に向けて…?
 剣で子供の脇腹を刺した。
 すると、凄まじい程の泣き叫ぶ声が、辺りにこだました。
 その声により、フェンリルが視線だけでは無く、首をコチラに向けて来た。

 『息子の悲痛な声を聞いても、首しか動かせられねぇのかよ!こりゃあ、とんだ期待外れだな!次に息子に会う時は…貴様の所為で無惨な死を遂げた、息子の遺体と対面するんだな‼︎』

 僕はそう言い終わると同時に、首の頸動脈を目掛けて斬り付けた。
 すると、子供の首から大量の血飛沫が柱となって上がったのだった。
 それを見ていたフェンリルは、身体の支配を一時的に取り戻して、僕に向かって咆哮を上げてきた。
 息子の悲痛な叫びと、血に染まった無惨な姿を前に、怒りで呪いの支配から逃れた感じだった。
 僕は子供の方に駆け寄ってから、耳元で言葉が分かるかどうかは未定だったが、「回復をするけど、暫くは動かないでね。」と伝えると、子供は小さくコクリと頷いた。
 そして回復魔法のキュアを放って完全回復させた後に、フェンリルの方を向き直した。

 『オラオラ、早く横になって頭の後ろをコチラに向けろ!今回復すれば息子は助かるかも知れないが、このままだと確実に死ぬぞ‼︎』

 僕は子供を指差しながら、フェンリルに叫んだ。
 すると、フェンリルは僕の言われた通りに横倒れになって、コチラに後頭部を見せる形になった。

 「後頭部…首の後ろ…頭の………あった!カーズナチェーンバインド‼︎」

 僕の使える鎖の魔法は、ヒールチェーンバインドだけではない。
 別な魔法でも代用が出来るかどうかを試していた。
 その結果…ヒール以外に、治療系の治癒魔法でも効果がある事がわかったので、カーズナのチェーンバインドも完成させたのだった。
 そしてカーズナチェーンバインドで、頭の上に張り付いていた呪いと思われし巨大な黒い塊を絡ませてから、セイクリッド・セイント・カーズナというカーズナの強力版の呪い解除効果の魔法を放ったのだった。
 それにより、呪いの黒い塊は霧散し始めて行き…暫くすると綺麗に消滅したのだった。

 「良し!これで呪いは完全に除去出来た‼︎…後はフェンリルに誤解を解かなければならないのだが…?」

 呪いがすっかり消えて思う様に身体が動かせられるようになったフェンリルは…というと?
 身体を縮小させてから、僕の前に来て見下ろしていた。
 …ただ、見下ろされているだけなら良いんだけど、その殺気だった視線だけで、僕は殺されるのではないかと思うくらいに縮こまっていた。

 『貴殿のお陰で、呪いから解放してくれた事…には感謝をしている。』
 「いえいえ…」
 『だが、我が息子に対しての酷い行いを……」
 「ちょっと待って下さいね。ほら、もう起きても平気だよ!」
 
 僕は子供に声を掛けるが、子供は無視を決め込むかのように、動かずに横になっていた。
 この子供は、腹いせのつもりか?
 早く起き上がってくれないと、僕の立場がどんどん悪くなる⁉︎

 『やはり息子は……』
 「いえ、寝ているだけです!貴方様から呪いを引き剥がす前に、回復魔法で完全回復しておりますから!」
 『だが、そんな血だらけの姿を見せられて…』
 「ほらほら、クリーン!」

 僕がクリーン魔法を子供に向けて放つと、血で汚れた毛並みが綺麗に戻ったのだった。
 …なんだけど、子供は一向に起きる気配が無かった。
 ふざけんじゃねぇぞ!
 このままだと、僕が本気でヤバい状態になる⁉︎
 そう思った僕は、剣先で尻尾の付け根辺りを「プスッ」と刺した。
 すると子供は、「ギャイン!」と大きな泣き声をあげながら、凄い勢いで飛び起きたのだった。

 「ほら、見て下さい…寝たフリをしていたんです。」
 『どうやら、その様だな…全く、困った息子だ!』

 その後、僕はフェンリルと向かい合う様な形で話をする事になった。
 …で、冒頭に戻る。
 先程、子供を傷付けた経緯を説明をし、何とか理解をしたのだが…?
 そういう事情なら仕方が無いと言って、理解を示してくれたのだった。

 『なるほどな、我が身体の支配をされている間に、他の場所では同じ様な環境になっていたとは⁉︎』
 「はい、ですので…神獣様に御助力をお願いして、他の神獣様達を呪いから解放する為に、協力をお願い出来ないかと…」
 『その様な事情があるのなら、協力は惜しみはせん!だが、それはそうと…何故フェヴロンは拘束されて床に倒れておるんじゃ?』
 「あ、忘れてた…今から開放をするのですが、開放した瞬間に僕に殺す勢いで向かって来ると思いますので、事情を話してくれると有り難いのですが…」
 『あぁ、先程の我を侮辱する発言や、息子に仕出かした事か…』

 僕はヒールチェーンバインドを解くと同時に、急いでフェンリルの背後に隠れた。
 フェヴロンは言うまでも無く…目が血走った状態で僕に向かって来たんだけど、フェンリルがその場を収めてくれたので、何とか事なきを得た。
 …が、フェヴロンは納得をしていると同時に、僕を見る目付きだけは殺気が篭っている感じだった。
 
 『さて、問題は…空と海だな?あの者達は…我の様にはいかんが、何か考えがあるのか?』
 「いえ、状況を見てから考えます。」

 …と言うしか無かった。
 だって、空と海の神獣様を僕はまだ見た事が無いからなぁ?
 一体…どんな感じなんだろうか?
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