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天空サンダース

2.スカイ・サンシャイン

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 高学部二年春。周りからライデンの噂話が聞こえる。「底辺」が「能無し」がニックに勝ったと。勿論、それはライデンの耳にも届いたが。

 噂話を聞いた一人の少年がライデンに接触する。

「ねえ能無しって君?」
「だったら何だよ」

 やんわりとした口調で聞いた相手に、喧嘩口調で答える。

「どうやって勝ったの」
「纏雷でぶん殴った。それしか出来ないしな」

 少年は少し微笑む。

「面白いね、名前は?」
「稲妻雷電。お前はスカイ・サンシャインだな」

 スカイ・サンシャイン。サンシャイン家と呼ばれる世界的に有名な魔法の名家の生まれ。二年生で一番の才能を有し、学園始まって以来の天才とも呼ばれている。

「僕は君のこと何も知らない。君の強さも弱さも」

 一歩、一歩近づきながらスカイは手を伸ばす。

「やろうよ。手加減してあげるから」

 優しい笑顔で言った。それはライデンを馬鹿にしたからではなく、スカイという男の本質。何でも出来る、それ故に上から目線というのが板についていた。

「やらねえよ。本気じゃねんなら」

 ライデンは怒ってはいなかった。ライデンに根付いた底辺が、他の人の反応と同じだから。そして、現在地を知りたかった。本気の天才と渡り合えるかどうかを。

「本気出させてみなよ」

 二人は模擬戦闘訓練室に向う。

 互いに向かい合い、スタート位置で立ち止まる。入念な準備体操をするライデンに対し、スカイは指の体操をするのみ。これは互いの戦闘スタイルが違うから。ライデンは肉体をフルに使った近接武術タイプ。スカイは…。

「待たせた。勝負はどうする」
「スリーアタックでどう?」
「よし」

 スリーアタックとは、3回攻撃を当てたほうが勝ちの勝負。

 先に仕掛けたのはライデン。


「纏雷。若雷リミットオフ」

 身体能力を活かして先手必勝を取る。かに思えた。スカイは指輪を前に掲げる。

「付喪術。金剛石の守護」

 ライデンは透明な壁に激突する。付喪術とは物に宿る魂を操る術。ダイヤモンドの魂を引き出し、障壁を作ったのだ。

「サンダースピア」

 障壁を解除し、雷の槍がライデンに突き刺さる。

「式神雷獣」

 雷を纏った獣がライデンに襲いかかる。回し蹴りで雷獣を退け、高速移動でスカイの背後を取る。

 しかし背後には別な雷獣がいた。ライデンは二撃目をもらう。

「二回目。次で最後だよ?」
「うるせぇ!」

 ライデンは指に電撃を集める。

〈それは無理よ。まだ二割しか成功してないのよ〉
「賭けに出るさ。もともと一割にも満たない勝率だ」
「誰に話してるんだ」
「勝利の女神だ。行くぜ裂雷切【セツ】」

 再びの高速移動。指に集めた雷のコーティングに、腕のふりを合わせた斬撃。雷に落ちた音がした。地面に五本の斬撃が広がる。が、スカイは無傷。直前に精霊術により軌道を逸らした。外したことで隙を見せたライデンに、再びのサンダースピアで三撃目。

 ライデンの惨敗。

「僕は強いだろ」
「俺はどうだった」
「…面白かったよ」

 スカイは笑わずに言った。

 その日の晩のホムラとの夢修行。

「悔しかった?」
「ああ。あれだけ努力しても足元にも及ぶことが無いなんてね」

 しかしその顔は悔しさで歪むこと無く、前を向き希望を見るような顔だった。

「足の爪くらいなら及んでいたわよ」

 ホムラはライデンに聞こえないくらいでそう言った。

 これが生涯の好敵手の出会い。
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