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オマケ

旅路─翡翠の僥倖4

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 棒倒しで三連敗した俺は、勝負に負けてしまったのでろっく─いい加減クソ緑は言いにくいので昔の呼び方に戻した─の言うことを一つ聞くことになった。
 そうして提案されたのは、あんまり予想していなかったことで。

「隠れ鬼?」
「そ。お前が逃げる方な。今からここに来たお前の連れを挑発したあと、ゲームやろうぜって誘うから、お前はどっかに隠れつつ逃げろ」
「俺買い物したいんだけど」
「…………じゃあ変装するか」
「マジか」

 取り敢えず俺はその命令を(大変面白いことになりそうだから)受け入れ、やって来たろっくの連れであるヨルカナルとともに一旦その場を離れた。
 俺の視界に繋いだ宝石のおかげで一部始終は見ていたし、その後の赤目さんの動きも見えている。

 そうして始まった隠れ鬼なのだが、呑気にパンケーキ食ってる場合じゃねぇんだよなぁ…
 生半可な変装じゃすぐにバレると言うことで、現在髪は白くして獣人の少女の格好をしている。服はヨルカナルから借りたもので、他は変化のスキルで変えたものだ。
 探しているものと色が大幅に違うと、それだけですぐに視界から外れてしまう。そう言う人の心理を逆手に取った配色だと、変化の指示を出したろっくは言っていた。
 確かに、普段の俺の服装は黒が多い。それが白で統一されていれば、顔はそのままでも気づかないだろう。
 ちなみに、魔力やら気配やら匂いやらを誤魔化す魔道具を持たされた。声はそのままだから、演技するでも正直に言うでも好きにしていいと言われた。

 ちなみに、現在ろっくは魔道具を好き放題に作り、まともなものは売ったりして路銀を稼いでいるらしい。つまり、この誤魔化すやつも赤目さんが持っている宝石も、全て奴が作ったものだというのだ。
 昔から工作とかが好きな奴だとは思っていたが、まさかここに来て才能が開花するとは…俺もビックリだし本人も驚いていた。
 ついでに言えば、ゴーレムであるヨルカナルも奴の手によってその性能が魔改造されている。彼奴は一体何を目指しているのだろうか。

「なぁ、ヨルカナルさんや」
「ヨルちゃんデス。カナルちゃんでもいいデスヨ!」
「…ヨルちゃん」
「ハイ」
「いつまでパンケーキ食べてんの?それ何皿目?」
「五皿目デスネ!美味しいデス!」
「つまり分厚いパンケーキが十五枚目と。胸焼けしそう…」

 つか、俺と変わんない身長の細い体の何処にあの量が入っていくのだろうか。俺と違ってちゃんと女の子の体してるから、やっぱり胸だろうか。
 いや、ゴーレムだから体型に関係ないか。多分動くためのエネルギーにでも変わってるんだろう。その方が俺のテンション上がる。やっぱ人外ってテンション上がるよね。

 仕方ないので、俺の探し物も見つからないし鬼も見えないので満足行くまで食べさせることにした。金銭は気にしない。ろっくが大金をくれたから。
 恐らく、ヨルカナルが大量に食べることを知っての金額だったのだろう。家でも買ってこいって言われてんのかと思ってた。

「そう言えば、シオン様は何をお探しなのデスカ?」
「んー…日頃のお礼?良いのあったら買おうかと思ってたんだけど、よくわかんなくて」
「なるほど!お花とかはどうデスカ?」
「旅の途中だから、邪魔にならないのがいいな」
「そうデスカ…それならば、その人に必要そうなものをあげるといいデスヨ!旅の間で使えるようなものとかデス」
「あー、確かに。そんなのでもよかったのか…」

 俺の呟きに、ヨルカナルが首を傾げる。何となく残るようなものを、と考えていた俺は消耗品でもいいかと探し物を切り替える。
 参考程度に何かないかと聞けば、ヨルカナルは笑顔で答えてくれた。

「ワタシは、ロクショウ様に美味しいご飯をあげたいデス!あの人、ワタシにいっぱい美味しいものくれるのに、本人は適当なものを食べてるんデスヨ!」
「それ治って無かったのか。彼奴、昔からみゃーのに旨いもん譲って、自分は適当な残飯食ってたからなぁ…舌馬鹿なもんだから、美味しいがわかんねぇんだよ」
「それは、可哀想デス…美味しいものが分からないなんて、人生の十割を損してマス!」
「十割て。ヨルちゃんの人生、美味しいものばっかりか」
「美味しいは正義デスヨ!このパンケーキとか!!」
「それな」

 確かにパンケーキは美味しかった。でも、流石に七皿目は食べ過ぎだと思う。そろそろ次いかないと見つかるんですが。

 七皿目で止めることに成功し、まだ食べたりない様子のヨルカナルに食べ歩きを提案して店を出る。甘いもの食べたから、次はしょっぱいものが食べたい。
 あれも食べたい、これも食べたいと駆け出すヨルカナルに手を引かれながら、露店を巡る。食べ物だけでなく、アクセサリーや本や骨董品なども売られている。
 ついでに探し物を探しつつ、隠れ鬼の最中というのも忘れて買い物を楽しんでしまった。
 道の端に寄り、ヨルカナルが買ってきた兎肉の串焼きを食べる。柔らかいし、シンプルな塩味だがその分肉の旨味が前面に出てきて美味しい。
 ただ、一つ言うならちょっと脂っこいかな。さっきパンケーキ食べたし、俺も体重ぐらい気にする。まぁ、ほぼ果物生活だしたまにはいいか。

「そう言えば、ヨルちゃんと旅してる時のろっくってどんな感じだ?彼奴にいじめられてたりしないよな?」
「旅中のロクショウ様デスカ?いじめられてなんかいませんヨ!かわいい服も、美味しい食べ物も、いっぱいくれマス」
「…なんか、あんま想像できねぇ……いや、できるわ」

 ふと気になったので投げ掛けた質問の返答は、何となく既視感のある内容だった。あれだ、みゃーのに対する彼奴の態度と似てるのである。
 つまり、奴にとってヨルカナルは妹判定。なるほど、納得。

 串焼きも完食し(ヨルカナルは他にも大量に食べていた)、ようやく満腹になったヨルカナルに迷子防止だと手を繋がれ露店の通りを歩く。
 いまだ何を買うか決まっていない俺の探し物を、一緒に選んでくれるのだと言う。
 ありがたく甘え、色んな店を転々と冷やかし歩く。ふと、そう言えば赤目さんはどの辺にいるのだろうと、例の宝石に視界を繋いだ。

 あれ、俺が見える。つか、え?

「めっちゃ真後ろに居んじゃねぇか!!!」
「むっ、バレたか」
「やはりお知り合いでしたカ!ストーカーならば、生まれてきたことを後悔するぐらい痛め付ける予定デシタ!」
「そんなとこで彼奴に似んでよろしい!!つか、見つけたんなら声掛けろよ!!そして気づいてたなら教えて!!」
「お前を見間違える筈はない。しかし、万が一が不安だったので反応を待ってた」
「話しかけて反応を見ろ!?何で無言で後ろに居る!つか、いつから居た?」
「つい数分前だな。屋台でお前に食わそうと思って色々買っていたら見つけた」
「え?俺のこと探してた??」

 堂々と買い物してた宣言に呆然としていれば、肩に手を置かれた。次いで「捕まえた」と聞こえたので、そう言えば隠れ鬼だったと思い出す。

 真面目にやっていたかと言われれば全く誰も隠れ鬼をしていなかったが、ともかく俺は赤目さんに捕まってしまったのであった。





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