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チャプター07-02
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惑星マシスの発電所警備室では、六人の魔術師が均等に並んで、円陣を組むことで、魔気を広範囲に飛ばすことができ、この発電所周辺で起きる部外者による侵入を察知することを可能とさせていた。これが魔界での警備体制だった。また、六人の魔術師のまわりには、壁に向かうように座って、施設周辺をモニターで監視している魔術師も数人いた。
ジャンが腕を組んで警備室を歩き、彼らから情報が出ないのか、と待っていた。部屋の隅では、レッグスが黙って立ち尽くしており、うまく洗脳措置ができ、ジャンの言うことを聞くようになっていた。おかげで、ほかへの被害を出さず、必要以外のことでは、黙って立つようになっている。
バズが例の賞金稼ぎの情報を持ち込んできてからというもの、しばらくしても、特に動きは見られなかった。魔界の結界に加えて、銀河連邦の科学技術も用いて、探知波を張り巡らしているものの、それがモニターに映ることがなく、侵入者が来るような雰囲気はなかった。
「第四探知機の近くで、微弱の反応がありました。ただ、落下物の反応と似ております」
「岩塩の落下かもしれないが、それ以上の反応があれば、さらに報告しろ」ジャンは、急ぐつもりはなかった。楽観できる理由としては、リップルに侵入されたとしても、特に支障はないからだ。すぐに彼を殺せるほどの対策は整っていた。問題なのは、そこではなかった。
「依然、スノー様からの連絡はありません」と魔術師の一人。「予定時間を過ぎているのですが」
現在は、時間に厳しいはずの魔女が不通になるという問題が発生していた。スノーのおかげで、人造人間の開発を魔界と連携して行えているのだが、スノーが企画放棄をしたとなれば、魔界に認められた存在になれなくなってしまうのだ。
魔界から独立したとはいえ、魔界に認められた存在にならなければ、危険な考えを持つ魔女に潰されてしまうか、反銀河連邦に侵略されてしまう可能性があった。
こちらの立場としては、外敵から攻められないだけの脅威を持っていなくてはならず、さらに拡大を図り、なにかしらの生産物を取り扱った、ほかの団体などとの契約ができるようにしておかなければならないのだ。そうでなければ、団体として維持が出来なくなってしまう。
「スノー様は、もう少し待つ」ジャンは、気長に待つことにした。「もし、魔女達が、この企画と俺達を放棄したのなら、俺が直接魔界の大臣や賢者様へ交渉をする。それでもだめなら、反銀河連邦と連携を取ってレッグスを量産し、独自の魔界を創成する。……スノー様が来たら、俺に連絡しろ」
ジャンは、部下の返事を聞くと、レッグスを連れて、監獄へと向かった。
※※※
ランスは、ベッドの上で座り込んでいた。相変わらず風が強く、静かなひと時が訪れることはなかった。そんな時に、うっすらと脳裏によぎるリップルの笑顔が、こちらの心を救ってくれていた。
「おー、いたいた」突如として、頭上から女性の声が聞こえた。「ランスちゃん?」
「え?」ランスは驚きつつも、その声のする小窓のほうへと視線を向けた。
「良かった。生きてる」小窓では、格子のあいだをすり抜けて、この部屋へと入って来る妖精の姿があった。緑色の衣装を着て、身体を黄色に光らせている。「君は、ランスちゃんだよね?」
その妖精は、こちらがランスであることを答えると、ミアと名乗ってから部屋の中央で浮遊した。これがリップルの言っていた、妖精族、というものだった。
「よ、妖精?」ランスは思わず聞いた。
「おうよ、妖精だ! 猫族でも魔界族でもなければ、怪物じゃないぞ!」とミアは気分の高い声を発した。「これで、リップルの約束の一つが叶ったね!」
妖精と会わせてあげる。確かに、これは約束してくれていた。
ただ、突然の出来事に、ランスはまだ放心状態だった。次第に冷静になってくると、リップルが救出しに来てくれたことに、期待感が溢れてきた。
「リップル? リップルが来てるの?」ランスは、ミアに近寄った。
「そうだよ! 期待どおりの男でしょー」とミアは微笑んだ。「リップルは、脱出の準備をしてる。エギーというロボットの仲間もいて、大気圏からさらにちょっと先まで簡易飛行ができる。そこまで行くよ。……さて、ここの見取り図はあるかな?」
「見つけられなかった」平常心を取り戻したランスは答えた。「この建物の南に大きな扉。北に小さな扉がある。南のほうが、連絡通路と直結してる」
「うーん。壁を破壊するのも手だねー」ミアは首を傾げた。「リップルと私なら、魔術師を相手にできるかも。正面突破とか、どう?」
「正面突破なんてダメ!」ミアは焦った。「ここにいる魔術師達は、罠を張ってる! 警備が手薄のふりをして、巨大連絡通路で待ち構えてるかも。この部屋も結界があるし」
「……わかった」ミアは背中にある透明度の高い水色の羽を羽ばたかせると、小窓へと上昇し、格子の隙間から外へと出た。「とりあえず、現状とさっきの情報をリップルに報告してくる。ここで待ってて」
「うん! 待ってる!」ランスは、小窓に顔を出して、外にいるミアに返事をした。
※※※
リップルは、エギーを立ち上がらせた。
エギーは、本来の調子を取り戻し、出会った時と同じ快調さを見せてくれた。
「リップル殿、ありがとうございます」エギーは、両腕の動きを確認しながらお礼を言った。
「この調子も、一時的なものかもしれない」リップルは辺りを見ながら返した。「すぐに、取り掛かろう」
「お待たせ!」そこで、丁度良くミアがやって来た。「ランスを見つけた。生きてる」
「良かった……」リップルは胸をなでおろすようにして安堵した。「あとは、脱出路を確保するだけだ。いよいよだね」
ミアは、ランスが囚われている建物の構造と、魔術師が罠を張っていることを、詳しく話してくれた。ランス自らが得た情報のようで、正確だった。
リップルは、作戦を立てた。皆で監獄の南に位置する大きな扉へ向かい、エギーに情報網への侵入をしてもらい、扉の開閉をさせることから最終作戦を開始することにした。扉の開放後は、構内に入るのはこちらだけで、エギーとミアには、出入口の確保をしてもらいながら、ゼシロンという花を捜索させつつ、ランスを待ってもらう。そして、構内に侵入したこちらは、待ち構えていると思われる魔術師数十人の相手をしたあと、ミアと再会をする。
「さあ、僕に乗って」エギーが飛行体制に入った。
「監獄へは、私が案内するよ」ミアが、リップルの肩に乗った。
「よし、出発!」リップルは、エギーの背中に乗った。
ジャンが腕を組んで警備室を歩き、彼らから情報が出ないのか、と待っていた。部屋の隅では、レッグスが黙って立ち尽くしており、うまく洗脳措置ができ、ジャンの言うことを聞くようになっていた。おかげで、ほかへの被害を出さず、必要以外のことでは、黙って立つようになっている。
バズが例の賞金稼ぎの情報を持ち込んできてからというもの、しばらくしても、特に動きは見られなかった。魔界の結界に加えて、銀河連邦の科学技術も用いて、探知波を張り巡らしているものの、それがモニターに映ることがなく、侵入者が来るような雰囲気はなかった。
「第四探知機の近くで、微弱の反応がありました。ただ、落下物の反応と似ております」
「岩塩の落下かもしれないが、それ以上の反応があれば、さらに報告しろ」ジャンは、急ぐつもりはなかった。楽観できる理由としては、リップルに侵入されたとしても、特に支障はないからだ。すぐに彼を殺せるほどの対策は整っていた。問題なのは、そこではなかった。
「依然、スノー様からの連絡はありません」と魔術師の一人。「予定時間を過ぎているのですが」
現在は、時間に厳しいはずの魔女が不通になるという問題が発生していた。スノーのおかげで、人造人間の開発を魔界と連携して行えているのだが、スノーが企画放棄をしたとなれば、魔界に認められた存在になれなくなってしまうのだ。
魔界から独立したとはいえ、魔界に認められた存在にならなければ、危険な考えを持つ魔女に潰されてしまうか、反銀河連邦に侵略されてしまう可能性があった。
こちらの立場としては、外敵から攻められないだけの脅威を持っていなくてはならず、さらに拡大を図り、なにかしらの生産物を取り扱った、ほかの団体などとの契約ができるようにしておかなければならないのだ。そうでなければ、団体として維持が出来なくなってしまう。
「スノー様は、もう少し待つ」ジャンは、気長に待つことにした。「もし、魔女達が、この企画と俺達を放棄したのなら、俺が直接魔界の大臣や賢者様へ交渉をする。それでもだめなら、反銀河連邦と連携を取ってレッグスを量産し、独自の魔界を創成する。……スノー様が来たら、俺に連絡しろ」
ジャンは、部下の返事を聞くと、レッグスを連れて、監獄へと向かった。
※※※
ランスは、ベッドの上で座り込んでいた。相変わらず風が強く、静かなひと時が訪れることはなかった。そんな時に、うっすらと脳裏によぎるリップルの笑顔が、こちらの心を救ってくれていた。
「おー、いたいた」突如として、頭上から女性の声が聞こえた。「ランスちゃん?」
「え?」ランスは驚きつつも、その声のする小窓のほうへと視線を向けた。
「良かった。生きてる」小窓では、格子のあいだをすり抜けて、この部屋へと入って来る妖精の姿があった。緑色の衣装を着て、身体を黄色に光らせている。「君は、ランスちゃんだよね?」
その妖精は、こちらがランスであることを答えると、ミアと名乗ってから部屋の中央で浮遊した。これがリップルの言っていた、妖精族、というものだった。
「よ、妖精?」ランスは思わず聞いた。
「おうよ、妖精だ! 猫族でも魔界族でもなければ、怪物じゃないぞ!」とミアは気分の高い声を発した。「これで、リップルの約束の一つが叶ったね!」
妖精と会わせてあげる。確かに、これは約束してくれていた。
ただ、突然の出来事に、ランスはまだ放心状態だった。次第に冷静になってくると、リップルが救出しに来てくれたことに、期待感が溢れてきた。
「リップル? リップルが来てるの?」ランスは、ミアに近寄った。
「そうだよ! 期待どおりの男でしょー」とミアは微笑んだ。「リップルは、脱出の準備をしてる。エギーというロボットの仲間もいて、大気圏からさらにちょっと先まで簡易飛行ができる。そこまで行くよ。……さて、ここの見取り図はあるかな?」
「見つけられなかった」平常心を取り戻したランスは答えた。「この建物の南に大きな扉。北に小さな扉がある。南のほうが、連絡通路と直結してる」
「うーん。壁を破壊するのも手だねー」ミアは首を傾げた。「リップルと私なら、魔術師を相手にできるかも。正面突破とか、どう?」
「正面突破なんてダメ!」ミアは焦った。「ここにいる魔術師達は、罠を張ってる! 警備が手薄のふりをして、巨大連絡通路で待ち構えてるかも。この部屋も結界があるし」
「……わかった」ミアは背中にある透明度の高い水色の羽を羽ばたかせると、小窓へと上昇し、格子の隙間から外へと出た。「とりあえず、現状とさっきの情報をリップルに報告してくる。ここで待ってて」
「うん! 待ってる!」ランスは、小窓に顔を出して、外にいるミアに返事をした。
※※※
リップルは、エギーを立ち上がらせた。
エギーは、本来の調子を取り戻し、出会った時と同じ快調さを見せてくれた。
「リップル殿、ありがとうございます」エギーは、両腕の動きを確認しながらお礼を言った。
「この調子も、一時的なものかもしれない」リップルは辺りを見ながら返した。「すぐに、取り掛かろう」
「お待たせ!」そこで、丁度良くミアがやって来た。「ランスを見つけた。生きてる」
「良かった……」リップルは胸をなでおろすようにして安堵した。「あとは、脱出路を確保するだけだ。いよいよだね」
ミアは、ランスが囚われている建物の構造と、魔術師が罠を張っていることを、詳しく話してくれた。ランス自らが得た情報のようで、正確だった。
リップルは、作戦を立てた。皆で監獄の南に位置する大きな扉へ向かい、エギーに情報網への侵入をしてもらい、扉の開閉をさせることから最終作戦を開始することにした。扉の開放後は、構内に入るのはこちらだけで、エギーとミアには、出入口の確保をしてもらいながら、ゼシロンという花を捜索させつつ、ランスを待ってもらう。そして、構内に侵入したこちらは、待ち構えていると思われる魔術師数十人の相手をしたあと、ミアと再会をする。
「さあ、僕に乗って」エギーが飛行体制に入った。
「監獄へは、私が案内するよ」ミアが、リップルの肩に乗った。
「よし、出発!」リップルは、エギーの背中に乗った。
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人物設定(イラスト有り) → https://www.pixiv.net/artworks/120358944
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