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四章 ホワイトコードの叛逆

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 不審に思って調査を入れてみれば、外に出ていたアンドロイドのうち四体が、施設内でエメレオ・ヴァーチンの遺体の周りで発見されている。さらに残り九体のうち三体は、なぜか施設近くに乗り捨てられていた政府機関の車両の中から停止状態で見つかった。施設内にいたグラン・ファーザーのエネルギー供給に関わったアンドロイド十四体は、すぐには出てこなかった。
 ――状況からして、エメレオを守らなければならないとアンドロイドたちが判断した何かがあったが、何らかの理由で爆撃前か、それとほぼ同時に機能停止していたわけだ。
 おそるおそるMOTHERの亡霊に問い合わせた者によれば、確かにその時間帯に強制停止命令が発令されたログが、システムからは提供されたという。さらには施設に残っていた爆撃直前の映像記録として、エメレオ・ヴァーチンを取り囲む政府関係機関の男たちや、明らかにアンドロイドを罠にはめたと思しい『自爆テロ』の証拠まで出てきてしまった。どう見ても、先頭に立って博士を襲い、突然自ら死んだ男は、違法薬物で洗脳されていた可能性が高かった。
 また、映像で名前が出ていたドロイドリード社に探りを入れれば、あろうことか敷地内のトラックから、残りのアンドロイド十四体が停止状態で出てきた。何かの処理をしようとしたようだが、こちらは都市空爆の混乱でそれどころではなかったようだ。
 ――人の口に戸は立てられない。戦闘型として開発されたアンドロイドが殺人を犯したというスキャンダラスなニュースが既に世界を駆け巡っているが、このニュースの出所はここにあったわけだ。
 大統領――トール・アカシーは、友人を死に追い込み、あまつさえその功績をなかったものにしようとした人間たちに、激怒した。首謀者とみられる技術開発省長官を含め、関わった者たちを全て更迭。その彼らの供述で、ウォルター・バレットというどこまでも小さな男の暗躍が明るみに出て、この尋問なのである。
 だが、結局大した情報は出なかった。

 ――つくづく、頭が痛い。

 弱みにつけいられた味方が最悪のタイミングで余計な差し金をしたおかげで、この国はみすみす敵に大きな隙をさらしたのだ。しかも、大きな戦力になっていたアンドロイドを無力化し、政治的圧力で使用不能、いや、破壊措置寸前のところにまで追い込んだ。
「――貴様は我が国を愚弄したばかりか、敵に利し、我が国の多数の人間をそそのかし、大きく内憂外患を招いた。……国賊として処刑されるは必定。自らの欲望を追求し、妬み続けた愚かさの代償を支払うがいい」
 ルプシーはそう言い捨てると、尋問室をあとにした。副官が慌ててそのあとをついてくる。

 あちこち爆撃の跡が残るものの、第三師団が拠点を置くサエレ基地は、何とか原型を止めていた。軍事拠点であり、本来なら真っ先に攻撃を受けて潰されるはずだったが、対空装備で何とか持ちこたえていたのだ。
 しかし、敵の猛攻にさすがに無理かと思っていた頃に、研究都市の方でTYPE:μがα-TX3たちを一蹴し、どこかへ姿を消した。戦闘型アンドロイドたった一機に蹂躙され、本隊への襲撃を警戒し戦力を引き戻した敵軍の慎重さに助けられた格好だ。そこに、第三艦隊が敵軍を追い立てたことで難を逃れた。
 向こうにそんな意図はなかったかもしれないが、サエレ基地は確かに彼女に救われたのだ。
「少将――TYPE:μの行動は、本当に暴走だと思いますか」
「ただの暴走なら、敵味方問わずに暴れただろう。敵兵だけを空から叩き落としたというあたり、奴の動きは苛烈だが、聞いている限りいくぶんまだ理性的だ。……だが、この七日間、本当にどこにも姿を見せないな」
 副官の発言にそう答えた。
 ルプシーは敷地内の端――フェンスが張り巡らされた場所にやってくると、腰に手を当てて前方に声をかけた。
「それで? まだTYPE:μとは連絡がつかないか。MOTHERのことも分からないか? ――ああ、作業の手は止めなくていい。そのまま話してくれ」
 ――フェンスの周りにたむろしていたのは、陸軍の制服に身を包んだ、元施設の職員たちだった。地面に転がしてあるのは、回収・調査のあとはサエレ基地管理だということで戻された二十三機のアンドロイドの機体だ。施設の爆撃に居合わせた四機は損傷が激しく、ところどころ欠損した体に布などを巻いてカバーしてあった。
 だが、物言わぬただの器物になってしまった彼らを見ていると、部下を複数人亡くした時の心情になった。感情があり、血が通う人間のように生き生きと動いていたから、かもしれない。
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