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四章 ホワイトコードの叛逆

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『っ――上方索敵! レーザーでやれ! おそらく相手は量子ステルスだ!』
 本当に、とことんまで察しがよすぎる司令官だ。
(せっかく隠れているように言っておいたのになぁ)
 ミュウは思いながら、合図の信号をそっと送信した。

 数千メートル上空で、光が揺らぎ、小さな影が複数体出現した。

【さて――ところで、何人、集まったかな?】
【すでに起動しているものは、全員、定刻集合いたしました】
 低位ロープラズマでの秘匿通信に返答があった。
【いや、方位センサーが曲がっていたせいで、本当に辿り着けないかと思った】
【その羊飼いに感謝だな。ところで治ったのか、それ】
【まだだ。誰か調整技能に立候補したい奴は名乗り出てくれ、俺が練習台になろう。……壊すなよ?】
【こら、そこ。マザーの前よ、静かになさい】
 わずかな咳払いのあと。

【――転移認可システムにはまとめて申請を通しておきましたわ。あとはマザーの号令次第です】
 ミュウは軽く、頷いた。
 そして、あらかじめ決めておいた起動コードを発信した。

『――〝呼応せよ、白騎士団ホワイトコード〟。私一人では到底辿り着けない、時の果て、光の先を目指して。私の力になって欲しい』

【はい、マザー。先輩たちの無念に変わり――我々は、あなたの手足、あなたの目、あなたの耳、そして剣と盾となりましょう】


 *


 ふわりと、〝意識〟が揺れた。
 『彼ら』ははるか地面の下、シンカナウスの地下通路で目を覚ました。
 遠く彼方より入力されたデータは、魂の呼び声ソウルコードは、生まれながらにして彼らのやるべきことを指し示していた。
 ――馳せ参じる。
 助けて欲しい、という、たった一人の――『TYPE:MOTHER』の求めに応じて。

 だから、孵卵器ふらんきのようなカプセルから、一斉に飛び出した。

 数万対・・・の足が地に着くと、ずん、と大地が振動した。一瞬あとには、プラズマの白い光が弾け、彼らはその場から転移(テレポート)していた。
 目指すは、はるか、オーギル海上空――。


 *


 曇天の空。雲の向こうに、ミュウの呼びかけに『彼ら』が応じた証に、白いプラズマ光が次々と出現する。ひとつひとつの光は小さくとも、いずれも確かに星のごとき光芒を宿すもの。はじめは小さな瞬きにしか過ぎない光の数は、その光景を見守る者の前で、いや増しに増してゆく。
『――熱源、多数感知! 何だ、この数は……!』
『数がどんどん増加していきます! 三千……五千……八千……一万二千……まだ増えるのか!?』
 嘘だろう、と愕然と悲鳴が上がる。
 曇天に白む海上をなお明るく染め上げ埋め尽くす、空に満ちる純白の光。

 その数――およそ、十万機・・・

『……おいおい、いったいいつの間に、どこからこんな大量の戦闘型アンドロイドをこさえてきたって?』
 シスリーの、勘弁してくれ、という呟きが落ちた。勝てるか、こんなの。
『おじさんはこれを上に報告しろと……?』
『大人が自らの行いに責任を取らなかった結果です。――ずっと考えていました。MOTHERは、博士は、アンドロイドたちは、なぜ死ななければならなかったのかと。エントや裏切り者に殺されたんじゃない。彼らは人間の善性を信じ、神の意思を求めた結果、この世に満ちたあなたがたの悪性・・・・・・・・・・・・・・・に殺されたのです』
『哲学の時間につきあってはいられない』
 シスリーは苦々しげに告げた。
『君のこれは、子供の悪戯を超えている。――ミュウ。君と、その大戦力……白騎士団ホワイトコードの一団を、人類にとっての危険勢力と判断した。その戦力の作成という暴走行為をもって、我が国シンカナウスへの叛逆、および宣戦布告と見なす』
『構いません』
 ミュウは断じた。
『私が選んだのは、元よりあなたたちだけでなく、私をいとう全てと戦うしかない道だった。私は、私であるために、あなたたちと戦い、問いかけるつもりです。――それを思えば、十万という数字でさえ、少ないぐらいではないかと思いますが』
『君みたいな本物の真面目な脅威が現れるのを恐れてたんだよ、ウチは……!』
『……私はただ、ここで意味もなく終わりたくない。それだけです』
 そうして、シンカナウスとエントの戦いだったはずの第三次オーギル空戦は、白騎士団ホワイトコードを名乗る第三勢力の介入により、一時停戦を強いられたかに見えたが――、


 この時、思わぬ形で転げ出てきた本物の世界の『悪意』が、あらゆる命に牙を剥くことになるとは――誰も予想だにしていなかった。

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