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第一章『転生したらしい』生命の森編

閑話、とある森の奥の泉前にて

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 ─森の奥深くに存在する泉の前には、ここ数日ほど誰かが住んでいたであろう痕跡があった─
 ─魔法を使用した痕跡もあるため、一人ではなく、誰かが来て、それについていったことが分かる─

「と、言うわけで。目的の者は既に居ないらしい。とんだ無駄足だったなぁ、少年」

 ニヤリ、と、暗闇で光る一つの金色の目が笑う。片目が隠れた状態で、よくこの暗闇の中でそんなに見えるものだと思う。
 もう少年ではないと、最早お決まりになってしまった台詞を吐くが、それが無駄なことは分かっていた。


「なんだ、そんな不満そうな顔をして。なに?付き合わせておいて、何もなかったとはどういう了見だ、だって?」

「ふん。私だって予想外なんだ。確かに、そろそろ動くのではとは思っていたが、まさか先を越されるなんてな。ま、気長に探すとするよ」

「ん?何を探していたのかって?言わなかったか?言ってない?あら、そう」

「可愛い可愛い猫ちゃんだよ。あの馬鹿、ミスって記憶を消したから、私にどうにかしろだなんて─あぁ、いや、なんでもないさ」

「さて、これからどうしようね?今からでも追いかけるか、いっそのことしばらく放っておいて、頃合いになったら会いにいくか?」

「何も知らないのに聞かないでくれ、なんて…つまらない。ひっっじょーに!つまらない!!知らなくても、何か案を出してくれよ!無茶振り?そんなことないだろう」

「なんだい?もしかして、私が嘘をついているとでも思っているのかい?ここにある痕跡をみて、適当に散歩の理由を今、でっち上げたとでも言いたいのかい?」

「ふむ、非常に失敬なと言いたいが、私は君のそんなところが好きだ。疑うことはいい!!何だって疑うがいい!!"疑う"こそがきっかけ!それこそが進化!!」

「じゃあ信じるのはダメなのかって?そんなわけないだろう!疑い、疑って、その先にある真実までも疑えば、愚かとしか言いようがない」

「まぁ、真実から疑う者もいたりするのだが…それはそれで、新たな真実が見つかることもある」

「何が言いたいのか?つまり、君のそのまず疑いに掛かる性分を私は好んでいる!実にいい!!君のように、世界の理までも疑う者こそが!人類の進化に繋がるのだよ!!」

「だからこそ、私は君を側に置いているのさ…え?世界の理まで疑った記憶がない?何を言っているんだ。こそがそれだ。君だけだよ。私の言うことを全て疑うのは」

「おい、何をげんなりした顔をしている。はぁ?いつものが始まった??おいおい、まだ疑っているのか?他はいいが、これだけは譲れない"真実"だぞ?」

「私が、この世界のきっかけであり─」

「二つの世界をまたにかける、旅神たびびとさ」


 ─また、始まった。"自称、永遠の18歳"で"自称、天才魔法使い"で"自称、神"。
 第一、こちらは何も言っていないというのに、勝手に心のなかを読んで会話をするのはやめてほしい。せめて、自分の意思で会話をしたいものだ。
 これに気に入れられたが最後、呪いの帽子を被せられ、これが満足するまで付き合わされる、地獄。
 確かに、神のようなものなのかもしれない。
 しかし、俺にとっては悪魔以外の何者でもなかった。

「また下らないことを考えているだろう?君の考えはお見通しなのだよ!何故なら私は…」

「「神だから」」

「おや?いつから君は私の言うことが分かるようになったんだい?」
「…何度も聞けば、いい加減覚える」
「そんなに言っただろうか?」
「何年連れ回されていると思ってる」
「ざっと千年と半分ってところかな?いやぁ、随分と一緒に居たものだ。しかし、君といると飽きないね。君はいつも、私が欲しい言葉を言ってくれる」
「…言ったか?そんなこと」
「あぁ、言ったとも。君は、私が言ったことに対して、二言目には必ず「でも、本当にそうなのか?」と言ってくれる。疑問を疑問として伝えてくれる。私は嬉しいのだよ、少年」

 また、少年。いい加減、ツッコむのも飽きた。

「疑いもせず、周りの言葉を鵜呑みにする愚か者どもを見ていると嫌気が差してくる!!疑問は大事だ!!不思議を不思議のままにしてはいけない!!全てを疑え!!世界を作るものが疑問ならば、きっかけさえあれば新たな世界は生まれる!!」

「海は何故青い?何故森ができた?植物と人の違いは?石に命がないと誰が決めた!!全てを疑い、生まれたきっかけを見つけろ!!そうすれば、君はきっと私が満足できる人物へとなりえるだろう」

「……一つ、いいか」
「なんだね?」
「突然盛り上がって、人の話を聞かなくなるの、止めないか?」

「「………………」」

「…さぁ!此処にもう用はない!!いくぞ、少年!!」
「誤魔化したな?逃げたな?アンタ、直す気ないだろう」
「ほら、そろそろいくぞ。さぁ、を抱えたまえ」

 気がづけば、いつの間にか目の前の人物は居なくなっていて。足元にいる少し不気味な黒猫のぬいぐるみが、抱えろと要求してきた。神というのも、あながち嘘ではないのだろうと思わせる光景だが、悪魔でもあり得るので、やはりコイツは悪魔だと思う。

「…アンタ、本当に自由だな」


 泉の前で、男は大きな鎌を暗闇から。真っ黒なそれをふれば、ぬいぐるみもろともその場から消えてしまう。
 後に残ったものは、何もない。生活をしていた痕跡も、魔法を使った痕跡も、全て、何もなかったかのように。

 森は、脅威が去ったことを察したのか、静かに木々を揺らすのみであった。



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