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第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
044 初軍務
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最高機密を2つ明かされ、混乱のうちに始まったアンノウン東雲小隊『デイブレイク隊』。
彼らは結成の2日後、自己紹介がてらにと、園口からメンバーのみでの軍務を任される事となった。
まだ肌寒い……オーバードでなければ肌寒い朝7時の登校ののち、専用ラウンジに寄ることもなく、軍務のため着替えて、専用の発着場から装甲車に乗り込む。
装甲車は真也たちが乗るものの他にも数台用意されており、朝早くにもかかわらず、少なくない生徒がそれぞれに乗り込み、随時出発していた。
今回デイブレイク隊が向かう『大岳営巣地』はG指定営巣地と呼ばれる営巣地である。
営巣地はサイズと生息殻獣に合わせてさまざまな区別がなされている。
今回彼らが向かうG指定というのは、強度2以上の異能者であれば生命の危険は著しく低い。
駆除するのであれば数日で済むようなこの営巣地は、殻獣から得られる検体や素材の確保、またバン発生抑止の観点から、駆除されずに管理されている。
学生たちの訓練に使われるレベルの物であり、条件を満たせば士官高校の生徒のみでの入場も可能、とだいぶ緩い営巣地だった。
デイブレイクメンバー10人を乗せた装甲車は、東雲学園から3時間ほどかけて、のどかな風景を通り越し、山の中へと入っていく。
装甲車は真也がこの世界にきた最初の日に、園口やレイラ、ウッディと乗った物によく似ていた。
あの時は真也の周りを軍服の人間が囲んだが、今日は違い、真也『も』軍服に身を包んでいる。
正しくは、ミリタリージャケットと、ボディースーツだ。
黒を基調とした、このボディースーツの名称は『オーバードスーツ』。オーバード用のスーツ、そのままの意味である。
細かい型番などはあるが、オーバードスーツ、で大体通用する。
このスーツは殻獣の甲殻から得られたテクノロジーを元に作られており、非常に頑丈だが、高い運動性も確保されており、国疫軍の正式装備だ。
欠点と言えるのは、脱着に少し時間がかかる事、そしてボディーラインがはっきりと出るので少し恥ずかしい事くらいだろう。
大岳営巣地は学生軍務でよく使われる場所であり、車内はまるで遠足かのような穏やかな空気に包まれている。
緊張の色を隠せないのは、初めて営巣地へと赴く真也だけだった。
そんな真也の胸元から声を掛けられる。
「……お兄ちゃん、大丈夫だよ」
その声は、真也の横の席でうたた寝をしていたまひるのものだった。
まひるは先ほどまで眠っていたが、山道の悪路で目が覚めたのだろう。
「まひるだって、はじめての軍務は緊張したもん」
真也の肩あたりの高さから、柔らかい声が投げかけられ、真也は力なく微笑む。
「ありがと、まひる。兄貴がこんなんじゃダメだな。しっかりしないと」
真也は励ましてくれたまひるに礼を告げて頭を撫でる。
まひるは満足そうに「ふへへ」と声を漏らすと、真也の肩に顔を擦り付け、そのままもう一度身体を真也に預けて目を瞑った。
真也の真向かいの席でその様子を見ていた伊織が、真也に話しかける。
「間宮、説明受けただろう? 間宮のエンハンスド強度じゃ、傷1つ追わないよ。吹き飛ばされてビックリする、くらいのもんさ。
もちろん、ボクを含めたこのメンバー全員がそうだから、安心して」
その伊織の言葉に追従するように、伊織の横に座るレイラも声をあげる。
「それに、真也の異能、防御型。心配、いらない」
伊織やレイラにも励まされ、真也はその気遣いを嬉しく感じる反面、他の人より出遅れている事を再認識し、気合いを入れた。
それから山道を30分ほど進んだ頃、デイブレイク隊は新東都の外れのG型営巣地へと到着した。
日はすでに登りきり、陽気な日和が、真也以外の隊員の空気をより和ませる。
大岳営巣地はそれまでの道中からうって変わり、山の中にもかかわらず、ひらけた場所になっていた。
なによりも目につくのは、左右に走る、背の高い頑丈そうなフェンスだ。
教科書では『保安線』と紹介されており、管理された営巣地の周囲に張り巡らされているもので、これを許可なく超えた場合、どのような理由があろうとも、国も、軍も侵入した人物に対し生命保持に責任を持たない、というものだった。
金網ではあるが、その一本一本の直径が数センチはあり、それを支える支柱も太く、大きかった。
フェンスよりも向こう側は木々が取り除かれており、遠くから見ると禿山に見えるだろう。
こちら側にはいくつかの建物が見受けられる。恐らくは宿舎や倉庫だろう。
このような山奥で生活する国疫軍人もいるのか、と真也は軍人の大変さを感じた。
車を降りた一行は、先導する光一の後をついて進む。
真也達の向かう先には、守衛室のようなものがあり、オーバードスーツに身を包んだ男性軍人が立っていた。
「東雲学園、404学生大隊の生徒です。こちらが名簿です」
そう言って、光一は営巣地の保安線……フェンスで囲まれた、一般人立ち入り禁止区域の入り口にいる衛兵へ書類を渡す。
「今日の軍務のこと、東雲学園から聞いてますよ。
ふむ、リーダーは、九重光一特練兵長ですか」
「はい、自分です」
東雲学園のアンノウン部隊、デイブレイク部隊のリーダーは、最高学年であり生徒会長の光一が務めることとなった。その点には、誰も異を唱えることはなく、光一もまた、それを受け入れた。
「書類に不備なし、営巣地入場にあたっての諸注意を伝えます」
それから数分間、おそらく何度も伝えているのであろう慣れた口調で、男性軍人は真也達に注意事項を説明した。
掻い摘めば、危険と思ったら信号弾をあげる事、約束の時間までに必ず戻る事、営巣地内のものを勝手に持って帰らない事、そして、連絡があれば軍の指揮には従う事。
そのようなことを説明された一行は、営巣地域へと足を踏み入れた。
保安線を越えたところで、全員に向かって光一が口を開く。
「では、ここでメンバーを2班に分ける。先ずはA班、修斗、ルイス、間宮、友枝、そして俺だ。残りをB班とする。B班の臨時班長は苗、お前だ」
「はい」
苗は姿勢を正すと光一の元へ近寄り、書類を受け取る。
「では、営巣地のパトロール任務を開始する。
苗、この書類の通りに進んだ後、最終地点……地図のこの位置、地下の巣穴の入り口付近で合流だ。
その後、全員で地下の巣穴の様子を低層だけ確認する。それで本日は終了。帰りは全員で戻る」
「わかりました、兄さん」
「ああ、言うまでもないが、しっかりと役目を果たせ」
「勿論です。
……さあ、B班の方はこちらに」
苗の言葉に反応し、半数が苗の元に集う。
「では諸君、パトロールを開始する。前回から日が経っているから小型殻獣と出くわすことも多いだろう、気を引き締めて取り掛かるように」
苗の元に集まった華やかな面々を見て、修斗が声をあげる。
「班分け、男女で分けたんか」
その言葉に、誰よりも早く反応したのは伊織だった。
「たしかに、B班は女性が多いですけどね」
「……あー、すまん」
B班は、『伊織を除いて』女性しかいなかった。遅れてそれに気付いた修斗は、ばつが悪そうに伊織へと謝る。
その謝罪を受けた伊織は、耳を眉をピクリと動かし、
「どうでもいいです。慣れましたから」
とだけ言ってそっぽを向いた。
伊織の言葉に、修斗は尻尾と耳をだらんとさせる。
狼がうさぎに負けている図は、真也から見て少し可笑しかった。
苗もまた苦笑を浮かべ、それから表情を引き締めると、光一へと告げる。
「では、B班、出発します」
「ああ、任せたぞ」
「はい、兄さん」
去っていくB班の5人を見送りながら、光一は小さく笑い、修斗へと視線を向ける。
「修斗、押切に嫌われたな」
「ぐぬぬ……お前がそれっぽく分けたんやろがぃ」
「A班も行動を開始するぞ」
修斗の言葉を封殺した光一の言葉とともに、デイブレイク初、そして真也初の軍務が始まった。
彼らは結成の2日後、自己紹介がてらにと、園口からメンバーのみでの軍務を任される事となった。
まだ肌寒い……オーバードでなければ肌寒い朝7時の登校ののち、専用ラウンジに寄ることもなく、軍務のため着替えて、専用の発着場から装甲車に乗り込む。
装甲車は真也たちが乗るものの他にも数台用意されており、朝早くにもかかわらず、少なくない生徒がそれぞれに乗り込み、随時出発していた。
今回デイブレイク隊が向かう『大岳営巣地』はG指定営巣地と呼ばれる営巣地である。
営巣地はサイズと生息殻獣に合わせてさまざまな区別がなされている。
今回彼らが向かうG指定というのは、強度2以上の異能者であれば生命の危険は著しく低い。
駆除するのであれば数日で済むようなこの営巣地は、殻獣から得られる検体や素材の確保、またバン発生抑止の観点から、駆除されずに管理されている。
学生たちの訓練に使われるレベルの物であり、条件を満たせば士官高校の生徒のみでの入場も可能、とだいぶ緩い営巣地だった。
デイブレイクメンバー10人を乗せた装甲車は、東雲学園から3時間ほどかけて、のどかな風景を通り越し、山の中へと入っていく。
装甲車は真也がこの世界にきた最初の日に、園口やレイラ、ウッディと乗った物によく似ていた。
あの時は真也の周りを軍服の人間が囲んだが、今日は違い、真也『も』軍服に身を包んでいる。
正しくは、ミリタリージャケットと、ボディースーツだ。
黒を基調とした、このボディースーツの名称は『オーバードスーツ』。オーバード用のスーツ、そのままの意味である。
細かい型番などはあるが、オーバードスーツ、で大体通用する。
このスーツは殻獣の甲殻から得られたテクノロジーを元に作られており、非常に頑丈だが、高い運動性も確保されており、国疫軍の正式装備だ。
欠点と言えるのは、脱着に少し時間がかかる事、そしてボディーラインがはっきりと出るので少し恥ずかしい事くらいだろう。
大岳営巣地は学生軍務でよく使われる場所であり、車内はまるで遠足かのような穏やかな空気に包まれている。
緊張の色を隠せないのは、初めて営巣地へと赴く真也だけだった。
そんな真也の胸元から声を掛けられる。
「……お兄ちゃん、大丈夫だよ」
その声は、真也の横の席でうたた寝をしていたまひるのものだった。
まひるは先ほどまで眠っていたが、山道の悪路で目が覚めたのだろう。
「まひるだって、はじめての軍務は緊張したもん」
真也の肩あたりの高さから、柔らかい声が投げかけられ、真也は力なく微笑む。
「ありがと、まひる。兄貴がこんなんじゃダメだな。しっかりしないと」
真也は励ましてくれたまひるに礼を告げて頭を撫でる。
まひるは満足そうに「ふへへ」と声を漏らすと、真也の肩に顔を擦り付け、そのままもう一度身体を真也に預けて目を瞑った。
真也の真向かいの席でその様子を見ていた伊織が、真也に話しかける。
「間宮、説明受けただろう? 間宮のエンハンスド強度じゃ、傷1つ追わないよ。吹き飛ばされてビックリする、くらいのもんさ。
もちろん、ボクを含めたこのメンバー全員がそうだから、安心して」
その伊織の言葉に追従するように、伊織の横に座るレイラも声をあげる。
「それに、真也の異能、防御型。心配、いらない」
伊織やレイラにも励まされ、真也はその気遣いを嬉しく感じる反面、他の人より出遅れている事を再認識し、気合いを入れた。
それから山道を30分ほど進んだ頃、デイブレイク隊は新東都の外れのG型営巣地へと到着した。
日はすでに登りきり、陽気な日和が、真也以外の隊員の空気をより和ませる。
大岳営巣地はそれまでの道中からうって変わり、山の中にもかかわらず、ひらけた場所になっていた。
なによりも目につくのは、左右に走る、背の高い頑丈そうなフェンスだ。
教科書では『保安線』と紹介されており、管理された営巣地の周囲に張り巡らされているもので、これを許可なく超えた場合、どのような理由があろうとも、国も、軍も侵入した人物に対し生命保持に責任を持たない、というものだった。
金網ではあるが、その一本一本の直径が数センチはあり、それを支える支柱も太く、大きかった。
フェンスよりも向こう側は木々が取り除かれており、遠くから見ると禿山に見えるだろう。
こちら側にはいくつかの建物が見受けられる。恐らくは宿舎や倉庫だろう。
このような山奥で生活する国疫軍人もいるのか、と真也は軍人の大変さを感じた。
車を降りた一行は、先導する光一の後をついて進む。
真也達の向かう先には、守衛室のようなものがあり、オーバードスーツに身を包んだ男性軍人が立っていた。
「東雲学園、404学生大隊の生徒です。こちらが名簿です」
そう言って、光一は営巣地の保安線……フェンスで囲まれた、一般人立ち入り禁止区域の入り口にいる衛兵へ書類を渡す。
「今日の軍務のこと、東雲学園から聞いてますよ。
ふむ、リーダーは、九重光一特練兵長ですか」
「はい、自分です」
東雲学園のアンノウン部隊、デイブレイク部隊のリーダーは、最高学年であり生徒会長の光一が務めることとなった。その点には、誰も異を唱えることはなく、光一もまた、それを受け入れた。
「書類に不備なし、営巣地入場にあたっての諸注意を伝えます」
それから数分間、おそらく何度も伝えているのであろう慣れた口調で、男性軍人は真也達に注意事項を説明した。
掻い摘めば、危険と思ったら信号弾をあげる事、約束の時間までに必ず戻る事、営巣地内のものを勝手に持って帰らない事、そして、連絡があれば軍の指揮には従う事。
そのようなことを説明された一行は、営巣地域へと足を踏み入れた。
保安線を越えたところで、全員に向かって光一が口を開く。
「では、ここでメンバーを2班に分ける。先ずはA班、修斗、ルイス、間宮、友枝、そして俺だ。残りをB班とする。B班の臨時班長は苗、お前だ」
「はい」
苗は姿勢を正すと光一の元へ近寄り、書類を受け取る。
「では、営巣地のパトロール任務を開始する。
苗、この書類の通りに進んだ後、最終地点……地図のこの位置、地下の巣穴の入り口付近で合流だ。
その後、全員で地下の巣穴の様子を低層だけ確認する。それで本日は終了。帰りは全員で戻る」
「わかりました、兄さん」
「ああ、言うまでもないが、しっかりと役目を果たせ」
「勿論です。
……さあ、B班の方はこちらに」
苗の言葉に反応し、半数が苗の元に集う。
「では諸君、パトロールを開始する。前回から日が経っているから小型殻獣と出くわすことも多いだろう、気を引き締めて取り掛かるように」
苗の元に集まった華やかな面々を見て、修斗が声をあげる。
「班分け、男女で分けたんか」
その言葉に、誰よりも早く反応したのは伊織だった。
「たしかに、B班は女性が多いですけどね」
「……あー、すまん」
B班は、『伊織を除いて』女性しかいなかった。遅れてそれに気付いた修斗は、ばつが悪そうに伊織へと謝る。
その謝罪を受けた伊織は、耳を眉をピクリと動かし、
「どうでもいいです。慣れましたから」
とだけ言ってそっぽを向いた。
伊織の言葉に、修斗は尻尾と耳をだらんとさせる。
狼がうさぎに負けている図は、真也から見て少し可笑しかった。
苗もまた苦笑を浮かべ、それから表情を引き締めると、光一へと告げる。
「では、B班、出発します」
「ああ、任せたぞ」
「はい、兄さん」
去っていくB班の5人を見送りながら、光一は小さく笑い、修斗へと視線を向ける。
「修斗、押切に嫌われたな」
「ぐぬぬ……お前がそれっぽく分けたんやろがぃ」
「A班も行動を開始するぞ」
修斗の言葉を封殺した光一の言葉とともに、デイブレイク初、そして真也初の軍務が始まった。
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