14 / 83
二章 欠陥だらけの殺戮人形(キリングドール)
一
しおりを挟む翌朝μがスリープモードから復帰すると、時刻は予定していたよりまだ早い時間だった。エメレオは既に起き出して、壁掛けのテレビジョン受信機のモニターに映し出された映像に見入っている。
μはさて、とネットワークにアクセスして――自分のところに、大量の着信が入っていたことに気がついた。
エメレオに借りたモニターのカメラ機能を使い、フェイスtoフェイスモードで通話を始める。と、いきなり画面いっぱいにλ(ラムダ)の怒った顔が映ったので、μは思わず仰け反った。あ。εが隅っこにいるのが見える。
『――信じられない! 私にせめて一言くらい連絡入れてよね!』
『まぁまぁλ。μだって急に護衛任務に指名されたんだから、君に断る暇もなかったに違いないよ』
『ε、そうは言うけど、あのμよ! 面倒がってまとめて対象を処理しようとして訓練場を焦がしたの、忘れてないでしょ!?』
それは忘れてほしい、と、μは少し画面から目を逸らした。横でエメレオが唇を引き結んでいた。頬が膨らんでいるのは、きっと笑いを堪えている。
μはλの機嫌が落ち着いてきたのを見計らって、今までの経緯をかいつまんで報告する。冷静に状況を確認したεが、首をかしげた。
『でも変だね。ヴァーチン博士、護衛任務を任せるにしたって、試験中のアンドロイドを外に出すのはアンドロイドの安全規定に抵触するだろう? 何でまた一体だけ外に持ち出したかったのさ』
「おや、僕がアンドロイドを持ち出したいから護衛をMOTHERに依頼したとでも思ったのかい? 本当に僕は追いかけられてるし、命も狙われているよ?」
隣でμはうんうんと頷いた。既に昨日の戦闘記録はデータベースにアップロードしてある。今頃MOTHERが、どの勢力から放たれた刺客だったのか、解析を進めていることだろう。
「まぁ答えは単純でね……無理を通してでも、戦闘型アンドロイドを護衛にしたかったんだ。今、僕は誰も信用できない状態にあるからね。人間よりも自分が開発したアンドロイドの方がよほど信用できる」
『穏やかじゃあない話だね』
「僕の頭脳は誰もが喉から手が出るほど素晴らしい発明をする代わりに、誰もが消し去りたいほど、相手にとって厄介なことを作り出すのさ。天才っていうのは苦労するんだよ」
エメレオは軽く笑い、ソファから立ち上がった。
「さて、μ。λたちへの連絡も済んだことだし、ちょっと護衛を頼まれてくれるかい」
「どこかにお出かけですか」
「うん」
エメレオはクローゼットの中から濃い灰色のジャケットを取り出した。
「――ちょっと、物騒な会合にね」
『『「ん?」』』
スクリーンの向こうとこちらで、アンドロイドたちの疑問の声が重なる。
『μ? 私たちは訓練を続けるけど……MOTHERになるべく、応援に行かせてもらえるようにかけあってみるから。無理しちゃだめよ』
通信を切ろうとした手が止まる。
「……うん。でも、これが私の仕事だから。切るね、λ」
『……気をつけてね』
0
本業が忙しいため、なかなかコメントへの返信はできませんが、すべて読ませていただきます。ご感想ありましたら嬉しいです。
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる