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第24話 なでしことバイオレンス、もといサッカーばあちゃんのサッカー教室

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 そうしているうちに第二回子どもサッカー教室の日がやってきた。

「はーい、今回はゲスト講師がいます」

 子どもたちからまばらな拍手が起きる。二回目でだれているのかもしれない。

「現役なでしこ選手の黒崎梨理さん!」

 紹介した瞬間の子どもたちの反応はすごかった。黒崎梨理といえば期待のなでしこ代表でもあるからだ。それにポニーテールがチャーミングな選手でもある。男子たちの反応は凄まじかった。

「すげええ! 現役なでしこだ!」

「試合観たことある!」

「美しすぎるなでしこ……たまんねえ!」

「男子ってやあねえ」

 女子たちの冷ややかな目に気づかずに男子たちのテンションは上がっていた。

「うむうむ、よしよし」

 すみれは満足げに頷いた。

「すみれさん、影が薄くなった割には満足げですね?」

 差し入れ兼探索担当の千沙子が不思議そうに首を傾げる。すみれは自己主張の強いタイプと思っていたから、この反応は予想外だった。

「そりゃ、人目を引くにはうってつけの逸材だからね、私もやりやすいし、自慢の孫……のようなものだからね」

「そうですの?」

「さ、今日は二人で子どもたちを引きつけて、梨理ちゃんにはファンサービスもたくさんするようにお願いしてあるから、前回よりはいろいろな意味でやりやすいよ!」

「はーい!! まずは二人組でパス練習よ! 今日は奇数だと聞いたから誰か私と組む人いるかな?」

 梨里が呼びかけた瞬間、男子達が一斉に手を挙げた。いや、女子も手を挙げているにはいるのだが、男子達の熱気は女子以上に凄まじかった。

「はーい!」

「いや、俺余るからー!」

「ずりぃぞ! 僕もー!」

 男子達がちょっとしたパニック状態だ。すみれが男子たちをかき分けながらなだめる。

「はいはいはい、梨理ちゃんは一人だからね、順番にやるよ。それとも私と組むかい?」

「えー、ババアとぉ?」

 ある男子がそう言った瞬間、サッカーボールとは思えない猛スピードの豪速球が男子の体育帽をかすめ、ゴムが千切れて、吹っ飛んだ。それはボールもろともゴールネットにスパーンと吸い込まれていく。

「悪いねえ、足下狂っちゃって。次は“正確”に蹴るかね。で、何か言ったかい?」

「あ、いえ、な、なんでもありません。す、すみれ先生と組みます」

「足が震えてるから少し休憩を取ってからがいいね」

「まあ、すみれおばさまってば相変わらずパワーありますねえ。では、ビブスの番号順に組もうねー」

 青筋立てながら、新しいボールをポンポンとリフティングしているすみれに梨理は慣れているのか、にこやかに応え、それぞれペアを組み始めてようやくサッカー教室らしくなってきた。

「やっぱりすみればあちゃん、怒らせると怖いんだな。綾小路さんからキック力すげえと聞いてたけど、あれ現役男子でもあのパワー出ねえよ」

「あれは女性にババアと言った山田君が悪いよ」

 少し離れたところで優太と美桜がパスの受け渡しをしながら、こそこそと話す。といっても他の子の喧噪やボールの音で彼らの言葉を気にかけるものはいなかった。

「さて、次のドリブル練習とゴール練習を終えたとこで、千沙子ばあちゃんや綾小路さん達が休憩用のドリンクを調達してくるスケジュールだったね」

「梨理さんは皆の相手するから休憩時間も長くなるだろうし、私たちもそっと抜けて探索しよう」

「俺も現役なでしこと話したいなあ」

「そのうち若葉苑で話せるよ。今は探偵団が先!」

「わかってるよ。千沙子ばあちゃん達の探索ルートは手に入れたから、そこ以外の校舎外のポイントだな」

 一時間ほど経ったころに千沙子達がクーラーボックスを持って現れた。

「はーい、皆、休憩タイムにしましょう。こまめな水分補給は大事よ。今日は塩レモネードよ」

 優太達は素早くドリンクを受け取り、校内を歩き出した。他の皆は梨理に夢中だからちょっとくらい抜け出しても気づかれないだろう。何か言われたら冷やかされるリスクはあるが、探偵団のためだ、優太は心の中で言い聞かせて美桜と歩き始めた。
 最初の頃はモンペの子はやっかいだと思っていたが、若葉苑で一緒に過ごしているうちに性格も礼儀もきちんとしているし、頭も良くて宿題も美桜から教わっていることが多いくらいだ。
 若葉苑の皆の協力で、清潔感が出てきて、以外とかわいいことにも気がついた。
(あの色ぼけ母親がいなければ普通に遊べるんだけどなあ)
 いや、でも、以前はいじめていた側だ。こうして一緒に行動するようになっても向こうはどう思っているかわからない。
 今は探偵団やっているけど、それが解決したらどうなるのだろう。相変わらず祖父の元へは見舞いに行くが、美桜だっていつか児相が介入するかもしれない。卒業より早く別れの日が来るのかも知れないと思うと少し胸が痛む。


「どうしたの? 優太君」

「あ、いや、なんでもない。肥料の場所を推理してた」

 はっとして優太は誤魔化す。そうだ、今は盗まれた肥料を探して起きるかもしれないテロを阻止しなくてはならない。

「よし、まずは裏庭の花壇付近だ。スコップなんか入れてる小屋付近に何かあるかもしれない」

 優太は自分に言い聞かせるように、美桜に言うと裏庭へ向かい始めた。

 そこには花壇の手入れをしている吉田先生、つまり容疑者その一がいた。
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