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乱れなく流れる音楽は、流石プロの奏者だと感心ものである。しかし、踊っている私はいっそ止まってくれと思っていた。
海賊の船長だと言うのにやけにダンスが上手い船長にリードされて、何故か三曲目にまで突入。二人とも体力はあるため、まだ疲れもしてないのだ。
おかげさまで楽しくダンスをしているが、そもそもこんなにダンスが延びているのには原因がある。
「それで!船長、いったいどうやってエストラントの国王に成り代わったんですか!?もしや、容姿が似ているのをいいことに、拉致して身ぐるみを…!?」
「人聞きが悪ぃな!あ"ー、なんだ…色々と伝手があんだよ」
「…それは、人攫いとかの?」
「さっきから随分と失礼じゃねぇか、アレクゥ…後で覚えとけよ」
「やっべ。冗談じゃないっすか、船長~!」
これからの行動を相談する筈が、二週間近く会っていなかったからかついついこうして無駄話を続けてしまっているのである。周りの視線に気づいたので心底気まずいが、久しぶりの船長との会話が楽しいやら嬉しいやらで止まらなかった。
いつか想像していた船長とのダンスも、これを逃したら今後二度と無いような気がして止めたくもなくなる。なので音楽の方が止まってくれれば、中断してテラスにでも移動出来るというのに。
そんな理不尽な事を考えていれば、次の曲に移るときに船長が止まった。どうやらいい加減本題に入りたかったようで、ダンスはもう終わりのようだ。少しだけ残念に思う。
そのまま談笑を続けるようにテラスへと誘導される。勿論好奇の視線を浴びまくっていたが、船長は全く気にせずに私をエスコートしてくれた。流石、度胸が凄い。
涼しいよそ風が吹き抜けるテラスで、ようやく私たちは本題へと入る。
「今、俺の従者っつーことで他の奴らもここに潜入してる。全員じゃねぇがな」
「じゃあ、もしかしてエストラントの服を着てる人は皆なんですか?」
「いや、あっちから借りてる奴もいる。来てんのは、ドミニクとスーフェとマルズ。あと、ストルもだな」
「ストル……え!?お兄さん!?何で!?」
一瞬誰のことか分からなかったが、レックのお兄さんだと思わしきあのお兄さんのことだと思い当たる。マルズが確かそう呼んでいたはずだ。
と言うことは、やはり彼はレックのお兄さんだったのだろう。お互いに死んだものと思っていた兄弟の感動の再会シーン……見たかったなぁ~~~!
二人が私に感謝しているという話を聞いて、特に何をした記憶もない私は首を傾げる。それを見て、船長がフッと笑った。
「タイミングはお前の好きな時でいいが、パーティーが終わる前には逃げるぞ。家族と別れは済ませておけ」
「あ、それは一応今朝しておきました。でも、一応改めて挨拶しておきます。船長もどうですか?」
「…お前、まさか親に全部話したとか言わねぇよな?」
「はい!私が海賊やりたいってこと、正直に話しました!今日出ていくことも含めて!」
「……いや、まぁ、は?え、受け入れられたのか?」
「快く送り出してくれました!」
珍しく困惑を隠しきれていない船長が、微妙な顔をして私を見る。多分、それでいいのかと思っているのだろう。
確かに、娘が海賊になる!なんてことを許すのは貴族の親としてあり得ないだろう。しかし船長には流石に言わないが、私は船長が好きなのだ。娘の恋を応援してくれると考えれば、親として素晴らしいことだと思う。
今世の両親と兄には、本当に感謝してもしきれない。ゲンさん経由で手紙のやり取りをする予定ではあるし、いつか別荘などで会えるようになればいいな。
ニコニコと笑う私に、まぁいいかと考えることを放棄した船長。折角だから船長を親に紹介したいという気分になった私は、彼の手を引いて会場に戻る。
兄を探せば、あちらも私を探していたようですぐに合流できた。そこには、遅れてやってきた両親も居る。
「お兄様!お父様とお母様も着いていたんですね」
「あぁ…そちらは、エストラントのリグニス陛下ではありませんか。本日は…」
「挨拶はいい。今日は"夜"だ」
「成る程。では、貴方があの有名な…娘を、よろしくお願いします」
「話は聞いてるらしいが…いいのか?」
「娘が、私たちに初めて我が儘を言ったんです。今まで、剣以外に好きなことをさせられませんでしたから。したいことを追いかけている時が、一番この娘らしい」
「そうですか。では、ご息女は私が命をかけてお守りいたしましょう。私の船と、剣をかけて」
そういって、胸に片手を当てて綺麗にお辞儀をする船長。会話の意味はよく分からなかったが、なんだか凄いことを言われた気がする。今までも散々守られていたが、船長は更に私を守ろうと言うのか。
親の前だからそう言っただけだとしても、単純に格好いいから見惚れてしまう。兄につつかれて、正気に戻る。
私は家族と挨拶を交わし、必ず手紙を出すと約束する。
そしてようやく、私は殿下へ向き合うことにした。
海賊の船長だと言うのにやけにダンスが上手い船長にリードされて、何故か三曲目にまで突入。二人とも体力はあるため、まだ疲れもしてないのだ。
おかげさまで楽しくダンスをしているが、そもそもこんなにダンスが延びているのには原因がある。
「それで!船長、いったいどうやってエストラントの国王に成り代わったんですか!?もしや、容姿が似ているのをいいことに、拉致して身ぐるみを…!?」
「人聞きが悪ぃな!あ"ー、なんだ…色々と伝手があんだよ」
「…それは、人攫いとかの?」
「さっきから随分と失礼じゃねぇか、アレクゥ…後で覚えとけよ」
「やっべ。冗談じゃないっすか、船長~!」
これからの行動を相談する筈が、二週間近く会っていなかったからかついついこうして無駄話を続けてしまっているのである。周りの視線に気づいたので心底気まずいが、久しぶりの船長との会話が楽しいやら嬉しいやらで止まらなかった。
いつか想像していた船長とのダンスも、これを逃したら今後二度と無いような気がして止めたくもなくなる。なので音楽の方が止まってくれれば、中断してテラスにでも移動出来るというのに。
そんな理不尽な事を考えていれば、次の曲に移るときに船長が止まった。どうやらいい加減本題に入りたかったようで、ダンスはもう終わりのようだ。少しだけ残念に思う。
そのまま談笑を続けるようにテラスへと誘導される。勿論好奇の視線を浴びまくっていたが、船長は全く気にせずに私をエスコートしてくれた。流石、度胸が凄い。
涼しいよそ風が吹き抜けるテラスで、ようやく私たちは本題へと入る。
「今、俺の従者っつーことで他の奴らもここに潜入してる。全員じゃねぇがな」
「じゃあ、もしかしてエストラントの服を着てる人は皆なんですか?」
「いや、あっちから借りてる奴もいる。来てんのは、ドミニクとスーフェとマルズ。あと、ストルもだな」
「ストル……え!?お兄さん!?何で!?」
一瞬誰のことか分からなかったが、レックのお兄さんだと思わしきあのお兄さんのことだと思い当たる。マルズが確かそう呼んでいたはずだ。
と言うことは、やはり彼はレックのお兄さんだったのだろう。お互いに死んだものと思っていた兄弟の感動の再会シーン……見たかったなぁ~~~!
二人が私に感謝しているという話を聞いて、特に何をした記憶もない私は首を傾げる。それを見て、船長がフッと笑った。
「タイミングはお前の好きな時でいいが、パーティーが終わる前には逃げるぞ。家族と別れは済ませておけ」
「あ、それは一応今朝しておきました。でも、一応改めて挨拶しておきます。船長もどうですか?」
「…お前、まさか親に全部話したとか言わねぇよな?」
「はい!私が海賊やりたいってこと、正直に話しました!今日出ていくことも含めて!」
「……いや、まぁ、は?え、受け入れられたのか?」
「快く送り出してくれました!」
珍しく困惑を隠しきれていない船長が、微妙な顔をして私を見る。多分、それでいいのかと思っているのだろう。
確かに、娘が海賊になる!なんてことを許すのは貴族の親としてあり得ないだろう。しかし船長には流石に言わないが、私は船長が好きなのだ。娘の恋を応援してくれると考えれば、親として素晴らしいことだと思う。
今世の両親と兄には、本当に感謝してもしきれない。ゲンさん経由で手紙のやり取りをする予定ではあるし、いつか別荘などで会えるようになればいいな。
ニコニコと笑う私に、まぁいいかと考えることを放棄した船長。折角だから船長を親に紹介したいという気分になった私は、彼の手を引いて会場に戻る。
兄を探せば、あちらも私を探していたようですぐに合流できた。そこには、遅れてやってきた両親も居る。
「お兄様!お父様とお母様も着いていたんですね」
「あぁ…そちらは、エストラントのリグニス陛下ではありませんか。本日は…」
「挨拶はいい。今日は"夜"だ」
「成る程。では、貴方があの有名な…娘を、よろしくお願いします」
「話は聞いてるらしいが…いいのか?」
「娘が、私たちに初めて我が儘を言ったんです。今まで、剣以外に好きなことをさせられませんでしたから。したいことを追いかけている時が、一番この娘らしい」
「そうですか。では、ご息女は私が命をかけてお守りいたしましょう。私の船と、剣をかけて」
そういって、胸に片手を当てて綺麗にお辞儀をする船長。会話の意味はよく分からなかったが、なんだか凄いことを言われた気がする。今までも散々守られていたが、船長は更に私を守ろうと言うのか。
親の前だからそう言っただけだとしても、単純に格好いいから見惚れてしまう。兄につつかれて、正気に戻る。
私は家族と挨拶を交わし、必ず手紙を出すと約束する。
そしてようやく、私は殿下へ向き合うことにした。
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