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第六話 VSロッカ

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 俺はロッカと共に、稽古場へと向かっていた。
 その後を不安げなコリンさんが、オロオロとしながらついてくる。
 廊下を歩いているとき、使用人の小太りの男、ボンと目が合った。

「ああ、アウル様に、ロッカ……様?」

 ボンは俺を見た後、ロッカの顔を見て言葉を途切れさせた。

「どど、どうか、されたのですかな?」

 ボンはロッカを見て、明らかに脅えている。
 ロッカの顔が殺気立っていたためだろう。

「邪魔だ、退いてろ……!」

「はっ、はいいっ!」

 ボンはロッカにそう言われ、慌ただしく走って逃げて行った。

「ア、アウル様……その、止めましょう。私も、一緒に謝りますから」

 コリンさんが俺へと声を掛けて来る。
 俺は首を振った。

「大丈夫だ、コリンさん。この前、ビッグアイを倒して見せただろ?」

「でで、でも……あれは、D級下位の魔物です。仮に魔法やマナを用いた技を封じるとしても、まだアウル様では敵いません……」

「はは、別にそんな制約はいらないよ」

「な、なければ、アウル様が殺されてしまいます……!」

 コリンさんがぶるりと身震いした。
 確かに、先程俺はロッカに力負けした。
 そのせいでコリンさんは不安なのかもしれない。

 だが、戦いとはマナやチャクラ、筋肉の量や質だけで決まるものではない。
 そんなものは一要素に過ぎない。
 それらを使って技を繰り出すこと、立ち回り、読み、センスが重要だ。
 身体はまだ貧弱だが、こちらに関しては前世からそう衰えてはいないはずだ。

 稽古場についた。
 中央で、俺とロッカは向かい合う。
 コリンさんは離れたところから、オロオロと様子を見守っていた。

 ロッカが修練用の木剣を投げ付けてきた。
 俺はそれを受け止めた。

「フン、よく取れましたね」

 こいつは今、頭に向かって投げていたな。
 以前の俺であれば、直撃を受けて死んでいたかもしれない。
 短絡的な奴だ。

「ルールは、魔法や魔技はなしにしましょう。私に一本でも有効打を取れれば、アウル様の勝ちでよろしいですよ」

 ロッカはそこまで言い、手にした木剣を横に振るった。
 ビュッと空気を切る音が鳴る。
 それからロッカは顔を醜悪に歪めた。

「ですが……私の勝ちは、アウル様が戦闘続行不能になった段階で、として差し上げます。これくらいのハンデは必要でしょう」

「そっ、それはハンデではありません!」

 コリンさんが、狼狽えながら口を挟んできた。

「ロッカ様……貴方は、アウル様が動けなくなるまで、木剣で殴りつけるおつもりですか?」

「このガキ……アウル様の精神の教育も、私の仕事の内だ。使用人女は口を挟むなよ」

「大丈夫だ、コリンさん。俺は勝つよ」

 俺の言葉に、ロッカが一層と顔の皺を深めた。

「魔法でも魔技でも、何でも使ってください。それとも、使われる方が怖かったのですか? 俺は拳闘士だからマナはなんてないから、魔法も魔技も使えませんよ」

「はあ……?」

 ロッカの顔が怒りで赤くなる。

「それから、俺は木剣はいりませんよ」

 俺は木剣を床へと投げ捨てた。

「何せ、俺は拳闘士ですから」

 ロッカに向けて拳を構える。

「さっきから、あまりふざけるなよ。拳闘士だからなんだ! 剣の方がリーチがある、拳闘士が肉体を強化したところで鋼の刃には遠く及ばぬ! お前のそのゴミクラスを誇るな!」

「それは次元の低い話ですよ。武器などない方が、小回りが利いて細かい読み合いが有利です。チャクラを高めれば、拳闘士の拳はミスリルをも超える」

「この馬鹿ガキがっ! すぐに黙らせてやる!」

 ロッカが木剣を持って飛び掛かってきた。
 構えも動きも隙だらけだ。
 ロッカは、ただの冒険者上がり平民だな。
 正式な剣術を習った人間だとはとても思えない。

 俺は『縮地』でロッカの死角に入った。
 ロッカが一瞬遅れ、呆然とした顔で俺を探す。

 その隙に、顎に軽く掌底を押し当てた。
 力は乗せていない。どうせ、一本取れば勝ちの戦いなのだ。

「……い、今、何が」

「剣士クラスなのに、『縮地』も見たことがなかったのですか?」

 ロッカが俺を睨み、木剣を力任せに振るってきた。
 危ない、もう勝負は終わったものだと考えていた。
 俺は背後に身体を逸らして回避した。

「一本、取りましたよ。もう、模擬戦はお終いでしょう」

「黙れ! 顎を掠めただけだ! こんな攻撃、戦いで何の意味がある! 一本と認められるわけがあるか!」

 ……いや、力を抜いただけなんだけどな。
 しっかりと触れていたし、俺とロッカの力差でも充分弾き飛ばせていただろう。

 ロッカが木剣を俺へと振りかざす。
 俺は右に身体を撓らせ、ロッカの背後へと回って肘で背中を突いた。

「うごっ!」

 ロッカはよろけた後、再び木剣を構える。
 まだ続けるのか。

「……一本とはなんだったのですか」

「黙れ、黙れ、黙れ!」

 俺は『縮地』でロッカの周囲を回り、肩、腰、腹部を、チャクラを込めて掌で打った。

「おぐっ!」

 ロッカは下がりながらよろめく。
 軽い攻撃だが、全てしっかりとチャクラの裏打ちを乗せている。
 こういう掌底は、外傷より内部にダメージが来る。

「戦闘不能になるまでやりますか?」

「有り得ない……元C級冒険者の私が、徒手の拳闘士の出来損ないのガキに負けるなど……」

「そりゃ拳闘士は素手ですよ」

「こんなことは、有り得ない! 有り得ないんだアアアッ!」

 ロッカが後ろに下がり、構えを変えた。
 木剣の刃に炎が走る。
 マナを使っている……これは、魔技だ。
 この戦いで魔法や魔技を禁じる、といったのもなかったことになったらしい。

「死ねぇクソガキ! 『炎刃衝』!」

 ロッカが刃を振るった。
 刃の炎が俺へと向かって来る。
 俺は前に出ながら、あっさりと炎を回避し、そのままロッカへと距離を詰めた。

「今……殺すつもりで来ましたね。貴方にも、殺される覚悟があると考えていいですか?」

 俺は握り拳を作った。

「ひっ! ひいっ!」

 ロッカが木剣で我が身を守ろうとする。
 だが、木剣は既に『炎刃衝』で黒焦げになり、刃の先がなくなっていた。

「あ、ああっ!」

 ロッカが悲痛な声を上げる。
 俺は拳を前に突き出し、ロッカの腹を殴った。

「おぶちっ!」

 ロッカは白眼を剥き、その場に崩れ落ちた。
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