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第15話 少年&シニア探偵団誕生

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「はー、面白かった」

「やっぱ子どもの体とはいえ、軽々とジャンプして敵から逃げるのすげーな」

 上映会が終わり、子ども達はおやつの蒸しパンを食べながらニコニコと感想を話している。

「やはりランポはアクションがいいねえ。あの爆弾の導火線切るシーンも、ヒロインのサクラの好きな色だからって赤い線を切るのもいいな」

 健三も片手でダンベル運動しつつ、片手で蒸しパンをかじる。

「器用な人だねえ」

 すみれは呆れたように言うが、彼女も頭に絶妙なバランスを保ったままボールをキープしながら食べているのだからお互い様な気がするが皆、大人なので黙っていた。ちなみに子供達は蒸しパンに夢中だ。

「爆弾って大抵、赤い線か青い線を切って止めるのがご定番だねえ。なんか決まりでもあるのかね」

すみれがなんとなしに言うとすかさず健三が答える。

「おう、大体は起爆装置への電流だからな。切って電流を止めて処理するんだよ」

「健さんは詳しいねえ」

「あとは前にも言ったが、液化窒素をかけて凍らせるとか起動装置が壊れて止まるな」

「じいちゃん、爆弾の話? 俺も混ぜて」

 蒸しパンを食べていた手を止めて優太が興味深そうに聞いてきた。

「おう、こないだの肥料泥棒のこともだな……」

「ちょっと、ちょっと健さん。さすがに肥料泥棒の話を子どもにするのは……」

「え? ランポの少年探偵団みたいでカッコいいじゃん! 何々? 盗難事件?」

 優太が目をキラキラさせて話に食いついてくる。本日二度目のこの祖父にしてこの孫があり。


「肥料ってそんなにおっかないことに使われるの?」

 勢いというか、話の流れで子供達にも肥料泥棒の話をし、聞き終えた美桜が不安げにすみれ達に聞いてきた。

「まだ決まった訳ではないよ。でも白黒はっきりさせて、白なら泥棒として警察に任せて、黒なら未然に防がないとね」

 頭の上を気にしながらすみれは答える。説明しながらボールをキープするのは集中力が要る。これも鍛錬の一つだ。

「でも、そんなことしてどうなるの? 爆破があったとしても、国体は取り止めになんてならないよね?」

 美桜は不安げに質問を重ねる。

「うーん、そうさなあ。反対派が仕組んだように見せかけた推進派の仕業なら邪魔物反対派を消せるぞ」

 健三が腕組みをして唸る。

「さすがはじいちゃんだね。でも謎が多いよ。肥料なんてどこに保管するのかな?」

「って、花火屋さんの火薬盗んだ方が早くない? 打ち上げの筒を爆破させたい方向に向けて発射したら爆破しそう」

 子ども達は順応性が早いというか、次々と推理を繰り出す。

「バカ言うない、そんな素人が使ったら犯人も打ち上げ花火の一部となって木っ端微塵だ。ならばバズーカ砲がいいだろ」

「うーん、じいちゃん。バズーカなんて日本には普通にないよ。あ、河田先生なら爆弾とか詳しそうだけど」

「河田先生?」

 優太の発言に対してすみれが聞き返すと、美桜が説明を始めた。

「……うちの学校の先生。いつも白衣着ていて理科室にいることが多いの。噂じゃいろんな薬品を調合してるとか爆弾作ってそうとか、先生の誰かと付き合ってるとかいろと言われてる」

「河田先生って怪しいよ。こないだはなんだっけ、なんか液体に入った金属見せてきて『水で爆発する金属だ』なんて言って女子を怖がらせたんだぜ」

「それはアルカリ性金属だな。ってなんで小学校にそんな物があるんだ」

「そりゃ、健さん決まってるわな。勉強や実験のためだろ。確かによく考えれば二酸化炭素作る実験には塩酸が必要だし、小学校でも理科室や保健室は劇物の宝庫だ」

 徳さんは的確に突っ込むところからして本当になんでも知っている。漫画やアニメだけではなく、健三と張り合えるほどの怪しい知識も持っていそうだ。

「じゃあ、犯人は河田先生だよ! 学校なら空き教室がいくつもあるからそこに保管しているんじゃない」

「でも、坂本君。監視カメラあるのにどうやってそんな沢山の肥料を持ち込むの?  化学肥料も匂わないかな? そもそも本当に爆弾が作られているの? 本当はどっかに肥料として高値で売り飛ばしてるのじゃない?」

「う……よ、夜中にこっそりカメラを切るとかさ!」

 美桜がどんどんと疑問を口にすると優太は歯切れが悪くなっていった。やはり自分でも無理があると思ったのだろう。

「でもよぉ、もしかしたら」

 そうやって話に割り込んできたのは植木職人の松郎だ。

「ほら、俺はシルバーセンターに登録してるから、植木の手入れをボランティアであちこちに行くだろ?」

「そうだったね。何かあったのかい?」

すみれが食いつくと松郎は首を傾げながら、話し始めた。

「先週は役場の屋上緑園や観葉植物の手入れをしに行ったんだ。せめて手入れ時くらい日に当ててやろうと、観葉植物の鉢も屋上に動かして手入れをしていたから朝から夕方までかかってしまってな」

「確かあそこは四階建てだから、屋上ならちょっとした見晴らしが良い所ですね。花火大会の時は役場の人が観覧するとか」

 千沙子が思い出したように相づちを打つ。

「ああ、それで西側には萌葱山があるだろ? あそこから花火のようなドンドンという音がしてたんだ。高い所って遠くの音がよく聞こえるよな」

「それって運動会か何かの予行演習じゃないのかい?」

 すみれはきょとんとして聞き返すも松郎は反論した。

「いや、今は四月半ばだ。浅葱町は秋に開催する学校がほとんどだ。だから運動会やるには半端な時期だし、何のイベントかと思って浅葱さんや役場の人に聞いても首を傾げるばかりだし、健さんに聞いても自衛隊じゃあるまいし火薬を使った演習なんてこの街には無いというし、変だと思ってたんだが、あれってもしかしたら爆弾の試作品のテストを何者かがしていたのではないか?」

「ええと、萌葱山ってハイキングで有名な山ですよね? そんな人が多いところで爆弾の実験なんてします?」

「そうですよねえ、あり得ないのでは?」

 千沙子と悦子は不安げに打ち消してくる。

「いや、もしかしたら。健さん、地図はあるかい?」

 すみれが何か思い付いたように立ち上がった。

「お、おう、あそこに浅葱町の地図が貼ってあるぜ」

 すみれは地図を剥がして談話室のテーブルの上に置き、ある一点を示した。

「確かに萌葱山はハイキングで賑わう山で誰でも登れる。でも、隣のタケノコ掘りにも行った葱之山は浅葱家の私有地だから立ち入り禁止だ。でも、竹林以外にも平たんな場所があるんだよ。もしかしたら何者かが勝手に登って持ち込みしていたら? 実は音は萌葱山ではなく、隣りの葱之山だったのではないかい?」

「そこは確かに作業員達が休めるちょっとした広場があります。車を使って運び込めば爆破実験くらいはできるでしょう」

 総一郎が言葉を継ぐ。
 普段から真面目な総一郎が真剣な顔で頷いたことから苑の中には緊張が走った。

「総ち……浅葱さん。明日にでも葱之山に登って確認しましょう!   浅葱家には老人会の貸し切りハイキングとか言って許可をもらってちょうだい!」

「わかりました。ハイキングのリュックも用意しておきます」

「さすが金持ち、仕事が早いね。ここも町立じゃなくて、浅葱家の物にすりゃいいのに」

「すみれさん、そうなると料金がものすごく跳ね上がりますよ? もっと閑古鳥が鳴きますね」

「それもそうだわな」

「すげー! 本当に爆弾探索なんだ! 俺も行く!」

「優太達はダメだ」

「なんでだよぉ」

「普通に学校だろ?」

「あっ……」

「坂本くん、私達は放課後に来て結果を聞いて推理しましょうよ。探偵は動き回るだけじゃないんだから」

「池内、お前、良い奴だな」

 しょげる優太に優しく美桜が慰める。

「じゃ、葱之山のハイキングルート兼探索ルートを浅葱さんに教わるかね」

 すみれ達は地図をコピーしてペンを用意し始めた。
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