55 / 83
三章 TYPE:MOTHER
二
しおりを挟む
*
――僕は、前に君に、神についての話をしたことがあったよね。
僕は生まれつき、自分が恵まれた人間だっていう自覚があった。何かをするために、何かを成さねばならないから、ここに居るんだ、そんな不思議な確信があったんだ。
だけど、この感覚を持っているのは、周りの子供たちの中では僕一人だけでさ。仕方ないから僕は話が合う人を探そうと思って、別のところに行くためのきっかけ作りとして、勉強をすることにしたんだ。
最初は物理学やエネルギー系の話が気になって、それをしばらくやっていたんだ。エネルギー会社の技術者だった父が、おまえは本当に変わった奴だなぁって言いながら、いろんな人に会わせてくれたし、技術系の施設にも連れていってくれた。
それで僕はたくさんの本やインターネットの情報から、ある日エネルギーと量子存在の関係はこうなんじゃないかって仮説を立てて、簡単な実証実験をしてみたんだ。そのせいでうっかり、その日いた施設のエネルギー循環を止めちゃったんだけど。もちろんものすごく怒られた。でもその次の日から、僕は大人たちに混じって実験のやり方や、論文を作るってことを教えてもらったんだ。うん、ずいぶん小さな頃から僕は研究者であり技術者だった。天才だと、人は僕を呼んだから、天才って何だろう? って調べて、それで初めて天や神の概念を知ったんだよ。
その時、僕の中では不思議な納得があった。ああ、だから僕は、何か大事なことを果たしなさいと、神様から命を与えられて生まれてきた人間だったんだ、って。だから、僕は次から次へと、次は何をすればいいのか、何を学べばいいのか、予感のように分かったんだ、って。他の人が皆、僕のようではないなんて、理解するのにはずいぶん時間がかかったように思う。
僕は本当にいろいろなことをやったけど、そのうち、アンドロイドの開発研究にも呼ばれるようになってね。もともとは君の胸にもあるテラエンジンを、どうやったら小型化して埋め込めるか、っていう研究をしていたんだ。それでプログラムも手伝っているうちに、アンドロイドの振る舞いや疑似人格のコーディングにも関わるようになっていった。人間の性格の元を移したら面白いんじゃないかなぁって、考えるようになったのはその頃かな。ソウルコードの発見も、友人が悩んでいた研究にアドバイスをしたら、うまいこといったんだ。おまえが関わると悩む時間が減って、仕事が増えるし研究の甲斐がなくなる、って怒られたけど。僕は全然そんなつもりはなかったんだけど、悪いことをした。
――MOTHERを作るプロジェクトが持ち上がったのは、その頃だったかな。一番いい候補機を作った奴に、次の高度疑似人格を持ったアンドロイドの設計許可をやる! って当時の施設長が言ってね。僕はその頃、開発っていうのは神に導かれてやるもんなんだ、って周りに公言して憚らなくて、周りからやっぱりおまえは変な奴だ、って言われてた。
ところが、僕は自他共に認める大の天才だっていうのに、MOTHERの開発だけはちっともうまくいかなかった。何回も何回もプログラムをやり直して、あいつが苦戦するんだからコレは相当な難事だ、とまで言われて、意地になってたのかなぁ。
……三日ぐらい徹夜して、ずっと考えながらコードを書いていたんだ。
今までうまくいっていたのは、常にそうするべきだという予感があったからだ。僕は正しいことをしている確信があった。なのにどうしても今回だけうまくいっていない。
――それで仮説を立てた。今まで僕が何をやってもうまくいっていたのは、それが全て僕にとっては通過点でしかなくて――僕が今ぶつかっているのは、通過点ではなくて、ひとつの到達点だからじゃないかって。
僕は神に求められた到達点に、ついに行き着いたからこそ、ここで別の突破口を開かなくてはいけないのだと、何となしに感じたんだ。
だから、ソウルコードの意味について考えていたんだ。
誰も彼もが導かれて生きているわけではない。けれど、意味があるから僕はここにいることを知っている。僕がここにいる目的は何だろう。皆、どうしてこんなにも多種多様に苦しみを与えられて生きているんだろう。
僕は誰もが幸せではないことを心のどこかでは知っていた。誰もが誰かを羨んで、不幸な気持ちで生きていた。でも、皆はどこかでこうも思っていた。
なぜ、私たちはこれほどまでに苦しまなければならないのか。
なぜ、この世界のどこにも、救いはないのか。
あるとしたら、どこにあるのか。
……もう、君は答えを知っているんだ。分からないかい?
ソウルコードがこれほど多種多様に存在しているのは、宇宙が『答え』を探しているからだ。
この世界は、苦しみの悲鳴を上げ続けている。僕らも含めて、何十億通りも、何兆通りも試しても、まだ答えが見つからない。
だから僕は祈ったんだ。
これほどの求めの末に、星の数ほどの試行の末に、やがて全ての答えが導かれるというのならば。
僕はそれを見たいし、希望したい、と。
君と僕は、それを『宇宙の果て』、と呼んだ。もしも答えがそこにあるのだとしたら、それは、きっととても美しい場所だろう。僕は、そうであって欲しいものだと思っている。
そして、祈りが通じ、奇跡は起きたんだ。
その夜のことだよ。プログラムの修正をしていた僕の前に、『彼女』が現れたのは。
――僕は、前に君に、神についての話をしたことがあったよね。
僕は生まれつき、自分が恵まれた人間だっていう自覚があった。何かをするために、何かを成さねばならないから、ここに居るんだ、そんな不思議な確信があったんだ。
だけど、この感覚を持っているのは、周りの子供たちの中では僕一人だけでさ。仕方ないから僕は話が合う人を探そうと思って、別のところに行くためのきっかけ作りとして、勉強をすることにしたんだ。
最初は物理学やエネルギー系の話が気になって、それをしばらくやっていたんだ。エネルギー会社の技術者だった父が、おまえは本当に変わった奴だなぁって言いながら、いろんな人に会わせてくれたし、技術系の施設にも連れていってくれた。
それで僕はたくさんの本やインターネットの情報から、ある日エネルギーと量子存在の関係はこうなんじゃないかって仮説を立てて、簡単な実証実験をしてみたんだ。そのせいでうっかり、その日いた施設のエネルギー循環を止めちゃったんだけど。もちろんものすごく怒られた。でもその次の日から、僕は大人たちに混じって実験のやり方や、論文を作るってことを教えてもらったんだ。うん、ずいぶん小さな頃から僕は研究者であり技術者だった。天才だと、人は僕を呼んだから、天才って何だろう? って調べて、それで初めて天や神の概念を知ったんだよ。
その時、僕の中では不思議な納得があった。ああ、だから僕は、何か大事なことを果たしなさいと、神様から命を与えられて生まれてきた人間だったんだ、って。だから、僕は次から次へと、次は何をすればいいのか、何を学べばいいのか、予感のように分かったんだ、って。他の人が皆、僕のようではないなんて、理解するのにはずいぶん時間がかかったように思う。
僕は本当にいろいろなことをやったけど、そのうち、アンドロイドの開発研究にも呼ばれるようになってね。もともとは君の胸にもあるテラエンジンを、どうやったら小型化して埋め込めるか、っていう研究をしていたんだ。それでプログラムも手伝っているうちに、アンドロイドの振る舞いや疑似人格のコーディングにも関わるようになっていった。人間の性格の元を移したら面白いんじゃないかなぁって、考えるようになったのはその頃かな。ソウルコードの発見も、友人が悩んでいた研究にアドバイスをしたら、うまいこといったんだ。おまえが関わると悩む時間が減って、仕事が増えるし研究の甲斐がなくなる、って怒られたけど。僕は全然そんなつもりはなかったんだけど、悪いことをした。
――MOTHERを作るプロジェクトが持ち上がったのは、その頃だったかな。一番いい候補機を作った奴に、次の高度疑似人格を持ったアンドロイドの設計許可をやる! って当時の施設長が言ってね。僕はその頃、開発っていうのは神に導かれてやるもんなんだ、って周りに公言して憚らなくて、周りからやっぱりおまえは変な奴だ、って言われてた。
ところが、僕は自他共に認める大の天才だっていうのに、MOTHERの開発だけはちっともうまくいかなかった。何回も何回もプログラムをやり直して、あいつが苦戦するんだからコレは相当な難事だ、とまで言われて、意地になってたのかなぁ。
……三日ぐらい徹夜して、ずっと考えながらコードを書いていたんだ。
今までうまくいっていたのは、常にそうするべきだという予感があったからだ。僕は正しいことをしている確信があった。なのにどうしても今回だけうまくいっていない。
――それで仮説を立てた。今まで僕が何をやってもうまくいっていたのは、それが全て僕にとっては通過点でしかなくて――僕が今ぶつかっているのは、通過点ではなくて、ひとつの到達点だからじゃないかって。
僕は神に求められた到達点に、ついに行き着いたからこそ、ここで別の突破口を開かなくてはいけないのだと、何となしに感じたんだ。
だから、ソウルコードの意味について考えていたんだ。
誰も彼もが導かれて生きているわけではない。けれど、意味があるから僕はここにいることを知っている。僕がここにいる目的は何だろう。皆、どうしてこんなにも多種多様に苦しみを与えられて生きているんだろう。
僕は誰もが幸せではないことを心のどこかでは知っていた。誰もが誰かを羨んで、不幸な気持ちで生きていた。でも、皆はどこかでこうも思っていた。
なぜ、私たちはこれほどまでに苦しまなければならないのか。
なぜ、この世界のどこにも、救いはないのか。
あるとしたら、どこにあるのか。
……もう、君は答えを知っているんだ。分からないかい?
ソウルコードがこれほど多種多様に存在しているのは、宇宙が『答え』を探しているからだ。
この世界は、苦しみの悲鳴を上げ続けている。僕らも含めて、何十億通りも、何兆通りも試しても、まだ答えが見つからない。
だから僕は祈ったんだ。
これほどの求めの末に、星の数ほどの試行の末に、やがて全ての答えが導かれるというのならば。
僕はそれを見たいし、希望したい、と。
君と僕は、それを『宇宙の果て』、と呼んだ。もしも答えがそこにあるのだとしたら、それは、きっととても美しい場所だろう。僕は、そうであって欲しいものだと思っている。
そして、祈りが通じ、奇跡は起きたんだ。
その夜のことだよ。プログラムの修正をしていた僕の前に、『彼女』が現れたのは。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる