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ナスの覚醒

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1章 カァルプリィトゥ

2話 オレたちの戦い

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 この世界には50人の特殊な能力を持った人がいる。その能力は個々によって様々だが、1つ言えるとしたら、その能力は、普通の人間ではすることができない能力だということだ。



 オレは、学校ではド陰キャと言っていい程静かだ。6時間の授業での発言は、当てられた時にしかせず、休み時間には机でゲームのことを考えていたり、スレを呼んだりしている。

 帰る時も、オレは心を許した人とは結構話せるようになったものの、それ以外は、話しかけられても、シカトってレベルで接する。

 だが、オレは夜、もう一つの顔を持つ。

     ***
「すまん! 遅れた」

 50人のうちの誰かが仕掛けた悪行から、密かに人々を守るために戦うオレ。
 それは、学校のオレとはまるで別人のような姿。

 それが、もう一つの顔。いわば、『能力者』。


「何時まで待たせるつもり?」

 そこはとある公園。漆黒に包まれた空。
 みんなが寝静まった頃。

 そんな中、煮えきった態度でオレを叱るこの美少女。

「すまん、マジで。ホントに」
「反省の意思が伝わらないんだけど?」

 明智あけち 瞳ひとみ。一言で言えば、完璧少女だ。成績優秀、スポーツ万能、しかもめっちゃ美人、オマケに性格も良く(学校では)、誰からも好かれるアイドルのような存在だ。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花  とは、まさにコイツのことを言うのだろう。
 だが、コイツも50人のうちの1人の能力者。
 オレたちと共に戦っている。

 日中は、太陽のような明るい表情で皆から好かれるヒロイン。 夜は、凛としたクールお嬢様……なのだが、心までクール、というか完全に冷えきっている。昼とのギャップがとても激しく、めっちゃ怖い。

 声がいつもより低めなので、なかなか怒っていらっしゃる。

「そうだ! オキとジジイは?」

「あそこ。
     ふん、どうせなら土下座でもしてきなさいよ」

 腕を組んで嘲笑する明智。

 風が吹いた。

 首までかかった純黒ともいえる黒髪がサラリと揺れる。
 ひぇぇ~!
 そんなに冷たくない風のはずだが、オレはブルブルと震え上がってしまう。

 オレの目に映るお嬢様の笑顔。
 学校ではあらゆる男子を虜にするはずなのだが、今の笑顔にはそんな要素はひとつもない。
 完全に冷えきっている。
 なんか、めっちゃ怖い。

 オレは、もう1回明智に「すまん!」とだけ言って、オキとジジイのところに行った。

「すまん! 遅れた」
「心配したよ。まあ、無事で何よりだ」
 真夜中の公園のベンチ。
 明智とは反対にオレのことを心配してくれた少年。
 沖俵おきだわらしき。通称、オキ。
 イケメンで、スポーツができて、それに優しくて(学校じゃなくても)女子からめっちゃモテている優男。
 学校でケダモノ扱いされているオレとは真反対の待遇のされ方。そんなヤツがオレと仲がいいのが不思議なくらいだ。

「ほっほっほ。何をしてるんじゃ。全く」
 坂巻さかまき嘉寿雄かずお。元大魔術師らしく、オレたちのサポートをしてくれる。
 オレは何て呼んだらいいのか分からないので『ジジイ』と呼んでいる。

 明智とは対照的に、温かみが感じられる2人の言葉は、ブルブルと震えたオレの心を温めてくれる。

 オキとジジイ、2人とも能力者だ。

 オレ、明智、オキ、ジジイ。50人のうち4人。
 残りの46人はどんな人なのだろうか。

 いい人なのか、悪い人なのか。
 だが、1つ分かることは、今起きている事態を加速させるのも、阻止するのも、オレたちしかできないってことだ。

 街の灯りがほぼ消えてなくなった頃、ヤツらが来た。

「ちょうどいい所にきたな」
「だな。やるか」
「今日はちょっと数多くない?」
「どうせ暇なんじゃろ」

 グルルルル……

 そんな音を立て、群れをなしてオレたちの所へ来る。

 『魔獣』。この世界ではまず存在が有り得ない生物。

 ヤツらは主に群れで行動し、『殺意』という感情しか持たない。

 そんなヤツらが最近、夜に出没する。

 それは誰かの仕業であり、これの犯人は、恐らくオレ達と同じ能力者である。

 『召喚』
 そのような力を持った能力者が、どっかの世界から連れ出しているのだろう。
 だが、怯むことなんてない。
 なぜなら、オレたちはヤツらを倒し慣れている。
 首を切ったらすぐ死ぬし、皮膚もカチカチって程でもない。
 しかも、死んだら勝手に消えてくれる。とても便利な生物だ。

 午後2時、漆黒の闇夜の中、オレたちと魔獣たちは向かい合った。

「戦闘開始じゃ!」

 ジジイの掛け声で、オレ達は武器を構える。

 2つの陣営がぶつかった時、
 今夜も殺戮ショーが始まる。

「メェェェン! コテェェェ!  よし!  もういっちょ!」

 力強いしっかりとした声。
 闇夜を切り裂くような一閃。
 縦、横、斜め。あらゆる方向から刀を振るう。
 オキは中学の時、剣道の全国大会で優勝した経験がある。その力は、既にプロのレベルを超越しているらしい。なんと恐ろしいことか。

 そして、そんなオキが使っている刀。普通の人が使えば、ただのプラスチック刀だ。
 だが、オキが使うと、名刀マサムネ並の名刀に変化する。
 一瞬にして魔獣たちは真っ二つになり、そして消えていく。
 それに、オキは拳銃も所持している。刀の切れ味が落ちてきた時、左手で刀を研ぎ、右手で拳銃を撃つというスタイルだ。  どんだけ余裕だよ。
 もちろんこの拳銃もオキ専用だ。


「よっと、よし!  もう1回!  これで、よし!」

 リズミカルな甲高い声。
 咲き誇る花のように可憐に敵を倒していくその姿。

 明智はかの有名な明智財閥のお嬢様。
 お嬢様は習い事も多く、小さい頃からたくさんのことをやっていた。なので、どんな武器も上手く使うことができる。

 何だって?
 習い事をしたからってなんでも使えることはないだろうだって??

 それができるんだよ。

 なぜなら、完璧少女だから。
 その明智が今使っているステッキは明智専用。普通の人が使えば、ただの棍棒だ。だが、明智が使えば、あっという間に殺人武器に変化する。


「よっと、コイツら、かなり柔らかいな」

 ちょっとフラフラしたような声。
 闇夜を切り開くような刃。と言いたいところだが······

 オレは特に習い事とかはしていないが、料理は得意な方だったので、短刀を使っている。これも、オレ専用だ。

 だが、オレは普通の人よりは高いステータスを持っているものの、スポーツ万能の2人に比べられると、少し劣る。

 だけど、オレはあるものを持っている。



 戦闘終了。みんな始末し終えた。魔獣の跡すらも、もう残っていない。死骸も、血の跡も全て消え去ってくれるので後処理にも困らない。

 午後3時、まだ皆は眠りに就いている頃。
 オレたちは滑り台のあたりで休んでいる。

「疲れたぁぁー」
「疲れたぁぁー、じゃないわよ。シゲ盛、今日もその杖使わなかったの?」
 ステッキをハンカチで拭きながらオレに問いかける明智。

「だって、使えないんだもん」
「でも、魔術なら動かなくていいから楽でいいじゃないの?」
「でもな――これで攻撃通じるのか?」

 オレは魔術を使う。
 棒は一時的に光り、エネルギーが集まる。
 だが、棒からは火の玉が出て、それで終わった。

「でも、いずれかは使わないといけない日が来るかもよ」

 刀を研ぎながら話に入ってきたオキ。

「そうだよな、他の能力者とか……」

 そうだ。いずれかは他の人と戦う日が来る。
 出来れば戦いたくはないが、いづれか戦わなければならない日が来るだろう。

 その時までに、せめて魔術を。
 そう思うオレである。







 皆がまだ夢の中にいる頃、真っ暗な夜空には、半分月で、半分太陽という不思議な天体が浮かんでいた。



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