11 / 36
第11話 楽しい調理タイム……のはずが
しおりを挟む
タケノコ掘りを終えて下山し、苑に戻って調理タイムとなった。タケノコは掘りたてならば一時間ほどゆでるだけであくが抜けるから手間が少なく調理に取り掛かれる。
今回はタケノコごはん、タケノコと鶏肉の煮物、タケノコの姫皮と呼ばれる薄い皮はみそ汁に利用とまさにタケノコ尽くしのメニューだ。もちろん、各料理に散らすアサツキのトッピングやアサツキのデザートはちゃんと組み込まれている。
普段はガラガラの調理室や食堂もこの日は子供たちでにぎわう。
「タケノコの切り方は穂先はくし形、固い根元は繊維を切るように輪切りにします」
タケノコを茹でている間、総一郎がホワイトボードにおおまかな手順を書いたものを示しながら子供たちにレクチャーする。
タケノコを茹でている間に他の調理をするのだが、おしゃべりも多くなる。
「和やかに行くとは思えない、このメンツ……」
すみれは健三を見ると鶏肉を切りながら何かを教えている。
「でな、竹林は銃弾が弾かれて跳弾となりやすい。だから銃撃戦が始まったら竹林へ逃げて伏せておけ」
「はーい」
「こらこらこらー! そこで謎のサバイバル術をレクチャーするんじゃない!」
「まさか、悦子さん達の班は……」
すみれが振り返ると悦子が子供たちに鍋のタケノコを示しながら何かを話している。
「……それで、和尚は考えて村人にはタケノコの煮物、人食いカッパには青竹の煮物を出したのよ。カッパが噛めなくて苦戦しているところを『人間は歯が丈夫だから煮物を楽々にだろう食べているだろう。お前の腕なんかバリバリかみ砕くぞと脅かして……』」
「きゃー、こわい」
「こらこらこらー! そこで怖い民話を話すんじゃない!」
「ここまで来ると徳さん達は……いや、料理でオタクはさすがに無いはず……」
恐る恐るすみれが後ろの徳次郎達を見ると普通に雑談しているように見えた。
「で、面白いグルメ漫画はだな、今は『クッキングガール☆クルミ』だな。主人公のクルミもいいが、俺はライバルのアニスがいいな。あのツンデレがいいんだよな」
「あ、僕も読んでるー!」
「僕はクルミの友人のすももちゃんが好き!」
「あの漫画の料理、いつも美味しそうだよね!」
「えーと……、まあ変なことは教えてないからまだいいか」
なんだか疲労を感じながらも、味噌汁の鰹だしの取り方を指導して布巾に濾していると総一郎がホワイトボードを書き終えて、手伝いに入ってきた。
「すみれさんのツッコミには助かっていますよ。おかげで進行がはかどります」
「掘るときだけではなく、調理まで。ま、毎年こうなのかい」
「ええ、こんなものです。でも、掘りたてのタケノコが食べられるし、お土産にも持たせているので小学校や保護者達には大好評ですよ。秋にはキノコ狩りもできますし」
「って、毒キノコを採ってしまったらどうすんだい」
「だから、おじいさまは食育用に山の一角にシメジやシイタケを栽培しています。子供たちには内緒ですよ」
「へえ……兄さんもマメだねえ」
「お祖父様は何よりも地元との交流、子供達への自然のふれあいが大事と考えてくださっているのですよ。まあ、それでも困った保護者は出てきますけどね」
「いわゆるモンペかい?」
「ええ、まあ。ほら、タケノコも茹で上がりますし、私語ばかりではなく子供達の調理をサポートしましょう」
総一郎に促されて改めて自分の班を見渡す。
男女混合の六人の班。その中には先ほどのやせっぽちの児童、美桜ちゃんがいる。
その見た目に反しててきぱきと動き、鍋の中のタケノコを取り出して丁寧に皮を剥き始めている。
「うまいねえ、美桜ちゃん。お料理やってるのかい」
「はい……お母さん、忙しいから」
か細い声で彼女が答えるのに被せるように美桜に向けて同じ班の子供達がクスクスと笑った。
ほのかな悪意を感じたが、注意するには根拠が弱い。
「ほら、坂本くんだっけ、へらへら笑う前に鶏肉を一口大に切る! 山田さんはだし汁を煮物用と味噌汁用に分ける! 田野中さんは使い終わった道具を洗う! 余計なおしゃべりしないで美味しい昼御飯を目指しましょう!」
「はあーい」
どことなく含み笑いをした子供達がそれぞれの作業を始める。もしかしたら美桜はいじめられているのだろうか。すみれは少し心配になってきた。
そして、それが杞憂ではなかったと証明する出来事が一時間後に起こった。
今回はタケノコごはん、タケノコと鶏肉の煮物、タケノコの姫皮と呼ばれる薄い皮はみそ汁に利用とまさにタケノコ尽くしのメニューだ。もちろん、各料理に散らすアサツキのトッピングやアサツキのデザートはちゃんと組み込まれている。
普段はガラガラの調理室や食堂もこの日は子供たちでにぎわう。
「タケノコの切り方は穂先はくし形、固い根元は繊維を切るように輪切りにします」
タケノコを茹でている間、総一郎がホワイトボードにおおまかな手順を書いたものを示しながら子供たちにレクチャーする。
タケノコを茹でている間に他の調理をするのだが、おしゃべりも多くなる。
「和やかに行くとは思えない、このメンツ……」
すみれは健三を見ると鶏肉を切りながら何かを教えている。
「でな、竹林は銃弾が弾かれて跳弾となりやすい。だから銃撃戦が始まったら竹林へ逃げて伏せておけ」
「はーい」
「こらこらこらー! そこで謎のサバイバル術をレクチャーするんじゃない!」
「まさか、悦子さん達の班は……」
すみれが振り返ると悦子が子供たちに鍋のタケノコを示しながら何かを話している。
「……それで、和尚は考えて村人にはタケノコの煮物、人食いカッパには青竹の煮物を出したのよ。カッパが噛めなくて苦戦しているところを『人間は歯が丈夫だから煮物を楽々にだろう食べているだろう。お前の腕なんかバリバリかみ砕くぞと脅かして……』」
「きゃー、こわい」
「こらこらこらー! そこで怖い民話を話すんじゃない!」
「ここまで来ると徳さん達は……いや、料理でオタクはさすがに無いはず……」
恐る恐るすみれが後ろの徳次郎達を見ると普通に雑談しているように見えた。
「で、面白いグルメ漫画はだな、今は『クッキングガール☆クルミ』だな。主人公のクルミもいいが、俺はライバルのアニスがいいな。あのツンデレがいいんだよな」
「あ、僕も読んでるー!」
「僕はクルミの友人のすももちゃんが好き!」
「あの漫画の料理、いつも美味しそうだよね!」
「えーと……、まあ変なことは教えてないからまだいいか」
なんだか疲労を感じながらも、味噌汁の鰹だしの取り方を指導して布巾に濾していると総一郎がホワイトボードを書き終えて、手伝いに入ってきた。
「すみれさんのツッコミには助かっていますよ。おかげで進行がはかどります」
「掘るときだけではなく、調理まで。ま、毎年こうなのかい」
「ええ、こんなものです。でも、掘りたてのタケノコが食べられるし、お土産にも持たせているので小学校や保護者達には大好評ですよ。秋にはキノコ狩りもできますし」
「って、毒キノコを採ってしまったらどうすんだい」
「だから、おじいさまは食育用に山の一角にシメジやシイタケを栽培しています。子供たちには内緒ですよ」
「へえ……兄さんもマメだねえ」
「お祖父様は何よりも地元との交流、子供達への自然のふれあいが大事と考えてくださっているのですよ。まあ、それでも困った保護者は出てきますけどね」
「いわゆるモンペかい?」
「ええ、まあ。ほら、タケノコも茹で上がりますし、私語ばかりではなく子供達の調理をサポートしましょう」
総一郎に促されて改めて自分の班を見渡す。
男女混合の六人の班。その中には先ほどのやせっぽちの児童、美桜ちゃんがいる。
その見た目に反しててきぱきと動き、鍋の中のタケノコを取り出して丁寧に皮を剥き始めている。
「うまいねえ、美桜ちゃん。お料理やってるのかい」
「はい……お母さん、忙しいから」
か細い声で彼女が答えるのに被せるように美桜に向けて同じ班の子供達がクスクスと笑った。
ほのかな悪意を感じたが、注意するには根拠が弱い。
「ほら、坂本くんだっけ、へらへら笑う前に鶏肉を一口大に切る! 山田さんはだし汁を煮物用と味噌汁用に分ける! 田野中さんは使い終わった道具を洗う! 余計なおしゃべりしないで美味しい昼御飯を目指しましょう!」
「はあーい」
どことなく含み笑いをした子供達がそれぞれの作業を始める。もしかしたら美桜はいじめられているのだろうか。すみれは少し心配になってきた。
そして、それが杞憂ではなかったと証明する出来事が一時間後に起こった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる