シンノシ

三日月

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8.赤竜

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 ロウソク一本灯る、広い部屋。椅子に腰掛けるのは戦川。壁にもたれ掛かるのは武蔵。二人の顔を、小さな火だけが照らす。

 先に沈黙を破ったのは武蔵。と言っても、声は出せずにテレパシーで会話する。

『この間一戦交えた』
『ほぉ、俺ァまだ先になると思ったんだがな。どうだったよ?』
『偶然であった。相手も偶然だろう。中々強かった。絶影の記憶を出さなければ、かなり厳しい戦いになっただろう』

 少し笑う武蔵に対して、喜ぶなよと笑顔でツッコむ戦川。

 武蔵としては、強い相手とやれて楽しかったのだ。戦闘狂というわけではないが、やはり自分の技を披露したいものだ。勿論、狙ってあの場に行ったわけではない。

『動くかな?』
『動くだろうな。仲間が拉致られたと思うか、裏切られたと思うか。一先ず、真一の護衛は青柳のままにして、俺等ァは交戦に出ようか』

 戦川の命令に、小さく頷き部屋を後にする。

 ろうそくの火が小さく揺れる。扉は閉まったまま、戦川の対面の椅子に、赤い革の手袋の男が座る。

『エム、何のようだ』
『次の指令だ。他のエムの使者と戦え。そんで勝て』
『お前は何がしたい。そろそろ教えてくれてもいいだろう』
『……お前が知る必要はない。娘を助けてやった恩を忘れるな』

 蝋燭の火が消える。暗い部屋から、唯一人の戦川は大きなため息をつく。テレパシーを使い、仲間全員を大広間に呼び出す。

 集められた仲間達。真一、戦川、青柳、武蔵。そして初めて見る男と女。戦川が一つ上のステージに上がる。

「これから戦いが起こる。敵は偽善者の超能力者集団だ。殺し合いとはならないと思うが、命の保証は出来ない。下りたいやつは構わない
「……。僕、戦いたくないんだけど…」

 おそるおそる手を上げる真一。全員の視線が真一に向く。

「下りたいやつはいないな!真一は後方支援で、護衛に青柳を付ける。俺とォ、武蔵が戦う。補助として咲が手伝え。阿部は司令塔として俺等を動かせ。やばくなったら、真一が青柳を連れてきてくれ」
「やっぱり僕も戦うの?」
「心配しない!アタシが守るし、後方の後方でポテチ食べながら待ちなよ!アタシもヤバくなった時だけだから楽チン!」
「以降俺達は『赤竜』を名乗る。あの忌々しいエムの手袋が由来だ」

 真一はエムが手袋をしていない事に、少しの疑問を持ちながらこの会議は終了した。




『善と悪なんて分かれるから、対立するんだ~』
『全ては一つでしかない』
『オレらもやることは決まってるっス』
『私たちは天の使者。これより人に裁きを下す者』

 超能力者は一人じゃない。人は独りでは生きられない。人は。
 人は徒党を組む。それは超能力者とて同じ。組織等はその意志を一つとして動く。しかし、一人一人の思いは違う。

 超能力者のグループ。椅子が三つほど向かい合うように並べられている。その一席にジョーが。その隣に、スポーツマンのような風貌の逞しい男。そして、一席は空いたまま。

『俺等は仲間を殺した能力者と、これから戦いに赴く。ドウマンは全員連れてきたのか?』 
『あア。ネイ、ロック、キツネの三人は連れて来タ』

 ドウマンと呼ばれた男は、ジョーと並びグループのリーダー格だ。ジョーの招集により馳せ参じた。

『シンと呼ばれた仲間は、その組織に殺されたのカ?証拠はあるのカ?』

 ジョーはその問いに対して、怒りを表すかのように拳を硬くさせる。建物全体が軋み、ジョーの顔を暗くさせる。熱い男の静かなる怒り。それを感じ取ったドウマンは、サイコキネシスでジョーに風を送り、冷静になるように誘った。

 ジョーの手は緩み、それに伴いドウマンはサイコキネシスを停止した。

 コンコンと、ドアを叩く音。最後の一人が到着したのだと、二人はドアをサイコキネシスで開け、そのドアを軽く押し一人の男が入室した。

 その男の風貌は、黒髪に後ろで一つ縛りをして、細い目が幼さを誘う。

『すまないね、私が最後になるとは』
『構わないぜ。どうせエイトが原因だろ』
『アイツは変わらんナ』

 まあまあと、軽くいなしながらその男は最後の一席に座る。

『で、リューはエイトと、マミを連れてきたのか?』
『ああ。そんでもってエイトから新情報だ』

 ジョーとドウマンは、前のめりで話を聞く。リューは懐から写真を出す。その写真の男は、ジョーがスカウトした仲間で、死んだとされるシンだった。

『この新入り生きてますよ』

 リューの言葉に息を呑む二人。
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