黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー

浅木夢見道

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第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション

046 パトロール side:B

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 A班よりも少し早めに行動を開始したB班にも、そこそこの数の殻獣達が襲いかかってきていたが、B班もまた、A班と同じような状況になっていた。

 A班での真也がB班では美咲であり、同じような状況、とはつまり『他のメンバーが手を出す暇もないような蹂躙』であった。



 ぷしゅー、という音と共に数台の設置型のガトリングガンが動作を止める。

 周りには大量の薬莢が散らばっており、銃の形状は違えど正に『トイボックス』らしい戦場だった。

「お、終わりですかぁ…?」

 無数の銃弾によってもたらされた土煙が舞うせいで見通しが悪く、美咲は不安そうにつぶやく。

 徐々にその煙が晴れ、見えた先にあったのは、もはやなんだかよくわからない戦場跡だった。
 殻獣の破片と思しき切れ端が転がった、大量の銃痕。
 これがたった1人の少女によってもたらされたものだとは、誰も信じられないような凄惨な様子だった。

「オーバーキル」

 レイラが短くそう告げる。
 この惨状の前には、たった5匹のカナブン型殻獣しかいなかったのだから。

「……なんていうか、本当にトイボックスなんだね、喜多見さんは」

 呆れた様子の伊織と、目を見開いて固まる苗とまひるに、美咲は申し訳なさそうに「は、はいぃ…すいません……」と謝罪する。
 なぜ謝罪したのかは誰にもわからなかった。

 あまりの小市民さに伊織がため息をつく。

「B.Bって、もっとクールビューティだと思ってたけど」
「あ、あれは…顔を隠してるのでぇ…まだ平気なんですけど……このスーツだと恥ずかしさが凄いですぅ…き、着てもいいですか?」
「ダメでしょ。どこから見られてるかわかんないんだから。
 何のために、トイボックスとして使用していないタイプの異能兵器を使ってるか分かんなくなるよ。
 ……まあ、この火力なら隠せてない気もするけどね」
「そ、そうですよねぇ…」

 伊織と美咲のやり取りを見ていた苗が、レイラにぼそりとこぼす。

「なんというか、拍子抜けですね」
「……なにが?」

 レイラは、苗の言葉の意味がわからず、聞き返す。

「いえ、特別だ何だと言われましたけど、こんな簡単な任務だなんて」
「…まだ、チームとして、成立してない」

 苗の言いたい事を理解したレイラは、苗に対して言葉を放つ。

「え?」

 今度は、苗がその言葉の意味を掴みかねたようだった。
 そのやり取りを見ていたまひるが口を挟む。

「あ、多分レイラさんは、チームとしての役割分担とかのことを言ってるんだと思います」
「そう」

 まひるの言葉に、レイラが頷く。

「あ、そうですね…すいません。たしかにいきなり実践よりは、こうしてお互いを知った方がいいですよね……すいません。私の異能は、基本的に1人で使うものだったので……。
 ですが、こうして部隊となった以上、連携は大切ですね」
「ん」

「では早速、私の異能、次の戦闘で使います。見ていてください」
「分かった。フォローは?」
「いえ、私の異能は広範囲型ですので、後方で見ていていただければ」
「分かった」

 レイラは頷き、苗から少し距離を取る。

 ちょうどその時、伊織の耳がカナブン達の羽音を聞き取った。

「……くるよ、花潜型。5……いや6体」

 羽音からピタリと数まで言い当てる伊織の異能に、美咲は舌を巻く。

「押切さんの異能も、便利ですよねぇ…いいなぁ…」

 そのような会話が行われている間に、花潜型殻獣……カナブン達の姿が見えてくる。

 数は6体。

 伊織の耳の精度は、相当のものであった。

 飛んでくるカナブン達の前に、苗が立ち塞がる。
 そして、両手を前に掲げると目をつぶり、ふぅと一つ息を吹き出す。

 その美しい様に、後ろで見ていたメンバー達は、なぜか背筋の凍るような感覚を覚える。

 苗がカッと目を開いたかと思うと、次の瞬間、バタバタとカナブン達が地面に落ちていった。

 地面に落ち、少し震えたかと思うと完全に動きを止め、死骸は徐々に白くなっていった。

「………以上です」

 苗は後ろでその様子を見ていたメンバーに声をかける。
 その口からは、白い息が吐き出されていた。

「凍らせる?」

 レイラの言葉に、苗は頷く。

 レイラは、異能の内容を一目で把握していた。

 背筋が凍るような感覚を覚えた、というよりも、本当に温度が低かったのだ。

 レイラ達は高位異能者であり、頑丈な分温度の差に鈍感だったが、その場に一般人がいれば、レイラ達の立っていた異能範囲外の場所でも寒さに震えていただろう。

 カナブン達が白くなっていったのは、凍りつき、霜が降りていたからだった。

「温度を奪う、という異能です。
 先ほど、私の前方は一時的にマイナス180度ほどだったかと。意匠は『雪の結晶』。キネシス7です」

 マイナス180度がどれくらいのものなのかレイラにはわからなかったが、一瞬で殻獣が凍るような温度である。それが凄まじい事はすぐに理解できた。

「凄い」
「いえ、レイラさんのように、突破力と拘束力のある異能も素晴らしいですよ」

 苗の言葉は謙遜や卑下ではなく、心からそう思っているようにレイラには見えた。

 その、自分を低く見ながらも卑屈には見えない『謙虚さ』は、どことなく真也を思い出させ、真也と苗なら仲良くなるだろうな、と思ったレイラはなぜか胸が痛くなった。

 レイラがちくりとした痛みを胸に抱えていると、伊織がB班全員に索敵結果を報告する。

「もう周りにはいないね」

 その言葉にB班リーダーである苗はニッコリと微笑むと、ぱん、と手を叩いて全員に指示を出す。

「じゃあ、あとはコミュニケーションを取りつつ、進みましょうか」



 一同は、ゆっくりとしたペースで歩き始める。
 伊織はウサギの耳の力を遺憾なく発揮し、周りに気を配りながら歩いていたが、途中で索敵をまひるの分身が代行するなど、誰か1人に負担がかかりすぎないようにB班は行動を続けていた。

 こういった小さな気配りは、(ほぼ)女性達の集まりであるB班ならではのものだろう。

 雑談を交えながら進んでいた5人だったが、伊織、レイラ、美咲の3人がクラスメイトということもあり、クラスの話題……主に担任の似合わない猫耳についての話をする3人から少し離れたところで、まひると苗は2人で話を始めた。

「ところで、間宮さん」
「なんですか?」
「間宮さんは…お兄さんと仲が良さそうね?」

 その話題は、先日ラウンジで話された内容だった。
 あまり他人の家庭環境に首を突っ込むな、と注意されていたようにまひるは記憶していた。

 それでもこの話題を出すという事は、『兄妹』というものが苗にとって特別興味のある話なのだろう、とまひるは思った。

「はい。自慢のお兄ちゃんです」

 まひるは笑顔で苗へと返事を返したが、それを受ける苗は、どこか不思議そうな、迷いのある表情だった。

「…でも、その……本当の兄ではないのでしょう?」

 その言葉に、ほんの少しまひるの心がずきりとする。

 本当の妹でなければ、そばにいてはいけないのか、と。

 それは、まひるの『作戦』を否定するものであり、苗に対して返す言葉は、少し卑劣なものになる。

「そう…ですね。
 でも、お兄ちゃんは、この世界に来てから、まひるの事を大切にしてくれました。
 まひると、ずっと一緒にいてくれる、って。
 本当の家族がいなくなっちゃったまひると」

 この言葉は、苗に後悔の念を抱かせるに十分な言葉だったようで、苗は大きく目を見開き、吐いた言葉を今更隠すように口に手を添える。

「! ごめんなさい……」
「あ! 九重先輩! そんな、謝らないでください! 寂しいのは本当ですけど、でも、大丈夫ですから!」

 まひるは、なんでもないといった風に言葉を返したが、まひるの奥底の、鈍い光は『ざまあみろ』と口汚く感想をこぼしていた。

 その汚い自分の一面は、まひるにとっても心地のいい面ではないが、こと『お兄ちゃん』についての事では容赦はなかった。

「寂しくても、お兄ちゃんがいてくれるから平気です!」

 そう最後に告げたまひるのその言葉は、『家族』という意味合いではないものの、本心から出てきた言葉だった。

「……うらやましい」

 ぼそり、と苗の口から漏れたその言葉は、まひるの耳に入ってきたが、一瞬、その言葉の意味を失念させるほど、様々な感情の込もったものであった。

「え?」

 驚き、聞き返してしまったまひるに、苗は優しく微笑み、手を振る。

「いえ、何でもないわ。ところで喜多見さんは……」

 話を強引に終わらせ、苗は美咲と話すためにまひるのそばを離れていった。

 その背を送るまひるは、自分の言った言葉を取り戻せないのは、自分も同じだったのだと少し反省した。
 そう思ってしまうほど、去っていく苗の背中には、様々な感情が読み取れた。

「ねえ、間宮妹」
「はっ、はい!」

 苗の背を見送るまひるに、伊織から声が掛かり、まひるは驚いてそちらを見る。
 まひるは驚きながらも、先輩である伊織に返事を返した。

「キミ、嘘うまいね?」

 伊織の話す声は、褒めている、責めているというものではなく、単純な感想のようにまひるの耳に聞こえる。

 いきなり嘘がうまい、と言われたまひるは、すこしムッとしながらも伊織へ言葉を返す。

「……よくわかんないですけど、本当にお兄ちゃんのことは大切に思ってますよ?」
「ああ、いや、そっちじゃない。それは本心だって分かる」

 伊織の言葉に、まひるは訝しむ。

 うさ耳を一つ動かし、伊織は、今度こそ責めるような目つきと声で、まひるへと告げる。


「キミ、間宮のこと、本当に『お兄ちゃん』とは思ってないだろ?」


 まひるは、その言葉に驚きそうになるが、なんとか表に出すことなくその言葉を受け取った。

「……なんでそう思うんですか?」
「キミからは、よく聞く『音』が聞こえた。それは、『家族愛』じゃないだろ? まあ、どうでもいいけど」

 伊織はそう告げると、前方の一団へと合流すべく足を早める。
 そして、去り際にもう一言、まひるへと言葉を投げかけた。

「間宮の期待を裏切らないでくれよ。大切な友達だからさ」

 その言葉に、まひるは苛立ちを覚える。

 あなたになにが分かるんですか?

 そう口に出してしまいそうだったが、なんとか口をつぐみ、伊織の背を見送る。
 まひるの中の、どろりとした光が、伊織の背を見つめていた。
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