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五章 00:00:00:00.000(エンド・ポイント) - ゼロ

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 ミュウが見ていると、『それ』は頭をもたげ、翼を広げたかと思うと、一瞬で空へと跳び上がり――どこかへと消失した。
 呆けていたミュウは、その現象に気をとられたせいで、謎の存在が去ったあと、未だ無数の警告が走っていることに遅れて気づいた。
 その時、白騎士団ホワイトコードからも通信が入った。
【マザー! すぐにお逃げください!】
「……サリア?」
【申し訳ございません……我々では、アレを止めきれませんでした――! ぎりぎりのところで食い止めていたのに、さっき、一気に侵食が進んで――!】
 そこで、ざわざわと続く予感の正体が何であるのか、サリアは叫ぶように告げた。
【――惑星杭プラネットパイルが発射されました! 全基がマザーを目標地点にしています!】
 ミュウは目を見開いた。
 ――惑星杭プラネットパイル。星を穿うがち、星の地核が秘めた力を暴走させることで、周囲の地殻を砕く大量破壊兵器。シンカナウスがいよいよ追い詰められた時の最後の報復手段として用意していた、最悪の兵器の名前だ。そう――名前だけは、知っていた。
 通常は一基、用いられればいい終末兵器が――全基、一点に集中する。
 そうなれば――どうなる?
 嫌でもシミュレーションが働いた。計算が始まる。そして、出た結果を見つめ、ミュウは愕然とした。

【……惑星ほしが……つかの間、まる……!】

 サリアが示したのは、ミュウが先ほどあの存在を見た地点だ。正確にはミュウの今居る場所ではない。だが――どちらでも、大した差ではない。
 瞬時に脳裏に蘇ったのは、カプセルの中で見た滅びの予告だった。
(『瓦礫の種類がてんでばらばらに見える……まるで、巨大な竜巻のようなものが全てなぎ倒して、かき混ぜていったあとのような……』)
 咄嗟に周囲を見回し――戦慄した。
 いくつもあちこちに残る、燃え焦げたような黒い跡が残る瓦礫の山。ふと目にとまったのは、人型に黒く焼き付いた影。
 ――同じだ。夢と、何もかもが同じだった。
「ここが……『そう』なのか……!?」
(これからここが『かき混ざる』ほどの、暴威の嵐が――!)
「あ……ぁ、あ」
 体が震えた。
 ――あの、黒い『神』のせいだ。
 全てが無意味だった。
 私たちの戦いは、何もかもが無駄だった。
 ――全ては無に帰するのだ。
 『あの存在』が、そう決めたからだ。
 逃げ場などない。どこに逃げても変わらない。星が停まるほどの衝撃ならば、時速一千三百キロメートルを超える速度で移動している全ての大地は慣性の法則で砕け散り、凄まじい暴風が星の表面で踊ることだろう。
(『あなたは、わるいゆめだと思うでしょう。けれど、あと少ししたら、それは違うかもしれないと思うのです。――運命を自らえらぶのです。その結果が、たとえどのようなものになるのだとしても、あなたは、何度くり返しても、あなたとしてそれをえらぶ。――そのようにいきることしか、あなたはできないと、知っているはずです』)
 ――選んだ。私は確かに選んだじゃないか。自分のために選んだのだ。まだ、生きていたいと、消えたくないと願ったから。だから必死に戦って、あの悪魔だって下したじゃないか。
 そうして戦った結末の末に、自分が及びもつかない何かの一存で、ここまで多くの命が積み上げた世界ものが滅ぶのか。
「――神よ」
 ミュウは膝をつき、空を仰いだ。
「神よ、なぜ、なぜなのですか!」
 慟哭する。
「なぜ――なぜ、これほどの運命を、私に強いるのですか!? 記録の方舟はこぶねとは、何なのですか!」
 答えはない。
「なぜ、私たちの世界は、これほど理不尽な理由で滅ぼされなければならないのですか! 全てが、何もかもが、無駄だったのですか――!」
 悲鳴を上げた時。
 空にプラズマの光が再び満ちた。
 数万単位での転移テレポートと共に、再び集結した白騎士ホワイトコードたちは、ミュウの惨状を見て一瞬動きを止めたが――すぐにミュウを助け起こした。
「マザー」
 サリアがミュウの前に膝をついた。
「もう、一刻の猶予もありません。――私たちは、あなたにお約束をいたしました。先輩たちの無念に変わり、あなたの手足、あなたの目、あなたの耳、そして剣と盾となると」
 呆然自失としているミュウに、彼女は柔らかに微笑んで語りかけた。
「あなた一人では、確かにこの艱難かんなんを超えることはできない。だから、私たちが、あなたを未来へ送りましょう」
「……サリア?」
 ミュウを一人の白騎士ホワイトコードが抱え上げ、ふわりと浮き上がった。
 そして、一人、また一人と、ミュウを取り囲むように手を繋ぎ、幾重にも輪をつくり、輪は空を覆う球となり、ミュウを暗闇の中へ閉じ込めた。
「――待て」
 ミュウは声を上げた。
「待て、おまえたち――何をするつもりだ!」
 愕然と声を発しても、暴れても、周りから手が伸びて押さえ込まれる。誰も、何も答えない。ただ微笑み、あたたかな空気がミュウを取り囲んでいた。
「マザー。ほんの短い間、生を受けただけで、力の限りも尽くせずにごめんなさい。でも、必ずあなたを時の向こうへお連れしますわ」
 サリアの声が、分厚くミュウを守る殻の外から響いた。
「――お別れです」
「よせぇえええええええ!」
 ミュウの叫びは、届かなかった。


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