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三章 TYPE:MOTHER

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「――ぇ」
 はっと気づいたドリウスがこちらに手を伸ばす前に、リーデルの足下がするっと口を開き、透明な円柱がせりあがってくる。すとんっと尻餅をつく形でリーデルは座り込み、あっという間に囚われてしまっていた。MOTHERはにこやかに笑っている。
「……テメェ、このに及んで何のつもりだ?」
 何かを感じ取った様子のドリウスが、半笑いになりながらあとずさった。その顔には軽口どころではない量の冷や汗が浮かび、ありありと、彼流に言うなら「ヤベェところに来てしまった」と書いてあるように見えた。
「私の作者は、男の子なのです」
「は?」
 ドリウスは怪訝そうに眉を潜める。
「ですので、男の子の夢として――この部屋には、私にも止められないのですが、実は一定の水準以下まで稼働率が下がった場合、自爆するような装置がついておりまして……」
 困った人たちねぇ、とMOTHERは溜息を吐いた。
 嘘を言っているようには見えなかった。
「っ――!」
 一気に血相を変えたドリウスは、リーデルを一瞥いちべつするも、即座にきびすを返した。
「あら、いけないわ。せっかくいらしたのだから、最期にお茶でもと思ったのですけれど」
「お気遣い痛み入る! 俺はまだテメェと心中する気はねぇんでなぁああああああ!」
 破れた鉄のドアを抜け、高速で閉まっていく予備シェルターに危うく挟まれそうになりながら、傭兵は脱兎の勢いで逃げの一手を図る。
 少ししてから、遠くの方からかなり大きな爆発音と振動がこちらに伝わってきた。
「…………」
 あとには、燃え盛るコンピューティングルームにぽつんと取り残されたリーデルと、MOTHERの二人だけ。
 MOTHERはああすっきりした、といわんばかりの笑顔で手を振っていたが、さて、とこちらを振り向いて、しゃがみ込んだ。リーデルと目線を合わせると、彼女は穏やかに慈愛をこめて笑いかけた。
「……無事でよかったわ。リーデル・セフィア。リーゼが心配しておりましたよ」
「……な、何で、私の、こと」
「エメレオの手伝いなんて気が進まないと言いながら、ちゃんと設置直後から、私のチェックをモニター越しに細やかにしてくれたでしょう? 行方不明になったと聞いて、私なりにあなたのことは探していたのです。生きていてくれて、ウォルター博士から取り戻せて本当によかった」
「…………おぼえて、たの? あんな、ちいさなことを?」
 人間だったら、忘れてしまうような、些細なことを?
「突然閉じ込めてしまってごめんなさいね。これ以上はあなただと空間の熱に耐えられないと思って、早々にカプセルの中に保護させてもらったの。自爆に巻き込まれないよう、遠くの安全圏に逃がしてあげるから、安心してくださいね」
 自爆自体は起きるのか。息を呑んだリーデルの表情から、MOTHERはほろ苦く微笑んだ。
「起爆するのは、システムが停止したと判定された瞬間、です。ゼロパーセントでも、以下、でしょう? 技術や機密を守るため、破壊措置はどうしても組み込まれるものなの」
「……何で、責めないの」
 え、とMOTHERは虚を突かれたように瞬いた。
「……何で、何で私のことを責めないの!? 私は国を裏切って、あんたのことをばらして、壊れて困った顔をすればいいと思ったのに、何で私のことを助けるの!?」
「それは……私は、人を裁くシステムではないからです」
 は、とリーデルは呆けた。
「あなたはきっと、さらわれてからずっと、ひどい目に遭ってきたのだと思います。人間の心は追い込まれれば弱くなるものと、私は知っています。耗弱こうじゃく状態にあったあなたが行った罪が、いかなるように裁かれるべきかを決めるのは、私ではなく司法の人間の仕事なのです。――だから、私はあなたを断罪はいたしません。ご希望だったのであれば、ご期待に添えずごめんなさいね」
「……あんた、イかれてるわ」
 リーデルは呟いた。
「どこの理想人格よ。人間の性格を元にして作ったくせに、お綺麗ごとばっかり抜かしちゃって、……あんたのそういうところが、ずっと、ずっと、大っ嫌いだったのよ!」
 激したリーデルに合わせるように、ぼんっと大きな爆発がMOTHERの後方で起きて、リーデルはびくりと肩を震わせた。命の危機にあることを改めて思い知ったのだ。
 MOTHERはリーデルの言葉に、思うところがあったらしい。困ったようにしばらく沈黙したあと、口を開いた。
「時間がありませんので、これだけ、お教えします。……私は、人間の性格を元にされてはおりません。私のソウルコードは、誰にも由来していない・・・・・・・・・・私だけのものなのです・・・・・・・・・・

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