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第11話 楽しい調理タイム……のはずが
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タケノコ掘りを終えて下山し、苑に戻って調理タイムとなった。タケノコは掘りたてならば一時間ほどゆでるだけであくが抜けるから手間が少なく調理に取り掛かれる。
今回はタケノコごはん、タケノコと鶏肉の煮物、タケノコの姫皮と呼ばれる薄い皮はみそ汁に利用とまさにタケノコ尽くしのメニューだ。もちろん、各料理に散らすアサツキのトッピングやアサツキのデザートはちゃんと組み込まれている。
普段はガラガラの調理室や食堂もこの日は子供たちでにぎわう。
「タケノコの切り方は穂先はくし形、固い根元は繊維を切るように輪切りにします」
タケノコを茹でている間、総一郎がホワイトボードにおおまかな手順を書いたものを示しながら子供たちにレクチャーする。
タケノコを茹でている間に他の調理をするのだが、おしゃべりも多くなる。
「和やかに行くとは思えない、このメンツ……」
すみれは健三を見ると鶏肉を切りながら何かを教えている。
「でな、竹林は銃弾が弾かれて跳弾となりやすい。だから銃撃戦が始まったら竹林へ逃げて伏せておけ」
「はーい」
「こらこらこらー! そこで謎のサバイバル術をレクチャーするんじゃない!」
「まさか、悦子さん達の班は……」
すみれが振り返ると悦子が子供たちに鍋のタケノコを示しながら何かを話している。
「……それで、和尚は考えて村人にはタケノコの煮物、人食いカッパには青竹の煮物を出したのよ。カッパが噛めなくて苦戦しているところを『人間は歯が丈夫だから煮物を楽々にだろう食べているだろう。お前の腕なんかバリバリかみ砕くぞと脅かして……』」
「きゃー、こわい」
「こらこらこらー! そこで怖い民話を話すんじゃない!」
「ここまで来ると徳さん達は……いや、料理でオタクはさすがに無いはず……」
恐る恐るすみれが後ろの徳次郎達を見ると普通に雑談しているように見えた。
「で、面白いグルメ漫画はだな、今は『クッキングガール☆クルミ』だな。主人公のクルミもいいが、俺はライバルのアニスがいいな。あのツンデレがいいんだよな」
「あ、僕も読んでるー!」
「僕はクルミの友人のすももちゃんが好き!」
「あの漫画の料理、いつも美味しそうだよね!」
「えーと……、まあ変なことは教えてないからまだいいか」
なんだか疲労を感じながらも、味噌汁の鰹だしの取り方を指導して布巾に濾していると総一郎がホワイトボードを書き終えて、手伝いに入ってきた。
「すみれさんのツッコミには助かっていますよ。おかげで進行がはかどります」
「掘るときだけではなく、調理まで。ま、毎年こうなのかい」
「ええ、こんなものです。でも、掘りたてのタケノコが食べられるし、お土産にも持たせているので小学校や保護者達には大好評ですよ。秋にはキノコ狩りもできますし」
「って、毒キノコを採ってしまったらどうすんだい」
「だから、おじいさまは食育用に山の一角にシメジやシイタケを栽培しています。子供たちには内緒ですよ」
「へえ……兄さんもマメだねえ」
「お祖父様は何よりも地元との交流、子供達への自然のふれあいが大事と考えてくださっているのですよ。まあ、それでも困った保護者は出てきますけどね」
「いわゆるモンペかい?」
「ええ、まあ。ほら、タケノコも茹で上がりますし、私語ばかりではなく子供達の調理をサポートしましょう」
総一郎に促されて改めて自分の班を見渡す。
男女混合の六人の班。その中には先ほどのやせっぽちの児童、美桜ちゃんがいる。
その見た目に反しててきぱきと動き、鍋の中のタケノコを取り出して丁寧に皮を剥き始めている。
「うまいねえ、美桜ちゃん。お料理やってるのかい」
「はい……お母さん、忙しいから」
か細い声で彼女が答えるのに被せるように美桜に向けて同じ班の子供達がクスクスと笑った。
ほのかな悪意を感じたが、注意するには根拠が弱い。
「ほら、坂本くんだっけ、へらへら笑う前に鶏肉を一口大に切る! 山田さんはだし汁を煮物用と味噌汁用に分ける! 田野中さんは使い終わった道具を洗う! 余計なおしゃべりしないで美味しい昼御飯を目指しましょう!」
「はあーい」
どことなく含み笑いをした子供達がそれぞれの作業を始める。もしかしたら美桜はいじめられているのだろうか。すみれは少し心配になってきた。
そして、それが杞憂ではなかったと証明する出来事が一時間後に起こった。
今回はタケノコごはん、タケノコと鶏肉の煮物、タケノコの姫皮と呼ばれる薄い皮はみそ汁に利用とまさにタケノコ尽くしのメニューだ。もちろん、各料理に散らすアサツキのトッピングやアサツキのデザートはちゃんと組み込まれている。
普段はガラガラの調理室や食堂もこの日は子供たちでにぎわう。
「タケノコの切り方は穂先はくし形、固い根元は繊維を切るように輪切りにします」
タケノコを茹でている間、総一郎がホワイトボードにおおまかな手順を書いたものを示しながら子供たちにレクチャーする。
タケノコを茹でている間に他の調理をするのだが、おしゃべりも多くなる。
「和やかに行くとは思えない、このメンツ……」
すみれは健三を見ると鶏肉を切りながら何かを教えている。
「でな、竹林は銃弾が弾かれて跳弾となりやすい。だから銃撃戦が始まったら竹林へ逃げて伏せておけ」
「はーい」
「こらこらこらー! そこで謎のサバイバル術をレクチャーするんじゃない!」
「まさか、悦子さん達の班は……」
すみれが振り返ると悦子が子供たちに鍋のタケノコを示しながら何かを話している。
「……それで、和尚は考えて村人にはタケノコの煮物、人食いカッパには青竹の煮物を出したのよ。カッパが噛めなくて苦戦しているところを『人間は歯が丈夫だから煮物を楽々にだろう食べているだろう。お前の腕なんかバリバリかみ砕くぞと脅かして……』」
「きゃー、こわい」
「こらこらこらー! そこで怖い民話を話すんじゃない!」
「ここまで来ると徳さん達は……いや、料理でオタクはさすがに無いはず……」
恐る恐るすみれが後ろの徳次郎達を見ると普通に雑談しているように見えた。
「で、面白いグルメ漫画はだな、今は『クッキングガール☆クルミ』だな。主人公のクルミもいいが、俺はライバルのアニスがいいな。あのツンデレがいいんだよな」
「あ、僕も読んでるー!」
「僕はクルミの友人のすももちゃんが好き!」
「あの漫画の料理、いつも美味しそうだよね!」
「えーと……、まあ変なことは教えてないからまだいいか」
なんだか疲労を感じながらも、味噌汁の鰹だしの取り方を指導して布巾に濾していると総一郎がホワイトボードを書き終えて、手伝いに入ってきた。
「すみれさんのツッコミには助かっていますよ。おかげで進行がはかどります」
「掘るときだけではなく、調理まで。ま、毎年こうなのかい」
「ええ、こんなものです。でも、掘りたてのタケノコが食べられるし、お土産にも持たせているので小学校や保護者達には大好評ですよ。秋にはキノコ狩りもできますし」
「って、毒キノコを採ってしまったらどうすんだい」
「だから、おじいさまは食育用に山の一角にシメジやシイタケを栽培しています。子供たちには内緒ですよ」
「へえ……兄さんもマメだねえ」
「お祖父様は何よりも地元との交流、子供達への自然のふれあいが大事と考えてくださっているのですよ。まあ、それでも困った保護者は出てきますけどね」
「いわゆるモンペかい?」
「ええ、まあ。ほら、タケノコも茹で上がりますし、私語ばかりではなく子供達の調理をサポートしましょう」
総一郎に促されて改めて自分の班を見渡す。
男女混合の六人の班。その中には先ほどのやせっぽちの児童、美桜ちゃんがいる。
その見た目に反しててきぱきと動き、鍋の中のタケノコを取り出して丁寧に皮を剥き始めている。
「うまいねえ、美桜ちゃん。お料理やってるのかい」
「はい……お母さん、忙しいから」
か細い声で彼女が答えるのに被せるように美桜に向けて同じ班の子供達がクスクスと笑った。
ほのかな悪意を感じたが、注意するには根拠が弱い。
「ほら、坂本くんだっけ、へらへら笑う前に鶏肉を一口大に切る! 山田さんはだし汁を煮物用と味噌汁用に分ける! 田野中さんは使い終わった道具を洗う! 余計なおしゃべりしないで美味しい昼御飯を目指しましょう!」
「はあーい」
どことなく含み笑いをした子供達がそれぞれの作業を始める。もしかしたら美桜はいじめられているのだろうか。すみれは少し心配になってきた。
そして、それが杞憂ではなかったと証明する出来事が一時間後に起こった。
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