バイオレンスサッカーばあちゃん、故郷に帰ったらテロを食い止めることになった件

達見ゆう

文字の大きさ
上 下
12 / 36

第12話 招かれざる客

しおりを挟む
 出来上がった料理を配膳し、子供達が着席した時であった。

「ああ、困りますよ! 保護者のお迎えはまだまだ後ですよ!」

 食堂の入り口付近で綾小路の困惑した声が聞こえるや否や、保護者らしき女性が乱入してきた。

「なんで子供達しか食べられないのよ! 余ってるんでしょ! 私にもちょうだいよ!」

 女性は年の頃は四十代前後だが、キツめの濃いピンクのニットに蛍光イエローのスカート、その年齢には似合わないラメ入りのストッキング、化粧も濃く、どう見ても下品な水商売の女といった出で立ちだ。

「だから、食事はお子様達の分だけです!」

 追い付いた綾小路が女性を連れ戻そうとしているが、手を払いのけてなおもキンキン声で叫ぶ。

「だって、そこのジジババも食べているじゃない!」

 なおも興奮している女性を見て子供達が迷惑しているだろうにと思ったが、すみれは少し違和感に気づいた。子供達は派手な女性と美桜を見比べている。先ほどクスクス笑っていた坂本くんや田野中さんは美桜を見ながらニヤニヤしている。

「また池内のかーちゃんだぜ」
「またケバい格好だぜ、だっせえ」
「ああはなりたくねーよ」
「あーあ、早く食べたいのになー。誰かさんのせいで冷めちゃうなー」

 当の美桜はうつむいて半泣きになっている。
なるほど、あの女性は美桜の母親であり、こうやって度々問題行動を起こしているから、子供達の間でも有名なのだろう。だから先ほどの調理時も子供達は美桜のことを嘲笑していたのだ。
 このままだと子供達に悪影響だし食事も冷める、とにかく力ずくでもあの母親をつまみ出そうとすみれが立ち上がりかけた時、総一郎が宥め始めた。

「所長の浅葱と申します。お母さん。今回は子供達の食育が目的のためなので、保護者の分はありません。こちらのお年寄り達はこの苑の入居者で食育の協力者です。お土産に茹でタケノコを持たせますからそれで勘弁してください」

「何よ! アンタ……あら、イケメン」

 興奮して睨みかけた母親は総一郎を見るや否や態度を軟化させた。

「まあ、そうねえ、あなたがそういうのならば。それでもいいかしら」

 急にしなを作り、媚を売る態度に切り替わった。それは下品であり、滑稽そのものである。子供達が居なければ彼女の頭にバイシクルシュートでもくらわすのに、とすみれは歯噛みした。

「じゃあ、イケメンさんに免じて引っ込んであげるわ。美桜! あとで料理しなさいっ!」

 当の美桜は俯いて恥じているのに気づかないのか、声をかけて女性は引っ込んでいった。
 ようやく食事にありつけたが、なんだかしらけた空気が漂ってしまった。



「やれやれ、とんだ食育になってしまったね」

 すみれが誰に対してでなくぼやく。
 あのままだとあの母親は美桜に料理を押し付けると判断した総一郎によって、タケノコを料理してから美桜に渡すことになった。そのため、食育終了後ではあるが、苑には美桜だけ残ってもらっている。
 タケノコを煮付けながら千沙子は語りかける。

「美桜ちゃん、もうちょっと待っててね」

「……すみません、私がやることなのに」

 美桜は消え入りそうな声で返事をする。

「とんでもない! あの母親がおかしいのよ! 小学三年生に料理を押し付けるなんて」

 悦子が余ったタケノコご飯でお握りを作りながら怒る。

「……」

 ふと、すみれは気になって尋ねてみた。

「美桜ちゃん、お父さんはあんなお母さんを止めないのかい?」

「……お父さん、私が小さい頃に離婚して出て行っちゃったの」

「ああ、なんか済まないね」

 予想していた答えではあるが、やはり聞いてはいけなかったかもしれないとすみれは内心で謝りながら気まずそうに答えた。

「おう、ついでに聞くが三食満足に食べてるか?昼は給食あるけど、朝や晩は?」

「……」

 健三が尋ねたが美桜は黙ってうつむいた。答えが無くとも細い体に低い身長から察するものがあった。

 すみれは優しく問いかけた。

「美桜ちゃん、あまり深くは聞かないがお母さんは昼も夜もいないだろ?」

「はい……」

「良ければ学校から帰った後、夕方までこの苑に遊びにくるといい」

「え、でも……」

「いいんだよ、ここは元々人が少なくってガラガラなんだし、子供がいた方がにぎやかになる。マンガやアニメもあるし、動画も観られる。なんなら私がサッカー教えてあげることもできるよ。これでもサッカーは上手なんだよ」

 傍らに持っていたサッカーボールですみれは軽快にリフティングを始めた。くるくるとなめらかに動くボールに美桜は見とれる。

「すごーい、まるでボールが生き物みたいになついているように見える」

「すみれさん、保護者に無断でそんな勝手に決めてしまっていいのかしら」

 千沙子が心配そうに異議を唱えるが、すみれは一蹴した。

「あれは保護者として機能していないよ。ここならおやつだって早めの夕飯だって提供できる。防犯上でも家でひとりぼっちよりいいでしょ。お金かかるというなら私のポケットマネーで補てんするよ。息子が厄介払いとばかりに小遣いは沢山貰ってきたからね」

「それはいいかもしれせんね。宿題も教えてあげることできますわ」

「おう、今のご時世は子供一人で留守番も危険だし、俺がこいつをちらつかせながら送っていけば安心だろ」

 意外と乗り気なのは健三と悦子だった。特に健三はノリノリでAK47のモデルガンを掲げている。

「よし! 決まり! 浅葱さんはどうだい?」

 すみれはボールを頭の上でバランスを取りながら尋ねる。

「それが人に物を尋ねる態度ではないですが……。まあ、構いませんけど、無断だとややこしくなるから、児相への報告と、イベントの結果報告がてら小学校の担任には話をしておきましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

処理中です...