僕は最強の魔法使いかって?いえ、実はこれしか出来ないんです!〜無自覚チートの異世界冒険物語〜

アノマロカリス

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第一章 冒険者になる迄の道

第十五話 怨み…晴らしてやる!・後編

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 「お前等…やってはいけない事をやってしまったな!覚悟は出来ているんだろうな⁉︎」

 正直言って…僕がここまで怒った事は転生前でも無い。
 この馬鹿2人がラミナにしでかした事は、そこまで憤る程だった。

 「強がりを言っちゃって…」
 「そうだ、この女はまだこっちに…」

 僕はコイツ等の戯言を聞く気は無かった。
 僕は素早く2人の元に向かって、ルビーに蹴りを入れて吹っ飛ばしてから、トパーズがラミナを捕らえている腕を斬り落とした。
 そしてトパーズが声を上げる前に、斬り落としたトパーズの腕をトパーズの顔面に投げ付けてからヒールを施した。
 僕は2人が混乱をしている隙に、ラミナを抱えて後方まで下がった。

 「ラミナ、大丈夫だった?」
 「うん、これくらいの傷なら大丈夫だよ!」
 「今すぐに回復をしたい所だけど、もう少し待っていてくれる?後で必ず回復させるから…」
 「うん、ありがとうね。待ってる…」

 僕はラミナに声を掛け終わった後に2人をみた。
 ルビーは素早く起き上がると憤慨した表情を見せて睨んで来て、トパーズは斬り落とされた方の腕を見て首を傾げていた。
 そんな2人に対し、僕は声を掛けた。

 「まさかとは思うけど、僕の怒りがこの程度だと思っていないよな?」
 「テクタイトの癖にこの私に向かって蹴りを入れるなんて…」
 「腕を斬り落とされたと思っていたけど、これはお前の幻術だな!俺はこんな事では騙されないぞ‼︎」

 ルビーはともかく、トパーズは何を言っているんだ?
 あまりの一瞬の出来事で、腕を斬り落としされた事を理解していなかったのか?
 まさかそれを…幻術と勘違いするなんてな。
 まぁ、それも当然か…腕を殴られれば痛みを感じるまではすぐに伝わるが、斬り落とされた場合は、痛みを感じるまでに猶予がある。
 僕はその猶予を感じる前に腕をくっつけたので、トパーズは幻術だと思ったのだろう。

 「はぁ、おめでたい奴だな!」
 「何ですって‼︎」
 「テクタイトの癖に‼︎」

 僕は次の攻撃をする為に、ヒールチェーンバインドを放った。
 すると僕の手から無数の鎖が放たれて、ルビーとトパーズを捕らえたのだった。
 馬鹿2人は突然の状況に困惑していた。

 「くっ…何だこれは⁉︎」
 「テクタイト、これを今すぐ放しなさい‼︎」

 このヒールチェーンバインドも、オーバーヒールと同様に公爵家の牢屋で思いついた物だった。
 僕は牢屋の中でのヒールを攻撃に使える方法を探っていた。
 その過程で生まれたのがオーバーヒール。
 だけど、それ以上に使える方法が無いかと思っている時に…回復魔法の物質化について考えていた。
 元々この世界には、無属性魔法という物はあったらしいのだが…?
 長い年月により、属性付きの魔法の方が利便性が高くて、無属性魔法は廃れていってしまったらしい。
 同じ様な種類の魔法でも、属性付きの魔法の方が無属性魔法に比べて、威力は格段に跳ね上がる。
 だから、無属性魔法という概念は、いつの間にか廃れて無くなったのだった。

 「お前等は馬鹿か?逃さない為にヒールチェーンバインドを使用したというのに…」

 ただし、この魔法はすぐには完成しなかった。
 無属性魔法は、思い描いた物が具現化するという事が出来る魔法。
 ならば、折れた剣をヒールで復元出来ていたら、それを見ながらベースにしてヒールソード…なんていう物を作り出そうと思ったが、イメージがなかなか掴めずに成功には至らなかった。
 考えても見たら、剣は異世界に来てから初めて持った剣。
 長年連れ添ってきた…というのなら、イメージも出来ただろうが…?
 日が浅い剣では、イメージをするには至らなかった。
 なら、他に代用が出来るものは無いか…と考えながら、ある物をイメージした時にチェーンが完成した。
 僕の転生前の元いた世界で暮らしていた時は、鎖を造る小さな町工場だった。
 まぁ…不景気だった所為か、新規の仕事も大手に持って行かれて、負債が積もりに積もって倒産して多額の借金が出来て、それを払う事が出来ずに両親揃って蒸発してしまったんだが。
 僕は生まれて物心着く前から、周りには鎖があった。
 子供の頃はあまり裕福では無い僕は、身近にあった鎖で遊んでいたのだった。
 だから鎖の具現化は、イメージがし易くすぐに出来たのだった。

 「ここまでは問題はないんだがなぁ…?」

 問題はこの後だった。
 無属性魔法で鎖を完成したが、無属性魔法で造られた鎖は非常に脆かった。
 何かの属性を付与しよう…そう考えたんだけど、生活魔法の属性では付与が出来ず、それ以外の属性という事だと、回復魔法しか思い付かなかったので、回復魔法を付与した物が完成し、鎖もより強固になったのだった。
 だが、この鎖には欠点があり…?
 攻撃には一切向かず、攻撃を当てても相手が回復するという…アンデット位にしか使い道が無いと思われていた。
 だけど、ただ単に相手を拘束する為に使用したらどうだろうか?
 それで色々試行錯誤を繰り返した結果、鎖に繋がれている間は怪我を回復し続ける鎖となったのだが…?
 これって、役に立つ事があるのだろうか?
 目的が拘束だけで、拷問には向かないし…?
 …と考える日々だった。
 ところが今回のコイツ等については…このヒールチェーンバインドはとても有効になるのだった。
 そ・れ・は…?

 「さて、僕に対しての仕打ちは別に良いが…ラミナにしたことはゆるせないから、お前等には痛い目にあって貰うとしよう!」
 「な、何をする気よ‼︎」
 「こんな事をして、タダで済むと思っているのか⁉︎」

 勿論だが、タダでは済まないだろう。
 だけど、それ程までにこの馬鹿2人がした事は許せなかった。
 僕はストレージから、2本の薬品の瓶を取り出した。
 この瓶の中に入っているのは【猛毒酸】と言って、毒性の強い魔物が吐く体液の様な物の一種だった。
 そして名前の通り…この中身は猛毒でもあるが、強酸でもある。
 本来なら装飾を施されているこの瓶は、この馬鹿2人が壊す筈のものだったのだが…ただ壊されるだけでは面白味がないので、こっそり回収しておいた。
 僕は瓶の蓋を取って、ルビーとトパーズの腕に振り掛けた。
 すると…?

 「ギャァァァァァァァ‼︎」
 「キャァァァァァァァ‼︎」

 馬鹿2人の腕の皮膚は強酸に焼かれて、皮膚が溶け出していった。
 だけどその怪我も、ヒールチェーンのお陰で傷が塞がる…と思いきや、また皮膚が溶け出して行った。
 この猛毒酸は毒が残っている限り、いくら回復魔法をしてもその場から溶け出して行く。
 毒その物を対処しない限り、これが永遠と繰り返されて行くのだった。
 なのでこの馬鹿2人は、その苦しみを永遠と味わなければならなかった。
 そして、冒頭に戻る。

 「どうだ?お前達には相応しい罰だろう?」
 「テクタイト、本当にふざけるな‼︎」
 「あぅ…あぅ…うぅ………」
 「だから、テクタイトじゃねぇって言ってんだろ!」

 トパーズは言い返す元気があるみたいだが、ルビーは痛みのあまり声が出なかった。
 それもそうか!
 傷が塞いだと思った瞬間にまた広がって行くんだから。
 その痛みは、測り知れないだろう。

 「さて…いつまで正気が保っていられるかな?」

 トパーズは我慢強いのか、まだ耐えてはいるが…?
 ルビーはとっくに気を失いながら失禁をしていた。
 僕は背後を見た。
 どうやら結構な騒ぎになっているというのにグラハムハート公爵の姿が見えないとなると、来賓室での商談は終わってはいないのだろう。
 とりあえずは、グラハムハート公爵が現れる迄はこの苦しみを味わい続けて貰おう。
 それから10分後、我慢強かったトパーズも失禁をしながら気を失っていた。
 どんなに強がっていても、ガキはガキだし…大人でも無ければ10分間も持った方が奇跡みたいだ。

 「ホーリー君、公爵様がお見えになられましたよ。」
 「おっと、それはまずいな…アンチドーテ!」

 僕は解毒魔法で猛毒酸の毒の部分を除去し、ヒールを放って怪我を完全回復すると同時にヒールチェーンを解除して、クリーン魔法を施した。
 先程の2人の失禁は、これで綺麗になっただろう。
 するとマルザリィがこの惨状を見て声を掛けて来た。

 「これは一体何があったのですか⁉︎」
 「前回と同様に、御子息様と御息女様が店内の物を破壊していたのですが…それに飽きた感じになると、家族であるラミナに手を出されまして…少しお仕置きを致しました。」
 「な、何ですって⁉︎」

 商品を壊されただけだったら、マルザリィの怒りは僕に向くだろう。
 だけど、ドリーズ商会の従業員は皆家族という事を掲げているマルザリィにとって、従業員を…家族を傷つけられる行為は決して黙っては置けない筈だ。
 グラハムハート公爵は、マルザリィに鋭い怒りの視線に晒されていても尚、事情を知る為にルビーとトパーズを起こし始めた。
 すると、ルビーとトパーズは目を覚ましたのだが?

 「父上、アイツはテクタイトです‼︎」
 「そうですわ!私とトパーズはテクタイトに酷い目に遭わされました‼︎」
 「あっさりゲロったな…つい先程まではチクったり、バラさないと言ったばかりなのに…」

 まぁ、思っていた通り…この馬鹿2人が約束を守るなんていう事はしないだろう。
 父親が来た事で強気になっている感じだ。
 流石に僕のレベルでも、豪炎の魔導士と呼ばれた公爵には勝つ事は出来ないだろう…って、あれ?爆炎の魔導師だったっけ?
 ただ、僕は前持って全て手を打っているので、問題はないと思うが?
 これから何を言い出すのかが楽しみだ。

 「お父様、テクタイトは私の放った火球を打ち返して、私は炎に包まれて…ドレスを焦がされて、髪もチリチリにされましたわ!」
 「…?見た限りでは、髪もいつも通りだし、ドレスも焦げている様子はないが?」

 ルビーは自分を見渡して、何も異常がない事を知った。

 「俺はテクタイトに父上から頂いた大事な剣を破壊されました‼︎」
 「それはお前の剣だよな?折れているように見えないが…?」

 トパーズは持っていた剣の刀身を見ると、剣が折れていたという事はなく、新品の様に光っていた。
 僕はこの2人が約束を守るようなやつとは思えなかったので、ドレスも剣も復元しておいた。
 他にも2人は僕にやられた事以外に…ある事ない事を風聴していたが、何処にも怪我や傷も無く、グラハムハート公爵はただ呆れていたのだった。

 「お父様…でも、アイツがテクタイトというには本当です!どうやって髪を染めたかは分かりませんが、間違いないです‼︎」
 「そうです父上、アイツがテクタイトというのは間違いありません!歳の近い俺達なら、弟を見間違う筈はありません‼︎」

 馬鹿2人がそう言うと、グラハムハート公爵は僕に対して疑いの目を向けて来た。
 そして今こそ僕は、ある行動を実行する時が来た。
 僕はラミナの元に行き、ラミナの首にヒールを掛けた。
 緑色の淡い光がラミナの首の傷を癒すと、グラハムハート公爵は首を振って引き返した。

 「アイツが仮にテクタイトなら、アイツのギフトに回復魔法なんてものは無い!」

 グラハムハート公爵がそう言うと、ルビーとトパーズは瞬時に黙った。
 これで今回の騒動は幕を閉じた…と思っていたのだが、もう1つのざまぁな展開が待っていたのだった。

 「グラハムハート公爵様、御息女様と御子息様が店の商品を破壊される事については、弁償という形で不問に致します。ですが、家族に被害を及ぼした事には看過は出来ません‼︎」
 「それに関しては、本当に済まないと思っている。」
 「いえ、謝罪は不要です。当商会の規約にのっとり…規約違反をされたグラハムハート公爵家とは、一切の契約を破棄させていただきます!」
 
 その話を聞くや否や…グラハムハート公爵は地面に目を落とした。
 これで…グラハムハート公爵家とは、一切が関わる事がないと思っていた。
 この馬鹿2人が、後に面倒な事をする迄は…?
 
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