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プロローグ

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 涼しい朝、眠気覚ましのモーニングティーを飲んでいたら、突然前世を思い出した。

 そんなことってある??


 【彼の者と巡りて、その愛を辿る】という題名の乙女ゲームがあった。私は、幼馴染みの親友の勧めで一緒にプレイしていた。
 全て終わった時の感想は、なんと言うか、これでいいのかと問いたい内容であった。
 簡単にあらすじを言うとしたら、平民の女の子が王様子と恋に落ち、愛を貫き通すお話。それだけならよくあるゲームだ。
 問題は、その愛の貫き方である。
 アレクシアは、このフェロウド王国の王太子の婚約者である。正直、今の私はこの立場に不満しかない。王子の婚約者になぞなりたくなかった。
 ここは乙女ゲームと違うところで、完全に思い出さなくとも前世の影響があったのだろう。ゲームのアレクシアと違い、私は王子が好きではない。何なら、婚約者から外されないかと希望を持って冷たくしている。(残念ながら婚約解消の話はまだ出てない)
 そしてこのアレクシア、運営は何の恨みがあるのかと言うほど悲惨な死をとげる。

 ヒロインと攻略対象が結ばれるため、アレクシアは言われなき罪で一族郎党処刑されるのである。

 ここで重要なのは、アレクシアは確かに、一般乙女ゲームで言う悪役令嬢の立場にある。
 しかし、しかしだ。ヒロインに殺し屋を差し向けたことはおろか、彼女は一切ヒロインを虐めていない。何なら、ヒロインに心を奪われた王太子─彼は他の攻略対象のルートでも何故かヒロインに惚れる─を想って毎晩涙で袖を濡らすのだ。
 こっちの方がヒロインだろとツッコミが入ったのは、言うまでもなかろう。
 そんな彼女を襲う悲劇が、一族郎党を巻き込んでの断罪処刑だ。ヒロインを行き過ぎなほど虐めたと無実の罪を着せられ、処刑される。

 何故一族ごとなのかと疑問に思っていたが、転生して分かった。
 恐らくであるが、うちに消えて欲しい貴族たちが動いたのだろう。そして馬鹿王子を利用して、まんまと処刑することに成功したのだ。
 そう考えると、あのゲームはやけにリアリティがあることに気づく。何で平民の女の子を虐めただけで一族郎党処刑になるんだと思ったが、そう考えるとしっくりくるのだ。

 さて、話が長くなったが、私の現在の状況は分かって頂けただろうか。もう一度まとめてみよう。
 つまり、このままだと私はおろか、家族も親戚も全員死ぬのである。ナンテコッタ。
 ついでに言うと、私は今年で13歳。ゲームの舞台は、今年から通うことになっていた学園である。そして、三日後が入学式だ。
 学園は全寮制で、卒業までろくに身動きが取れない。こっそり抜け出そうものなら、即刻バレて連れ戻されるだろう。
 ゲームの開始が二年後だとしても、入学してからでは逃げることは出来なくなる。そう、私は三日後の入学式をどうにか回避しなければならないのである。

 今更入学しませんなんて言えるわけがないし、そもそも貴族の令嬢子息は必ず通わなければならない。
 では、どうするか。

 入学したくないのなら、家出すればいいじゃない!

 と言うわけで、私は夜を待って机に「探さないで下さい」と書いた紙を置き、家族しか開けられない宝箱に家族への手紙を残した。
 兄の幼い頃の服を拝借し、兄にくっついて受けた剣術の訓練をしてくれる講師の方から貰った剣を腰に下げる。
 何故かコツコツ貯めていたお金で購入していた宝石とちょっとのお金を鞄にしまい、準備は完了。
 短剣を専用のベルトで太股に装備し、帽子を被って私は部屋の窓から飛び出した。色んなところから死角になっている庭の一画で、長く伸ばした髪を切り落とす。
 部屋に少しでも髪を切った証拠を残してしまえば、何か不都合が起きるかもしれない。だから庭で切り、土に埋めることにしたのだ。多少髪が残っても、それは風が何処かへ飛ばしてくれるから。

 切り落とした髪は埋めたし、普通の令嬢は扱わない剣も下げている。これで、誰も私を貴族の令嬢だとは思わないだろう。
 見回りをしている護衛の目を潜り抜け、私は屋敷の脱出に成功した。目指すは港であり、このまま国を出る予定である。
 この国にいたら、すぐに見つかってしまう可能性が高いからね。国外まで逃げるのだ。

 そうして隠れ隠れ進み、夜が明けて日も高くなってきた頃、私はようやく港町についた。そこで適当に旅に必要そうな物を買いつつ、身分証がなくても乗れる船を探した。
 しかし、やはりどれも身分証がいるものしかない。当たり前だが。

「ねぇ、君。小さい子が一人で何してんの?」

 はてどうしたもんかと途方にくれていれば、声をかけてくる人物が一人。
 厳つい訳ではないが、何となく雰囲気が町の人とは思えない男性が、こちらを覗き込んでいた。しかし敵意は感じないし、何よりこの人に近づかれた時潮の香りが強くした。
 もしかしたら、と一縷の希望に掛けて口を開く。

「僕、この国を出なきゃならないんだけど、どの船も身分証が必要で。何も聞かずに乗せてくれる船とか知らない?」
「身分証、ないの?」
「うん。あっても、見せれない」
「ふーん?訳ありっぽいね…良ければ、おれが乗ってる船に来てみる?乗せてくれるかは船長に聞かなきゃ分かんないけど」

 これぞ渡りに船ということか。彼一人では判断出来ないようだが、しかし身分証がなくとも乗せてくれる可能性があるならついていこう。悪い予感は何故かしないし、こう言うときの私の勘は当たるのだ。
 お言葉に甘え、彼の後を大人しく着いていく。道中自己紹介をし、彼はドミニクという名前だということを知った。

 そしてやって来たのは、港から少し離れた崖の下。よく見ると、崖の影に隠れるように一隻の大きな船がある。帆は畳まれているが、マストの先にある旗に私の目は釘付けになった。

 黒地にドクロマーク…!海賊船だ!!

 それに気づき、私のテンションは爆上がりする。何を隠そう、私は海賊ものの話が大好きなのである。
 某海賊漫画しかり、某海外映画しかり、とにかく好んでそういう話を見ていた。勿論、リアルに伝わる話も好きである。
 それがどうだ。本物が今、目の前に!これは片道送って下さい、だけでは済ませたくない。いっそ私も仲間入りしたい。
 人を殺すとか、襲うとか、海賊になったらする場面も出てくるだろう。今の私はお話の世界にいるわけではない。これは現実だ。

 だけどまぁ、憧れの海賊になれるならどんなことだってしてやるわ!!人殺し?略奪?むしろそれこそ海賊の醍醐味というものではないだろうか…!!

 こっそりワクテカしながら、ドミニクさんに着いて船に乗り込む。出航の準備でもしていたのか、のんびりと甲板を駆け回る乗組員たちが私を物凄く凝視してきた。
 そら、突然こんな子供がやって来たらガン見するわな。

「あぁ、いたいた。センチョー!ちょっと話が!」

 と、ドミニクさんがある人物に向かって声をかけた。
 その人は、まるで深海、もしくは夜の海のような色をしていた。雑に束ねられた髪も、不可解そうにこちらに向けた強い瞳も、吸い込まれそうな程深い深い青。
 パチリと目が合い、私は何を考えるでもなく反射で叫んでいた。

「ここで働かせてください!!」
「えっ」
「あ?」
「ここで働きたいんです!!」

 気分はまるで某アニメ映画。そうだな、題名は「アレクとアレクシアの神隠し」といったところだろうか。

 そんな感じで、私アレクシアは世界一恐ろしい海賊であるロクサス・サッチ船長に出会ったのであった。





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