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チャプター04-03
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男児が入院するとある病院。
低下傾向にあった血圧や心拍数に、正常へ戻ろうとする兆候が見られ始めた。
担当医によれば、これらの症状は、人間が楽しみを見つけた時や、目標を見つけた時の身体に起きる好奇心や向上心を意味した、興奮をすることで起きることのようだ。
全身を動かすことができず、生体脳しか生きていないそんな状態のなかで、このような症状が現れたのは、楽しい夢を見ているのか、うっすらと意識が戻って自身の身が危険な状態であることの自覚が持てたことである、と予想できた。
しかし、この男児が危険であることには変わりはなかった。結局は、体内の抗体はあまりつくられておらず、特殊な薬は、今でも必要とされている。
「また、ウィルスの被害で、死者が出てしまうのかしら」看護師は、男児に対してなにもできない日々の憂鬱に悩まされていた。
※※※
バズが率いる反銀河連邦団第一開拓局の小隊は、惑星ゼリアで改めて集合し、リップルという賞金稼ぎとの争いに負けた鬱憤を晴らすように、雑貨屋周辺で待ち構えていた犯罪者達との銃撃戦を行い、それを終えているところだった。
賞金稼ぎのために食堂で大暴れしたあとは、滞在者に悪い印象を与えてしまい、バズが改めて訪問してみれば、複数の武装した浮浪者や犯罪者が銃器を持って待ち構えていた。けれど、そこらの犯罪者達とは比べ物にならない技術を持つこちらにとって、惑星ゼリアの一部地域を制圧することなど、容易なことだった。
やがて、バズは血の海となった地面を歩いて雑貨屋へと入り、冷や汗を垂らしている店主を目の前にした。
「すまないな」バズは、自動小銃を持って来店した。「君の店前で大暴れをしないと、入れなかったんだ」
「なんのようだ。ここには、商品しかねえよ」とボッシュという名の店主。
「商品だけじゃなくて、情報はあるだろ。質問は簡単だ」そう言って、ボッシュとの距離を詰めて立ち止まった。「……小さい男が来たんだろ。なにを喋ったか、教えてもらおう」
「……魔術師が今にも暴れだす、とか言ってた」ボッシュは、目を閉じて思い出すことに必死だった。「どこかの惑星に行く、とか言ってたな」
「……どこだ?」バズは聞き耳を立てた。「はやく言え」
「待ってろ、今思い出すから。……俺が、魔術師の落ちこぼれの話をして、盛り上がったんだ。やばいことが起きる、とか」
「バズ司令官。惑星ミジェールか惑星マシスです」と部下の一人。「そこに、魔界から独立した空賊がいると思われます」
「そう、マシスだ!」ボッシュは、部下を指した。「惑星マシスに行く、とか言ってた」
「カッツィか。人造人間を製造し始めた団体だ」バズは言った。「ガキは、マシスに行くのか?」
「行くかは、わからない」ボッシュもなんとか答えていた。「ハッキング技術がほしい、とか言ってたが、あまりの高額に、なにも買わずに帰ったんだ。諦めたんじゃねーのか?」
「まあ良い」バズは、ニヤリとした。「ちなみに、カッツィ団は過去に、ここで買い物をしたことがあるか?」質問をするたびに、自動小銃の銃口をボッシュに向けた。
「ああ。発電石の制御装置を買った。大金を所持していないから、ぼろいほうを買っていった」
「俺達も、同じ機械を買おう。ぼろくないほうだ。いくらだ?」バズは、魔術師の購入した機材の改良版を購入して持ち歩くことで、魔界との繋がりを築ける手段であると考えた。
「一億ペイズだ」ボッシュは立ち上がると、ピッキングロボットにリモコンを向けた。「一台は、この倉庫に残ってる。二台目を取り寄せをするなら、金はもっとかかる」
「奥の倉庫にその商品がある、ということか?」バズは念入りに聞いた。
「ああ。支払いが確認できれば、すぐに出す」ボッシュは、奥のほうへと向かおうとしていた。
「半額だ」バズは言った。「いやなら、力づくだ」
ボッシュは、しばらく立ち止まってしまった。そして、なにを思ったのか、全身に光壁をつくり上げると、遠隔操作で軽機関銃を棚から引き寄せて、両手に持って装備した。
「お前らの好き勝手にさせるか!」ボッシュは、反銀河連邦団の隊員達に向かって反射的に振り向き、軽機関銃から熱量弾を乱射した。
※※※
リップルは、ブーチの船の内部を修理し終え、食堂で集会をしていた。
目的地は、惑星マシスではあるが、準備に不足している点はあると説明した。
「準備は必要だ」リップルは、ミアとエギーを指した。
「え? 近くの宇宙基地で船の部品を購入するだけじゃだめなの?」とミア。
「部品とか非常食とか、そこの問題だけじゃない」とリップル。「全員の技術にあえて疑いをかける。まず、ミア。ミアの迷彩妖術が優れているかわからない。そして、エギー。君のハッキング技術が優れているかどうかもわからない。さらに、ブーチの船は、光学迷彩がしっかりと起動するかわからないし、外部にも損傷がある。とにかく、こうやって疑いをかける」
「ということは、惑星マシスで行うことを、事前にどこかの惑星でも行うことですか?」とエギー。
「素晴らしい」リップルは指を鳴らした。「そういうことだ」
気持ちとしては、一刻もはやくランスの救出をしたいのだが、現地で失敗をしてしまえば、本来の目的以前に、仲間の命も危険にさらしてしまうことになってしまう。それらを注視していたため、念入りな事前準備をすることにしていた。
「ここから惑星マシスに向かう途中に、魔界惑星に属している惑星があると思うんだけど、どこかな?」と皆に聞いてみると。
「惑星ゼゼン、クラウ、ダシン、この三点」ブーチが答えた。
「事前準備としてやりたいことを固めておく」リップルは、説明した。「まず、このエリアスライダーをミアの迷彩妖術で包んだ状態にして、練習場所として決めた惑星の重力場まで無許可で接近。次に、エギーのハッキング技術で、その惑星の警備システムに侵入して弱体化させる。続けて、俺、ミア、エギーは、この船から重力場領域の宇宙へと出る。ミアの球体光壁で呼吸を確保。エギーの飛行技術で、重力場から地上までの簡易飛行。それで、対象の惑星に向けて降りる。加えて、ブーチは、俺達の離脱を確認したあと、改めて重力場から離れて正式な入星手続きをして、着陸と修理をしてもらう。最後に、侵入してた俺達は買物を済ませて、ブーチの船に戻る。そこから、エギーの改良もする。それで、離陸」リップルは計画を伝えた。
「惑星ゼゼンはNGね」とブーチ。「魔界の田舎だから、簡単に侵入することはできるけど、船の修理部材の購入と修理ができない。惑星クラウは危険ということでNG。魔術師と連邦人が交流を持つ唯一の場所。侵入、着陸、点検、買物、これらは可能かもしれないけど、政治に重きを置いてる情勢だから、バレたらかなりまずい場所。惑星ダシンなら、較的安心して試せるのかもね。魔術師の服でも着れば、中心都市に紛れて買物と修理依頼はできる。惑星クラウほどじゃないけど、それなりの調達は可能。砂漠地帯の中央に船を止めれば、バレることはない」
「惑星クラウだ」リップルは言った。「そこに行く」
「ん? 今の話を聞いてた?」ミアが言った。「危険だ、ってブーチが言ってるよ」
「わざわざ安全な場所で試す必要はない。それに、資源も豊富な惑星だ」リップルは、立体映像地図を食堂の机で展開し、惑星クラウを映した。「俺も、この惑星には、軍事訓練で一度だけ行ったことがある。船とエギーの整備も可能なほどの技術がある。連邦と魔界の技術が唯一集まっているなら、警備体制は惑星マシスに近いかも」
「……一つ、良いかな?」ブーチが手を上げた。「惑星クラウでは、侵入して着陸まではするとして、本番の惑星マシスでは、絶対に着陸はしないからね」と言いきった。「連邦法を守りたいし、私自身の身も守りたい。惑星マシスには、憲章上、接近禁止令がある」
彼女の断言に、リップルは返した。本番の惑星マシスでは、この船は着陸させず、重力場までに留まり、宇宙空間から地上までの距離はエギーの飛行機能で往復し、ミアの光壁で呼吸を確保することを説明した。よって、ブーチの船は、重力場で浮遊していれば良いことになる。
送迎屋といえども、彼女には後ろめたさがあるようで、それを強引に変えようとはせず、そこはブーチの意志を尊重することにした。確かに、送迎屋であって、現地でなにかをするような役割ではないのだ。惑星ゼリアでの空中戦に巻き込んでしまったことも、本来はやらせるべきではない仕事だった。
「だいぶ、危険な行為ですが、私はやってみたいと思います」とエギー。皆の視線を浴びると、おどおどとした。「……そのつもりで同行させていただきました」
「やけに、リップルに忠実なロボットね」とブーチ。「感情プログラムにしては、人間らしい反応とか口調だし。……どうして、リップルについてきたのか、詳しく聞いてないけど」
「それじゃ、説明してもらおうか」リップルは、腕を組んでエギーに身体を向けた。
「僕には、一人の友達がいます。ロボットではなくて、人間のお友達で」とエギーは、意外な情報を公開した。「その友達は、産まれた時から身体が弱くて、両手と両足が無く、生体脳だけで生きているような状況で、全身に管をとおして入院しています。だけどある日、その病院付近の行政施設前で生物兵器テロがあって、人害ウィルスが蔓延。病院スタッフもそのウィルスに感染したんだけど、ワクチンもあって、そこまで被害はでなかった。ただ、問題なのは、身体の弱い友達には、かなり悪い影響が出たということ。なかなか治らないウィルスに変異して、循環器を悪化させているのです」
「ゼシロン、っていう花かな?」ミアが言った。「ウィルスの特効薬」
「正解です。ミア殿」エギーはお辞儀した。「……ゼシロンという花にある、白色を生成する色素に、ウィルスを駆逐する成分があります。それで、ワクチンをつくることができるのです」
「花が多い惑星にはないの?」とブーチ。「惑星ラッシェルにありそうな名前だけど」
「実は、ありません」エギーは続けた。「魔術師の魔気に包まれたうえで、塩で仕上がった地面から生える唯一の白い花。そのゼシロンという花は、厳しい環境下で白色の花弁を表現するために、塩を色素に分解しています。その根強い成分しか対象のウィルスに効かないのです」
「なるほどね。惑星マシスは、生命体がほとんど存在しない塩の星」ブーチは解説した。「製造業や発電施設で、害虫混入を発生させないためには、都合の良い惑星の一つ」
「それで、惑星マシスに行く、と仰ったリップル殿についていくことにしました。僕の特技を、ぜひ活かしていただければ」エギーの説明は終わった。「ゼシロンの花弁をたくさん摘むことができれば、友達が救えるのです」
「その友達も、元気にしてあげよう」リップルは微笑んだ。「エギーのその気持ち、大事だからね」
「妖精の惑星にも代わりになりそうな花がありそうだけどねー」とミアが首を傾げた。「私の出身地の、惑星フィーシーとか」
「一応、連邦の情報網に侵入したところ」と驚くことを言い出すエギー。「妖精の惑星フィーシーには、一〇〇万種類の花があります。ですが、ゼシロンの成分に代わる花は見つかりませんでした」
「やるねー」リップルは気分が高まった。「連邦の情報網に侵入できれば、大した技術だ」
「結局、練習する場所も危険なところにするのね」ブーチは苦笑した。「それじゃ、惑星クラウに行くよ」
皆の乗る船は、惑星クラウに向けて突き進んだ。
低下傾向にあった血圧や心拍数に、正常へ戻ろうとする兆候が見られ始めた。
担当医によれば、これらの症状は、人間が楽しみを見つけた時や、目標を見つけた時の身体に起きる好奇心や向上心を意味した、興奮をすることで起きることのようだ。
全身を動かすことができず、生体脳しか生きていないそんな状態のなかで、このような症状が現れたのは、楽しい夢を見ているのか、うっすらと意識が戻って自身の身が危険な状態であることの自覚が持てたことである、と予想できた。
しかし、この男児が危険であることには変わりはなかった。結局は、体内の抗体はあまりつくられておらず、特殊な薬は、今でも必要とされている。
「また、ウィルスの被害で、死者が出てしまうのかしら」看護師は、男児に対してなにもできない日々の憂鬱に悩まされていた。
※※※
バズが率いる反銀河連邦団第一開拓局の小隊は、惑星ゼリアで改めて集合し、リップルという賞金稼ぎとの争いに負けた鬱憤を晴らすように、雑貨屋周辺で待ち構えていた犯罪者達との銃撃戦を行い、それを終えているところだった。
賞金稼ぎのために食堂で大暴れしたあとは、滞在者に悪い印象を与えてしまい、バズが改めて訪問してみれば、複数の武装した浮浪者や犯罪者が銃器を持って待ち構えていた。けれど、そこらの犯罪者達とは比べ物にならない技術を持つこちらにとって、惑星ゼリアの一部地域を制圧することなど、容易なことだった。
やがて、バズは血の海となった地面を歩いて雑貨屋へと入り、冷や汗を垂らしている店主を目の前にした。
「すまないな」バズは、自動小銃を持って来店した。「君の店前で大暴れをしないと、入れなかったんだ」
「なんのようだ。ここには、商品しかねえよ」とボッシュという名の店主。
「商品だけじゃなくて、情報はあるだろ。質問は簡単だ」そう言って、ボッシュとの距離を詰めて立ち止まった。「……小さい男が来たんだろ。なにを喋ったか、教えてもらおう」
「……魔術師が今にも暴れだす、とか言ってた」ボッシュは、目を閉じて思い出すことに必死だった。「どこかの惑星に行く、とか言ってたな」
「……どこだ?」バズは聞き耳を立てた。「はやく言え」
「待ってろ、今思い出すから。……俺が、魔術師の落ちこぼれの話をして、盛り上がったんだ。やばいことが起きる、とか」
「バズ司令官。惑星ミジェールか惑星マシスです」と部下の一人。「そこに、魔界から独立した空賊がいると思われます」
「そう、マシスだ!」ボッシュは、部下を指した。「惑星マシスに行く、とか言ってた」
「カッツィか。人造人間を製造し始めた団体だ」バズは言った。「ガキは、マシスに行くのか?」
「行くかは、わからない」ボッシュもなんとか答えていた。「ハッキング技術がほしい、とか言ってたが、あまりの高額に、なにも買わずに帰ったんだ。諦めたんじゃねーのか?」
「まあ良い」バズは、ニヤリとした。「ちなみに、カッツィ団は過去に、ここで買い物をしたことがあるか?」質問をするたびに、自動小銃の銃口をボッシュに向けた。
「ああ。発電石の制御装置を買った。大金を所持していないから、ぼろいほうを買っていった」
「俺達も、同じ機械を買おう。ぼろくないほうだ。いくらだ?」バズは、魔術師の購入した機材の改良版を購入して持ち歩くことで、魔界との繋がりを築ける手段であると考えた。
「一億ペイズだ」ボッシュは立ち上がると、ピッキングロボットにリモコンを向けた。「一台は、この倉庫に残ってる。二台目を取り寄せをするなら、金はもっとかかる」
「奥の倉庫にその商品がある、ということか?」バズは念入りに聞いた。
「ああ。支払いが確認できれば、すぐに出す」ボッシュは、奥のほうへと向かおうとしていた。
「半額だ」バズは言った。「いやなら、力づくだ」
ボッシュは、しばらく立ち止まってしまった。そして、なにを思ったのか、全身に光壁をつくり上げると、遠隔操作で軽機関銃を棚から引き寄せて、両手に持って装備した。
「お前らの好き勝手にさせるか!」ボッシュは、反銀河連邦団の隊員達に向かって反射的に振り向き、軽機関銃から熱量弾を乱射した。
※※※
リップルは、ブーチの船の内部を修理し終え、食堂で集会をしていた。
目的地は、惑星マシスではあるが、準備に不足している点はあると説明した。
「準備は必要だ」リップルは、ミアとエギーを指した。
「え? 近くの宇宙基地で船の部品を購入するだけじゃだめなの?」とミア。
「部品とか非常食とか、そこの問題だけじゃない」とリップル。「全員の技術にあえて疑いをかける。まず、ミア。ミアの迷彩妖術が優れているかわからない。そして、エギー。君のハッキング技術が優れているかどうかもわからない。さらに、ブーチの船は、光学迷彩がしっかりと起動するかわからないし、外部にも損傷がある。とにかく、こうやって疑いをかける」
「ということは、惑星マシスで行うことを、事前にどこかの惑星でも行うことですか?」とエギー。
「素晴らしい」リップルは指を鳴らした。「そういうことだ」
気持ちとしては、一刻もはやくランスの救出をしたいのだが、現地で失敗をしてしまえば、本来の目的以前に、仲間の命も危険にさらしてしまうことになってしまう。それらを注視していたため、念入りな事前準備をすることにしていた。
「ここから惑星マシスに向かう途中に、魔界惑星に属している惑星があると思うんだけど、どこかな?」と皆に聞いてみると。
「惑星ゼゼン、クラウ、ダシン、この三点」ブーチが答えた。
「事前準備としてやりたいことを固めておく」リップルは、説明した。「まず、このエリアスライダーをミアの迷彩妖術で包んだ状態にして、練習場所として決めた惑星の重力場まで無許可で接近。次に、エギーのハッキング技術で、その惑星の警備システムに侵入して弱体化させる。続けて、俺、ミア、エギーは、この船から重力場領域の宇宙へと出る。ミアの球体光壁で呼吸を確保。エギーの飛行技術で、重力場から地上までの簡易飛行。それで、対象の惑星に向けて降りる。加えて、ブーチは、俺達の離脱を確認したあと、改めて重力場から離れて正式な入星手続きをして、着陸と修理をしてもらう。最後に、侵入してた俺達は買物を済ませて、ブーチの船に戻る。そこから、エギーの改良もする。それで、離陸」リップルは計画を伝えた。
「惑星ゼゼンはNGね」とブーチ。「魔界の田舎だから、簡単に侵入することはできるけど、船の修理部材の購入と修理ができない。惑星クラウは危険ということでNG。魔術師と連邦人が交流を持つ唯一の場所。侵入、着陸、点検、買物、これらは可能かもしれないけど、政治に重きを置いてる情勢だから、バレたらかなりまずい場所。惑星ダシンなら、較的安心して試せるのかもね。魔術師の服でも着れば、中心都市に紛れて買物と修理依頼はできる。惑星クラウほどじゃないけど、それなりの調達は可能。砂漠地帯の中央に船を止めれば、バレることはない」
「惑星クラウだ」リップルは言った。「そこに行く」
「ん? 今の話を聞いてた?」ミアが言った。「危険だ、ってブーチが言ってるよ」
「わざわざ安全な場所で試す必要はない。それに、資源も豊富な惑星だ」リップルは、立体映像地図を食堂の机で展開し、惑星クラウを映した。「俺も、この惑星には、軍事訓練で一度だけ行ったことがある。船とエギーの整備も可能なほどの技術がある。連邦と魔界の技術が唯一集まっているなら、警備体制は惑星マシスに近いかも」
「……一つ、良いかな?」ブーチが手を上げた。「惑星クラウでは、侵入して着陸まではするとして、本番の惑星マシスでは、絶対に着陸はしないからね」と言いきった。「連邦法を守りたいし、私自身の身も守りたい。惑星マシスには、憲章上、接近禁止令がある」
彼女の断言に、リップルは返した。本番の惑星マシスでは、この船は着陸させず、重力場までに留まり、宇宙空間から地上までの距離はエギーの飛行機能で往復し、ミアの光壁で呼吸を確保することを説明した。よって、ブーチの船は、重力場で浮遊していれば良いことになる。
送迎屋といえども、彼女には後ろめたさがあるようで、それを強引に変えようとはせず、そこはブーチの意志を尊重することにした。確かに、送迎屋であって、現地でなにかをするような役割ではないのだ。惑星ゼリアでの空中戦に巻き込んでしまったことも、本来はやらせるべきではない仕事だった。
「だいぶ、危険な行為ですが、私はやってみたいと思います」とエギー。皆の視線を浴びると、おどおどとした。「……そのつもりで同行させていただきました」
「やけに、リップルに忠実なロボットね」とブーチ。「感情プログラムにしては、人間らしい反応とか口調だし。……どうして、リップルについてきたのか、詳しく聞いてないけど」
「それじゃ、説明してもらおうか」リップルは、腕を組んでエギーに身体を向けた。
「僕には、一人の友達がいます。ロボットではなくて、人間のお友達で」とエギーは、意外な情報を公開した。「その友達は、産まれた時から身体が弱くて、両手と両足が無く、生体脳だけで生きているような状況で、全身に管をとおして入院しています。だけどある日、その病院付近の行政施設前で生物兵器テロがあって、人害ウィルスが蔓延。病院スタッフもそのウィルスに感染したんだけど、ワクチンもあって、そこまで被害はでなかった。ただ、問題なのは、身体の弱い友達には、かなり悪い影響が出たということ。なかなか治らないウィルスに変異して、循環器を悪化させているのです」
「ゼシロン、っていう花かな?」ミアが言った。「ウィルスの特効薬」
「正解です。ミア殿」エギーはお辞儀した。「……ゼシロンという花にある、白色を生成する色素に、ウィルスを駆逐する成分があります。それで、ワクチンをつくることができるのです」
「花が多い惑星にはないの?」とブーチ。「惑星ラッシェルにありそうな名前だけど」
「実は、ありません」エギーは続けた。「魔術師の魔気に包まれたうえで、塩で仕上がった地面から生える唯一の白い花。そのゼシロンという花は、厳しい環境下で白色の花弁を表現するために、塩を色素に分解しています。その根強い成分しか対象のウィルスに効かないのです」
「なるほどね。惑星マシスは、生命体がほとんど存在しない塩の星」ブーチは解説した。「製造業や発電施設で、害虫混入を発生させないためには、都合の良い惑星の一つ」
「それで、惑星マシスに行く、と仰ったリップル殿についていくことにしました。僕の特技を、ぜひ活かしていただければ」エギーの説明は終わった。「ゼシロンの花弁をたくさん摘むことができれば、友達が救えるのです」
「その友達も、元気にしてあげよう」リップルは微笑んだ。「エギーのその気持ち、大事だからね」
「妖精の惑星にも代わりになりそうな花がありそうだけどねー」とミアが首を傾げた。「私の出身地の、惑星フィーシーとか」
「一応、連邦の情報網に侵入したところ」と驚くことを言い出すエギー。「妖精の惑星フィーシーには、一〇〇万種類の花があります。ですが、ゼシロンの成分に代わる花は見つかりませんでした」
「やるねー」リップルは気分が高まった。「連邦の情報網に侵入できれば、大した技術だ」
「結局、練習する場所も危険なところにするのね」ブーチは苦笑した。「それじゃ、惑星クラウに行くよ」
皆の乗る船は、惑星クラウに向けて突き進んだ。
0
人物設定(イラスト有り) → https://www.pixiv.net/artworks/120358944
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