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 ニマニマしたお姉様たちからの質問責めにぐったりとしていれば、いつの間にか日暮れが近くなっていたらしい。
 すっかり今の自分の格好を失念していた私は、ガチャリと開けられた休憩室の出入り口で固まっている人物を見て唖然とする。

「…おま、は?」
「え、せっ、船長!?何で!?」

 そう。そこに居たのは、先程まで話題になっていたロクサス船長だったのである。
 てっきりドミニク副船長が来るものだと思っていたから、私も思わず固まってしまった。お姉様たちに囲まれてタジタジになっている船長を見て、はっと我に返る。

 そして、ナイスバディなお姉様が腕に抱きついている船長が目に入った。
 なんか、なんかなぁ…ちょっと、悔しいと言うか、なんと言うか。そりゃあ、私は好きで海賊やるために男の振りをしてる訳だけど。いや、別にそう言うんじゃないんだけどさ?

「…せんちょー、やっぱり…似合ってませんか?」

 私だって女の子な訳でして。化粧もされて、こんな綺麗な格好させられたら、似合ってるかどうかは気になるし。
 お姉様たちには可愛いとか似合うとか言われたけど、それって子どもが何着ても可愛く見えるあれだと思うんだよね。やっぱり、他の人からどう見えるのか知りたい。
 そう思って船長を見る。どうかな。船長からこの格好はどう見えてるのかな。

「……………似合って、る…」
「…!え、ほ、本当!?ふふ、えへへ…」

 絞り出すような声に、お世辞だったとしても似合ってると言われて顔がにやける。ついつい手で頬を押さえるが、隠しきれてる気がしない。
 一人それで浮かれていれば、お姉様たちに何かを言われたらしい船長が黙りこんでしまった。何やら難しい顔をしている。

「船長?」

 近づいて顔を見上げる。余談だが、私の身長は158cmで船長が187cmである。約30cm差である。ちょっと首が辛いが、下から見上げると顔がよく見えるので別にいいかなって思ってる。
 じっと見上げていれば、船長の藍色の瞳がギラリと光った、気がした。言うなれば、ご飯を食べる時のイーヴォような─

「………可愛いな…」
「ぅえ!?!?」

 思わずと言った風にポツリと漏れた呟きに、不意打ち過ぎて顔がボッと熱くなるのを感じる。頭が真っ白になり、顔を背けることもできずにしばらく船長と見つめ会うこととなった。

 数分後、ニマニマ笑うお姉様たちにからかわれ居心地が悪くなったのは言うまでもあるまい。

 帰るから着替えろと言われた私は、またしてもお姉様たちに連れられあれよれあれよと着替えさせられた。
 部屋を出るときに船長が疑問の声を上げていたが、確かに彼から見たら男性が女性に着替えさせられると実に妙な図だっただろう。
 そうして着替えた服は、今日私が来ていた服ではなかった。

「見てみて船長さん~♡可愛いでしょ~♡」
「帰るっつただろうが!何でまた女物着てんだよ!」
「船長!今度はレースの多いふわふわな服ですよ!どうです!?」
「お前もお前で、なんでそんなノリノリなんだよ…」
「…似合いませんか?」
「ちくしょう可愛い!!」
「やったー!」

 またしてもお姉様たちの着せ替え人形と化した私。先程のは大人っぽかったが、今度はふわふわで可愛い系の服だ。スカートの端を持ってくるりと回って見せれば、片手で顔を覆った船長がぐわっ!と叫ぶ。
 可愛いと言われて素直に嬉しい。照れ隠しにもういっちょくるりと回っていれば、突然とん、と肩を押された。バランスを崩して、船長の方へ転びそうになる。

「わっ、とと…」
「うお。おい、何してる?」
「あら~♡これは絵になるわ~♡」
「でも、お姫様と海賊じゃ身分差がありすぎない?」
「何言ってるのよ!それがいいんじゃない!」
「「「わかるわ~」」」
「…………なんだってンだ…」

 船長が私を受け止めれば、私を押したらしいお姉様たちがキャッキャッと会話を始める。当たらずも遠からずな会話をされ、"身分差"という単語に体が強ばる。
 と言うか、君ら私が性別隠してるって言ったの覚えてる??ねぇ、積極的にバラしにいってない??気のせい??
 ついついお姉様たちを睨めば、あまり悪びれもせずにてへっと笑われた。くぅ…美人はやっぱり顔が良い…許してしまう…

 今度こそ元の服装に着替え、オババや皆に手を振って店をあとにした私と船長。既に外は暗くなっていて、今いる通りも昼間に感じた雰囲気が一気に強くなっていた。
 何だか気まずくなって、無意識に船長から数歩離れようとすればガシッと腕を捕まれた。

「おい、何逃げようとしてやがる」
「い、いや~?」
「…宿屋に戻る前に、何か飯でも食ってくか?」
「え、いいの?」
「あぁ。好きなの食べろ。奢ってやる」
「わぁい、船長太っ腹~!」

 腕を引かれるがまま、宿屋がある通りの方へ進む。そこで好きなものを食べていいと言うので、お言葉に甘えることにした。
 気まずさはすぐどこかに行ったようで、船長の隣を平気で歩けるようになっていた。何を食べようかなーと一緒に歩いていれば、先程お姉様たちに教えてもらった香水店を見つけた。小さく質素な外見だが、種類は豊富にあるらしい。
 私の視線に気づいた船長が、香水店と私を何度か見てから首を傾げた。

「何だ、彼処で影響でも受けたか?今も甘い匂いがしてるが…」
「ひぇ…あ、うん!ちょっと…寄ってみてもいいですか?」
「まぁ、いいが。男が寄るような場所じゃねぇぞ?」

 顔を近づけ匂いを嗅がれ、情けない声が出そうになる。どうにか持ち直して、今度は私が船長の腕を引いてお店へと入った。

 というか、相変わらずこの船長は距離感が近い!






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