上 下
8 / 36

第8話 波乱万丈な見守りパトロール

しおりを挟む
「さて、見回り行きますか」

 綾小路が玄関に行くと健三がビブスを手渡しながら言った。

「とりあえずこれを着用してくれ。自主的だが、不審者に間違われないように小学校の許可をもらって苑の名前入りのビブスを作った」

「わかりました。ところですみれさんは?」

「なんか着替えるとか言ってたが、おっ、来た来た……って、すみれさん。身軽な格好はいいがトレーニングじゃないぞ」

 すみれはジャージにスポーツシューズ、手にはサッカーボールという出で立ち。これから練習と言ってもおかしくない格好だ。

「いやあ、リフティングしながらパトロールできるかな、と」

「さすがに無理だろ」

「あとは万一の不審者に出くわしたら、サッカーボールをぶつけて攻撃できるかなと」

「ふむ、それは一理あるな。昨夜、証明されたし」

「おかけでまだ頭が痛いですよ。髪の毛も抜けた気がするし」

 綾小路がやや薄い頭をわざとらしくさする。

「ああ、すまんねえ」

「まあ、俺も武器は持っているしな」

 手にしたエアガンをさすりながら健三はどや顔している。


「エアガンかい。昨夜言ってたカラス撃退用ってやつ?」

「さすがに殺傷能力高くするとお縄になるからな」

「そ、それはAK47でしたっけ?」

 恐る恐る綾小路が尋ねる。なんせ、昨夜鼻先に突きつけられた銃だ。恐怖がよみがえったのかもしれない。

「おう、そうよ。世界中で一番出回ってる銃だ。やはりテロリストは詳しいな」

「だから
 俺はテロリストじゃないって」

「まあ、これをちらつかせるだけでかなりの効果があるぞ。子供は品行方正になるからな」

 それは単に子供はびびっているのではないかとすみれは思ったが、黙っていることにして街へ繰り出した。

 パトロールと言っても学校の通学路だけあって閑静な住宅街の中にあり、あまり車も通らない。

「まあ、二、三往復して子供達を見守ると言っても散歩みたいなもんだ」

 モデルガンとはいえ、AK47を手に持ちながら歩くのは散歩ではない雰囲気だ。ビブスが無ければ完全に不審者事案になるだろう。

「うわー、ミリタリーじじぃだー!  逃げろー」

 健三の姿を見た瞬間に一部の児童達は逃げ出していった。

「いやあ、防犯効果バッチリだね。寄り道せずにすぐ帰ってくれる」

 健三は満足げにAK47(あくまでもエアガンだ、念のため)を掲げながら頷く。

「って、健さん何かやったのかい?」

「いやあ、いじめの現場を見かけたのでいじめっ子にちょいと制裁を加えたらそれ以来『悪いことするとミリタリーじじぃが成敗に来る』も子供達の間で噂になってな。ま、学校から苦情が来たが、いじめられていた子供はたくさん居たらしくてな、保護者達がこっそりお礼に来たよ」

 得意げに話すことなのだろうか、結果的には悪ガキは成敗され、校内の治安は戻ったとも言えるが。

「うーん、いいんだか、悪いんだか」

「まあ、出るという噂があった不審者情報もなくなったから一定の効果はあるんじゃないか」

「それ、健三さんが不審者……むぐぐ」

 綾小路が本音を言いそうになったから慌ててすみれが口をふさぐ。

「と、ところで健さん。帰りがけにホームセンターへ行くと言ってたけど聞き込みするのかい?」

「おう、ついでに浅葱さんから買い出しも頼まれてるからな。今度、小学校の児童を呼んでイベントするんだ」

「ああ、子ども達が歌でも歌ってくれるのかい? それとも似顔絵書いてくれるのかい? それで、お土産のお菓子を買うとか? あれ、私は退屈そうだと思うのだけど」

 綾小路もうんざりしたような顔をする。

「確かに、歌を聴かされてるイベントは退屈そうですね。そろそろ演歌や民謡ではなく、ビートルズやロックを聴いていた世代だろうに」

 健三はカラカラと笑って否定した。

「いや、そんなおとなしいイベントじゃねえよ。食育イベントを開くんだ。今回は春だからタケノコ掘りして、その後は調理実習だ。シャベル類はあるから、軍手やタケノコ持ち帰り用のビニール袋など消耗品を買ってきてくれと」

 二人ずっこけたのは同時であった。

「ほ、本当に動き回るんだね、若葉苑は」

「おうよ、動かないとボケるから積極的にこういったイベントを開くんだ。だから入居者はかくしゃくとした者ばっかになるんだがな」

「はあ……」

 妙にすみれは納得する。確かに総一郎が言っていたとおり辛気くさいから三万どころか十万光年は離れている。

「やっぱり忍び込む所、間違えたな……」

 綾小路は今更ながらため息をつく。とりあえず衣食住は確保されたから結果オーライだが、あの所長には絶対逆らってはいけない。裏切ると本当に桜の肥料にされかねない。

「ほらほら、ぼやかない。次の周回でパトロール終わりだからホームセンターへ行くぞ」

「あ、ミリタリーおじいさん達だ、さよーならー」

 不意に元気のいい声がして見ると男子たちが元気そうに手を振ってる。春先なのに半袖に短パン、迷彩柄の帽子を被っている。

「おう、気をつけて帰れよ」

 健さんは手を上げて答える。こうして健さんを慕う子もいるのだなと思いつつ、三人はホームセンターへ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

小熊カチョー物語

燦一郎
キャラ文芸
真面目でひたむきな小熊カチョーのサラリーマン生活の悲喜こもごもをシリーズでお送りします。 連載物でなくて、各回読み切りです。 キャストを紹介しておきます。 ********************************************** ■小熊(おぐま)カチョー  ・所属:企画部企画すいしん課  ・役職:カチョー  ・まじめ。45歳既婚者。子供がふたりいる。 ・塩サバが大好物 ■大馬(おおば)ブチョー  ・所属:企画部  ・役職:ブチョー  ・見かけだおし。自己中心的。ずるがしこい。 ■リス子さん  ・所属:企画部企画課  ・役職:なし  ・美人で利発的。おおらかでいきいきしている。28歳独身。 ■ねず美さん  ・所属:総務部庶務課  ・役職:なし  ・適当。おおざっぱ。少々いじわる。   40歳独身。 ■燕(つばめ)ちゃん  ・所属:営業部営業課  ・役職:なし  ・入社2年目の女子社員。ひたむき。   正直。24歳独身。   ■その他  ・猫目(ねこめ)シャチョー  ・牛音(うしね)ジョーム  ・狸木(たぬきぎ)センム  ・蛇丘(へびおか)さん(重要顧客)  ・青鹿(あおじか)くん(企画すいしん課カカリチョー)  ・舞豚(ぶぶた)くん(営業部営業課)

坂本小牧はめんどくさい

こうやさい
キャラ文芸
 坂本小牧はある日はまっていたゲームの世界に転移してしまった。  ――という妄想で忙しい。  アルファポリス内の話では初めてキャラ名表に出してみました。キャラ文芸ってそういう意味じゃない(爆)。  最初の方はコメディー目指してるんだろうなぁあれだけど的な話なんだけど終わりの方はベクトルが違う意味であれなのでどこまで出すか悩み中。長くはない話なんだけどね。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

ここなみっくす🐳

ここな🐳
キャラ文芸
ここなの日記だよ🐳

【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
 平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。  非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。 ※注意:キスシーン(触れる程度)あります。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...