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五章 00:00:00:00.000(エンド・ポイント) - ゼロ
二
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シンカナウスも、エントも、お互いにどのような出方をするべきか迷っている。
エントはシンカナウス本土への侵攻を目的としていたが、ミュウに阻まれた上、シンカナウス側からシスリー中将率いる第三艦隊が現れたことで交戦になり、足止めをされている。
シスリーはシスリーで、エントから目を逸らせないが、ミュウという超弩級の異常事態も現れたせいで動くに動けない。
完全に戦況は膠着していた。
【積極的な撃滅は望まない。誰であろうと戦意喪失まで追い込めればそれでいい。下手に殺すな】
【示威行為というわけですわね。了解いたしましたわ】
ミュウの要求に、最初に答えた白騎士の一人――サリアが返答する。
【ところでマザー。質問をしてもよろしくて?】
【何かな?】
【先ほど、中将さんに向けてお話されていた、人間の悪性――それによって先輩方が稼働停止に追い込まれた、というのは……何か明確に根拠があっておっしゃったの?】
【――そうだよ】
ミュウは頷いた。あっさり首肯したので、かえってサリアにはそれが意外だったようだ。
【システム〝エーテル〟のおかげで、情報世界には、ある種のエネルギーに意思が宿ったものがいることが分かった。それが人間に宿れば魂と呼ばれ、巨大なものであれば……神、にもなるのかもしれない】
そして、大きく広がり、新しくなった世界観で、改めて、エメレオの死のことや、MOTHER、そして試用機体たちが停止するに至った過去の出来事の流れを辿った時。
――何かが、そこにいた、と感じた。確かに、一貫した何かのエネルギーの関与があるように見えたのだ。
人間たちの悪意の後ろに、必ず、そのエネルギーの残滓が見え隠れしていた。その時々に顕れては、この実在世界に、都度人間の感情に働きかけ、背後からそうと自覚させることなく人の思考を操り、過ちを犯すように巧みに仕向けていた。その関与の痕が、今やミュウには視えるようになっていた。
【人間の意識がエネルギーであるというのが、エメレオ・ヴァーチン博士の持論だった。それが正しいなら、おそらくあの世界からの働きかけは人間世界に十分に影響を及ぼし得る。……もし仮に、その世界に、何か、悪意をもったものがいたとしたら?】
【やりたい放題ですわね】
サリアはすぐに、ミュウの伝えたいところを察したようだ。
【実在世界での人間の意識を氷山と例えるなら、水面下の氷山に、ある種の『黒い海』から悪意のある仕掛けをして、どこか決まったところに押し流していくようなものだ】
【それが、ヴァーチン博士や、先輩方をマザーから奪い去った一連の影にある……私たちは、見えない世界からの攻撃に晒されていた、と?】
【博士は私と出会った当初、この世界にはある種の見えない『悪意』があると言っていた。おそらくそれが、博士が言っていたことの意味なんだ】
エメレオは、システム〝エーテル〟の理論を研究するうち、いつしかそれを理解し、自分ではまだ対処できないものだと考えたのだろう。対抗策を見いだすため、ひとまず後生に託そうと魂や意識の存在証明を発表したが、それは『悪意』の存在を明るみにしかねないものだった。当初、エメレオ・ヴァーチンに向けられたという激しい憎悪と反発、ネガティブキャンペーンは、『悪意』が確かに痛いところを探られた証だったのだ。
【ですが、その推論がもし正しければ――】
【――そうだね】
サリアが抱いた危惧の内容を汲み取って、ミュウは頷いた。
エメレオとMOTHERを襲った『悪意』の目的は、未だその存在を現さない『白き神』の存在に関わっている可能性が高い。
【次は、私が狙われるだろうね。そのために、これほど目立つ行動をとったんだ】
言った時、ミュウを球のように取り巻いていた白騎士たちの陣形が、下の方で乱れた。自らの動きによるものではない。むしろ、吹き飛ばされた、といった方が正しい。
だが、それが本来にわかには信じがたい光景であることを、アンドロイドとしての自身の能力を扱ってきたミュウは、誰よりも知っていた。
白騎士たちは試用機体たちの性能に、ミュウをベースにシステム〝エーテル〟の搭載と、その他幾種類もの再調整を施し、磨き上げた存在だ。性能で言えば試用機体たちを容易に圧倒し得るだけの力がある。
その存在を察知した時、ミュウの脳裏にけたたましい警告が鳴り響いた。
神が正しく、善きものを導こうとするものであるならば。悪しき方へ誘う、対の存在のようなそれの名前を、ミュウは既に知っている。
その存在の名を――古き言葉で、人は、『悪魔』と呼んだのだ。
シンカナウスも、エントも、お互いにどのような出方をするべきか迷っている。
エントはシンカナウス本土への侵攻を目的としていたが、ミュウに阻まれた上、シンカナウス側からシスリー中将率いる第三艦隊が現れたことで交戦になり、足止めをされている。
シスリーはシスリーで、エントから目を逸らせないが、ミュウという超弩級の異常事態も現れたせいで動くに動けない。
完全に戦況は膠着していた。
【積極的な撃滅は望まない。誰であろうと戦意喪失まで追い込めればそれでいい。下手に殺すな】
【示威行為というわけですわね。了解いたしましたわ】
ミュウの要求に、最初に答えた白騎士の一人――サリアが返答する。
【ところでマザー。質問をしてもよろしくて?】
【何かな?】
【先ほど、中将さんに向けてお話されていた、人間の悪性――それによって先輩方が稼働停止に追い込まれた、というのは……何か明確に根拠があっておっしゃったの?】
【――そうだよ】
ミュウは頷いた。あっさり首肯したので、かえってサリアにはそれが意外だったようだ。
【システム〝エーテル〟のおかげで、情報世界には、ある種のエネルギーに意思が宿ったものがいることが分かった。それが人間に宿れば魂と呼ばれ、巨大なものであれば……神、にもなるのかもしれない】
そして、大きく広がり、新しくなった世界観で、改めて、エメレオの死のことや、MOTHER、そして試用機体たちが停止するに至った過去の出来事の流れを辿った時。
――何かが、そこにいた、と感じた。確かに、一貫した何かのエネルギーの関与があるように見えたのだ。
人間たちの悪意の後ろに、必ず、そのエネルギーの残滓が見え隠れしていた。その時々に顕れては、この実在世界に、都度人間の感情に働きかけ、背後からそうと自覚させることなく人の思考を操り、過ちを犯すように巧みに仕向けていた。その関与の痕が、今やミュウには視えるようになっていた。
【人間の意識がエネルギーであるというのが、エメレオ・ヴァーチン博士の持論だった。それが正しいなら、おそらくあの世界からの働きかけは人間世界に十分に影響を及ぼし得る。……もし仮に、その世界に、何か、悪意をもったものがいたとしたら?】
【やりたい放題ですわね】
サリアはすぐに、ミュウの伝えたいところを察したようだ。
【実在世界での人間の意識を氷山と例えるなら、水面下の氷山に、ある種の『黒い海』から悪意のある仕掛けをして、どこか決まったところに押し流していくようなものだ】
【それが、ヴァーチン博士や、先輩方をマザーから奪い去った一連の影にある……私たちは、見えない世界からの攻撃に晒されていた、と?】
【博士は私と出会った当初、この世界にはある種の見えない『悪意』があると言っていた。おそらくそれが、博士が言っていたことの意味なんだ】
エメレオは、システム〝エーテル〟の理論を研究するうち、いつしかそれを理解し、自分ではまだ対処できないものだと考えたのだろう。対抗策を見いだすため、ひとまず後生に託そうと魂や意識の存在証明を発表したが、それは『悪意』の存在を明るみにしかねないものだった。当初、エメレオ・ヴァーチンに向けられたという激しい憎悪と反発、ネガティブキャンペーンは、『悪意』が確かに痛いところを探られた証だったのだ。
【ですが、その推論がもし正しければ――】
【――そうだね】
サリアが抱いた危惧の内容を汲み取って、ミュウは頷いた。
エメレオとMOTHERを襲った『悪意』の目的は、未だその存在を現さない『白き神』の存在に関わっている可能性が高い。
【次は、私が狙われるだろうね。そのために、これほど目立つ行動をとったんだ】
言った時、ミュウを球のように取り巻いていた白騎士たちの陣形が、下の方で乱れた。自らの動きによるものではない。むしろ、吹き飛ばされた、といった方が正しい。
だが、それが本来にわかには信じがたい光景であることを、アンドロイドとしての自身の能力を扱ってきたミュウは、誰よりも知っていた。
白騎士たちは試用機体たちの性能に、ミュウをベースにシステム〝エーテル〟の搭載と、その他幾種類もの再調整を施し、磨き上げた存在だ。性能で言えば試用機体たちを容易に圧倒し得るだけの力がある。
その存在を察知した時、ミュウの脳裏にけたたましい警告が鳴り響いた。
神が正しく、善きものを導こうとするものであるならば。悪しき方へ誘う、対の存在のようなそれの名前を、ミュウは既に知っている。
その存在の名を――古き言葉で、人は、『悪魔』と呼んだのだ。
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