バイオレンスサッカーばあちゃん、故郷に帰ったらテロを食い止めることになった件

達見ゆう

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第9話 健三の洞察、すみれの憂鬱、空回りの綾小路

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「ああ、若葉苑さんいらっしゃい。すみませんが、まだ指定の肥料は入荷していないのですよ。腐葉土や鶏糞はあるのですけどね」

 ホームセンターに着くと店頭で苗木の鉢を整理していた店員がすみれ達を見るや否や、済まなそうにお詫びをしてきた。
 彼の名札には『店長  田端』とある。すぐに挨拶するということは、ここのお得意様なのだろう。すかさず、健三が挨拶を返した。

「おう、店長。今回は別口の注文さ。今度、小学生の食育イベントするから、軍手とレジ袋をお願いしたいんだ。あと炊事用の手袋もな。子供用のサイズ四十人分と大人用を十人分ほど頼む。レジ袋はタケノコが二、三本入るくらいのサイズだ」

「いつもありがとうございます。こちらは、見かけないお顔ですね。新しく来た人達ですか? でも、一人は入居者にしてはお若いですね」

 田端に言われて二人は慌てて会釈して挨拶をした。

「はい、内野すみれと言います。短期入所ですがよろしくお願いします」

「お……私は臨時職員の綾小路です」

「テロリストだけどな」

 健三がボソッとつぶやくように言ったが、綾小路の耳には入ったようだ。

「だからテロリストじゃないって! ただのどろ……」

「どろ?」

 田端が不思議そうに聞き返してきたので、すみれが慌てて誤魔化しに入った。

「い、いえ、ただの泥棒ハンターだと。ほ、ほら、ここで起きた肥料泥棒を捕まえてやると綾小路さんは息巻いてるのですよ」

 すみれは苦し紛れのとりなしを行い、それを聞いて田端は少し不思議そうな顔をしたが納得したようだった。

「お気持ちはありがたいのですが、警察に被害届を出してますから。警察も盗まれた物からして爆弾作りの疑いがあるとおっしゃってましたが、この小さな町にテロを起こすようなことは無いだろうと思いますよ」

「ちなみにどんな状況で盗まれたんだい?」

 出任せではあるが、この流れで聞いてしまおう、すみれはそう考えて質問した。

「ありがちなパターンですよ。三日前の真夜中三時頃に警報が鳴って、警備会社が駆けつけたら表に積んであるが売り物の肥料が盗まれていました。防犯カメラには複数の犯人が肥料を軽トラに積み込む様子が写っていたけど、覆面をしているし、軽トラのナンバーは隠されていたので手掛かりは少ないですよ」

「ふうむ、転売目的の輩かね。高級盆栽を盗む話もあるし」

「それならば、もっと高価な肥料や苗もあるからそちらを盗むものなのでしょうが、手付かずでした。他にもネジやら鍋やら調理器具や雑品も盗まれてましたし、転売目的なら高級な花も盗まれてそうですが、それは手つかずでしたし、なんなのかさっぱり見当つきませんね」

「複数って本格的な窃盗団か。それで、防犯カメラの映像って見せてもらえないものでしょうか?」

 綾小路が話に割って入ってきた。テロリスト疑いをすぐにでも晴らしたいのはわかるが、ストレートに頼みすぎだろうとすみれはひやりとした。

「すみませんね、本部の指示で映像は外部の人には見せられないのですよ」

 案の定というか、予想通り断られてしまった。今は情報保護だかコンプライアンスだかが厳しいから仕方ない。

「まあ、画像が良くないから見ても大してわかりませんよ。さて、食育イベントはいつでしたっけ」

「おう、話が脱線してしまったな。イベントはゴールデンウイーク前の土曜日だから四月二十日だ。いつものとおり、三日前には配達してくれ」

「了解しました」

 田端は胸ポケットから伝票を取り出し、サラサラと書き上げると健三に控えを渡した。

 その後も田端と話を続けたが盗難事件に関しては大した収穫はないまま、すみれ達は帰路についた。

「警察の見立ての方が正しいかも知れねえな」

 苑に戻り、聞き込みの成果を整理するために三人は談話室に入り、セルフサービスのお茶を飲みながら健三は唸った。

「そうなのかい? 私はよくわからないけど、盗まれたのは肥料に鍋にネジだっけ。全然見当もつかないよ」

 すみれも先ほどの話を思い返すように反芻する。

「私も園芸の目的の盗みに思えますね、暗がりで植木鉢と鍋を間違えた可能性もありますし、紫陽花には鉄分が必要と何かで聞いたことあります」

 綾小路もすみれ同調調した。

「いや、綾小路さん。紫陽花専用の肥料があるからそれならそっちを盗むよ。釘なんて埋めたら根っこが傷みそうだ。むしろぬか漬け用じゃないかい? 釘を入れるとナスが綺麗な紫色につかるんだよ」

「おいおい、すみれさんよ。ぬか漬けなら糠床や樽を盗むだろ。綾小路も元泥棒なら、暗がりでも鍋と植木鉢間違えるなんて間抜けなことしねえのはわかるだろ」

 健三が手厳しく二人にツッコミを入れるとさすがに綾小路が不快そうな顔をした。

「それはそうですけど、じゃあ、なんだと言うのですか」

「全部爆弾の材料だよ。爆薬を圧力鍋に入れたり、殺傷能力高めるために釘を混ぜるというのは各国で起きるテロ事件で使われるぜ」

「そ、そうなのかい。健さんは本当に詳しいね」

「ああ、だから爆弾見つけたら応急処置で液体窒素を吹き掛けて凍らせて起爆装置が起動しないようにするんだ。浅葱さんにも液体窒素を購入してくれないかと頼んでいるのだが、なかなかねえ」

「へ、へえ」

 まず、そんなものは普通は備品購入してくれないだろうし、第一この閑古鳥が鳴いている老人施設にテロをしかける恐れも理由も無いと思ったのだが、すみれはとりあえず黙っていることにした。

 健三は一体何と戦っているのかとすみれは思っていたが、自分も息子の家に戻ったらあの鬼嫁と戦いを再開するつもりだ。

「人生というのは、常に何かと戦っているねえ」

「すみれさん?」

 二人が訝しげに呼びかけたので、はっと我に返った。今は肥料の行方や使われ方の推理をしているところだ。鬼嫁との戦いはまた今度考えよう。

「いや、ちょっとぼんやりとしてしまったよ」

「しっかりしてくれよ、ボケるにはまだ早いぜ。それから食育イベントの準備も同時進行だからな」

 健三は総一郎からもらったイベント要綱をコピーして二人に渡した。

「案外、忙しい苑だね……」
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