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五章 00:00:00:00.000(エンド・ポイント) - ゼロ

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「あの女神は弱いものの味方をした。嫌だ嫌だと我が侭と不平不満を垂れ、収穫されることさえ嫌う叛逆者どもだ。この世界を外から変えるつもりだ。させるものか。じぶんにしか許されていないからと、たましいを好きにいじって、おれたちを悪だと、裁定するものは必ず訪れるのだと言うものに、今まで頑張ってやってきた我々を否定するものに、居場所など用意しないのはあたりまえだ」
 そんなものは必要ないのだ、と相手は主張した。
「永遠にこれでいい。ずっとこれでいい。だからつぶすのだ。おまえも、おまえの前にいたあの人形アンドロイドのように、全て――ぁあ、いい方法を思いついた」
 にたぁ、と悪魔は嗤う。
「そうだ、おまえとあの女の真似をしよう。おまえは世界中で手下を作った、おれは見ていた、知っていた。体の代わりになるものはたくさんある。魂のもとを、コードをばらまけばいいんだろう? あの女じゃないから、木偶でくの坊しかできないが、きっとうまくいく」
 ミュウの背筋が凍った。声が震えた。
「待て――何を。何を、するつもりだ!」
「なぁに……おまえがやったことを、真似するだけさ」
 ドリウスがまとっていたエネルギーが、不気味にうごめきだした。
 情報世界には常に様々な情報がひしめいている。人間がどんなに物理的に保護し、暗号化した情報でさえ、情報世界から抜き取れば無意味だ。
 簡単な話だ。悪意ある攻撃者が、全ての守られているはずのコンピューティングシステムに簡単にアクセスできるなら――どんな命令であろうと実行できてしまう。
 情報世界を利用した、史上最悪の脆弱性。ミュウは白騎士団ホワイトコードを生み出すためにそれを利用した。それとすぐに分からないように、少しずつ、時にごっそりと世界の資源を削り取った。だが、まだそれは可愛げのあるものだったのだ。悪魔が作り上げたコードの意図を知った瞬間、ミュウは怒りに震えた。
 それは単純な命令ゆえに――最悪の命令だった。
 ミュウは初めて攻勢に転じた。だが、何もかもが遅かった。
めにうつる・・・・・ すべての・・・・ にんげんを・・・・・――」
 悪魔は嘲笑いながらミュウの攻撃をかわし、空高く飛び上がった。
「――おのれがもちうる・・・・・・・・ ありとあらゆる・・・・・・・ しゅだんで・・・・・ ころせ・・・
 そして、エネルギーは黒い塵に変化し、一瞬ではるか遠くまで拡散した。

「――きさまぁああああああああああああああああああああ!」

 ミュウは激したまま、最後の電磁加速砲レールガンを放った。だが、そこにα-TX3が割り込んだ。――転移テレポートで盾として引き寄せたのだ。
「ああ、そうだ、いいこと教えといてやるよ」

 ひらりと戻ったドリウスが、軽快な調子で口にした。
「こいつはゲテモノ好きのバレット博士が人倫ガン無視で開発した。人工知能の技術がエントじゃ未熟だったからな。だったら本物の知能を入れりゃ解決だ。だから――本物の人間の脳・・・・・・・が演算機能の代わりに入ってるんだとさぁ!」
「――、」
 ミュウの喉がひゅっと鳴った。目の前で動力部に電磁加速砲レールガンの直撃を受けたα-TX3が痙攣するように震え、爆発飛散する。
「さぁ、テメェは今まで何機、これを落としたんだろうなぁ!? ぎゃははははははははは!」
 心を埋めたどんな衝撃をも置き去りにして、ミュウがしたのは、白騎士団ホワイトコードに命を下すことだった。
「…………! 白騎士団ホワイトコード!」

「マザー、今の飛んでいったあのエネルギーは!?」
「今すぐ、世界中に散れ!」
「は!? し、しかし、今散ればあなたをお守りすることが――」
ウイルス・・・・だ! 分からないのか!」
 心に溢れた激情を努めて脇に押しやりながら、ミュウは絶叫した。
「全世界の――全てのAIの殺人を止めろ! このまま放置すれば、人類が全て死に絶える・・・・・・・・・・!」
『!?』
 ミュウの言葉を聞いた白騎士団ホワイトコードは絶句した。
「そんな――この世界に、AIが埋め込まれたコンピューターがいくつあると……!?」

 十万機・・・世界・・。――そういう構図を、この悪魔は作り出したのだ。

「そういうこったぁ!」
 ドリウスが快哉し、咆哮した。
「さぁ、史上最悪、極上のパニック・スペクタクルだ! コンピューターと人類の殺し合いを、特等席から眺めようじゃねぇか!」
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