13 / 36
第13話 モンペは戦時中の服だけで十分だ
しおりを挟む
翌日、食育の終了の報告と今後のイベント予定の打ち合わせという名目ですみれと総一郎は浅葱小学校へ向かい、三年一組の担任に会いに行った。
担任は二十代半ばくらいの若い女性でメガネをかけ、肩まで切り揃えられた髪は清楚というか、きちんとした印象だ。
「初めまして、三年一組の担任の……、ふ、古内と申します」
総一郎を見る視線がすみれに対するのが違い、意識しているのが見てとれる。老人施設の園長と言っても若いし、イケメン、さらにこの街では有名な浅葱一族だからだろう。
すみれはちょっと面白くなってきてもっと観察していたかったが、そうやって考え事が横道にそれているうちに総一郎が本題を話していた。
「そうですか、また池内さんのお母さんが押し掛けたのですか」
事の経過を聞き終えた古内先生はまたか、という顔でため息をついた。
「今回は穏便にお引き取りいただけましたが、『また』ということは過去に何かあったのですね」
総一郎が問いかけると古内先生は周りがこちらに聞き耳を立てていないか確認した後、声を潜めて話しだした。
「はい、言いにくい話ですが、池内さんのお母さんは要注意人物なのです。たびたび給食費を未納しています。かと言って、授業参観の時のちょっと派手な身なりや、スマートフォンを持っているところからして、経済的に困窮しているわけではないようです。今回は珍しく食育イベント費用を納めたから安心していたのですが」
「おやまあ、お約束の母親だね。呆れたもんだ。払えば集れるというそのさもしい根性はどこから来ているのだか。父親はいないと言ってたけどホントにお約束すぎるね」
「すみれさん、言い過ぎです」
「はい、まあ、確かに父親はおりません。美桜ちゃんが四歳の時に離婚したとかで。母親と二人暮らしです」
「この分では母親は水商売というのがお約束だろね。金髪ピアスの彼氏がいるのじゃないかい」
古内先生は困ったように口ごもった。
「え、いや、そういう保護者のプライベートまでは、そのう……」
「大叔……、すみれさん一言多いですよ。美桜さんは学童にも入っていないようですし、栄養状態も悪いのは一目瞭然です。あまりにも心配なので、学童代わりに特例として放課後に美桜さんを当苑でお預かりしようと考えております。つきましては保護者への連絡が難しいのでこちらへ報告したのと、出来れば児童相談所への通報も学校からもお願いしたいのですが」
総一郎が提案するが、学校側の反応は鈍いものであった。
「こちらの学校側の対策としてもいろいろしておりますが、現時点では難しいのです。美桜ちゃん自身はとても素直でいい子なので、こちらとしても何とかしてあげたいのですが、児童相談所にもすでに相談しています。しかし、緊急性が低いと判断されてしまって『様子見しつつ、教師達でケアをしてほしい』と反応が鈍くて」
「食育の時の言動から普段から満足にご飯が食べられていない様子でした。それは明らかな虐待であり、緊急性は本当にないのでしょうか?」
総一郎が問いかけると古内先生は困ったように答えた。
「え、ええ、こちらもそう思います。保健室登校する日もありまして。保健の先生が朝ご飯代わりのパンを買い与えていたこともあるくらいですから。ただ、児相も人手不足みたいでそこまで手が回らないのが現状です」
総一郎は仕方ないという風にため息をついて答えた。
「そうですか、よくわかりました。こちらも美桜ちゃんに表向きは若葉苑に遊びに来てもらうようにして、なるべくあの子をサポートします。もし、何かあったら児相及びこちらへ逐一報告します」
二人は職員室を出た所でなんだか疲れを感じ、どちらともなくため息をついた。かなり時間が経っていたらしく、「クラリネットのポルカ」が校内に流れている。 多分、放課後の掃除のBGMだろう。
「はあ、ホントに“もんすたーぺあれんと”とかあるんだねえ。この浅葱町は大丈夫と思っていたのに」
「大叔母様、声が大きいですよ」
「あ、若葉苑のサッカーおばあちゃんに所長さん! こんにちは!」
校庭に出たところ、元気のいいハキハキした声が聞こえてきた。振り向くと花壇で土いじりしている美桜がいた。
「やあ、美桜ちゃん。花壇の手入れかい? ずいぶん大きな花だねえ」
「うん! これはアマリリス! 栽培委員会に入ってるから花壇の雑草を抜いているの! ねえ、これから若葉苑へ帰るんでしょ? これが終わったら早速遊びに行っていい?」
「もちろんだよ、でも、お母さんに言わなくていいのかい?」
すみれがそう聞くと美央ちゃんはちょっと雑草を抜く手を止めて元気が無くなった。
「……お母さん、昼間はずっと寝てるか、お出かけしてるの」
気まずい沈黙が一瞬流れたが、総一郎が努めて明るく返す。
「そうか。じゃあ美桜ちゃん、それが待っているから終わったら一緒に苑まで行こうか。後でお母さんにはこちらから連絡するよ。それから苑で宿題を見てあげよう」
「やったあ!」
こうして美央ちゃんの若葉苑通いというか、サポートが始まったのであった。
「そういえばミリタリーおじいちゃんはトラップの作り方や、サバイバル術も教えてくれるって言ってたね? どんなことだろう?」
……一抹の不安が二人の間に通り抜けたが、気のせいと思うことにした。
担任は二十代半ばくらいの若い女性でメガネをかけ、肩まで切り揃えられた髪は清楚というか、きちんとした印象だ。
「初めまして、三年一組の担任の……、ふ、古内と申します」
総一郎を見る視線がすみれに対するのが違い、意識しているのが見てとれる。老人施設の園長と言っても若いし、イケメン、さらにこの街では有名な浅葱一族だからだろう。
すみれはちょっと面白くなってきてもっと観察していたかったが、そうやって考え事が横道にそれているうちに総一郎が本題を話していた。
「そうですか、また池内さんのお母さんが押し掛けたのですか」
事の経過を聞き終えた古内先生はまたか、という顔でため息をついた。
「今回は穏便にお引き取りいただけましたが、『また』ということは過去に何かあったのですね」
総一郎が問いかけると古内先生は周りがこちらに聞き耳を立てていないか確認した後、声を潜めて話しだした。
「はい、言いにくい話ですが、池内さんのお母さんは要注意人物なのです。たびたび給食費を未納しています。かと言って、授業参観の時のちょっと派手な身なりや、スマートフォンを持っているところからして、経済的に困窮しているわけではないようです。今回は珍しく食育イベント費用を納めたから安心していたのですが」
「おやまあ、お約束の母親だね。呆れたもんだ。払えば集れるというそのさもしい根性はどこから来ているのだか。父親はいないと言ってたけどホントにお約束すぎるね」
「すみれさん、言い過ぎです」
「はい、まあ、確かに父親はおりません。美桜ちゃんが四歳の時に離婚したとかで。母親と二人暮らしです」
「この分では母親は水商売というのがお約束だろね。金髪ピアスの彼氏がいるのじゃないかい」
古内先生は困ったように口ごもった。
「え、いや、そういう保護者のプライベートまでは、そのう……」
「大叔……、すみれさん一言多いですよ。美桜さんは学童にも入っていないようですし、栄養状態も悪いのは一目瞭然です。あまりにも心配なので、学童代わりに特例として放課後に美桜さんを当苑でお預かりしようと考えております。つきましては保護者への連絡が難しいのでこちらへ報告したのと、出来れば児童相談所への通報も学校からもお願いしたいのですが」
総一郎が提案するが、学校側の反応は鈍いものであった。
「こちらの学校側の対策としてもいろいろしておりますが、現時点では難しいのです。美桜ちゃん自身はとても素直でいい子なので、こちらとしても何とかしてあげたいのですが、児童相談所にもすでに相談しています。しかし、緊急性が低いと判断されてしまって『様子見しつつ、教師達でケアをしてほしい』と反応が鈍くて」
「食育の時の言動から普段から満足にご飯が食べられていない様子でした。それは明らかな虐待であり、緊急性は本当にないのでしょうか?」
総一郎が問いかけると古内先生は困ったように答えた。
「え、ええ、こちらもそう思います。保健室登校する日もありまして。保健の先生が朝ご飯代わりのパンを買い与えていたこともあるくらいですから。ただ、児相も人手不足みたいでそこまで手が回らないのが現状です」
総一郎は仕方ないという風にため息をついて答えた。
「そうですか、よくわかりました。こちらも美桜ちゃんに表向きは若葉苑に遊びに来てもらうようにして、なるべくあの子をサポートします。もし、何かあったら児相及びこちらへ逐一報告します」
二人は職員室を出た所でなんだか疲れを感じ、どちらともなくため息をついた。かなり時間が経っていたらしく、「クラリネットのポルカ」が校内に流れている。 多分、放課後の掃除のBGMだろう。
「はあ、ホントに“もんすたーぺあれんと”とかあるんだねえ。この浅葱町は大丈夫と思っていたのに」
「大叔母様、声が大きいですよ」
「あ、若葉苑のサッカーおばあちゃんに所長さん! こんにちは!」
校庭に出たところ、元気のいいハキハキした声が聞こえてきた。振り向くと花壇で土いじりしている美桜がいた。
「やあ、美桜ちゃん。花壇の手入れかい? ずいぶん大きな花だねえ」
「うん! これはアマリリス! 栽培委員会に入ってるから花壇の雑草を抜いているの! ねえ、これから若葉苑へ帰るんでしょ? これが終わったら早速遊びに行っていい?」
「もちろんだよ、でも、お母さんに言わなくていいのかい?」
すみれがそう聞くと美央ちゃんはちょっと雑草を抜く手を止めて元気が無くなった。
「……お母さん、昼間はずっと寝てるか、お出かけしてるの」
気まずい沈黙が一瞬流れたが、総一郎が努めて明るく返す。
「そうか。じゃあ美桜ちゃん、それが待っているから終わったら一緒に苑まで行こうか。後でお母さんにはこちらから連絡するよ。それから苑で宿題を見てあげよう」
「やったあ!」
こうして美央ちゃんの若葉苑通いというか、サポートが始まったのであった。
「そういえばミリタリーおじいちゃんはトラップの作り方や、サバイバル術も教えてくれるって言ってたね? どんなことだろう?」
……一抹の不安が二人の間に通り抜けたが、気のせいと思うことにした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる