上 下
30 / 41

29

しおりを挟む
 乱れなく流れる音楽は、流石プロの奏者だと感心ものである。しかし、踊っている私はいっそ止まってくれと思っていた。
 海賊の船長だと言うのにやけにダンスが上手い船長にリードされて、何故か三曲目にまで突入。二人とも体力はあるため、まだ疲れもしてないのだ。
 おかげさまで楽しくダンスをしているが、そもそもこんなにダンスが延びているのには原因がある。

「それで!船長、いったいどうやってエストラントの国王に成り代わったんですか!?もしや、容姿が似ているのをいいことに、拉致して身ぐるみを…!?」
「人聞きが悪ぃな!あ"ー、なんだ…色々と伝手があんだよ」
「…それは、人攫いとかの?」
「さっきから随分と失礼じゃねぇか、アレクゥ…後で覚えとけよ」
「やっべ。冗談じゃないっすか、船長~!」

 これからの行動を相談する筈が、二週間近く会っていなかったからかついついこうして無駄話を続けてしまっているのである。周りの視線に気づいたので心底気まずいが、久しぶりの船長との会話が楽しいやら嬉しいやらで止まらなかった。
 いつか想像していた船長とのダンスも、これを逃したら今後二度と無いような気がして止めたくもなくなる。なので音楽の方が止まってくれれば、中断してテラスにでも移動出来るというのに。
 そんな理不尽な事を考えていれば、次の曲に移るときに船長が止まった。どうやらいい加減本題に入りたかったようで、ダンスはもう終わりのようだ。少しだけ残念に思う。
 そのまま談笑を続けるようにテラスへと誘導される。勿論好奇の視線を浴びまくっていたが、船長は全く気にせずに私をエスコートしてくれた。流石、度胸が凄い。

 涼しいよそ風が吹き抜けるテラスで、ようやく私たちは本題へと入る。

「今、俺の従者っつーことで他の奴らもここに潜入してる。全員じゃねぇがな」
「じゃあ、もしかしてエストラントの服を着てる人は皆なんですか?」
「いや、あっちから借りてる奴もいる。来てんのは、ドミニクとスーフェとマルズ。あと、ストルもだな」
「ストル……え!?お兄さん!?何で!?」

 一瞬誰のことか分からなかったが、レックのお兄さんだと思わしきあのお兄さんのことだと思い当たる。マルズが確かそう呼んでいたはずだ。
 と言うことは、やはり彼はレックのお兄さんだったのだろう。お互いに死んだものと思っていた兄弟の感動の再会シーン……見たかったなぁ~~~!
 二人が私に感謝しているという話を聞いて、特に何をした記憶もない私は首を傾げる。それを見て、船長がフッと笑った。

「タイミングはお前の好きな時でいいが、パーティーが終わる前には逃げるぞ。家族と別れは済ませておけ」
「あ、それは一応今朝しておきました。でも、一応改めて挨拶しておきます。船長もどうですか?」
「…お前、まさか親に全部話したとか言わねぇよな?」
「はい!私が海賊やりたいってこと、正直に話しました!今日出ていくことも含めて!」
「……いや、まぁ、は?え、受け入れられたのか?」
「快く送り出してくれました!」

 珍しく困惑を隠しきれていない船長が、微妙な顔をして私を見る。多分、それでいいのかと思っているのだろう。
 確かに、娘が海賊になる!なんてことを許すのは貴族の親としてあり得ないだろう。しかし船長には流石に言わないが、私は船長が好きなのだ。娘の恋を応援してくれると考えれば、親として素晴らしいことだと思う。
 今世の両親と兄には、本当に感謝してもしきれない。ゲンさん経由で手紙のやり取りをする予定ではあるし、いつか別荘などで会えるようになればいいな。

 ニコニコと笑う私に、まぁいいかと考えることを放棄した船長。折角だから船長を親に紹介したいという気分になった私は、彼の手を引いて会場に戻る。
 兄を探せば、あちらも私を探していたようですぐに合流できた。そこには、遅れてやってきた両親も居る。

「お兄様!お父様とお母様も着いていたんですね」
「あぁ…そちらは、エストラントのリグニス陛下ではありませんか。本日は…」
「挨拶はいい。今日は"夜"だ」
「成る程。では、貴方があの有名な…娘を、よろしくお願いします」
「話は聞いてるらしいが…いいのか?」
「娘が、私たちに初めて我が儘を言ったんです。今まで、剣以外に好きなことをさせられませんでしたから。したいことを追いかけている時が、一番この娘らしい」
「そうですか。では、ご息女は私が命をかけてお守りいたしましょう。私の船と、剣をかけて」

 そういって、胸に片手を当てて綺麗にお辞儀をする船長。会話の意味はよく分からなかったが、なんだか凄いことを言われた気がする。今までも散々守られていたが、船長は更に私を守ろうと言うのか。
 親の前だからそう言っただけだとしても、単純に格好いいから見惚れてしまう。兄につつかれて、正気に戻る。

 私は家族と挨拶を交わし、必ず手紙を出すと約束する。
 そしてようやく、私は殿下へ向き合うことにした。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

処理中です...